第73話(堕涙の手紙)
戦死したジム・カイキ中佐は、手紙を残していた。
それは、彼の想いが書かれたものであった......
午後からは、カイキ中佐との最後のお別れの葬儀にリウとレイは臨んでいた。
リウとレイ以外にも、ルー中将やコーダイ少将、アイザール少将、パルトネール准将、ブルーム准将、イルバール准将、ラートリー大佐等も続々と参列していた。
エーレン少佐はリウの副官としての参列であったが、リウやレイと一緒にレイザール・アークも参列。
また、マリー・ルーナ少将の姿も見られたのであった。
その他にもザッハー退役少将や宇宙艦隊司令長官のロバート・タイラー大将等、遠隔地の為、参列出来ない軍幹部や元幹部からの弔電も多数届いている。
更には、ラーナベルト・アーゼル財閥総帥、クリス・ラインシュトナーLSグループCEO、リョウ・シヴァ西上国丞相、ショウ・イ・ヒエン西上国軍元帥、ジャン・フォー・プロシード統一政府国家元首、アルテシア・アルテミス王妃、リク・ルーナ大将等、各国を代表する様な人物からの見舞金(香典)も届いており、リウ・アーゼルの副官をつとめたという影響の大きさを物語る、非常に幅広い分野から、哀悼の意を示されていたのであった。
故人の顔は非常に穏やかで、参列者はそれぞれ花を一本ずつ柩に収めてゆく。
そして、参列者全員が収め終わると、柩が閉められ、車両に乗せられて、埋葬する場所へ。
出発する車両に向けて、それぞれが、それぞれの気持ちを込めて、故人の冥福を祈り続ける。
その時リウは、再び泣き崩れてしまい、レイが支える状態で見送るのであった......
カイキ中佐は宇宙葬を望んでいたので、その柩は暫く冷凍保存された後、他の希望者と一緒に纏めて宇宙空間へと送られる。
死者とはいえ、一人より多くの者達と一緒の方が良いだろうという配慮から、大概の宇宙葬は、その様にして行われているのであった。
葬儀終了後、最後の別れを惜しんで、なかなか帰ろうとしないリウであったが、するとカイキ夫人がリウのもとにやって来た。
「午前中に続き、午後も参列頂きありがとうございました」
泣き腫らした表情の夫人は、丁寧に挨拶をする。
リウは何も喋れない精神状態であったので、レイが代わりに、
「心よりお悔やみ申し上げます。 本当に言葉もありません」
と言って、鎮痛な面持ちのままであった。
すると、
「お二人に、是非これを読んで頂きたくて」
夫人はその様に話すと、生前の中佐がみんなに宛てた遺書の様な手紙を残していたと説明してから、それをレイに手渡したのであった。
手紙を開披するレイ。
涙を拭きながら、横から覗き込むリウ。
『アーゼル閣下と幕僚の皆様へ。
これを読んでいるということは、私が皆さんより先に死んでしまったということですね。
私は先の大戦の時、首都星系の地上勤務だったので、運良く戦死者の列に並ばずに済みました。
直前まで大戦で沈んだ駆逐艦に配属されていたのだから、かなり幸運だったと言えるでしょう。
その時は、その幸運を喜んでいました。
多くの同僚が亡くなったというのにね。
大戦が終わると、暫くして人事課から急な人事異動を言い渡されました。
大戦の英雄リウ・アーゼル閣下の副官になれという。
聞いた時は、何かの間違いだと思いました。
勿論、人事課には断りを入れました。
『非才の身には荷が重すぎると』
そして、迷惑だと思ってもいました。
私はこれといった才能もありませんし、定年まで無事勤められれば良いということだけを考えていた、ごく平凡な軍人だったからです。
しかし、アーゼル閣下のもとに出頭して申告し、正式に副官を拝命してからは、ルー少将、アーサ准将やコーダイ准将等という閣下のもとに集まって来た俊英達が、定時後くだらない話をしながらも、この国や三国同盟に住む人々のことを第一に考えて、新しい目標を目指して行動する姿を見ているうちに、私も考え方が大きく変わっていく様な気がしました。
そして何より、もし閣下がこの世に存在して居なければ、私や家族は大戦の時に帝國軍に殺されていただろうことに気付かされたのです。
私が感じたあの幸運は、閣下が努力をしてきた成果があってのものだったのですから。
その後、閣下のもとにはより多くの人達が集まり、帝國領土の一部をほぼ無血開城で奪取して、帝國との緩衝地帯を作り出すことに成功しました。
この時に、私も歴史の1ページを作る瞬間に立ち会っているのだなと実感したのです。
それから数年が経ち、閣下から推薦を頂いて中佐の階級にして頂き、家族のことも考慮して貰って、首都星系への転属を勧められました。
本当にこの上ない配慮で、感謝に耐えない思いでしたが、同時に、ここで首都星系に戻ると、一緒に歴史の1ページを捲る瞬間に立ってきた戦友の皆様と二度と会えなくなるような気がしたのです。
そのことに、非常に寂しい感じや思いを抱いてしまいました。
もう少しで良いから、皆様達と同じ空間に居たい、同じ空気を吸っていたいと。
いずれは、地位も立場も変わり、皆様全員がこの美しい水の惑星ネイト・アミューに一緒に居れなくなるということはわかっています。
首都星系に戻って栄転する方、退役して第二の人生を歩む方、戦死する方、病死する方、色々なことが起きて、次々とこの惑星から、今生の世界から去って行く。
それは、わかっているのですが、あと一年、もう一年、皆様達と一緒に苦楽を共に分かち合いたい......
私は閣下のもとに集って、何かを成し得る愉しさを知ってしまいました。
だから、もう少しだけ、その時をその瞬間をと思ってしまったのです。
もし私が選んだこの道で、家族と相談して選んだこの道で、躓いて、今生の別れの時が早く来てしまっても、悔いは1ミリもありません。
ですから閣下は、何が有っても、決して自分を責めないで下さい。
それだけはお願いします。
この死は私と最愛の家族による決断の帰結なのですから......
それでは皆様。
なるべく長く現世に足を留めて、こちらの世界に来るのはだいぶ先の未来のことにして下さいね。
では、また会う日まで。
ジム・カイキ』
この手紙を読んだレイの瞳からは、珍しく熱いモノが流れ出てきてしまう程の、想いが込められた文面であった。
リウは言うまでもなく、号泣状態に戻ってしまった......
やがて、2人が落ち着いてから、カイキ夫人は、
「4年間、ジム・カイキの面倒を見て下さって、本当にありがとうございました。 もうなかなかお目にかかる機会は無いと思いますが、皆様の今後の御活躍を心より願っております。 亡き夫も同じ思いでしょう」
「そして、アーゼル中将閣下。 ノイエ国民の為に、今までありがとうございます。 貴方が居られなかったら、私達は今頃、帝國軍に殺されていたか、奴隷になっていたのですから。 国民の一人として感謝申し上げます」
そう言われて、悲しみでずっと俯向いていたリウは夫人を見て質問をした。
「今後は、首都星系に戻られるのですか?」
その質問に、夫人は、
「はい、そのつもりです。 官舎住まいですから、主人が亡くなったことで、長くはここに留まれないので」
「宛ては有るのですか?」
「私の両親のところで一時的に仮住まいをしようかと考えていますが、子供も居ますし、狭いところに3人も増えたら両親に迷惑を掛けてしまうので。 それに色々と忙しくて何も決めていません」
その返答を聞いて、
「それでは、もしよろしければ、第四惑星ティアーに有る私の所有物件の管理人をしませんか? 管理人用の広い部屋がありますから、住み込みで。 もちろん家賃は要りません」
リウはその様に申し出たが、
「今回の戦いで、多くの同輩の方が亡くなっております。 主人が閣下の初代副官だったことで、私達だけが特別扱いというのは、ちょっとと思うのです」
夫人は有り難い申し出に、戸惑っているようだ。
「落ち着いてからの返事で良いですから、考えておいて下さい。 今直ぐ決めなければいけない話でもありませんから」
リウは涙声のまま、そう言うと、少し元気を取り戻した。
亡きカイキ中佐の残した手紙を読んで、心の重荷が少し取れた様でもあった。
その後、この手紙は幕僚全員に披露され、艦隊司令部の司令室に飾られることとなった。
読む人の誰しもの心に響く、中佐の想いが詰まった文面に、全員が涙するのであった。
特にコーダイ少将は、カイキ中佐に命を救って貰ったことで、新たな決意をする。
『中佐の分まで、この星域を絶対に守り続ける』
との。
またリウも、今回の無用な戦乱を期に、改めて強い決意を心に秘めていた。
『ノイエ軍自体の改革が必要だ。 中佐の死を無駄にしない為にも、私が行動しなければならない』
それから、今回の戦いにおける問題点の分析などが行われた。
大きな被害が出た要因は、その大半が帝國軍の新型ミサイルによるものであるという結果になった。
特に旧型艦艇は、その構造から新型ミサイルの餌食になりやすい事実が判明し、最前線における新型艦艇への入替えを進めないと、同様の被害が今後も出てしまうという結論となった。
そこで、リウは改めて統合参謀本部と宇宙艦隊司令部に戦乱の結果を報告し、新型艦艇への入替えを求めたが、旧プロシード派が要請を握り潰してしまい、議長や長官に迄、要望が届かなかったのである。
期限迄に軍部から捗々しい回答が無かったので、仕方なくリウは、新型艦艇の供与に関する契約に基づき、西上国とアルテミス王国に、ノイエ国への供与停止と、供与済みの艦艇の没収に同意するよう、書簡を送ったのであった。
その頃、統一政府国家元首ジャン・フォー・プロシードからもリウ宛てに書簡が届いた。
それによると、今回、ブルース・ハミルトン元准将の犯罪行為により、リウ自身やその幕僚、また駐留軍に多大な迷惑を掛けてしまったことへの謝罪と、無駄な戦争で命を落とした将兵に対する哀悼の意が述べられていた。
更に、迷惑を掛けたことの償いと最前線における兵力の減少を補う為、新型艦艇への入替えを進めることに賛意を示し、旧プロシード派にも協力するように求めたが、既に派閥への関与から手を引いたこともあり、軍部の協力が得られる見込みが無いことが記されていた。
最後に、艦艇を差し押さえる際には全面的に協力する旨の言葉が添えられて、書簡は締められていた。
「やっぱり、こうなったか〜」
リウは溜息をつく。
「どうしたのですか?」
レイが確認する。
「フォーは考えを一新したみたいで、新型艦艇への入替えを支持するって書いてあるけど、軍の旧プロシード派が言うことを聞かないんだって」
「それでは、実力行使ですか?」
「反乱みたいになっちゃうから嫌だけどね。 クリスに協力して貰うか〜」
そう言うと、益々嫌そうな表情をしたリウ。
「アーゼル准将にですか?」
「正式には、准将を通じてラインシュトナー家にだね。 私の行為が反乱で無いと、政治面から支持して貰うのよ」
レイに説明を終えたリウは、何やら書簡を沢山書いては、方方に送っていたのであった。
その他にも、戦乱の後始末は大変であった。
特に今回の戦死者では、艦橋破壊ミサイルの影響により、大佐の階級にあるものと中佐の階級にある者が多かったことで、戦死者の二階級特進の不文律の執行を軍部が渋ってきたのだ。
その言い分では、大佐だった者は致し方無いが、中佐は一階級特進で済ませたいという意向が有り有りと見えていた。
それは、戦死弔じゅつ金と遺族年金の金額が全く変わってしまうからである。
これについては、リウが粘り強く交渉し、全員二階級特進で結論をみた。
軍幹部による犯罪行為が、戦乱を引き起こし、戦死者が出たという点を強調されると、為すすべがなかった軍中央に反論出来る余地が全く無かったからである。
戦死者の処遇の結論が出たので、その報告を兼ねて、リウがカイキ夫人のもとに弔問で再度訪ねることにしたのだった。
ラートリー大佐とエーレン少佐を連れて、司令部近くの佐官用集合官舎を訪れると、夫人が出迎えてくれた。
「総司令官。 わざわざお越し下さりありがとうございます。 亡き主人も喜んでくれていると思います」
そう言って室内に上がる様に勧めてくれたので、3人は部屋に入ってゆく。
そして、中佐の遺影の前で追悼の祈りを捧げてから、早速本題に入る。
「カイキ中佐の二階級特進が決まりました。 他の戦死者の方々も全員が二階級特進となります」
リウが決定事項を説明すると、夫人は嬉しそうに、
「本来大尉止まりだった筈の主人が准将ですか? あまりにも高い階級に、当人が一番恥ずかしく思っているのでしょうね」
そう話すと、涙を滲ませる。
そして、副官のエーレン少佐が夫人に、今後の予定や手続きに関する資料を説明しながら手渡す。
その説明や資料を見て、
「大佐と准将では、随分金額が異なるのですね」
夫人も驚くほどの差があると知って、ビックリした表情を浮かべる。
概ね倍の金額となるからであった。
「総司令官閣下、ありがとうございます。 恐らくこんなに金額が異なると、軍部も渋って大変だったのでしょ? 中佐だった遺族を代表して御礼を述べさせて頂きます」
「それでですが、ご長男さんは来年大学に進学されるのですよね? 今後何かと費用が掛かるでしょうから、ティアーにある物件の管理人の話ですが、どうでしょうか?」
「有り難い話ですが、長男は高校卒業したら働くと言っていますので......」
「確か、学業成績優秀だったですよね? 中佐が生前よくその話をしていました。 『俺に似ず、すごいんだ』って嬉しそうに」
その話をした時のリウは、少将時代を少し懐かしむ表情を見せ、涙を滲ませていた。
「はい、そうですが......」
「成績が良いのであれば、勿体無いですよ。 それにこういうものも設立されますので、申請してみて下さい。 これが通れば大学の学費は財団の方で負担致しますから」
リウはその様に説明すると、新設される財団の資料を夫人に手渡すのであった。
これは、今回の戦乱を期に、リウが出資して設立する財団で、戦死した将兵の家族の生活をサポートする為、成績優秀な子息に対して、高校〜大学院までの学費を全額負担するものであった。
「総司令官閣下。 この様なものまで準備して頂き......本当に感謝の申し上げようもありません」
夫人は涙が止まらなくなる。
「ご長男さんとよく話し合われて決めて下さいね。 中佐が亡くなったからと言って、人生を左右する大きなモノまで諦めてしまうのは絶対に駄目ですよ。 私も、いくら恵まれた環境で生まれたといえども、何も諦めなかったからこそ、この様な立場に居るのですから......」
リウは夫人にその様に話して再考を促すと、挨拶を交わしてから、官舎をあとにするのであった。
「中将閣下。 先程の財団の話ですが、あれは小官の様に夫が戦死して、妻が軍人を続けている者も申請出来るのですか?」
ラートリー大佐が息子の為に、一応確認してみるのだった。
「閣下は止してよ。 申請出来るよ。 成績優秀ならばね。 決めるのは私じゃなくて、私の分身の生体頭脳レアだから、公平だよ」
リウは大佐の質問に答える。
「じゃあ、時期が来たら申請してみようと思います。 成績が良ければですが」
大佐は笑顔でそう話すと、3人は統治官オフィスに戻っていくのであった。
その頃、リウの書簡を受け取った西上国のリョウ・シヴァ丞相は、ヒエン国務長官を呼んで協議を始めていた。
「久しぶりに嬢ちゃんから、こんな書簡が届いたよ」
丞相がヒエン長官に手渡す。
それを読んだ長官は、
「いよいよ、国内の引き締めをする決意をしたのですね。 今回の戦いを経たことによって」
と感想を述べる。
「いつかは、通らなければならない道だよ。 我々もそうだっただろ?」
そう言いながら丞相は長官に、書簡に書かれたリウの意向に対する意見を求める。
「そうですね。 でもリョウ。 嬢ちゃんはダメですよ。 もし聞かれたらとんでもない金額請求されますよ。 そういう契約だったでしょ?」
ヒエン元帥は書簡の『契約違反』の文面に託つけて、その様に誂う。
「おっと、そうだった。 確か3%ぐらい値引きをカットしてくれたんだったな」
丞相は復興会議での契約の席での、リウとのやり取りを思い出したのであった。
「それで、同意するのでしょ? この書面の内容に」
「そのつもりだから呼んだんだよ」
「出兵先は?」
元帥はその様に答えることで、同意する旨を伝えた。
「ノイエ合衆国の首都星系クロノス。 2個艦隊も率いていけば十分だろ。 元帥閣下、よろしくお願い致します」
丞相は、リウが実力行使することで、発生が予想されるノイエ国軍の内乱発生に備えて、軍の出動を決定した。
「はっ。 謹んでお受けいたします」
これで、本決まりとなった。
「嬢ちゃんの決めた差し押さえ期限迄、あまり時間の猶予が無いな。 準備出来次第進発してくれ。 アルテミス王国とはこれから協議するから」
丞相はヒエン元帥にその様に指示を出すと、元帥は敬礼をして丞相の執務室をあとにするのであった。
続いて丞相は、側近を通じてアルテミス王国軍のルーナ大将に連絡を取っていた。
「大将閣下、お久しぶりですね」
「丞相閣下。 お元気そうで何よりです」
双方挨拶で始まった非公式の会談。
ルーナ大将の地位が高くなり、雑談でという訳にはいかなくなってしまっていたのだ。
「ムーアー方面への出動、ご苦労さまでした」
「昨日戻ってきたばかりですよ。 ただぐるっと一周して戻ってきただけですが」
「戦闘状況、見させて貰いました。 大将閣下の奥様の颯の様な進軍速度と戦場到着後の勇猛果敢な速攻ぶり、見事でした。 あれ程の才幹があるなんて知らなかったですよ」
「お褒め頂きありがとうございます。 私もあんなに鮮やかな手腕を持っているなんて知りませんでした。 道理で家庭内でいつも惨敗な訳です」
冗談を交えてそう答えたルーナ大将は、笑顔を見せていた。
「あと30分到着が遅かったら、ノイエ国の部隊は半分以上がやられていたでしょうね」
「丞相閣下にお褒め頂いたこと、あとで伝えておきます」
ここから本題に入る。
「ところで、リウお嬢様からの書簡、既にご存知ですよね?」
「帰国後直ぐに、王室から相談がありました」
「それで、王室の方はどの様な方針で」
「それは、丞相閣下と同意見ですよ」
ルーナ大将の答えに、今までの会話で結論を話してしまったかの様な錯覚に陥るシヴァ丞相。
「えっ、私と? もう結論言いましたかな?」
すると、ルーナ大将は、
「聞かなくても、わかっていますよ。 私の方は出征中に直接リウ殿当人から説明や意向を聞きましたので、王室にもその旨申し上げさせて頂きました」
「では、話は早い方が良いですね。 貴国の艦隊との合流地点を決めたいのですが」
「それならば、ノイエ国との国境にあるアクタイオン星系で如何ですか? 対外的には両国の合同演習って名目で」
ルーナ大将は、丞相が内乱鎮圧用の部隊を予め送っておきたいという意向があっての非公式会談だと理解していた。
「わかりました。 我が国は遠いので、準備出来次第進発させます。 アクタイオン星系には直接向かわさせて頂きますので、その点ご了解頂ければ」
「我が国の指揮官はマリー・ルーナ中将。 2個艦隊動員しますので、共同運用でよろしくお願い致します」
その説明を聞いて丞相は、
「奥様は昇進なさったのですか? おめでとうございます」
「今回の戦いを期に、ネイト・アミューの駐留艦隊を半個艦隊から1個艦隊に増強する方針としました。 妻がそのまま駐留艦隊の司令官継続ということも決定しています」
「なるほど。 今回当方はヒエン元帥を派遣します」
「では。 リウ殿からの連絡を待ちましょう」
ルーナ大将は最後にその様に話すと、深々とお辞儀をしてから、通信は切れた。
『さて。 賽は投げられた。 あとはリウお嬢様の事前工作次第で、戦いになるか、話し合いで解決するかが決まるな』
丞相はその様に考えてから、通常の執務に戻った。
大戦終結後、4年経つが、相変わらず政務で多忙な日々を送っているリョウ・シヴァであった。