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【完結から1年。順次補正中】正史・銀河四國史(未来における英雄の生涯)  作者: 嶋 秀
RIU・落龍篇

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第71話(結末と懲罰)


リウ・アーゼルが女性だったと知って、そして厳しく叱責されたことで、フォー・プロシードには良い変化の兆しが見え始めていた。


そして、戦乱を引き起こしたブルース・ハミルトン元准将には、ノイエ国の実力者クリス・アーゼル(ラインシュトナー)准将の怒りを買ったことで、懲罰が加えられることとなり、完全に失脚したのであった。


 リウ達が去ってから30分も経つと、統一国家政府の国家元首のもとには、多くの連絡が入っていた。


 しかし、フォーは側近達に

 「国家元首は体調不良で対応しかねると答える様に」

 「ハミルトン元准将の件については、『関わるな』と答えよ」

 2つの指示を出しただけで、自室に籠もってしまった。


 困り果てた側近達。

 しかし、統一国家政府の元首というポジションは、為政上重要なポジションでは無い。

 居なくても、物事は進んでゆく......


 問い合わせの大半は、プロシード派将校からのものであった。

 「派閥筆頭の一人、ハミルトン准将が憲兵隊に拘束され、地位と階級を剥奪された。 どうすべきか?」

 それに対し、側近達は、

 「プロシード様からの伝言です。 『元准将には二度と関わるな』です」

と答えていた。

 少し文言が強くなっていて、指示とは異なる様であったが、救国の英雄アーゼル中将達と国家元首のやり取りを聞いていれば、それぐらいは言っても差し支えないだろうという、側近達の判断であった。



 フォーは、激しいショックを受けていた。

 6歳の時、『コイツには絶対負けたくない』と勝手に決意をし、何不自由無い生活を約束されていたあの広大な御屋敷を去って、その後は極貧の苦難の道を自ら選んで歩んで来た少年時代。

 あの時の決意のキッカケは、恵まれた環境で生まれ育っているリウという少年に対する猛烈な妬みと、そこから生じたライバル心であったのだ。

 ところが、その子が女の子だったということを先程初めて知ったことで、猛烈なライバル心が消えてしまっていた。


 「リウが女だっただと......」

 呟くリウ。

 「僕の今までの人生は......何の為に苦労して、努力をしてきたのだろう」

 「リウが女じゃ、対等の土俵に立てないじゃないか。 対等の立場で無い以上、勝敗は永遠につかない。 いや、勝負にすらならない......」

 フォーの中では、リウ・アーゼルという存在を彼なりに認めていた。

 ところが、女性で有るのなら、既に勝敗は決してしまっている。

 ノイエは、アルテミス王国の様なリベラルで、男女平等が社会に行き届いている国では無い。

 保守的で、男性優位社会の国なのだ。

 企業経営者の85%が男性。

 政治家の75%が男性。

 軍の准将以上の将官の98%が男性。

 そこが同じ共和制国家といえども、大きく異なる点だ。

 「リウが女性ということなら、僕の完敗だ」

 そう呟くフォー。


 少年時代のフォーは、本当に厳しい生活を送って来た。

 元々は良家の出の母親と恒星間商人の父親との間に生まれ、幼少時代は裕福な生活であった。

 ところが、父親の商船が帝國軍の戦闘に巻き込まれ大破。

 父は戦死。

 商船や積み荷は保険に入っていたものの、戦乱による損壊は保険の対象外という規程に引っ掛かり、1円も支払われず。

 商船と積み荷の購入代金が巨額の借金として残ってしまったのだ。

 そこからは極貧の生活。

 あまりにも巨額な借金の為、親戚どころか母方の祖父母にまで縁を切られることに......

 良家の出だったフォーの母は仕事をしたことが無く、見た目が良く優しいだけで、何も出来ない。

 その事実を知った、中高の同級生だったリウの母が哀れに思って、借金を代わりに支払い、借金地獄から救ってくれた上に、家政婦として住み込みで雇ってくれたのだ。

 しかし、そのことが友人関係を上下関係に変えてしまう結果に。

 フォーの母はリウの母に卑屈な態度を取る様になってしまい、フォーはそれを受け容れられず、許すことができなかった。

 アーゼル家を出た後のプロシード母子は、再び極貧にあえぐことに。

 マトモに仕事の出来ない母。

 でも、フォー少年は必死に母を支えた。

 貧しく気が弱いので、職場だけではなく近所の人からもイジメられるフォーの母。

 それを守り続けるフォー少年。

 フォーは優しく、貧しくても綺麗な母が大好きだった。

 その母は士官学校入学前に亡くなったが、生前の母はフォーに、

 「女の子には優しくしてね。 イジメとか嫌がらせなんて絶対しないで。 それだけは約束よ」

 それが口癖であった。

 以後、その約束だけは守り続けている。

 そんなフォーだから、リウが女性であると知った以上、今までの様なことは出来なくなってしまうのだった。



 実際、今回の出来事以後、フォー・プロシードはリウへの嫌がらせ行為を止める様にプロシード派へ指示を出した。

 しかし、それを期に軍の派閥は、フォーの指示を聞かなくなってゆく。

 それは、この派閥がフォーの人望のもとに集まった者達では無く、利害関係や力だけを求める者達が集ったものだったからである。

 しかもフォーは軍を退役して、政治家になったことで、一度歯車が狂うと、軍人に対する統制が効かなくなってしまう結果に。

 フォーと同期の出世頭であるマイク・ストロングバーム准将やカール・スペンサー准将等は、派閥の中心にフォーの存在を据え続け、その指示を実行する形を維持することで、派閥を纏めようと必死に努力をした。

 だが、その努力は報われなくなっていくのであった......



 

 「ミカはフォーに言いたいこと言えた?」

 リウは宇宙港に向かう無人タクシーの中で確認する。

 「少しだけね」

 「フォーはリウの最後通告を受け容れるかな?」 

 ミカが逆にリウに質問する。

 「フォーは受け容れると思うよ。 ただプロシード派は受け容れないだろうね」

 リウは既に先を見通していた。

 「じゃあ、私達を帝國軍の魔の手から救ってくれた、新型艦艇は、どうなるの?」

 「没収するよ。 契約書に記載されているのだから」

 「どうやって?」

 ミカは質問を続けたが、

 「それは企業秘密。 他の2カ国には、少し迷惑掛けちゃうけどね」

 そう答えると、リウはそれ以上、教えてくれなかった。


 「准将は、これからどうするのですか?」

 続けて、ミカは准将に質問をした。

 「僕は、惑星ヘーラーに残るよ」

 そう答えたアーゼル准将。

 それを聞いたリウが、

 「じゃあ一旦、ヘーラーに寄ってから、私達はネイト・アミューに帰るね」

 「了解」

 短く答えた准将。

 「しかし、また敵同士か。 叔父様とは」

 リウは少しふざけた言い方をしながら、残念そうに言う。

 「どういう意味?」

 ミカが疑問に思ってリウに質問する。

 「准将の本名クリス・ラインシュトナーは、LSグループの若き中心人物。 私はアーゼル財閥の総帥の孫娘。 だからだね」

 それを聞き、なるほどと思ったミカ。

 LSグループとアーゼル財閥は激しいライバル関係にあるからだ。

 「強いライバルがいるから、より強くなる。 フォー・プロシードとマイケル・ジンの士官学校時代の関係と同じだよね?」

 「そういうことだね~」

 リウがしみじみと答える。

 「僕はそんな争う気持ち持っていないよ。 リウのこと大好きだし」

 そう言うと抱き着こうとする准将。

 「クリス。 私は人妻なの」

 そう言って、押し退けるリウ。

 「誰も居なければ親しそうにするけど、普段は私を避けているくせに」

 リウに更に突っ込まれる准将。

 「それは......やっぱり不味いじゃん。 リウと親しいところ見られるとね。 軍内の財閥派にはLSグループ出身者も結構いるから」

 そういう話をしていると惑星クロノスの軍事宇宙港に到着した。

 レアー号に戻るとリウは、レアにあることを指示していた。

 先を見ての準備であるようだ。

 レアが指示事項の作業を終えると、惑星ヘーラーに向けて出発する。

 今回の舌戦の旅も、間もなく終了。

 その間リウは、かなりアワ・ドー星系方面の戦況を気にしていたのだが、それを表向きは出さないようにしていた。



 惑星ヘーラーに到着すると、准将が別れの挨拶として5人に手を振りながら下船して行く。

 「クリス、色々とありがとう。 また1か月後ね」

 リウが大声で御礼を言ったので、ちょっと表情を変えた准将。

 「1か月後、本当に来るの?」

 「だって、新型艦艇全部差し押さえて、ネイトアミューに持って行かなきゃ。 戦争も発生して、やっぱり最前線に新型がもっと必要だって実感したの。 私も今までの様な事なかれ主義で居る訳にはいかないから」

 「わかった。 その時は、お手柔らかにお願いします」

 准将は笑顔でそう答えると、リウ達に向けて手を振り続ける。

 レアー号はハッチを閉めて、発進態勢に移行したからだ。

 やがて、遥か彼方の惑星ネイト・アミューに向けて、消えて行ったレアー号。

 見送り終えた准将は、今まで見せていた柔和な表情が一切消えていた。

 本来の彼は、いつも険しい表情をしており、周囲から恐れられているのだ。

 それが、アーゼル姓を有するLSグループトップの姿であった。



 参謀本部に入ると、少し手続きをしてからブルース・ハミルトンの取調室に入ったクリス・アーゼル准将。

 取調べは憲兵隊のサガラ大佐が行っていたが、階級が下なので、見下す様子であり、取調べに対してロクに答えようとしていなかった。

 アーゼル准将はそういう状況を予想していたので、既に色々と手を打ってから、取調室に入っている。

 「ブルース・ハミルトン元准将。 君の地位と階級は利敵行為を理由に先程剥奪の手続きを取らせて貰った。 だから君は既にノイエ軍のただの兵卒だ。 勘違いするなよ」

 流石にこの言葉には動揺の色を見せるハミルトン元准将。

 ただそれでも、まだ強気の態度のままであった。

 そこで、次の話を始める。

 「先程、統一政府国家元首殿と話をしてきてね。 君とは今後一切関わらないように警告してきたよ。 流石にウォルフィーの爺さんに内通文書を送るような輩を、今後援助する訳にはいかないって言ってたなあ~」

 これにはガックリする様子を見せたブルース・ハミルトン。

 しかしなお、取調べに応じようとしない。


 「軍法会議は明日だな。 即決で行うよ。 何も供述しないってことで、君の弁明は無いみたいだから」

 先程、参謀本部に着いてから行った手続きは、即決での軍事法廷開廷についてだったのだ。

 「即決なんて聞いたことが無い。 帝國ならともかく、この国は共和国だろ?」

 この期に及んで、ブルース・ハミルトンはその様な権利を求めようとする。

 「法律を知らないみたいだから、教えてあげるよ。 戦時中は軍人の戦争犯罪人について、即決軍事法廷で処罰を決めることが出来る。 反乱、共謀、裏切り等の重罪に限るっていうのが有るんだよ」

 「今は戦時中では......」

 「お前のせいで、我が国は帝國軍と戦争中だ。 このド阿呆が」

 強い言葉で叱責される元准将。

 「何か言い残しておくことは?」

 アーゼル准将に問い掛けられるも、ブルース・ハミルトンは何も言わなかった。

 「じゃあ、君の取調べは終わり。 サガラ大佐、ハミルトン1等兵を憲兵隊の勾留施設へ」

 そう指示して、取調室を出て行こうとするアーゼル准将。

 「待ってくれ。 ちゃんと取調べに応じるから」

 慌てる元准将。

 しかし、クリスは、

 「君の供述はもう必要としないよ。 足りないのはウォルフィーの爺さんの供述だけだからね。 でも、それは得ることが出来ないからな〜」

 そう言い残すと、取調室を出て行ってしまった。


 「ブルース・ハミルトン。 立て」

 サガラ大佐は准将の言った通り、取調べを終了として、施設に移す様に部下の憲兵達に指示をした。

 移動中、ハミルトン元准将は、サガラ大佐に、

 「さっき入って来た若い将校は誰なんだ。 教えてくれ」

と懇願する。

 「ああ、あの人か。 貴方も将校だったのだから聞いたことがあるだろ? 議長以上の権力があって、絶対に怒らせてはいけない若手将校が居るって」

 それを聞いて愕然とする。

 ハミルトン元准将はプロシード派幹部だったので、噂を知っていた。

 正体不明だが、ノイエ国で皇帝の様な権力を有するラインシュトナー一族の若者が、気紛れでノイエ軍の士官学校に入校し、その後猛スピードで昇進して将校になっていると。

 「あの男が、ラインシュトナー一族の......」

 呟くハミルトン元准将。

 それを聞いたサガラ大佐は、

 「ラインシュトナー? 彼はアーゼルだよ。 アーゼル財閥の一族の」

 大佐はアーゼル准将が、ラインシュトナーに本姓が変わっていることを知らなかったので、その様に答える。 

 黙ったままの元准将。

 『俺はとんでもない相手を怒らせることをしてしまった様だ。 ラインシュトナー一族でありながら、アーゼル姓を持つ男を......もう終わりだ......』



 翌日。

 本当に即決軍事法廷が開かれた。

 裁判官は、3人。

 その中にアーゼル准将の姿も確認出来た。

 罪状を聞いているブルース・ハミルトン元准将。

 そして、驚愕の事実を知ることとなったのだ。

 自身が狙ったあの美女が、リウ・アーゼル中将であったことを。

 その夫がレイカー・アーサ少将であることも。

 そして、アーゼル中将とルー中将、アーサ少将の3人の将校の殺害を企てた殺人予備の罪も付け加えられていた。


 国家反逆罪

 騒乱罪

 機密情報漏洩の罪

 戦闘で亡くなった将兵に対する殺人罪

等、多くの罪で起訴され、即決裁判の結果、終身刑の判決が下される。

 そして、即決軍事法廷に上訴権は無い。

 決まった判決が即執行される。

 不服がある場合は、通常の裁判手続きにも移行出来るが、大変な労力と弁護士を雇う等で多額の金銭が掛かる。


 元准将は、弁護士を呼んで相談してみた。

 しかし、渋い表情をする弁護士。

 全く勝ち目の無い裁判になると見込まれたからだ。

 そこで、弁護士は元准将に説明をした。

 『即決軍事法廷は終身刑が最高刑であるが、通常の裁判だと死刑が最高刑であり、今回の罪で、通常裁判で負けると確実に死刑になると見込まれること。

 既に戦死者が千人以上出ていると即決軍事法廷で報告があり、その罪だけでも死刑判決が確実だと』

 そう説明すると、元准将は諦めることにした。

 弁護士は安心した様子で帰ってゆく。

 『弁護士にも見放されたな。 あんなに嫌そうな顔をされるとは』

 そんなことを考えていた元准将。


 『結局、ブルース・ハミルトンは、最期まで多くの女性に対して行った犯罪行為を反省する様子は微塵も無かった』

 後日、アーゼル中将が亡くなってから、この事件の本を執筆することになった、のちのサガラ少将は著書に記載している。


 収監後のブルース・ハミルトンは、反省の色は無く、それどころか自分は潔白だと思い込む様になり、やり直しの裁判を行おうと何人もの弁護士に相談するも、全員に断られ、それでもあがき続けていた。

 彼は極めて自己中心的な人物で、軍事法廷後リウに対する執着心が芽生えてゆき、それがどんどん肥大化して、非常に危険な性犯罪者へと変貌を遂げていた。


 その状況を知り、事件後の彼の行動を危惧していたプロシード派幹部達だが、やがて派の暗部を知るハミルトン准将から派閥に対する脅しの文面が何通も届く状況となった。

 「俺に弁護士を斡旋しろ。 娑婆に出せ。 そうでなければマスコミにお前達の恥部を公表してやる」

 その様な状況悪化から、期をみて毒殺したと言われている。


 収監後約半年を経たある日。

 ブルース・ハミルトンは独房で、二度と起き上がることは無かった。

 朝の起床の時間になっても反応が無いことから、看守が独房に入ると、既に息絶えていたのだ。

 一応検視をした結果は、心臓死。

 特に重要人物でも無く、家族も居ないことから、解剖等はなされず、そのまま荼毘に付され、遺灰は親族に引き取りを拒否されたので、無縁仏の墓地へ。

 若い頃、一度結婚していたのだが、彼の異常な性欲と美女への執着心は、直ぐに離婚へと結びついており、その後の数々の性犯罪疑惑で、両親や兄弟も賠償金の支払いや被害者からの批判に苦しみ、完全に縁を切られていたのであった。



 事の顛末の報告書がリウのもとに届いたのは、軍事法廷開催から一年程が経ってからだった。

 叔父とサガラ大佐による報告書であったが、それを読むとリウはレイに、報告書を渡し、

 「適当に処分しておいて」

と告げた。

 『あの事件のことを聞くと、大きな悲しみを思い出すから辛いのだろう』

 レイはそう思い、この報告書を自身の机の引き出し内に仕舞ったのであった。


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