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【完結から1年。順次補正中】正史・銀河四國史(未来における英雄の生涯)  作者: 嶋 秀
RIU・落龍篇

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第70話(言葉での戦い)


リウ・アーゼルは、根本的な問題点を解決する為、新領土開設後、初の首都星系帰還を果たしていた。

頼りになる叔父クリス・アーゼルと共に......


 惑星ネイト・アミューを出発して3日後。

 リウ・アーゼルは首都星系クロノスの第五惑星ヘーラーの軍事宇宙港に到着していた。



 今回は、女性ということを隠さないと決めていたリウ。

 キャップ型の制帽を被っている時は、それ程差異は無いものの、帽子を脱ぐとロングヘアが露わになり、明らかに女性というスタイルで、レアー号を降りたのであった。


 到着後、直ぐに隣接する宇宙艦隊司令部のある巨大な建物に入っていくリウ一行。

 そのまま、宇宙艦隊司令長官ロバート・タイラー大将と面会する為に、長官室前にまで移動してきた。

 部屋の前で、受付のロボットと事前予約の有無で揉めている時、アーゼル中将がアポ無しで突然やって来たことに驚いた副官が、慌てて在室中の長官へ報告した結果、長官自ら部屋の外に出て来たのであった。


 「中将、なぜここに......そして、アーゼル准将まで」

 状況が全くわからない司令長官は、リウだけではなく、軍財閥派の最重要人物である情報部のクリス・アーゼル准将まで居ることに、驚きを隠せない様子であったのだ。

 「長官、大事なお話があります。 それも至急です」

 リウが大将にそう言うと、その表情から、ただならぬ事態の発生を感じ取ったので、

 「わかった。 とりあえず部屋に入りたまえ」

 大将はそう言って、リウと准将を招き入れた。

 「みんなは、そこで待っててね」

 リウはそう言い残し、叔父と一緒に長官室に入っていくのであった。


 長官室に入り、帽子を脱いだリウを見た長官の副官2名は、驚いた表情を見せていたが、既にこのことを知っている長官は、特別な反応を見せなかった。

 先ずリウは謝罪の言葉を口にした。

 「長官。 アポイントメント無しの突然の訪問、申し訳ありません」

 「いや。 火急の用件みたいだから構わないが、どうして方面軍の総司令官である中将が、この惑星に居るのだ? 遠征後、一度も首都星系に戻って来ていなかっただろ?」


 間もなく退役する司令長官のタイラー大将。

 プロシード派将校の嫌がらせが増えてきて、長官代理時代を含めると約4年経ったことから、後進に道を譲る方針を既に公表していた。


 すると、アーゼル准将が、

 「大将閣下。 プロシード派のブルース・ハミルトン准将が、帝國軍を我が国領内に引きずり込む陰謀を図り、現在、ネイト・アミュー方面軍艦隊は、帝國軍ウォルフィー艦隊と交戦状態に入っております」

と状況を説明した。

 それを聞いて、

 「なに? 帝國軍と交戦中だと」

 長官は大変驚いて、大きな声を上げた。

 そこで、准将は、

 「はい、その通りです。 至急、統合参謀本部議長と面会させて頂きたいのですが。 それもご内密に」

 冷静な口調で用件と要望を伝える。


 「詳しいことは、議長も臨席の場でお話させて頂きます」

 リウもその様に申し出たので、

 「ちょっと、待ってろ」

 大将はそう言うと、議長とのホットラインを取った。

 「ジェレミー、私だ。 今から至急会えないか? 緊急の用件だ。 おう、わかった。 今から行くので、部屋で待っててくれ」

 会話が終わると、長官は直ぐに立ち上がり、

 「ヘムズ大将の許可は取れたぞ。 早速向かおうか」

 2人のアーゼル氏にそう言うと、副官2人を呼び、至急統合参謀本部まで行く車両の手配をするように告げたのであった。


 長官は部屋を出ると、待っていた3名のリウの随行員に、

 「君達も一緒に来たまえ」

と同乗を勧める。

 敬礼するラートリー大佐とエーレン少佐。

 ミカは敬礼しそうになるも、お辞儀をしてから、長官に付いてゆくのであった。


 宇宙艦隊司令部ビルの玄関前に、2台の軍用車両が横付けされ、分散して乗り込む一行。

 准将と副官2名が前の中型車両に、長官とリウ、ラートリー大佐とエーレン少佐、ミカは後ろの大型車両に乗り込んだ。

 参謀本部ビル迄は、5分程度の距離である。

 車内でガチガチの様子のラートリー大佐とエーレン少佐。

 その様子を見たタイラー大将は、

 「2人は随分緊張しているな。 ここは戦場じゃないぞ」

 笑いながら、冗談を言うと、

 「私も議長も、あと数ヶ月で退役だからな。 そうなったらただのオッサンだ。 そう思えば緊張しないで済むだろ?」

 長官が少し面白いことを言ったので、リウが笑ってしまった。

 「君達の上官を見てみなさい。 私の前で緊張する様なことは、一度も見たことが無いぞ。 そればかりか、いつも突然の訪問だからな」

 長官は笑みを浮かべながら、リウの方を見る。

 「いつも申し訳ありません、アポ無しばかりで。 その代わり退役後は、実入りの良い再就職先になったのですよね?」

 リウが長官に、暗に恩返しをしたと言っている様だ。


 「そう言えば、こちらのお嬢様は?」

 ミカの存在を知らないので、確認をする長官。

 「こちらは、ミカ・アイザールと申す者です。 士官学校の卒業生ですが、既に退役しております」

 リウがタイラー大将に紹介をすると、

 「アイザールということは、少将の奥方かな?」

 「はい、その通りです」

 「少将も退役するのだよな。 そうなると、退役後は上司の妻になるね、財閥だと立場が逆だから。 その時はよろしく」


 そんな会話をしていると、参謀本部ビルに到着した。

 サーッと車両を降りたアーゼル准将が、連絡を取り始める。

 「アーゼルだ。 サガラ大佐、奴の身柄を拘束してくれ。 証拠は揃っているから。 今、参謀本部ビルに着いたので、これから議長の許可を貰うよ。 よろしく」

 そういう会話をしながら、一同は建物に入って行く。


 既に、参謀本部ビル一階の玄関内では議長の副官2名が、司令長官の到着を待っており、直ぐに長官一行を案内する。

 議長室の前でリウは、

 「大佐と少佐はここで待っててね。 ミカは一緒に来て」

 そう指示すると、長官とリウ、准将、ミカは、副官達と一緒に議長室に入って行くのだった。


 一同の姿を見るなり、

 「どうした? 随分沢山居るなあ〜」

 冗談をいうヘムズ大将。

 一行の中にアーゼル中将が居るのに気付いて、

 「新領土の方面軍司令官が居るからこその、緊急事態か。 なるほど」

 納得の表情で、そう語ると、ソファーに座る様に勧める。

 「それでは、遠慮なく座らせて頂きます」

 リウはそう答え、一人掛け用の大きな椅子に座った2人の大将の対面に、リウとミカと准将が並んで座る。


 「久しぶり、中将。 美しい姿になってからは、初登場だな」

 リウの美女ぶりに目を細めた議長が挨拶代わりにそんなことを言ったところから、話が始まる。

 「それでは、私の方から説明を致しましょう」

 アーゼル准将が本題を話し始める。

 「姪のこの容姿を、とある高級軍人がプライベートで見たことが、今回のことの発端です」

 「議長閣下と長官閣下は、プロシード派の若手将校で、現在軍監察官の地位にあるブルース・ハミルトン准将をご存知ですか?」

 その質問に、長官は

 「いや。 知らない」

と答え、議長は、

 「名前だけなら聞いたことがあるな。 何かあまり良い話では無かった記憶がある」

 そう答えると、アーゼル准将は、

 「議長閣下のご記憶のとおりです。 こちらにおられるミカ・アイザール殿が、士官学校に入校し軍人となった当時のハミルトン少尉によるストーカー行為の最初の被害者となります」

 「その時は厳重注意処分でした。 その後、女性軍人に対する付き纏い行為が2件あって、厳重注意に3回目は停職処分」

 「民間人女性に対する強姦疑惑が3件。 わいせつ行為が4件。 強姦疑惑はいずれも民事裁判の結果、灰色止まりで、刑事事件化はされず。 わいせつ事案は彼が金銭で示談して、こちらも事件化されず。 いずれの時も軍としては、一応処分をしておりますが、最も大きな処分であっても、一時的な左遷で終わっています」

 アーゼル准将は、ハミルトン准将の過去の行為と処分結果を簡潔に説明した。


 更に続けて、

 「今回は、リウ・アーゼル中将が被害者になるところでした。 姪はこのとおり、叔父の私から見ても、大変恵まれた容姿を持っていますからね」

 そして、今回の件の核心へと入って行く。

 「ハミルトン准将は、今回、一目惚れした女性が中将だと気付いていません。 彼は、中将の夫であるレイカー・アーサ少将に対して、惑星ネイト・アミュー迄行き、張り込みをして、その妻を割り出そうとしましたが、中将の自衛もあって、割り出せませんでした」

 「そこで今度は、アーサ少将を亡き者にしようと、こともあろうか帝國軍に内通の書簡を複数回送り付け、その結果帝國軍が国境を侵してきて、現在戦闘状態になっているという訳です」

 ここでアーゼル准将は2人の大将に、解読した暗号通信文を見せるのだった。


 それを読み、流石に驚いた表情を見せる2人の大将。

 そして、司令長官が、

 「アーゼル准将。 ハミルトン准将なる者は、気に入った女性を我がものにしようと、こともあろうか帝國軍と戦さとなるように陰謀を図ったというのか?」

と質問をする。

 「その通りです閣下」

 議長が続けて、

 「それでハミルトン准将は、現在どこにいる?」

と確認をした。

 「既に、憲兵隊により身柄を拘禁したところです。 私が先程、そうする様に指示を出しましたから」


 ちょうどこの時、

 「監察官室長が血相を変えて、議長への面会申し入れに来ております。 いかが致しましょうか?」

と、対応した副官が議長のもとに指示を求めてやって来る。

 「暫く、待たせておけ」

 議長は副官に指示をし、長官はリウに続けて質問をする。

 「それで、戦況の方は?」

 「帝國軍は名将の誉れ高いウォルフィー元帥の直属艦隊がやって来ています。 ハミルトン准将が流した情報を信じたという訳では無く、私とルー中将を殺害出来るチャンスがあればというくらいの感じで、一応軍を動かしたのでしょう。 最初はこちらが苦戦するでしょうが、ルーナ大将が率いるアルテミス王国軍4個艦隊が、演習名目で既にネイト・アミューに到着し、その後、戦場に向かったので、最終的には引き分けで、帝國艦隊は撤退するというところでしょう」

 リウは、局地戦の最終的な結末を予測していたのであった。


 「それで、議長閣下。 ハミルトン准将の身柄は暫く拘束したままで宜しいですよね?」

 アーゼル准将が改めて確認をする。

 「当然だ。 事実関係を明らかにしなければならないし、准将の報告通りであれば、軍法会議で厳しく処罰しなければならないからな」

 すると准将は、

 「問題は、プロシード派の妨害なのです。 今まで彼が甘い処分で済んできたのは、軍の事なかれ主義もありますが、プロシード派の者達が、出世頭の一人である彼を擁護してきたことが最大の要因ですから」


 アーゼル准将は、議長と長官を目の前にしても、遠慮なく『派閥争い』や『事なかれ主義』がハミルトン准将を増長させてきたとまで言ってみせた。

 『リウに雰囲気が似た若いこの方、実は相当な人物なのでは無いのか?』

 甘い処分ばかりで、ずっと悔しい思いをしてきたミカは、アーゼル准将のことをそう思ったのであった。


 「それで中将。 まさか私達にこの説明をする為だけに、わざわざ首都星系に戻って来たのか?」 

 議長は、総司令官が戦闘の指揮を采らず、ここに居ることを咎める様な言い方をしてきた。

 「お二方に話をするだけであれば、叔父が話せば十分ですよね。 叔父は若いとはいえ、何者にも掣肘されない強い権限を有する方ですから」

 リウはそう述べてから、

 「私は、ジャン・フォー・プロシードと直談判をしに来たのです。 軍を私物化する様な行為はこれ以上止めるようにと。 また、ハミルトン准将に肩入れするのも止めさせます。 ただ准将の欲求を満たす為の行動で不必要な戦闘が始まり、多くの死者や怪我人が出ているのですから」

 そう述べたリウは、相当な決意のようで覚悟の表情を見せていた。


 「獅子身中の虫を、議長閣下と長官閣下が退役前に掃除してくださるのであれば、今直ぐに私は任地に戻りますが......」

 リウが少し嫌味を込めた言い方をすると、

 「中将、悪かった。 ここでいま起きている件は、私達で適切な措置を図るから、獅子身中の虫を退治しに、惑星クロノスへ行ってくれ」

 その議長の言い方が気に入った様で、リウは思わず笑ってしまうのであった。



 その後議長室を出て、ラートリー大佐とエーレン少佐と再合流したリウ。

 レアー号に戻る前に、

 「クリスはどうする? 一緒に惑星クロノスに行く?」

 リウが准将の意思を確認する。

 「どうしようかな~。 そろそろ挨拶しておくのも良いかもね、リウの為にも」

 近年好き放題やって来たフォーに、ある真実を思い知らせる時が来たのかもしれない。

 そんなことをクリス・アーゼルは考えていたのであった。



 結局、リウと一緒に、統一政府へ向かうことにした准将。

 ヘーラーの軍事宇宙港に戻り、レアー号に乗り込むと、レイザールが待っていた。

 「さあ、直ぐに出発しますよ」

 レイザールとレアが事前準備をしていてくれたので、既に惑星クロノスの軍事宇宙港の到着スポットも決まっていた。


 レアー号が飛び立つと、10分もしないうちに、第六惑星クロノスの軍事宇宙港に停泊。

 降下用エスカレーターでレアー号から降りると、5人は駆け足でターミナル内に入ってゆく。

 ターミナルの出口で拾った無人タクシーに乗車すること約20分。

 政府機関が集中する地域の一角に、統一政府が使っている建物がある。

 正面玄関から入る5人。

 出入口ゲートで守衛ロボットに呼び止められるが、リウがIDを照合すると、直ぐ通れる様になる。

 リウ達が長官や議長と話している間に、レイザールの発案で、レアが統一政府の集中警備システムを乗っ取って、国家元首が滞在する貴賓室まで、邪魔が入らず辿り着ける様に設定してくれた様だ。


 レアのサポートで、案内図にも載っていない貴賓室前に辿り着いた5人。

 レアがコントロールしている影響で、数体の守衛ロボットは5人を貴賓室内に通してしまう。

 許可無く扉が開いて、見慣れない軍人が4名と民間人1名のグループが室内に入ってきたので、驚く国家元首側近と警護の人達。

 「お前達は何者だ?」

 「ここは許可無く入れない場所だぞ」

 勇気を出した側近がリウ達を大声で制止しようとするが、無視するリウ。

 貴賓室内の奥へと進もうとする。

 すると、室内に居た警護官2名がレーザー銃をリウに向けて、

 「止まれ。 止まらないと撃つぞ」

と叫ぶ。

 その時、銃が床に落ち、手を痛めた2人。

 ラートリー大佐がレイに匹敵する射撃の腕を見せた瞬間のであった。

 「流石、大佐」

 リウとクリスが同時に褒める。

 そして、隙をみて床に落ちた銃を2人が拾おうとした時、エーレン少佐が巧みな柔らかい動きで、警護官を制圧しながら、その銃を奪い取る。

 「先生の技も卓越していますね」

 リウが少佐を称賛しながら、室内に居る4人のフォーの側近に、

 「動かないで。 動けば怪我をさせることになるかもよ」

と制止を掛ける。

 あまりにも迫力の無い言い方に、

 「リウは、言い方が優しすぎるね」

 准将が大笑い。

 そして、

 「統一元首は、どこに居るんだ?」

 准将がわざとらしく側近達に尋ねると、その者達の視線が奥の部屋に向いたのを確認して、

 「奥の部屋ね。 ありがとう」

 そう言って、扉を蹴り開けたのだった。


 既に、貴賓室内の様子の異常に気付いていたフォー。

 元軍人らしく、金庫からレーザー銃を取り出し、身構える。

 そして、扉が開いた瞬間レーザー銃を撃ち放った。

 しかし、虚空の空間の中を光が突き抜けただけ。

 そのやにわ、将校の制服を着た背の高い男に、レーザー銃を持った腕を取り押さえられたフォー。

 「失礼、国家元首殿。 危険物は回収させて頂くよ」

 この男の非常に素早い動きに付いて行けず、遅れをとって完全に動きを制圧されたフォー・プロシード。


 「お前達は、誰に対して横暴を働いているのかわかっているのか?」

 ひとまず、大声で叫んで威圧し、反撃の隙を作ろうとしたフォー。

 しかし男は、

 「一応選挙で選ばれた、統一政府初代国家元首、ジャン・フォー・プロシード閣下でしょ? どうせ統一政府なんて、2代目で最後になりますがね」

と冷静で皮肉混じりの答えをするのであった。 

 「お前は誰だ?」

 フォーはその物言いが気に障り、喚きながら質問する。

 レーザー銃を取り上げたことから、フォーの腕を離してから、

 「私は、クリス・アーゼル准将と言います」

と自己紹介をする。

 フォーは、アーゼルという姓が気になったものの、

 「なんだ、ただの軍人だろ?」

 見下した言い方をしたが、

 「実はもう一つ、別の名前がありまして。 クリス・ラインシュトナーとも申します」

 その名を聞いて、フォーは血相を変えた。

 「ラインシュトナーだと......首相の一族か? なんでここに」


 ラインシュトナー家は、アーゼル財閥の最大のライバル企業体『LSグループ』の経営者一族。

 アーゼル家と異なり、一族からノイエ国の政界に多くの政治家を輩出しており、経済界での実力も高いことから、国内で最大級の政治力を持つ一族である。

 その為、フォーが血相を変えたのであった。


 そして、一緒に入って来た女性将校の美女に、なんとなく見覚えが有るような気がしたフォー。

 喚くのは止めて、准将に話し掛けた。

 「一つ質問させて貰っても良いか?」

 「どうぞ」

 「あの女性の将校は、誰だ?」

 その質問にクリスは嘲笑しながら、

 「私の姪のリウ・アーゼル中将ですよ。 国家元首殿は、幼い頃からライバル視していた人物の顔を忘れてしまったらしいですね」

 「准将。 私をおちょくるつもりか? アーゼル中将は男だろ?」

 「そんな節穴の目だから、リウに出世争いで負けるんですよ、国家元首殿。 リウは元々女性。 財閥総帥の意思で男性として育てられたから、男っぽいのは事実だけどね」

 それを聞いて、黙ってしまったフォー。


 『そんな馬鹿な......僕は女性を人生のライバルだと思って、30年近く生きてきたのか......』

 フォーは、女性をライバルとして据える思考回路の無い人物であった。

 リウを男だと思っていたからこそ、『絶対に負けない』という強い気持ちを維持出来ていた。

 それが崩れ去った今、フォーは脱力感に包まれていた。


 するとリウがミカを連れて近付いて来た。

 「あのさー、もういい加減、私に対してライバル意識を持ったり、嫌がらせするのは止めてくれないかな? もう、フォーは軍人じゃなくて、政治の道に入ったのだから」

 リウがハッキリとフォーに言った。

 「嫌がらせなんかしていないさ......」

 強がるフォー。

 最近の彼は、リウへの嫌がらせを全く指示していなかったものの、プロシード派の将校達が嫌がらせをしていることは黙認していた。

 「監査、監察、また監査。 フォーが直接指示していなくても、貴方の同期生達とかが忖度して、不必要なことを繰り返しているでしょ? あんなの時間と労力と金の無駄よ」


 「それに最前線へ、新型艦艇を一隻も送って来ないよね? あの開発は私が行ったのだし、特別な人達の協力を得られたのも私や丞相、王室の人達が頑張った成果なんだよ。 プロシード派は一滴の汗を掻いてもいない。 それなのに、その成果を独占しようとしているよね?」

 「新型艦艇の開発が間に合っていなかったり、特別な人達の協力が得られなかったら、フォーも私も戦死して、ここに居る貴方の側近達は、今頃帝國将兵の奴隷だよ。 それを理解している? あんなに苦しい大戦だったのに」


 「軍の中に、自分の派閥を作って、支配し続けようなんていう子供じみたことも、もう止めな。 ああいう大きな派閥はそのうちフォーの意思を超えて暴走して、手に負えなくなるよ。 それにフォーが外から支配しようとして、小物をけしかけても、クリス・アーゼルには絶対敵わない。 クリスが今より高い地位に就いたら、プロシード派は弾圧されて消滅することになるよ。 間違いなく......」


 「それと、フォーが期待しているブルース・ハミルトン准将は身柄を拘束したから。 この件で」

 リウはそう言うと、ハミルトン准将が帝國軍ウォルフィー元帥宛に送った暗号通信文を、アーゼル准将が見せる。

 それを読むフォー。

 「これは......ブルースが作って送ったものなのか? 本当に」

 「事実だよ。 いま私の艦隊と帝國軍は戦闘中。 アルテミス王国軍艦隊も巻き込んでね」

 「......」

 「新型艦艇さえ、適正に配置して貰えていたら、ハミルトン准将が仕掛けた帝國軍の待ち伏せから逃げれたかもしれないのに。 そうしたら、戦死者が出なかったんだよ?」


「派閥の長として、フォーがどの様な責任を取るのか知らないけど、あんなストーカー気質の変態野郎を大事に大事に取り立てるから、こういう結末になったんだ。 今までブルース・ハミルトンがしてきた性犯罪や美女へのストーカー行為を、フォーが中心となって庇って来たせいで、何人の女性が辛い思いをしてきたのか、わかっているの?」

 「そして、不要な戦争まで引き起こして。 今回の戦闘で出る死者は、全部フォーのせい」

 ここまでリウはフォーを攻めると、少し悔し涙を見せるのだった。


 「今回の事件を期に、フォーが心を改めず、プロシード派も方針を変えないのなら、先ず新型艦艇を全て差し押さえさせて頂くからね。 まだ代金は支払われていないし、契約書に適切な運用が為されていないと私が認めた場合には、他の2カ国と協議の上、供与を停止し、艦艇は没収するって記載されているのだから。 猶予は1か月」

 先ずリウはフォーに、新型艦艇に対する最後通告を実施した。

 「それと、ハミルトン准将の擁護を止めること。 彼は今回、重罪を犯したよね? れっきとした罪を。 それにもかかわらず、フォーやプロシード派が今回も擁護するのであれば、世間に事件を公表し、今までプロシード派が隠してきた数々の罪やその隠蔽工作を徹底調査して明らかにするよ」

 次に、ハミルトン准将の処分に一切関わらない様警告をした。


 アーゼル准将がそれを聞いて、不気味な笑みを浮かべながら、フォー・プロシードに、

 「ここに、僕が情報将校として調査してきた、プロシード派幹部の恥部や犯罪、横領などの資料が有るよ。 軍の恥だから、灰色のままにしてあるけどね」

と囁いたので、フォーは驚いた顔をしてクリスを見上げる。

 「統一政府国家元首殿は、真面目で正義感があるから、くだらない不正や横領はしていないよね。 でも、他の同期生はどうかな? 性犯罪者のブルース・ハミルトンは別格としても、全員が品行方正、清廉潔白っていうことは絶対有り得ないから......」 

 そう話すクリス・アーゼルの表情は、悪魔の様だった。

 のちにフォー・プロシードは知人に語るのであった。


 「私からもイイかな?」

 ミカがその場に居る全員に確認する。

 皆が『どうぞ』という雰囲気を見せたので、ミカがフォーに話し始める。

 「フォー。 私のことを覚えている?」

 「もちろん。 士官学校の同期生だから」

 「そうだよね。 同期生ってそういうものだよね」

 「辛い訓練。眠い座学。 抑圧された特別な生活を4年間も続けて、厳しい教官の罵声に耐え、影で教官の文句を言いながらも、みんなで励ましあって。 退校する落伍者が出ながらも、何とか卒業にまで至る」

 「だから、特別な団結力や友情が生まれて、卒業してから退役するまで、例えずっと任地が離れて疎遠であっても、何か有った時には、率先して協力出来る。 『アイツの為になら』と肌を脱いで特別な何かをしてあげる。 そういう関係が同期の絆だよね?」

 「そうだね」

 「でも、私達の期はどう? 私は卒業後もブルースのストーカー行為に苦しんで、遠い任地に変えて貰っても、まだなお彼の行為は止まなかった。 あの時彼の行為を止めれる可能性があったのは、親しい同期生の諌めの言葉だったと思うの」

 「......」

 「でも、フォーも、フォーの仲間達も誰も諌め無かったよね? それどころかミカに落ち度が有るとか、逆に被害者を批判して......」


 「士官学校時代から、うちの期はバラバラ。 フォーとその取り巻きグループと、それ以外の人達とにね」

 「フォーの士官学校時代の最大のライバルだった、マイケル・ジン。 フォーの取り巻きが散々嫌がらせして、それでも耐えて、士官学校を辞めずに卒業した彼を、私は尊敬しているよ。 今隣に立っている大戦の英雄、リウ・アーゼル中将よりも好成績で卒業したのだから」

 「それは、マイケルが......」

 「みんながフォーのご機嫌を取らなきゃイケナイの? そんなの同期生じゃないよね? フォーにはマイケル・ジンという強力なライバルが居たからこそ、2年課程のリウやアーサ少将よりも、2人は良い成績で、しかも歴代の士官学校卒業生の中でも指折りの成績で卒業出来たんだよ」

 「......」


 「今、そのマイケルが何処の部隊に所属していて、階級がどうなっているか、フォー知ってる?」

 「知らない......」

 「ネイト・アミュー方面艦隊第1分艦隊の巡航艦オーシャンⅤの艦長。 階級は中佐」

 「プロシード派がフォーに忖度して、マイケル・ジンを冷遇し続けた結果が、階級に出ているよね? もちろん中佐の能力に特段の問題は無いよ。 彼が評価されたり、功績を立てられないように、足を引っ張り続けた結果が今の地位」


 すると、フォーは反論をする。

 「僕はそんなことしろだなんて、周囲に言ったことは無い」

 しかし、ただの言い訳にしか聞こえず、話を聞いている元首の側近達ですら、賛同は得られなかった。

 「これが、私達の同期生の姿。 本当にバラバラ。 今、ハミルトンのクソ野郎がやったことの後始末で、ジン中佐は帝國軍艦隊と戦闘中なんだよ。 戦況はわからないけど、フォーの次席で卒業したのに、未だに最前線で死線を彷徨っている様な状況に追い込んだままなんて、あんまりじゃない?  フォーのろくでなし。 人の上に立つ器じゃないわ」

 そういうとミカは悔しそうに泣き始めたのであった。

 あまりの罵声と事実に、反論出来ないフォー。

 黙ったまま立ち尽くしていた。


 「それで、今回もブルース・ハミルトンを擁護するの? 国家元首殿」

 「......」

 「ブルース・ハミルトンはたった今、准将の階級を剥奪されたよ」

 「えっ。 軍法会議も始まって居ないのに?」

 フォーが驚いた顔を見せる。

 「僕の指示かな? それとも大統領? はたまた首相かもね。 帝國軍に私的な邪魔者を戦闘で殺害させようとする陰謀。 この様な行為は恥ずべき重罪だよね? 国家元首殿がどの様な手を使って、ブルース・ハミルトンに手を差し伸べようとも、今回は極刑を免れ得ないよ」

 アーゼル准将はフォーに対して、完全に手を引くように最後通牒を出したのであった。


 フォーはその場でガクッと崩れ落ちる。

 リウが最後に、

 「フォーが今まで頑張ってきたことは、よくわかっている。 でも正しくないやり方は改めないと。 徒党を組んで邪魔者を排除して、組織の実権を握る。 そういう方法は間違っているよ。 そしてその犠牲になるのは、私やフォー、その取り巻きじゃ無い。 軍で言えば一般の兵士や下士官達なんだから」

 その様に告げると、貴賓室に居た者達に、

 「お騒がせしましたね」

とリウは言い残して、レーザー銃3丁を返してから去って行った。

 呆然とする側近や警護の者達。

 統一国家元首に、対応をどうすべきか確認しようにも、放心状態のフォー・プロシードは何も答えない。

 「とりあえず、片付けをしますか?」

 特に壊されたものがあった訳では無いが、整理整頓を始める側近達。

 「そのうち誰かが、ここに慌ててやってくるよ。 それまでは待機していましょう」

 誰かがそう言うとみんなが頷き、統一国家政府の貴賓室に秩序が戻ったのであった......


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