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【完結から1年。順次補正中】正史・銀河四國史(未来における英雄の生涯)  作者: 嶋 秀
RIU・落龍篇

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第62話(波瀾の予兆)


軍中央は、統一国家元首フォー・プロシードの意向を受けて、ネイト・アミュー方面軍への締め付けを強化していた。


新たな監察官は好色な人物。

ふとした出来事から、新たな波瀾の予兆の芽が生まれてしまうのであった。


 ノイエ軍監察官ブルース・ハミルトン准将による、ネイト・アミュー方面軍宇宙艦隊に対する監察・監査の実施が通告されてから、レイとアイザール少将の仕事量が急増していた。


 「家に帰るいとますら惜しい状況だね」

 ディオがレイに少し愚痴る。

 「先輩はあと1年ですし、リウに話して艦隊の所属を外して貰いましょうか?」

 レイが提案するが、アイザールは首を横に振った。

 「あと1年だからこそ、無理してみるよ」


 暫くすると、ルー中将が2人のもとにやって来た。

 「いつも悪いね~。 リウの補佐の仕事も有るのに、艦隊の仕事まで」

 すると、

 「統治官からの伝言です。 『口は災いのもと』以上です」

 レイが総司令官の夫という立場を活かして、上官にリウからの伝言を伝える。

 「それは、身に染みて分かっているさ。 今回はキチンと反省しています」

 珍しく、素直に謝罪する艦隊司令官の姿を見て、2人の少将はそれ以上愚痴るのを止めることにしたのであった。



 その後、レアー号に戻ったレイ。

 「おかえりなさい」

 レイザールが出迎えてくれる。

 大人びてきたレイザールは、帝國一の美女と言われた母シンキの面影を帯びてきており、誰の目から見ても美丈夫という感じに成長してきた。

 「まだ帰ってきていないの?」

 夜9時を過ぎているが、相変わらず仕事に打ち込んでいるようだ。

 「いつも遅くて、心配です」

 レイザールが答えると、

 「リウは責任感が強いから。 この星域の領土化を立案して、実行したことへのね」

 レイはそう返答してから、準備をして一人で晩酌を始める。

 その話し相手をレイザールがつとめるのだ。


 「少将も、毎晩の様に遅くまでお疲れ様です」

 「本来、俺は事務仕事の人間じゃないんだけどな~」

 思わず、少し愚痴をこぼしてしまうレイ。

 「でも、少将は士官学校卒業後、ずっと内勤畑を歩んで来られたのでしょ?」

 「リウにお願いして、その配下に入るまでは、軍中央の参謀か後方勤務ばかりだったね。 望んでなった訳では無いけど」

 「すると、本来の仕事っていうのは?」

 「諜報部員だよ。 若しくは戦士。 周囲には言わないでくれよな」

 「そうなのですか? あまりそういう感じはしませんが」

 「これでも、射撃の腕は良いんだぞ。 リウを影ながら、ずっと護って来れたぐらいの腕は有るんだぞ」

 「中将から、その話を聞いたことがあります。 財閥総帥の側近だったとかという」

 「レイザールにそんなことを話していたのか、リウは」

 「僕も、自分の身を守れるくらいの訓練を受けたいと言ったら、少将にお願いする様に勧められまして。 その時に」

 「そっか〜。 リウも結構な勇士だけどな。 今のレイザールの年齢の時にリウは、アルテミス王国軍の騎兵学校を卒業していたから、女性と雖も相当強かった筈だよ」

 「凄いですね。 僕なんかただの高校生でしかありません。 少将は僕の年齢の頃は、何をしていましたか?」

 「両親が諜報員だから、そういう訓練を受けて、自分の身は守れる能力を持っていたよ。 ちょうどレイザールの年齢の時は、帝國の追跡から必死に逃げていたな~。 父が諜報員だってバレちゃって」

 「逃避行ってヤツですか? 面白そうですね」

 「面白くないって。 宇宙空間内で惑星から惑星へと命からがら逃げていたのだから」

 「僕みたいに、閉じ込められてつまらない少年時代を過ごして来た者にとっては、そういう世界を想像するだけが楽しみだったのです」

 「俺もリウも特殊な人生を歩んで来た者だからな。 あまり参考にはならないし、参考にするなよ」

 レイはそう答えると、少し過去を振り返る様に、ワインの入ったグラスを見つめ続けるのであった。


 「しかし、レイザールは本当に凄いイケメンになったな~。 お母様の美貌が想像されるよ」

 「そんなことはありませんよ。 誂わないで下さい」

 「クラスでモテモテだろ?」

 「僕は本質的に根暗な陰キャですから、モテないですよ」

 「そうなのか?」

 「そうです。 それに同級生にあまり興味ありませんし」

 「まあ、毎日絶世の美女を目の前にしているのだから、無理もないか。 かくいう俺もそういう女性を妻にしているのだから」

 レイが少し惚気けていると、噂をしていた女性が帰って来た。

 「ただいま、レア」

 艦内に入って、居住スペースへの出入口の方から、レアに挨拶しているリウの声が聞こえる。

 暫くすると、レイとレイザールが居るダイニングルームに入って来た。

 「お疲れ様、リウ」

 レイが労うと、リウはレイにキスをして、レイザールの頭を撫でてから、着替えに自室へと移動して行く。

 その姿を目で追いながら、

 「いつ見ても、本当に綺麗だよな、リウは」

 「僕もそう思います。 絶世って言葉が似つかわしいですね」

 「不老装置で、外見上年を取らないとは言っても、本当に変わらないよ。 17年前に受けた衝撃の時の姿から」

 レイはそう言うと、ワインを飲み干して、片付け始めるのであった。


 着替え終わったリウがダイニングルームに入って来ると、いつもながらの超適当なスポーツウエア姿だった。

 「さっきまでリウを褒めていたんですよ」

 レイが話し掛ける。

 「私を褒めても、給料上げないよ」

 総司令官らしい物言いで切り返す。

 「ずっと、綺麗なままだねって。 33歳になっても永遠の20歳とはいえ」

 「そう言われても、なんと答えればイイのかなあ〜」

 流石のリウも最愛の夫に惚気けられると、少し恥ずかしそう。

 「自身にそういう自覚が少ないから、身辺警護は強化しておいて下さい。 レアが居るとはいえ、生体頭脳も100%じゃないのだから」

 「わかっているって。 総司令官という立場だし、この星域一帯の人々のことを考えたら、中途で倒れる訳にはいかないよ」

 リウは自身の警護のことをやや軽視する傾向があった。

 軽視というよりも、仰々しいのが嫌なだけであったのだが。

 「ところで、レイ」

 「な~に」

 「レイザールに訓練付けてやって欲しいのだけど」

 「さっき、少しそんな話になったね。 構わないけど、私も忙しくて時間が取れないですよ」

 「少しでも良いのよ。 さっきレイも言っていたでしょ? 私だけではなく、みんなが敵対勢力や邪な連中に狙われる恐れがあるのだから」

 「わかりました。 レイザール、じゃあ今度時間が有ったら、早速始めるか?」

 「お願いします。 少将」

 「ハッ」

 レイは珍しく少しふざけて、レイザールに敬礼をするのであった。



 3日後の休日。

 レイは早速レイザールに射撃の訓練をつけ始めた。

 「レーザー銃は反動が無いから、センスがある奴は直ぐに標的に命中させられる様になるからな」

 「はい」

 そう言って、レアー号の艦内の訓練設備で練習を始めたレイザール。

 しかし、あまりセンスのある方では無く、なかなか標的に当たらない。

 「レイザールはガク引きになっているから当たらないんだ。 もう少し引き金を引く時にリラックスして引かないと」

 「はい」

 暫く練習をすると、少しは標的をかするようになっていた。

 「レーザー銃は重いから、それが難しいところだな」

 レイはそう説明しながら、レイザールが使っていたレーザー銃を受け取って、連続で射撃する。

 すると、全て標的のド真ん中に命中していた。

 「少将、凄いですね」

 目を輝かせながら、レイザールが嬉しそうに感想を述べる。

 レイは珍しく調子に乗って、走りながらの射撃や色々な体勢での射撃もやって見せた。

 「全弾標的のド真ん中って、本当にスゴイ」

 レイザールは感動していた。

 「ずっと、練習していれば、出来る様になるかもなって言っても、レイザールに銃は貸与出来ないから、あくまでこの場所でのみだぞ」

 レイはそう言って、訓練を終了とした。

 「しかし、まあ、レイザールには何でも話せてしまう、不思議な魅力が有るのかもな?」

 レイはレイザールにそう語り掛けた。

 「そうですか?」

 「俺がこんなお巫山戯なことをしながら射撃練習するのは滅多に見れないんだぞ。 そういうこともレイザールの前だと、自然とやってしまう。 そういう雰囲気は大人になっても大事に持ち続けて欲しいな。 きっとお前の財産となるよ」

 レイはそう語ると、背の高さが同じになったレイザールの頭をくしゃくしゃにするのであった。



 いよいよ、監察官ハミルトン准将一行が惑星ネイト・アミューにやって来た。

 珍しく大人しい姿のルー中将。

 文句一つ言わずに、粛々と監査・監察を受ける姿に、部下達は全員が少し驚いていた。

 『中将がこんな素直な姿を見せるなんて......明日は雪が降るかもな。 それとも今後悪いことが起きる前兆か?』

 ディオ・アイザール少将はそんなことを考えていた。

 そういう態度は、相手側の対応にも露骨に現れるものである。

 いくら、フォー・プロシードの権力の裏付けがあっても、ルー中将は2階級上の将校である。

 ハミルトン准将も、権力を傘に着た横柄な対応ではなく、丁寧な態度をとってくれたのであった。

 副司令官コーダイ少将以下、全員が協力して準備を整えた効果は絶大で、監査・監察はつつがなく終えることが出来た。



 ハミルトン准将は、監査・監察の仕事を終えると、初めて来た惑星ネイト・アミューの実情を調べておきたいと思い、翌日、側近の3名だけを連れて、街中に出てみることにした。

 軍の駐屯地を中心に新しい施設が建ち並んでおり、ここに元ムーアー王国の広大な王宮が有ったとは思えないほどの変貌を遂げていた。

 私服姿で、新しい施設を巡視する准将一行。

 この日は新領土の休日で、施設は人々が沢山訪れている。

 人々の表情は明るく、皆が幸せそうに見えた。

 「思った以上に活気が有るなあ~」

 かつては、経済が落ち込む一方で、地平線の下へと沈みゆく太陽の様な暗い雰囲気だと言われていた旧ムーアー王国領域。

 それが、ノイエ国の占領地となってから僅か3年で、今や銀河イチの昇り龍の如き経済成長を遂げ始めている。

 「これは、フォー・プロシードも、うかうかしていられないだろう」

 ハミルトン准将がその様に呟いて感じ取る程に、リウ・アーゼル中将の統治は非常に成功していたのだった。

 『アーゼル中将は提督というより、テクノクラートとしての才能により恵まれていると言われていたが、これ程の才幹とは......』

 三国同盟の民間資本により建てられた施設の見学を一通り終えて、側近達の感想を求めた准将。

 側近達は口々に、

 「ここまで、活気に満ちているとは思っていませんでした」

と感想を述べる。

 「今後は、より軍政の方にも目を向けておくべきだろうね」

 監察官としての総括を話して指示をした准将。


 宿舎に戻って、帰国の準備をしようかと思っていた時に、道を同伴の男性と歩いて行く、一人の美女の姿に目が止まってしまった。

 ハミルトン准将の唯一の欠点である好色で美女好きな面が、仕事中であっても出てしまう程の美女であった。

 「凄い美女だなー」

 思わず本音が零れてしまう准将。

 側近の者達も目で追うほどの女性であった。

 すると、一人の側近が、

 「一緒に歩いているのは、アーサ少将ではありませんか?」

 その指摘に、女性にばかり目を奪われていた視線が、一緒に談笑して歩く男の方を見る。

 「本当だ。 アーサ少将だな、あれは」

 「少将にあんな美女の奥さんが居るなんて知らなかったなあ」

 側近達が口々に話をする。

 それを聞いて准将は、

 「少将は結婚していたのか?」


 軍のエリート将校は、大概結婚式を実施して、軍の高官や政府のお偉方に伴侶の披露をするのが通例である。

 アーサ少将も将来の後方司令官と言われているエリート中のエリート将校である。

 しかし、結婚をしているという話は聞いたことが無かったし、結婚式や披露宴も挙行された記憶はなかった。

 「准将はご存知無かったですか? 4年前位に極秘結婚している事実が明らかとなって、少し噂になっていたのですよ。 相手の女性が訳アリだから、結婚を公表しなかったということでしたね、確か」

 部下の一人がそう答えると、

 「訳アリって、美女過ぎてってことだったのかもな?」

 「いや、奥さんが某財閥トップの婚外子だから、公表出来ないって聞いていたぞ」

 「なるほど~。 財閥総帥の愛人の娘じゃあ、軍や政府の高官にお披露目出来ないものな」

 そんなことを口々に噂する准将の側近達。

 准将はその様な話を聞き流しながら、心は美女のことで一杯になってしまっていたのだった。



 一方、油断していた美女はリウ・アーゼルその人であった。

 久しぶりの休日に、夫のレイと気分転換で街中に出て、極秘の実情視察も兼ねての外出であった。

 「良かった~。 私の悪口が街中に溢れているかと思っていたよ〜」

 「それは、過小評価し過ぎですよ、リウ。 この国は統治されていることに慣れている市民ばかりですから、政治的な自由が無いことへの不満というのは、今のところ無いですよ。 将来はわかりませんが」

 レイは、ヤーヌス星系の市民は、先ずは経済的に豊かになることが最大の希望であって、政治的な権利を求める意識は希薄であることをよく理解していた。

 「いずれは、私の独裁的な統治も終焉となるのだから、それまでは我慢して貰おうね。 共和制に移行するのは」

 そういう話をしている時に、監察官達が私服姿で立ち止まっている前を通り過ぎた。

 「リウ。 今、そこにハミルトン准将達が居ましたよ」

 「政情や世情を見て回っているのね。 御苦労なことで......」

 皮肉を言うリウ。

 今後、軍政への監督が強化されると面倒だなと思っての口から出た感想であった。

 レイは、

 「リウの本来の姿を見られてしまいましたが、大丈夫でしょか?」

と確認し、別の心配をしていた。

 『確か、ハミルトン准将は好色で、アイザール先輩が奥さんへのストーカー行為で苦しんだって言っていた筈。 大丈夫かな......』 

と。

 リウは、

 「ずっと、隠し通すつもりも無いし、大丈夫よ。 レイは気にし過ぎ」

 楽観的な反応をしてから、

 「そんなことより、デートを楽しもうよ」

と言って、レイの手を握り直して、半分踊りながら、先へと進む。

 『今日は、余計な心配をせずに、リウに楽しんで貰わないと』

 レイも思い直して、雑踏の中へと愉しそうに入っていくのであった......


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