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【完結から1年。順次補正中】正史・銀河四國史(未来における英雄の生涯)  作者: 嶋 秀
RIU・落龍篇

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第61話(3年後)

惑星ネイト・アミューを中心とする帝国領を占領してから3年後。


リウの統治は大きな成果をあげていた。

しかし、リウやルー中将の居ない本国では、ノイエ軍内部におけるプロシード派の勢力が増してきていたのであった......


 リウ・アーゼル提督に率いられたノイエ軍が、惑星ネイト・アミューを中心とするヤーヌス星系等を占領してから、約3年の月日が流れた。


 この間、テラ帝國でも三国同盟各国も軍事行動が一切無い平穏な日々が続き、この様に戦さの無い状況は、約1世紀ぶりの出来事であった。



 ノイエ国新領土の統治官のリウ・アーゼルは、先ず統治の手始めに、新領地の総合的な税率を帝國時代の五公五民から三公七民へと一気に引き下げた。

 税率を引き下げるにあたり、経済規模に比して大き過ぎるネイト・アミューの行政官僚機構を大幅に縮小し、人工頭脳を積極的に利用した無人化を徹底して、経費の縮減に努めた。

 大幅減税の効果は絶大で、長年に渡り低迷していた新領土の経済は徐々に上向き始め、3年も経つと活気もかなり出てきたのであった。

 また、三国同盟各国に比しても低い税率であることから、より有利な税制を求める企業や富裕層の人々が、新領土へと流入し始めており、活発になってきた経済がより刺激を受けて、急激な経済成長へ繋がる好い循環が発生しつつあった。


 リウの統治政策については、治安の維持を第一としており、機械化された治安維持ロボット兵とクローン捜査官を大量導入したことによって、罪を犯しても直ぐに捕まってしまう体制を確立することに成功していた。

 その上、厳罰主義の裁判制度により、一般犯罪のうち殺人・強盗・強姦等の重罪に当たるものは、一律に終身刑と刑罰が改められ、犯罪者は刑務所惑星へと直ぐに送り込まれてしまうことから、犯罪の発生件数自体が急減したのであった。

 ただ、冤罪を非常に嫌うリウであったので、イレギュラーが発生する原因となる人間の意思の介在を、治安維持体制に関与させない点だけは、徹底していた。


 経済政策は、完全な自由経済・市場経済であり、最低限のルールや規制を守っていれば、各自の才幹が最大限に発揮できるように、随所に工夫が為されていた。

 税率も低く、新規投資を優遇する制度も完備されており、ヤーヌス星系とその周辺星域は、辺境では無いにも関わらず、フロンティア精神を抱き、未来の希望を持てる様な地域へと変貌し始めていた。


 政治面は、事実上の軍事独裁体制であり、結党も禁止されており、選挙制度等は一切存在しない。

 もちろんいずれは、ノイエ国の一部として、民政移管をする予定であった。

 しかし、帝國との停戦が確立されるまでの当面の間は、統治官をトップとする非民主的な政治体制となってはいたが、新領土が長期に渡る専制国家テラ帝國領の一部であったことから、市民の間に、民主的な政治体制を求める声は殆ど出ていなかったのだ。


 また、リウ・アーゼルの政治的才幹とそのバランス感覚は非常に優れたものがあり、新領地の市民に政治的・思想的な圧力を掛ける様なことは一切していなかったし、種々の議論を封じる様な規制を掛けることも無かった。

 要は、リウの才幹に全てを任せることで、新領土では理想的な世界が実現しつつあることから、市民が政治に参加しなければならない理由が無い状況だったのである。


 『ノイエ軍の統治官に任せておけば、ほぼ完璧な状況なのに、これ以上何を望むのか?』

 大半の市民は、上から与えられたものとは言え、理想的な社会が実現しつつあることに満足しており、向上心の強い者は、個々がより良い生活と豊かさを追求すべく努力するだけで良かったのだ。

 また、現状で満足している者は、その日々の暮らしを楽しめば良い。

 まさに、理想的な社会の到来となっていた新領土であった。


『優れた専制君主による完璧な政治と、完全な民主主義、どちらが民衆にとって、より幸せなのか?』

という、近代以降の人類社会にとって結論の出ない永遠のテーマに、テラの大帝と同様、一石を投じる存在となりつつ在るリウ・アーゼルであったが、リウ自身は迂遠な共和制の方を大事に思っていた。


 『大半の独裁者は、自己の飽く無き欲に負けてしまい、当初の理想的な社会を目指す志を失い、反対者を弾圧して強権的な社会へと突き進んでしまう。 それが現実であるし、そもそも理想的な専制君主が現れること自体が奇跡に近い。 そんな奇跡に賭けるよりも、権力者に一定の縛りを掛けることが出来る民主共和制の方が、何百倍も優れているだろう』

 リウは、そういう考えの持ち主であった。



 リウの統治が開始されて3年が過ぎたが、リウは一切表舞台に出ようとしなかった。

 統治官による法律や条例の布告、各種施策の実施は機械的に発表され、統治下にある市民や軍人に一律に従うように求めるだけであった。

 これはリウ自身、市民に人気の名声の高い統治官の登場が、強権的な独裁者の誕生に繋がってしまう可能性が有ることも熟知していたからである。

 民主的なレールから逸脱しないようにと自身を律しており、あくまで民主国家における軍人の一人が、統治官に就任しているにすぎないという立場を変えたく無かったから、一切表舞台に出なかったのだ。


 

 『リウ・アーゼル統治官という人は、随分評判が高いようだね。 気をつけないと、民主制を逸脱して独裁者になるよ』 

 リウは毎朝鏡を見ると、いつも自問自答して戒めていた。 

 レイは、その姿を毎日見ており、リウが成功者として名声が高くなるにつれて、多くの悩みを抱え始めている様子を心配していた。

 「リウ、たまには一息入れようよ」

 休養を取る重要性を仄めかすも、リウは、

 「分かっているよ。 休みが必要だって」

 「でも、もう少しだけ......」


 この3年間、リウは休み無しで統治官としての非常に重い責任を果たし続けていた。

 それだけでは無く、発展著しいアウローラ社のCEOとしての仕事も山積みで、アウローラ社に関しては生体頭脳レアの全面バックアップが有っても、休みの取りようが無い状態であった。

 それは、副統治官のパルトネール准将やレイ、アイザール少将といった統治官の補佐を行っている者達も同様であった。


 「専制制って本当に重責で大変だよね。 私が統治しているのは100億人以下だけど、テラの大帝は1000億人以上の人々を長年統治していたのだから、その真の偉大さを今、実感しているよ」

 「シヴァ丞相も民主国家とは言え、独裁に近い政治体制だから、その重責の本当の意味を、私も漸く実感した感じかな?」

 「丞相が、丞相府で起居していた訳も、やっと理解出来たよ」

 仕事の合い間に、リウがアイスコーヒーを啜りながら、レイにそう話すのであった。


 「この3年間の実績で、リウは軍人としての才幹よりも政治面や経営者としての才能の方が、より優れているという評価になってきていますからね。 私は以前からそうだと思っていましたが」

 レイが一般的な評価を改めて口にすると、

 「リウ様は、幼少の頃から経営者としての英才教育を受けていたのですし、その頃から期待もされ、評価もされていたのですから、この3年間の実績は当然の結果でしょうね」

 ディオ・アイザールもレイと同じことを口にした。


 「2人共、リウの信者だからね」

 ケイト・パルトネール准将もその様な言い回し方だったが、リウの才能を肯定すると、

 「3人共、私を独裁者に育てたいの? 褒めないで批判だけにして欲しいな。 そうじゃないと......」

 「専制君主になっちゃう? 巨大な軍権も有しているからね、リウは」 

 ケイトが笑いながら、その危惧を指摘する。


 「3人の全面的な協力が有っての、ここまでの実績なのだから。 その点を私もよく理解しています。 本当にありがとう」

 リウは、その美しい瞳を潤ませながら、感謝の意をいつもの様に伝えるのであった。


 「ザッハー参謀長、今回は財閥に戻らないとダメみたいですよ。 私も父に無理言って財閥役員からの引退を延ばして貰って、退役を先延ばしにしてきましたが、あと1年しかここに残れません。 まだまだ問題山積みの状況なのに、本当に申し訳ないのですが......」

 「ディオ、本当にありがとう。 無理言って退役を3年も引き延ばして貰って」

 「後任が居れば良いのですが、流石にネイト・アミューに長期滞在だと、2年課程出身の財閥派でも、希望者が少なくて......」

 アイザール少将がリウに、1年後の退役は絶対に変えられないことと、めぼしい後任が居ないことを併せて謝罪した。


 「参謀長にも結局、統治官補佐の仕事をだいぶ手伝って貰っていたし、在任を1年間延長してくれたから、今回退役してアーゼル財閥に復帰するのを、もう引き留められないよ。 ただ統治部門としては非常に痛いね」

 リウは残念そうに話すのであった。


 「ケイト、体調大丈夫? 3年間ずっと休み無しだし、統治もだいぶ安定してきたから、そろそろ順番に纏めて休みを取るべきだと思う」

 「参謀長が退役するタイミングで、交代で1か月ずつ休みを取ることにしましょう。 参謀長にも退役1か月前から残っている休暇を全部消化して貰うので、その後に」

 リウがその様に提案すると、パルトネール准将は休暇は要らないと手振りで示したものの、

 「ケイト、もう若く無いのだし、休まないで倒れられたら、それこそ本当に困ってしまうから......」

 「ディオも、いい加減家族サービスさせないと、ミカに私が怒られちゃう......」

 そう言っても、2人共何も言わないので、

 「しょうがないわね。 休暇は命令にします。 1か月ずつね」

 結局リウが統治官としての権限を発動し、命令という強硬手段での休暇取得が決まった。


 「リウの統治官としての名声が上がるにつれて、フォー・プロシード派からの嫌がらせも増えて来ているらしいよ」

 小人達からの妬みが、徐々に影響し始めている状況をレイが憂慮していることを打ち明ける。

 「特に軍関係の要望が通りにくくなっているし、必要物資の到着遅延も常態化してきているわね」

 後方部門の責任者であるパルトネール准将が、状況の悪化を思わずこぼす。 

 「とりあえず、リウ様の個人資産で立て替えして貰っているので、駐留軍の給与遅配の影響は出ていませんが、これ以上嫌がらせがエスカレートすると、悪影響が出始めるでしょう」

 アイザール少将も困った顔をしている。


 「嫌がらせと言えば、今度また駐留軍に監察官が来るらしいよ。 こう度々入るのは異例ね」

 パルトネール准将が怒りを込めて話す。

 「監察の責任者は?」

 リウが質問すると、

 「今回は、ブルース・ハミルトン准将。 プロシード派の出世頭だね」

 パルトネール准将が答えた。

 「ああ、あの極端な女好きか〜。 女性問題を度々起こしている奴が、偉そうに監察の責任者で来るなんて、世も末だなあ」

 レイがルー中将の様な言い方でボヤくと、

 「彼こそが本来、監察の対象だろ? 一度気に入った美女を自分のモノにしようと、非常にしつこいことで有名だから」

 アイザール少将が冷たい口調で言うので、リウが、

 「ディオ、妙にハミルトン准将のこと詳しいね。 そこまで毛嫌いするなんて、珍しい〜」


 「妻のミカに対して、士官学校時代から付き纏いが本当にしつこかったから嫌いなんですよ。 ストーカー気質も有る人なので、大変だったんですから......」

 「あまりにも酷いので、事なかれ主義の軍上層部に密かにお願いして、士官学校卒業後半年で、西上国の惑星アイテールにミカを異動させて貰って、漸く諦めさせた感じですね」

 「ミカが折角、難関の士官学校を卒業したのに、3年もしないうちに退役したのは、結局のところ彼の付き纏いのせいですから」

 非常に苦々しい顔で話す、アイザール少将であった。


 「まあ、監察が入るのはいつも大体艦隊の方だから、ルー中将に任せておこうよ」

 リウはハミルトン准将に全く興味が無かったので、楽観的に話すと、この件の話題は打ち切りとなり、統治官の執務室に居る幹部達は、再び山積みの仕事に没頭し始めたのだった。



 その後、ザッハー参謀長が艦隊司令部から統治官の執務室にやって来て、開口一番

 「総司令官、軍の監察が再び入る件、聞いていますか?」

と尋ねてきた。 

 「さっき、パルトネール准将から聞きました。 面倒ですね」

とリウが答えたことから、監察の件が再び話題となった。

 「今回は、どの部門を監察したいと言ってきているのですか? 3ヶ月前にも来ていますから」

 リウが確認すると、

 「駐留艦隊全般に関してのようです。 本国から遠く離れた方面軍が好き勝手に動かないように釘を刺すのが目的でしょう」

 参謀長がその様にオブラートに包んで話すと、

 「艦隊司令官が不遜な発言を繰り返しているからだよね~」

 「ジョン先輩は、フォーのこと嫌いだから、大きな声で文句言うから」

 「折角、参謀長が柔らかく話しをしても、全部台無しにするのが先輩の役目」

 リウは、そう話すと、笑いが止まらなくなってしまった。


 ひとしきり笑い終わると、

 「ごめんなさい、ザッハー少将。 先輩が今回の監察の件を聞いて、文句を言っている様子が目に浮かんでしまって......」

 「『あの野郎、前回の監察後に俺が直接抗議したから、嫌がらせで、また監察入れやがって......』と宣っているのでしょ?」

 「まあ、そんな感じですね。 重箱の隅を突っ突くのが監察の仕事で、受ける方は文句を言うのが仕事ですから」

 ザッハー少将は苦笑いしながら答えた。


 「近いうちに退役も決まっているのに、そんなタイミングで監察対応が入ってしまって申し訳ありません。 参謀長は予定通り退役前の休暇を取って下さい。 今回はレイとアイザール少将に、参謀長の代わりで対応をさせますから」

 リウがそう話すと、レイとアイザール少将が一瞬嫌な顔をしたのをリウは見逃さず、

 「2人の分、私が仕事増やすから、お願いね」

 素敵な笑顔で総司令官にそう言われてしまったレイとアイザール少将は、それ以上何も言うことが出来なかった。


 「忙しいのは山々だけど、参謀長の送別会だけはやらないと」

 「参謀長、一週間後どうですか? その後は予定通り最後の休暇を取って下さい。 退役準備も沢山あるでしょうから」

 リウがそう言うと、

 「わかりました。 忙しいのに私事にまで気を遣って頂き、申し訳ありません」

と言いながら、ザッハー少将が承諾したので、

 「ディオ、ケイト、レイ。 皆さんも時間空けておいてね」

 「他の人には、私から連絡しておきますので」

 そういうことで、送別会の日取りが決まったのであった。



 一週間前、ノイエ軍統合参謀本部では、統一政府国家元首フォー・プロシードから

 『ネイト・アミュー方面軍への監察強化』

の指示があり、軍幹部が苦慮の表情をしていた。

 「また、監察入れろって言って来たのか?」

 統合参謀本部議長のヘムズ大将は、決裁文書を見ながら、不機嫌な表情で部下に確認する。

 「小官も、統一政府側の指示は越権行為だと思いますが...... そうは言っても無視するわけにもいきませんから......」

 「3ヶ月前に、監察したばかりだろ? その前は6か月前。 3ヶ月毎に監察をってことなのか?」

 副官の返事に、眉間にシワを寄せながら大将が話す。

 ヘムズ大将は内心、フォー・プロシードの越権行為について、

 『ルー中将が度々の監察に、抗議したということへの嫌がらせというだけでは無く、儂に退任しろという圧力でも有るのだろう。 軍トップの議長職に就いて、4年近く経っているからな』

と、その意図に気付いていた。

 監察を度々入れることについて、ダメだという理由も無いので、

 「どうしてもやるというのなら、プロシード派にやらせておけ。 将来の制服組トップ確実なルー中将の恨みは、彼等が負うべきだからな」

 大将はそう指示すると、渋々決裁文書の承諾をしたのであった。


 宇宙艦隊司令長官のタイラー大将も、ネイト・アミュー方面軍への監察実施要請を聞き、

 「また、フォー・プロシード国家元首から指示が有ったのか?」 

と副官に確認する。

 「今回は、方面軍の宇宙艦隊への監察要請だそうです」

との答えを聞き、

 「何? 宇宙艦隊だけに対する要請なのか?」 

 大将は再確認したところ、副官から、

 「そうです、閣下」

との返事に、

 『度々監察を入れろと言ってきているのは、ルー中将やヘムズ大将だけじゃ無く、私に対する嫌がらせでも有るのだな』

 内心そう考えた。


 すると大将は、

 『指示は方面軍ばかりで、統治部門に対するものは無いような気がするな』

と、ふと疑問に思ったので、

 「ネイト・アミューの統治部門や統治官リウ・アーゼル中将への監察や監査は、年一回しか入っていないよな?」 

と副官に確認した。

 その質問に副官は、少し調べてから、

 「司令長官のおっしゃる通りですね。 過去3年間、統治官や統治部門への監察は通常の年一回だけです」


 その回答を聞くと、大将は、

 「方面軍だけ、3年間で十数回の監察を実施しているのか。 やはりこれは単純に軍中央への圧力なのだな」

と、思わず内心に収めておくべき述懐を、副官に零してしまったのであった。 



 その頃ジャン・フォー・プロシードは、ノイエ軍のプロシード派の准将5人を超高級料亭レストランに呼んでいた。

 「おお、我等が同期生達よ」

 5人が到着すると、先に到着していたフォーが、玄関から出てきて、大袈裟に迎えていた。

 「国家元首殿自ら出迎えて頂き、恐悦至極に存じ上げます」

 5人は、

 『国家元首殿を待たせてはイケない』

と早目に到着したのであるが、それよりも早くフォーが到着していたことで、非常に恐縮していた。

 「さあさあ、中に入って久々の再会を祝おう」

 フォーが5人に対して、親しげに声を掛ける。


 そして、宴が始まると、フォーは上機嫌であった。

 「同期の5人が順調に出世街道を走っていて、僕は気分が良いよ」

 「ありがとうございます。 これも国家元首殿のお蔭であります」

 5人は声を揃えて、感謝の意を伝える。

 「ただ、喜んでばかりも居られないけどね」

 フォーはそう言うと、厳しい目付きに一変した。

 察した5人は、

 「帝国テラとの戦いが全く無いので、少将への昇任がやや遅れてしまっており、申し訳ありません」

 「ほ~。 戦さが有ったら、既に少将になっていたと?」

 「さようです、閣下」

 「それは、ちょっと違うと思うよ。 戦さが有ったら、君達は少将になったとしても、アーゼルとルーが大将になってしまっているだろうね」

 「......」

 「僕が機嫌が良いのは、戦さが無かったのが、僕の予想通りだったからだよ」

 「だから、ルーもアーゼルも昇任出来ていないだろ? そして今後数年間も、やはり戦いは無いだろうから、ルーもアーゼルもずっと中将のままだ」

 「3年以上前に、僕は君達に言ったよね? あの2人は新領土を手に入れたら、中央に戻れず、ずっと新領地の維持に手一杯の状態で、他には何も出来なくなるって」

 「だからあの時、君達は中央に居る老いぼれを早く追い出すように努力しなさいって進言したはずだよ。 でも、その努力が足りないようだから、今日、この様な宴を開いて、改めて叱咤激励をしたいのさ」

 黙ったままの准将5人。

 「議長と司令長官を3ヶ月以内に、退役表明へ追い込む様に努力して欲しいねえ~。 それが当面の君達の仕事だよ」

 フォーはそう言うと、高々とグラスを掲げ、同期5人もそれに従うのであった。


 その後、フォーとの情報交換が始まった、今宵の宴。

 「改めて、今回も監査を入れますが、効果が有るのでしょうか?」

 「それは、もう面倒だって言いたいのかな?」

 「いえ、そうでは有りませんが、パルトネールやアイザールが完璧に対策をとって来るので、幾ら重箱の隅を突っついても、何も出ていないものですから......」

 「君達は、重箱の隅を突っついて、何か不祥事や不手際を見付けようとしているのですか?」

 「はい、仰っしゃる通りですが......」

 「もっと、大局を見てくれ給えよ。 ルーやアーゼルを現在の地位から追い出してしまえば、新領地は他国のものになってしまう。 それは困るだろ?」

 「はい。 それではどうして......」

 「監察や監査って実務者が大変なんだよ。 司令官にとっては、当日だけ。 面倒なのは」

 「はい、その通りですが......」

 「新領土の実務者の主だったところは、ザッハー少将、アイザール少将、アーサ少将、パルトネール准将かな?」

 「ザッハーは間もなく退役だ。 アイザールも同じ財閥系だよな?」

 「そうです。 はい」

 「もういい加減、財閥に戻らなければならない年齢なのだよ、彼は。 だから、過重な仕事をさせて、早く戻らせようってこと」

 「そうだったのですか......」

 「それに吉報だよ。 彼はあと1年で退役するらしい。 さる筋から聞いたところ、それで決まりだそうだ」

 「最も実務能力のあるパルトネールは、実は重病を抱えている。 これは彼女がまだ若い頃、軍艦の事故に巻き込まれて、大量の放射線を浴びた後遺症でね。 これは極秘扱いで、僕がかつて後方司令官代理だったから知っている情報だ」

 「......」

 「彼女は生きられてもあと数年。 体調は悪化の一途の筈。 だから、過重な仕事を与え続けて、死期を少し早めてあげようってことなのかもね。 人の不幸は蜜の味っていうだろ?」

 そう話しながらフォーは、やや不気味な笑顔を見せる。

 それを見た5人は、薄気味悪い表情をするのであった。


 「高級軍人が退役すれば、その分ポストが空いて、プロシード派の高級軍人が増えるってこと」

 「新領土も一緒。 アーゼル派が退役すれば、補填の為に中央に居る高級軍人を異動させるから、軍中央のポジションが空く。 そこを我等の仲間でどんどん埋めていくのだよ」

 「だから、早く議長と司令長官を追い出せって言っているんだ。 そうすれば、今の中将連中を代理付けで後釜に任命して、数年後には軍から追い出せる。 そうすれば、プロシード派の天下到来さ」

 「僕の国家元首の任期もあと少し。 それまでにケリを付けるのだぞ、絶対に」

 「はい」

 その返事を聞いたフォーは嬉しそうに、グラスの酒を飲み干すのであった。


 ノイエ国の最高権力者を目指す為、軍中央をプロシード派で埋め尽くす野望を持つフォー。

 それを知らないリウやルー中将。

 この3年間で、軍中央の佐官級中堅幹部は、プロシード派の息が掛かった者で埋め尽くされており、派閥に属して居ない者にとっては、徐々に居心地の悪い状況となっていたのであった......


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