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第6話(秘密の暴露)

名将リョウ・シヴァに、リウ・プロクターはリュウ・アーゼルだと見抜かれてしまった......

それに対するリュウ・アーゼルの決断は......


 西上国の丞相リョウ・シヴァとノイエ国の特使リュウ・アーゼルとの1回目の会談から2週間後、2回目の会談が実施された。


 今回は、対帝國の軍備増強に関するもので、

  西上国が新整備する2個艦隊の発注に関する事前協議

であった。


 シヴァ丞相は、リュウとの交渉で、

 「リュウ殿、アーゼル財閥では1個艦隊500隻を一括発注したら、引き渡し迄に何年掛かる?」

 「3年は見ていただかないと」

 「やはり、それぐらいは掛かるか〜」

 「価格的には、纏め発注でどれぐらい迄割引出来るのか?

 「15%引き迄ですね。 これ以上は引けません。 丞相閣下への特別割引です」

 「......」

 「......」

 暫く沈黙が続いてから、

 「リュウ殿、もう一声」

 「これ以上は値引けません。 総帥に怒られてしまいますわ」


 このようなやり取りが幾つか続いた後、シヴァは、

 「いやあ、結構厳しいなあ、予算的に......」

と側近が計算した数字をみながら、渋い表情をしていた。


 そこで、リュウは、

 「増設する2個艦隊が国力的に過剰ならば、最終的に同盟2カ国に売却する予定で、長期的に予算を組まれてはどうですか?」

と提案した。

 シヴァは、

 「それは、どういうことです?」

と質問するとリュウは、

 「いずれあるだろう、帝國軍の大遠征で、アルテミス王国とノイエ国の艦隊は、どういう奇策や天才的な提督が出現しても、一度は敗れて保有艦隊は半減するでしょう」

 「そこから、焦土作戦で抵抗して、頃合いを見て反撃に出て帝國軍を追い払う。 こういう流れになるのだと考えられます」

 「帝國軍を追い払うことが出来ても、両国の艦隊は数が少なくなり過ぎて、新戦力が早急に必要となるのは確実」

 「その時、丞相閣下が2国に、今回新設する2個艦隊分の旧型中古艦艇を売却すればよろしいのでは?」

 「同盟2カ国が完敗したときは、予算オーバーのことなど、無関係になるのですから......」

 共和国陣営の戦力減少迄をも予測した計画で、戦力増強を進めるべきだと提言したのである。


 それを聞いてシヴァは、内心

  リュウ殿は対帝國戦の戦略をしっかり持っているようだ

  やはり彼女がリウ・プロクターなる人物なのだろう

と改めて確信しながら、

 「リュウ殿は、随分先のことまで予測されているみたいですが、確かにそうなる可能性が高いでしょう」

 「予め、少し余剰に建艦しておいて、戦力を消耗した時の予備戦力という考えで、予算を組みましょう。 中古艦として売却して資金が一部戻ってくるのならば、何とかやりくり出来そうだ」

と話し、リュウの考えに同意したのだった。


 建艦計画以外でも、補給物資の長期的な調達等、大規模な対帝國戦に向けた各種必要事項について、今回の会談で事前協議を実施し、アーゼル財閥へのシヴァ丞相側からの要望を確認することが出来た。



 ひと通り話が終わってからシヴァは、

 「次回の会談迄に、当国としては、一番時間が必要な軍艦の新規建艦計画について、一部発注出来るよう、手続きを進めておきましょう。 艦隊は一朝一夕で整えられるものではありませんから」

と会談の総括をしてから、

 「少し、2人だけでの話があるから、ドアの外で待っていなさい」

と言って人払いを指示し、側近を一旦退席させた。


 「ここからは、私の独り言です」

 「今度、例の候補生であるリウ・プロクター殿が私への挨拶という形で、来られると聞いています」

 「はい」

 「私としては、その時来られるリウ殿が、リュウ・アーゼル殿、あなた自身だと思っております」

 「............」

 「そして敢えて別人格としているのには、何か大きな訳があるのだと推察しているのです」

 「............」

 「その理由まで説明する必要は、現時点ではありません」

 「人それぞれ、大きな秘密を一つ位抱えているのが当たり前ですから......」

 「ただ私としては、リュウ殿のあの自然と溢れてしまった涙を信頼して、今後も出来るだけ協力していければと考えています」

 「そして最終的に、帝國の大遠征軍を打破し、共和国陣営に安寧の日が訪れる。 そういう未来を一緒に迎えられたらと思うのです」

と述べてから、リュウの顔を直視した。

  焦げ茶色のショートヘアーとブラウンの瞳......

をじっと見つめて、その顔を記憶しておこうという雰囲気で......


 リュウは、丞相の独り言には何も答えず、

 「それでは、次回の会談迄に、今回打ち合わせた内容について、アーゼル財閥総帥の許可などを取って参ります」

と言って立ち上がり、丞相に深々と礼をした。

 丞相が側近を呼び戻し、次回の会談日を決めて、今回の会談は終了となった。

 そして去り際に、

 「丞相閣下とリウ・プロクターの顔合わせ、楽しみにしております」

と丞相に向かって述べ、丞相の独り言に対する何らかの回答をするだろうと仄めかしてから、丞相府をあとにした。



 リュウは、長期滞在中のアーゼル財閥所有のホテルに戻る帰路で、

  あの涙で、丞相にバレてしまったようね

  自然と出てしまったから仕方ないけど......

  さて、どうしようかな?

と考えながら、一つの決断を下したのであった。



 一週間後、リウ・プロクターは丞相府を訪問した。

 既に、リュウとして来たことがあるのだが、今回が始めてという風を出しながら......

 シヴァは、前回発した独り言の回答があるだろうと判断し、敢えて丞相の執務室を今回の顔合わせ場所にした。

 丞相室ならば、貴賓室以上のセキュリティー対策が為されており、中での会話が漏れる可能性は無い。


 丞相室で待っていると、側近に続けて若い人物が入室してきた。

  この人がリウ・プロクターか

と、少し感慨深い感じを持ちながら、シヴァはじっと観察してみた。

  焦げ茶色の髪に深いエメラルドグリーン色の瞳

  身長は180センチ弱といったところかな?

  雰囲気や背格好はリュウ殿とほぼ一緒だな

  顔もリュウ殿そっくりだ

と、どう見てもリュウ・アーゼルが少し男っぽい格好で、そのまま別人を名乗ってやって来たようにしか見えなかった。

  これがリュウ殿の回答なのか?

と、少し戸惑っていると、

 「リウ・プロクターです。 丞相閣下どうぞお見知り置きを」

と挨拶してきた。

 シヴァは、

 「初めてお目にかかる。 リョウ・シヴァだ。 こちらこそよろしく」

と型通りの挨拶をし、和やかな雰囲気で顔合わせは進んだ。


 丞相は多忙な為、今回の顔合わせは元々短時間の予定であり、そろそろ終了時間が差し迫った頃、リウは丞相の方を、何か訴えかける目でジーッと見つめた。

 シヴァはそれに気付き、

 「少し2人きりで話す必要があるので、席を外してくれないか」

と側近達に部屋の外に出るよう指示した。

 側近達は、

  初対面なのに?

と少し驚いた顔をしたが、

  丞相のことだから、何かお考えがあるのだろう

と、素直に指示に従った。


 側近達が席を外してから、リウはあっさりと、

 「これが、先日の丞相の独り言に対する回答です」

と言い、リュウとリウが同一人物であるという秘密を言葉で明かしたのだった。

 「今回は敢えて、ほぼリュウのままで来てみました」

 「既に、丞相閣下に同一人物だと見抜かれている以上、逆に信頼の証として、全てを包み隠さずお示しした方が良いと判断したのです」

と理由も述べた。


 「丞相、時間は大丈夫ですか?」

と、リウの気遣った言葉に、シヴァは、

 「時間は押すものと相場は決まっています。 遠慮なく続けて下さい」

と丁寧な物言いに喋り方を変えて、話の続きを待った。


 「私は、財閥の総帥であるお祖父様に男として厳しく育てられました。」

 「お祖父様は、娘が一人しかおらず、その娘も私しか産めませんでしたから、男の跡継ぎを得られなかった失望で、そのような行動に出たのでしょう。」

 「だから私は、自分の体に変化が出てくる10歳頃迄、自分自身男だと思っていたのです」

 「ですから、私はかなり男っぽい性格で、立ち居振る舞いもほぼ男です」

と言いながら、素敵な笑顔で自然と苦笑いをしてしまったようだった。


 「私の国は、比較的リベラルな国ですが、やはり跡継ぎは男の方が好まれます」

 「ですから、政財界や軍部も男社会というのが現実です」

 「そういう状況ですから、お祖父様が男として育てたかった気持ちもよくわかります」

 「そのような環境で育った私は、帝國軍を防ぐ大業を果たすまで、今のスタイルを貫き通そうと思っております。 その方が自然と振る舞うことが出来ますし、男尊女卑というガラスの壁を意識せずに済みますから......」

 「財閥の関係で動く時は、リュウ・アーゼルで。 それ以外はリウ・プロクターとして」

 「いつか、全てを明かさなければならなくなる時まで......そうしたいと考えています」


 そこで、リウ=リュウは姿勢を正して話を続けた。

 「丞相閣下にお願いがあります」

 「世間にバレてしまう、若しくはこちらから明かす状況になるまで、このことは丞相と私の間の秘密としておいて頂きたいのです」

 「他にも数名の者が、この事実を知っておりますが、今のところ、秘密にして頂いております」

とお願いを申し出た。


 それに対し、シヴァは、

 「概ね推測出来ていたこととは言え、正式に秘密を明かして頂き、感謝に耐えません」

 「今回のことに関してリョウ・シヴァは、リュウ殿が自ら明かさない限り、他言せぬことを、ここでお誓い申し上げましょう」

 「また、当国で諜報部員としての訓練を受けたいという理由についても、よく理解できました」

 「当国の諜報部員は、男が女に化け、女が男に化け、神出鬼没、人類社会のあらゆる場所で活動する特殊技術を有し、また厳しい訓練を受けております。 それを修得したいということなのですね」

 「今後のリュウ殿の活動の為にも、是非その技術を修得して下さい」

と言い、今後も緊密な協力関係を築いていくことを約束したのであった。


 その後、側近を呼び戻し、リウは

 「本日は多忙の中、このような機会を作るために貴重な時間を割いていただきありがとうございました」

と丁寧な挨拶をして、側近に連れられて丞相室をあとにしたのだった。




 シヴァは、リュウから秘密を教えて貰ったことについて、

  何だか少し申し訳ないことになってしまったな

と思わないでもない。

 大半の人々は、他人に言えない秘密の一つや二つあるのは当たり前だからである。

 だから、シヴァは

  次に会ったときには、こちらが抱いた懸念について少し説明しよう

と思ったのだった。 



 暫くして、リウ・プロクターが、シヴァ国諜報部員育成の秘密学校に入校したと側近から報告があった。

 その為、リュウとの三度目の打ち合わせは、その学校が休みの日に設定し直すことにした。




 二度目の会談から約1か月半後、丞相シヴァとアーゼル財閥の特使リュウ・アーゼルとの三度目の会談が行われた。

 2個艦隊を増強する件のうち、アーゼル財閥への発注分は1個艦隊。

 その第一弾200隻余りについて、この日正式に契約が結ばれた。

 契約書を交わして、両者のサインが為された後、少し雑談をすることとなった。



 会談場所の丞相府貴賓室から、丞相の執務室に移動し、丞相の勧めでソファーに腰掛けたリュウに対し、シヴァは自分の執務デスクに座ってから話しを始めた。

 側近が居るので、話全体を少しオブラートに包みながら。

 「実は、最初の会談の後、少し懸念があったのです」

 「それは、名将育成計画についてです」

 「万が一、育成した者が、テラ帝國の大帝の再来となってしまっては困るという」


 それを聞いたリュウは、

 「そうですね。 育成計画が上手くいって、その者が本当に優れた名将になったものの、大きな野心を抱いて、新帝國みたいなものを作ってしまっては、元も子もありませんからね」

 ここで側近が、ティーを淹れて持ってきてくれたので、リュウは、

 「ありがとうございます」

と笑顔でひと言。

 側近の女性は感激気味で、恥ずかしそうに会釈して控えの間に移動してゆく......


 シヴァは、その様子を見て

  挨拶一つであれ程感激されて......

  美女の特権だなあ~

  こういうのも名将になる一つの特別な要素かもな

という感想を持ちながら、話に戻る。


 「そういう懸念を持ってしまい......」

 「ただ、リュウ殿であれば、あの落涙を見てからそういう懸念は不要だと感じたので、念押しみたいなことをしてしまい、申し訳なかったと思っています」

と先日のリウとの顔合わせの際の出来事について、少し弁解をしたのであった。


 リュウは、それに対し、

 「丞相閣下、何も気にする必要はございません」

 「私の方としても、共和国陣営イチの政治家・名将であらせられる、リョウ・シヴァ閣下に対して、2人の人物を演じ続けることは非常に失礼なことかもしれないと当初から考えていたので、ああいう形でキチンと話しを出来て良かったと感じております」

と、本心を語った。


 シヴァは、

 「そう言って貰えると、少し心にひっかかっていたモノが取れて楽になりました」

と言い、ホッとした表情となった。


 「そうそう、もう一つ尋ねたいことがあったのですが」

とシヴァがリュウに質問をした。

 「瞳の色、どっちが本当の色なのですか?」

と。

 それに対し、リュウは、

 「閣下は、どちらだと思いますか?」

とイタズラ顔で質問返ししてきたので、

 「エメラルドグリーン色でしょうか? 極めて珍しい色ですから」

と答えると、リュウは、

 「正解です」

と言い、目元を触ってサッと自分の瞳の色を変えて見せた。

 「これは、不老装置の副作用で偶然色が変わってしまったものでして、元々は茶色だったのです。 だからどっちも本当の色だと言えなくもないです」

 「あっ、また秘密を言わされてしまいました」

 「丞相閣下の話術には気をつけなくちゃ」

と笑いながら、そろそろお暇すると申し出て、双方挨拶をした後、リュウは丞相府をあとにした。




 その後暫く、両者が面会することは無かった。

 リュウは、リウとして、訓練が本格化して首都星アイテールを離れていたし、丞相も政治家として議会との折衝や、国民の暮らしをより安定に、より豊かにする為の施策の実現などで忙しかったからである。


 リウは、訓練の総仕上げとして、西上国の諜報部が仕掛けた帝國のとある星系への諜報活動に従事した。

 一時期は、この星系が帝國への従属から離脱する方向へ動き始め、成功しかけた諜報活動であったが、最後には従属から離脱後の権力争いが発生してしまい、最終的に失敗に終わっってしまった。

 人々の権力欲というものに対する執着心への認識が甘かった為、失敗したのだが、人生初の大失敗でリウには貴重な経験となったものの、失意のまま首都星アイテールに戻ってきたのであった。




 1年間の訓練期間が終わり、二十歳となったリウ(リュウ・アーゼル)は、一旦アルテミス王国へと帰還した。

 丞相リョウ・シヴァとの4回目の会談に備える準備の為の一時期な帰還である。


 惑星アルテミスにあるアーゼル財閥の本店では、西上国との極めて大きな商談に備えて、財閥総帥ラーナベルト・アーゼルも出席する程の大きな会議が開かれた。

 「今回の商談は、当社としても、今後より大きな飛躍を狙える程の大きな商談である。 当社が比較的弱かった西上国での巨大なビジネスチャンス、絶対に成功させなければならない」

 「既に、リュウ・アーゼルの極めて大きな功績で、今回の巨大な商談への道は開かれており、あとは相手を満足させられるだけの品質・性能を持った各種商品や艦艇を期日通り納品出来るかどうかに掛かっている」

 「幹部社員から末端社員迄、一丸となって取り組み、絶対に成功させよう。 成功した暁には特別ボーナスをたっぷり出すからな」

と総帥は挨拶し、その後実務的な会議が続いた。



 会議終了後、リュウ・アーゼルは、役員達の称賛の挨拶を次々と受け、おべっかや胡麻擂りにだいぶ気疲れしてしまった後、ひとまず本店内の待機室として使っている部屋に戻った。


 暫くすると、アルテミス王国で唯一と言える親友の同級生

  エミーナ・シュンゲン

から連絡が来た。

 「リュウ、お久しぶり。 相変わらず美しいわね」

 「エミーナ、本当に久しぶり。 お世辞は要らないよ」

と軽いジャブ程度の挨拶を交わす。

 エミーナは、リュウが知っている範囲で唯一の、不老装置を体に埋め込んでいる女性である。

 アルテミス王国の星系間輸送企業「ASJ社」の御令嬢であり、リュウとリウが同一人物だと知っているアルテミス王国に於ける唯一の民間人でもある。

 だから、エミーナと会話する時は、リウとしての普段の口調で話している。


 「リュウ、最近西上国のシヴァ丞相と商談をしているんでしょ?」

と尋ねられたので、

 「そうだよ。 ニュースで知ったの?」

と情勢源を確認する。

 「そうなの。リュウは映像には絶対に映らないでしょ? だから、分かったの」

と、普段からリュウが、警戒の為に撮影を妨害する装置を身に付けていることから、ニュースの映像でシヴァ丞相と謎の人物が商談していたことに気付いたらしい。

 「そこで、リュウにお願いがあるの」

 「なーに?僕に出来ることなら、内容次第で考えるよ」

 「直接会って、お願いしてもイイ? モニター越しじゃ悪いから」

と何か少し言いづらそうなので、

 「いいよ。 この後約束も無いし」

とリュウは言い、直ぐ会う約束をした。



 1時間後。

 ASJ社本社ビル内の特別ラウンジを訪れたリュウ。

 エミーナは先に席を確保して待っており、手招きして呼び寄せる。

 リュウの姿に気づいたラウンジ内の人々は、一応に少し驚きと羨望の眼差しで、その姿を目で追っている。


 エミーナはその様子を見て、

 「リュウ、相変わらず、みんなの注目を浴びているわね」

と少し誂い気味に話を始める。

 「あんまりジロジロ見られるの、好きじゃないんだよな~」

と、いつもの男っぽいリウの口調で話すリュウ。

 特別ラウンジ内の各席での会話は、周囲には聴こえないシステムが導入されているので、本来のちょっとズボラな男口調で話しても大丈夫なのだ。

 「ところで、お願いって?」

と、早速本題に入るリュウ。

 「その前に一つ聞くけど、リュウ、シヴァ丞相に恋愛感情とかは無いよね?」

という確認の質問に、かなりびっくりしたリュウ。

 「えー。 全く無い」

と即全否定。


 エミーナは、その即答ぶりに少し不満そうだが、

 「あのね~、私、シヴァ丞相の大ファンなの」

 予想もしなかった発言に、目が点になるリュウの姿は、今後二度と見ることができないだろうという位の表情だった。


 「リョウ・シヴァの為になら、死ねます、私」

とエミーナは恥ずかしそうに、しかしきっぱりと言い切る。

 「ということは、僕に2人のキューピッドになれっていうことが、お願い事なんだね?」

 「シヴァ丞相、中身は非凡だけど、見た目は只のオッサン、いやオジサンだよ。 25歳も年上だけど、それでも良いの?」

と重ねて確認するリュウ。

 確かにシヴァは独身だけど、本当にごく普通の黒髪黒色瞳・中肉中背の男。

 年齢よりは少し若く見える童顔な人だけど、若い女性の恋愛対象になるような感じは無いのだが......


 それに対してエミーナは、不老装置を埋め込む程の美貌を有するリュウから見てもカワイイ女性。


 そもそも不老装置を埋め込む人の大半は、外見の良い人が多いのは自明のことわり

 平均寿命が120歳の時代に、その半分の寿命でも構わない、若さを維持したいという金持ちが、究極の選択として決断して受ける手術なのだから......


 「また商談で会うんでしょ?」

と尋ねられたので、

 「来週ね」

と答えたリュウ。

 その答えに、そわそわしだしたエミーナは、

 「じゃあ、その時に私のプロフィール持って行って丞相閣下に渡して。 直ぐ準備するから」

と言い出した。

 リュウは、困った顔をして

 「そんなに急がなくても......」

と、

 『よく考えたら?』

と再考を促すも、

 「短い人生なんだから、後悔したく無いの。 お願い〜」

とエミーナからの重ねての懇願に、

 「分かった、分かった、ダメ元でやってみるよ」

と折れて、話をしてみる約束を渋々承諾したのだった......


 その後は、1時間程雑談をして別れたが、

  『いやあ参った

  どうやって丞相にエミーナの件を切り出そうか?』

と、いつも颯爽として自然体のリュウらしくもなく、悶々としてしまうのだった。




 翌週リュウは、いつも通り単身で、リョウ・シヴァ丞相の元を訪問した。

 丞相府の貴賓室において、丞相配下の担当属僚が代わる代わる参加する形で、

  今後10年更新での軍需物資調達契約

  残り300隻の軍艦建造契約

  民需物資の調達・供給契約

という巨額の商談を一人で纏め上げ、4日間を掛けて、丞相代理のヒエン国務長官との間で、全ての調印が完結したのであった。


 シヴァ丞相はリュウに対し労をねぎらい、

 「今回の巨額の商談を一人で纏め上げるとは、本当にスゴイですね」

 「当国の属僚共も、貴方は外見だけでは無く、中身も極めて非凡だと舌を巻いていましたよ。 ちょっと失礼な言い方かもしれませんが」

と褒め称える言葉を述べたのだった。

 リュウは、それに対して、

 「リウ・プロクターの訓練に関して、お礼を申し上げるのが遅れてしまいました。 この場を借りて厚く御礼申し上げます」

 「今回の商談についても、色々と骨を折って頂き、ありがとうございました。 アーゼル財閥総帥ラーナベルトに代わって御礼申し上げます」

と感謝の意を述べた。


 その後、珍しく何か言いにくそうな様子のリュウに気付いたシヴァは、

 「丞相室にて、続きはお話しましょうか?」

と気を遣ってくれたので、リュウは、

 「それでお願い致します」

と賛意を示した。


 丞相室に移動後、側近達が客人を迎えて慌ただしく動いているのを横目に見ながら、ソファーに腰掛けたリュウは、一息深呼吸してから、シヴァに対して、

 「今回、丞相閣下にお土産みたいなものをお持ちしました」

と言ったところ、丞相は

 「お土産みたいな?」

と怪訝そうな顔をしたので、リュウは小さな映像レコーダーを取り出し、

 「こちらです。 私の親友からの贈り物で......」

 「本当に失礼なことだと思いますが、親友の一途な気持ちも無視できず......見て頂けたらと思います......」

と珍しく歯切れの悪い言い方をするリュウに、シヴァは

 『こんなリュウ殿は珍しいなあ』

と思いながら、自席で映像を見始めた。

 暫く映像を見ていたシヴァは、ちょっと顔を赤らめた様子だったが、リュウも気が気でなく、その様子を見つめていた。


 ひと通り見終わったシヴァに対してリュウは、

 「丞相閣下、如何致しましょうか?」

と、感想と結論を求めた。

 それに対し、シヴァは、歯切れの悪い言い方で、

 「リュウ殿、これは......どうすればよろしいか?」

と、逆に質問する始末。

 その様子を見たリュウは、

 「エミーナ・シュンゲンは、変な下心や権力欲を持っているような子ではありません。 純粋な気持ちからなのだと思います」

とリュウ自身が感じている彼女の人物像を紹介し、

 「一朝一夕に答えを出せるものでも無いでしょう。 私が帰国する前迄に方針を示して頂ければ、次回本人を連れてきます」

 「私は間もなく、ノイエ国軍の士官学校に入校するので、実際に彼女と逢われるチャンスは、次回が最初で最後になるかもしれません」

と早目の決断をシヴァに求めるのだった。

 それに対し、シヴァは、

 「わかりました......早目にどうするか......決断します」

と答え、この人には珍しく、歯切れの悪いままであった。



 リュウは、財閥運営のホテルに戻り、珍しく直ぐ寝てしまった。

 それぐらい、今回の最大のミッションに緊張していたのだろう。


 首都星アイテールでの滞在は、残り三日間だったが、

  その間に返答来るかな?

  アルテミス王国に戻っている時でも構わないと言っておくべくだったかな?

と丞相に少し答えを求めるのが早過ぎたかなと、慣れないキューピッド役に少し困惑しているリュウだったが、睡眠で疲れを一掃すると、翌朝にはいつも通りの快活ぶりに戻っていた。




 首都星アイテール滞在最終日、この日は数ヶ月前、アーゼル財閥に西上国が発注した艦艇のうち、完成した戦艦の引き渡し式が行われた。

 丞相シヴァも、リュウ・アーゼルも出席した式典は、盛大に行われ、無事引き渡しが終了した。

 式典が終わり、会場を離れる準備をしていたリュウに、丞相シヴァが近寄ってきた。

 「リュウ殿」

と声を掛けられたので、振り向いて姿勢を正してから、

 「これは、丞相閣下。 盛大な式典ご苦労さまでした」

と丁寧に挨拶をすると、シヴァは

 「リュウ殿も、遠路はるばるお疲れ様でした」

と挨拶を返すと、

 「次回はいつ来られるのか?」

と尋ねられたので、

 「1か月後位に来ようと思っています」

と返事をした。


 丞相は、側近の者や属僚も周囲に居るので、何か話しにくそうな様子だったが、

 「先日の件ですが、相手方の都合が良ければ、次回御同道してきてくれないだろうか?」

と、周囲の者が聴いてもなんの話かよくわからない言い方をしたが、リュウには十分理解出来た。

 そこで、

 「わかりました。 楽しみに待っていてくださいね」

と笑顔で答え、その場で丞相と別れ、即日惑星アイテールを離れて、アルテミス星系に戻って行ったのであった。


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