第53話(国家元首選挙)
統一政府国家元首選挙が始まった。
選挙が終われば出征となるが、その結果は......
ノイエ・アルテミス連合政府の初代国家元首を決める選挙戦が始まった。
これが終わると、いよいよ帝國領奪取作戦も始まる、大事な選挙だ。
立候補したのは、
アルテミス王国政府首相 ウィリアム・リイトン63歳
ノイエ軍退役少将 ジャン・フォー・プロシード29歳
の2名である。
既に事前の調査では、プロシード少将が優勢である。
大戦後の新しい時代の第一歩となる大事な選挙。
だから、リウは自身との関係の差が、世論に影響を与えることを嫌がったのだ。
しかしプロシード陣営は、アルテミス王国内で、リウ・アーゼル少将とフォーとの友好関係を示す映像を前面に出して攻勢を掛けており、大きなリードをつけていた。
「選挙戦が始まったなあ」
ルー少将が、リウに問いかける。
「リウは白紙投票だろう?」
「先輩は、リイトン首相に投票するんでしょ? フォー嫌いだから」
「そうかも」
「アイツも、口を開かなければ、悪い奴じゃなさそうだけどな」
「それは、ちょっと可哀想な言い方だよね」
レイが、プロシード一派について、
「私は、プロシード退役少将の士官学校同期生の動きが気になりますね」
「出世頭のプロシード氏が軍から居なくなって、勢力が弱体化するのかと思っていたのですが、逆に徐々に勢力を拡大させています。 国家元首の権力が、軍の人事権へ介入することを期待して」
「一番気になるのは、人物的にイマイチな人、簡単に言えば『小者・小人物』が多いことと、我々を相当ライバル視していることですね」
ルー少将が、
「我々というと?」
「アーゼル少将、ルー少将と私。 更にコーダイ准将、アイザール准将の5人を中心とする、第三・第四艦隊の実戦指揮官ですね」
「背後に、アルテミス王国軍のルーナ大将が居ると彼等は見ているので、現在のところ、直接嫌がらせするようなことは無いでしょうが......」
「連中、凄い見立てだなあ~。 俺はルーナ大将と面識ゼロだぞ」
「統一政府の権力は強く無いのですが、ノイエ軍に対してだけは、相当な権力を持ちますから。 フォー・プロシード国家元首となれば」
「特にリウ様が、女性だと連中に知れた時に、今迄と態度を一変させて、追い落としに出てくる可能性が高いとみています。 男尊女卑的な考えを持っている連中ですから」
プロシード一派は、派閥に所属する女性士官ほぼゼロと極端な構成となっており、軍の一部若手強硬派や国内超保守層の支持を得ていることを如実に示していた。
「嫌だな~。 だから私、フォー苦手なんだよね。 フォー自身はそこまで超保守思想の人物じゃないと思うけど、偏った考えの人達の勢力が強いと見たから、そういう主張をしているのでしょ?」
「でも、リベラルなアルテミス王国だと、受けの悪い思想だから、それを隠す為に私と幼馴染だという事実を利用しているんだよね」
リウは、かなり不満気な顔をするのであった。
「警戒はしておくべきですよ。 小者も集まれば大きな勢力となり、小者だからこそ、軍内の身内をより強く敵視するようになるのですから......」
レイは、小者だからと軽視しがちになる風潮を戒めるのであった。
選挙戦は、本来1か月であるのだが、今回は第一回ということで、2週間に短縮されていた。
なるべく早く国家元首を決めて、政治的な空白期間を少なくしたいということであった。
選挙戦に入る前から、結果はほぼ決まっており、盛り上がりに欠けるものとなっていた。
統一政府の国家元首自体が、軍と外交以外の権力が無く、現状では名誉職に過ぎず、まだ若いフォー・プロシードの人生にとって、それ程重要なポジションであるとは考えられなかった。
それでもフォーが欲しかったのは、『初代統一政府国家元首』の肩書きだったのである。
それともう一つ。
ノイエ軍の人事権である。
軍は、国家内最大の武力集団であり、最終的にノイエ国大統領の座を目指しているフォーにとって、軍の人事権を自身の思い通りにすることは、極めて重要なものであった。
『統一政府の国家元首は、ノイエ軍の人事権を握れる』
軍のトップ、統合参謀本部議長になるには、リウやジョン・ルー少将という強力なライバルも居るので、まだ十年は掛かると予想されたが、統一政府国家元首になれば、同等の権力を直ぐ握れる。
この為、彼は29歳で退役し、勝負に出たのである。
「選挙情勢は?」
側近に尋ねるフォー。
「我々の得票は7割超となりそうです」
最新の情勢を確認し、
「まあまあだな。 意外と伸びていない気もするが」
「リベラルな市民が多いアルテミス王国で、候補がノイエ国内の超保守派と繋がっている部分の受けが悪く、伸び悩んでいるようです。 相手側はこの点を攻撃してきていますからね」
「リウ・アーゼルを相手側陣営と接触させるなよ。 絶対に」
この点だけフォーは厳しく指示を出す。
「先日の、アーゼル少将によるアルテミス王国への出張には驚きましたが、リイトン陣営との接触は無かったようです」
「首相の陣営も、もう少し情報網を広げていれば、リウと接触出来たかもしれないのにな」
フォーが不気味に笑う。
「ほぼ勝ちは決まりだが、最後まで気は緩めるな」
リウのもとには、リイトン陣営からの支援要請が届いていた。
しかし、イチ軍人が特定の候補を支援することは出来ないと、やんわり断りを入れた。
フォーがリウとの親しそうな映像を使っていることについても、
『退役式における映像であり、親しい訳でも、支持している訳でも無い』
と回答していた。
「これは、選挙でリイトン首相に投票するしかないかな」
リウは、陣営からの重ねての支援要請を見ながら、レイにふと漏らす。
「あれだけ、あの映像使われちゃうと、申し訳ないから」
レイは、
「それで、リウ様の気持ちが晴れるなら、そうすべきだと思います」
そのようにアドバイスするしか無かった。
リウは、投票日が近付くにつれ、元気の無い姿となっていたからである。
投票3日前。
フォー・プロシードを焦らせる映像をリイトン陣営が放映し始めた。
それは、大戦中、
『アルテミス軍事宇宙港で、リイトン首相と当時のリウ・アーゼル中佐が握手している様に見える映像』
であった。
『大戦中、国民を鼓舞する首相の姿。
戦場に赴く悲壮感漂う、アルテミス・ノイエ両艦隊。
軍事宇宙港で、将兵を鼓舞する首相の姿。
壮行激励会で首相と握手している様に見えるリウの姿。
当時のプロクター中佐を鼓舞する様にも見える首相』
この映像は、アルテミス王国の世論の雰囲気を一変させた。
フォーは、
「してやられた。 奴等はこの映像をずっと持っていたのに使わず、最後の切り札としていたのだ」
と悔しがり、 周囲に当たり散らす。
緊急の世論調査の結果、6対4に迄差が詰まってきていることが明らかとなった。
「何とか逃げ切るしかない」
フォーは陣営にハッパをかける。
追い上げる首相陣営。
逃げ切ろうと、若さを全面にアピールするプロシード陣営。
ルー少将は、首相陣営の新しい映像を見てリウに、
「あの壮行会の時、首相居たっけ?」
と確認するも、
「居たかなあ? 居なかったと思うけど......ハッキリと覚えてないよ」
リウはそう答えた。
「これで、リウを利用しようとした両陣営は痛み分け。 あとはベテラン政治家を選ぶか、未知の若さを選ぶか、両国国民の判断で決まるってことだな」
「リウも、少しは気分が落ち着いただろ?」
ルー少将はリウを気遣って、そのように言うのだった。
選挙は、結局ジャン・フォー・プロシードが約55%の票を得て、初代統一政府国家元首となることが決まった。
最終的には両国の人口の差、ノイエ国310億人対アルテミス王国260億人という部分が、勝敗を決めたとも言える。
翌日の夜、ジャン・フォー・プロシードは、約80人いる士官学校同期生の殆どを集めて祝勝会をしていた。
女性の同期生も約40人居るのだが、一人も呼ばれて居なかった。
「フォー、勝利おめでとう」
「最後は、ヒヤヒヤしたぞ」
「流石、我等のエース。 今後も頼りにしています」
次々浴びせられる賛辞の嵐。
フォーはご機嫌であった。
「しかし、最後に首相陣営が出してきた映像。 リウ・アーゼルは許せません」
という声も。
「おいおい、あの映像、諸君は本物だと思っているのか? そんな浅慮じゃ困るぞ」
フォーが一同にそう話したので、一様に驚いていた。
「あれは合成映像だよ。 先の大戦の時、リイトン首相はアルテミス星系を抜け出していた筈だぞ?」
「我軍が出征した時、僕も巡航艦艦長だったので行ったけれども、惑星アルテミスは空っぽだったじゃないか?」
フォーは、リイトン首相のあざとさを嘲笑した。
「合成映像だから、一発逆転を狙ってギリギリで出してきたのだろ? リウと握手している様に見える映像だったけど、あれは繋ぎ合わせただけで、実際には握手していない。 それがバレる前に投票日になるタイミングを狙っただけ。 本当に握手している映像持っていたのなら、最初から出しているさ」
実はリイトン首相、両国の艦隊がアルテミス星系で合流した時に、惑星アルテミスに居たのであったが、リウと握手はしておらず、確かに映像は巧みに作られた合成であった。
「そう言えば、間もなく出征するという噂がありますが......」
「諸君、それは公言しないでくれないか? 僕の国家元首就任祝いだよ。 リウ・アーゼルが僕の為に勝利をプレゼントしてくれるってさ」
フォーはご機嫌で話す。
「でも、今回勝てばアーゼル・ルーの両少将は、中将になってしまいます。 我等との差が広がってしまうので......」
「勝利すれば、僕にとって非常に大きな名声になる。 だから諸君、僕の為に祈ってくれよ。 リウが成功するように」
「君達はリウの一派を畏れているのだろ? それはわからないでもないが、彼等は今回勝てば、暫くクロノス星系に戻って来れないよ」
「5年、いや10年は軍中央に戻れない。 リウ・アーゼルとジョン・ルーは中将になるけど、その後十年間、ずっと中将止まりさ」
「リウ一同が帝國軍と対峙し、身動きが取れなくなっている間に、君達は僕の後押しを受けて、中央でどんどん出世する。 いや出世してもらわなければ困るよ」
「カール・スペンサー、ブルース・ハミルトン、ショウ・グエン、ヒロ・サトー、マイク・ストロングバー厶の5人の大佐は特に頑張ってくれよ。 僕が退役した今、プロシード派の出世頭はこの5人だからさ」
「敵を間違えるなよ。 リウ・アーゼルには使い道がある。 アイツのバックには西上国とアルテミス王国が居るからな」
「それよりも現在トップに君臨する2人の大将と、首都星系防衛の任務に就いている第一・第二艦隊司令官の2人の中将、参謀本部と宇宙艦隊に居る40代前半以下の10人の少将が、当面の我々の障害さ。 特に中将以上の4人を追い落とせば、プロシード派の天下が見えて来るよ」
「頼むぞ、僕の同期生達よ。 僕は統一政府国家元首なんてお飾り職を8年間やる気は無いからな。 一期目4年の間に軍の中枢を握ってくれよ」
フォーは、この様に話して、同期生にハッパをかけた。
「我等もフォー殿の期待に応えよう。 おーーー」
「4年間で、プロシード派が軍の実権を握るぞ~」
「フォー殿、期待して待ってて下さい」
フォーはその声に、嬉しそうに答えるのであった。
その後、フォーは同期の5人の大佐を呼んだ。
「さっきも言ったけど、ここに居る5人は4年間で少将にまで昇任してもらわなければならない。 結構大変だから頑張ってくれよ」
そのように、フォーは語り掛けた。
「リウ・アーゼルとジョン・ルーは中将、アーサとアイザール、コーダイは少将になる。 次の戦さに勝てばな」
「一旦、少し差は開くが、焦る必要は無い。 彼等はそのまま出征した領域に留まり、中央に戻ることは出来なくなる。 クロノス星系から遠く離れた地に居る彼等よりも、当面は同じ軍中央に居る少将以上の将官を追い抜くことだけ考えれば良いのだよ」
「中佐以下の同期や、今後我々のもとに集まって来る連中の力も借りて、先ずは軍中央に居る少将連中が昇任出来ないように足を引っ張ってやれ。 やり方は君達が中心になって考えるのだぞ。 誰しも秘密の1つや2つあるだろうからな」
フォーは不敵な笑みを浮かべ、軍中央の少将達の醜聞を集めるよう示唆したのだった。
フォーが他の席に移動してから、5人の大佐は今後の話を始めていた。
「4年間で少将か~。 結構厳しいよな?」
「准将と中将以上はスカスカだけど、少将は定員オーバーしているからな」
「先の大戦の影響で、デスクワークの准将が全員1階級昇任して、みんな少将だろ」
「戦艦の艦長だった大佐が戦死しすぎで、准将は極端な人数不足状態だから、そこまでは難しく無いけど......」
「カールとヒロは、情報部だろ? 少将連中の足を引っ張れるような情報を、それとなく集めておいてくれよ」
「少将一番乗りは、ブルースとマイクに掛かっているな。 2人はいま参謀本部所属だし、士官学校5位卒業と6位卒業だから。 頑張ってくれよ」
「おいおい、押し付けるなよ~。 ショウだって宇宙艦隊だから、可能性高いじゃないのか? 第五艦隊だって新設されるから、ポジション増えるだろ? 准将のポスト空きまくりの宇宙艦隊が一番昇任早いと思うけど」
「でも帝國軍の退潮が著しいから、暫く戦さは無いだろ? 宇宙艦隊だと戦いが無いとなあ。 今後は少将以上になかなか昇任出来ないぜ」
少し声を小さくして、グエン大佐が4人に確認した。
「そう言えば、次席卒業のマイケル・ジン少佐は?」
「呼ばれる訳無いだろ? フォーの最大のライバルだった男だぞ」
「でも、同期だろ? 一応」
「そりゃあ、気の毒に思うさ。 悪い奴じゃないしな」
「人には運っていうやつもあるんだよ。 ジンは2年課程に行けば良かったのさ。 あそこなら同じ卒業年は、アーゼルやアーサだろ? きっと、首席卒業出来たと思うぜ」
「4年も2年も卒業試験は同じだからな。 2年課程の首席アーサよりもジンの方が点が高かった」
「マイケルは、フォーと士官学校の4年間で、ガチンコ勝負し過ぎたんだよ。 早く負けを認めれば、今頃准将だっただろうに。 文武両道の優秀な奴なのだから......」
「女性の同期生、誰も呼ばれていないな?」
「士官学校の3位・4位卒業は女性だったろ? 彼女等もフォーと学科成績で激しく争っていたからかもよ......」
「俺は女性大好きだけどな~。 特に美女が」
ハミルトン大佐が嬉しそうに話す。
「同期で一人だけ、ダントツにカワイイ子居たよね? ミカ・シェランだっけ? あの子はどうしているのかな?」
「彼女は、卒業して1年位で結婚して、暫く軍に居たけど退役しちゃったよ。 結婚相手は将来有望な先輩若手士官だった筈だけど...... 相手の名前ど忘れしちゃった、誰だっけな〜? まあ士官学校卒にしては珍しいよね、2、3年で寿退役っていうのは」
「話は戻るけど、ジン少佐はいま何処の所属だい? 誰か知ってる?」
「宇宙艦隊に居るよ、アーゼルの第三艦隊だったと思う。 駆逐艦艦長だよ」
「そうか。 じゃあ、次の戦さで運が悪ければ戦死。 生きて戻れば中佐に昇任で異動だな」
そう話すと、5人は顔を見合わせ、薄ら寒い表情をしたのであった。
『次席卒業ならば、大戦後の今になって、駆逐艦艦長という戦死の可能性が有るポジションに就く筈が無いのに......』
『フォーと険悪過ぎる仲が、人事に大きく影響しているのだろう』
『フォーを裏切ったり、失望させたら......』
と。
選挙の翌々日の夕方。
「国家元首が決まったので、いよいよ出征だな」
ルー少将が気持ちを新たにする為、そう発言した。
「成功すれば、フォー・プロシードに華を持たせることになってしまうが、そういう理由付けで許諾を貰っている出征なので、致し方ない」
リウはジョン・ルーの話を聞き流しながら、別のことを考えていた。
「いよいよ、クロノス星系ともお別れになる」
「もう、戻れないかもしれない......」
一抹の寂しさを感じながら。
すると、第三艦隊司令部室に訪問者が現れた。
トレードマークの眼鏡を掛けた怜悧そうな女性。
ケイト・パルトネール大佐であった。
「リウは、居るかしら?」
と尋ねるなり直ぐ見つけて、ツカツカツカと歩み寄る。
「リウ、来てあげたわよ」
そう言いながら、リウの真横に座り、顔をぐっと近付けた。
「どうして、私が来るって分かっていたのに、アイザールとかアーサが必要なの?」
「リウは、イジワルね~」
「直ぐ、私を競わせようとする......」
「でも、そういうところが、好きなんだけど」
リウはタジタジな様子で、
「そういう訳じゃ無いよ、ケイトさん。 アーサは夫だし」
「アイザール准将は、ルー先輩の部下だよ」
と答えるのがやっと。
「『さん』は要らないっていつも言っているでしょ? まあ、いいわ。 2人は参謀長様だから、私の邪魔は出来ないでしょう」
そう言いながら、レイとアイザール准将の方を一瞥する。
そして、立ち上がると、
「ジョン・ルー少将、初めまして。 私が魔女と呼ばれているケイト・パルトネールです。 よろしく」
そう挨拶しながら、自分のデスクの位置をリウに確認した。
「リウ、ここで良いのかしら?」
一番奥の窓際のデスクを指差す。
「そこです。 ケイトさん」
ひと通りデスク周りを確認してから、
「来週からこの部屋に来ますので、よろしくね」
そう言い残すと、パルトネール大佐は手を振りながら、司令部室を出て行った。
「独特な人だね......」
ルー少将が感想を述べる。
「アイザール准将とアーサ准将、凄いね。 あの人に認められているんだね」
コーダイ准将が感心した様子。
それに対し、ルー少将が、
「今の会話で、どうしてそうなります?」
「司令官が、アーサ准将を『夫』って紹介したのに、一言も毒舌吐かなかったでしょ? アイザール准将に対しても何も言わなかった」
「これは、スゴイことなんだよ」
コーダイ准将がよくわからない説明をした。
「リウ様のこと大好きな魔女様が、レイのことを『夫』だと言ったのに、ひとことも文句を言わなかったのは、確かに奇跡ですね」
アイザール准将が冷静に話す。
レイは、
「デスク畑の有望な若手は、先ず『計数の魔女様』の関門が有るのです。 あの方の毒舌に耐えきれず、また能力を一つも認められなかった人は、デスク畑での出世は出来ないですね」
「毒舌って言っても、人格を攻撃したりとか、イジワルな面は無いですよ。 ただ全ての基準が大佐自身なので、ほぼ全員が、『遅い』とか『正確さが足りない』『間違え過ぎ』位は、毎日言われます」
と説明した。
「女性じゃ無ければ、もう中将だろうからね。 それだけの事務処理能力を有しているよ」
コーダイ准将がパルトネール大佐の能力を評価する。
「パルトネール大佐に、リウ様が認められているのは、性別をハッキリさせないという意外な方法で、保守的なノイエ国軍の『ガラスの壁』、女性が将官に昇任する壁を破ったからかもしれませんね。 しかも二十代で。 努力している人が大好きだから、あの方は」
アイザール准将が総括した。
「リウ様は、最初から気に入られてましたよね? リウ様が大尉当時、パルトネール中佐の部下だった頃も、可愛がられていましたから。 私なんかボロクソ扱いでしたよ」
レイが昔を思い出して語る。
「ということは、リウが女性だって気付いた最初のノイエ軍人はレイは別として、パルトネール大佐ってことなのかもな?」
「さっきだって、レイが夫だと言っても、何の反応も無かったし」
「リウは、パルトネール大佐に説明してないだろ? 女性だってことを」
「うん、もうわかっちゃってるって感じだったから。 それに、周囲に言いふらすことは絶対に無い方でしょ?」
そして、ルー少将が結論を出した。
「一つ言えるのは、少し賑やかになりそうだなってことだな」
軍の人事記録に、リウ・アーゼルの性別が入っていないことに気付いていたのは、パルトネール大佐とレイだけであった。
ノイエ軍イチの軍官僚として知られる彼女。
かつて、リウ・プロクター大尉が彼女の部下になった時に、記録の不自然さに気付き、その後
『リウが女性かもしれない』
と思った時から、リウのことを事務面で護って来たのは、彼女とレイなのであった。
第三艦隊司令部室を出たケイト・パルトネール大佐は、歩きながら部屋に居たメンツを思い出していた。
「随分、面白いメンバーが揃っていたわね~」
「リウとジョン・ルーが居るのは分かっていたけど、コーダイ准将とアイザールまで居たとはね。 最年長はコーダイ准将ってことか~」
「それと、薄々気付いていたけど、リウとレイカーが極秘結婚していたことをアッサリ打ち明けられるとは。 相当な秘密の筈だし、これを教えられたってことは、私を信用しているって暗に示したってこと............リウにやられたわね」
「これは数年間、リウに付き合わなきゃいけなさそうね」
と一人思索を巡らせていたのだった。




