第48話(ブルー・ドラグーン)
徐々に進む、出征準備。
政治的に利用されたショック状態のリウであったが......
翌朝、リウはいつもの明るい姿に戻っていた。
なかなか寝付けず、眠るのが遅かったレイは、リウに揺り起こされる。
「レイ、起きて~」
でも、寝不足で動きの鈍いレイ。
すると、リウは
「レイ、昨日は本当にありがとう」
「私の心、レイの愛で満たされて、元気になれたよ」
「夜中の誓いも......」
と耳元で囁いて、唇を強く重ねたのだった。
「リウ......様......」
言葉が漏れるレイ。
再びリウは、レイの唇に自身の唇を重ねた......
見つめ合うリウとレイ。
甘い時間がゆっくりと流れる......
暫くすると、午前8時の時報。
現実に引き戻される2人。
「時間が無い......」
「遅刻だ......」
2人がそれぞれ呟くも、一旦始まってしまった2人だけのゆったりした時間の流れは、そう簡単には変わらない。
その後、時間休暇を即申請して、甘い時間の続きに浸り続けるのであった......
リウとレイから、急遽2時間の時間休暇を申請された、副司令官のコーダイ准将。
『昨日のショックを引きずらさせない為に、一肌脱ぐか』
と考え、
「司令官と参謀長は、急用で出掛けた」
という適当な言い訳を、副官やレッド・ドラグーンのブルーム大佐達に告げて、2人だけの時間の続きを作ってあげるという優しさを見せたのだった。
2時間遅れで、出勤してきたリウとレイ。
副司令に
「ありがとうございました。 気持ちの整理が出来ました」
リウがお礼を言って、仕事を始める。
司令官は、いつもと変わらない様子に戻っていたので、コーダイ准将も安心したのであった。
レイは、リウがショック状態に陥ったことについて、
『政治的なことが、生理的に嫌いなのだ』
『フォー・プロシードに利用されることも毛嫌いしている』
『嫌いという姿勢を見せない方だけど、そこだけは絶対に譲れないというラインがあって、それが今回いとも簡単に破られたことで、非常に落ち込んだ』
と分析していた。
フォーに握られた右手を、長い時間消毒していた位だから......
出征計画の説明会後、第三艦隊と第四艦隊は戦闘に向けた緊張感に包まれ始めていた。
リウとレイも、アルテミス王国から帰国後に続いていた、暇をもて余す様な日々は終了し、毎日忙しくなってきていた。
先ず起床後、着替えて、朝食を摂る。
そして、リウとレイはお互いにチェックして、出勤準備完了。
レアに留守番をお願いして、レアー号の出入口でキス。
司令部に向かう。
軍事宇宙港のターミナルを足早に通り抜けて、ツインタワーに到着。
第三艦隊の司令部室に入ると、副司令や副官、ブルーム大佐、ラートリー中佐と朝の挨拶を交わして、自席へ。
艦隊所属の各艦艇から上がって来る文書などをシステムで確認して、必要な決裁処理を最初にレイがチェックしてから、副司令官→司令官へと文書を回す。
その間、副官は軍全体のスケジュールなどを確認して、司令官の一日の予定を決める。
ブルーム大佐とラートリー中佐は、毎朝訓練状況を報告後、連隊の訓練へ出発。
軍に大きな予定が無ければ、午前中、副司令と参謀長は訓練計画や出征に向けた艦隊編成の細かい詰めの作業を行う。
司令官のリウは、自身の体力維持も兼ねて、レッド・ドラグーン連隊の訓練に参加する。
午後になると、リウが訓練を終えて、副官と司令部に戻って来るので、遅い昼食を4人で摂る。
そして、副司令と参謀長が詰めた訓練計画や出征計画の細部をリウが確認して、必要があれは改めて討議する。
夕方には、第四艦隊のルー司令官、アイザール参謀長も合流して、更に細部の討議をする。
この様な流れの日々が続いていた。
いつも通りの、勤務時間終了後の集まり。
「忙しくなって来たね」
リウが、部屋に居るみんなに話し掛ける。
「そろそろ決めないと、第四艦隊に所属させる特殊部隊」
「先輩、何処の連隊にする?」
最終確認をしてみる。
すると、
「リウは、いま毎日連隊の訓練に参加しているんだろ? どの部隊が良さそう?」
まだ決めていなかった、ジョン・ルー少将。
「第三艦隊がレッドだから、安直だけど第四艦隊はブルーにする? ブルーだと第三陸戦特殊連隊だね。 ブルー・ドラグーン」
「じゃあ、そうしようか。 許可取りは......」
「もうしてあるよ。 じゃあ来週異動発令で」
「了解」
「明日訓練に行った時に、ブルー・ドラグーン連隊長のイルバール大佐と話をしてくるよ」
「悪いね~」
と会話は進み、アッサリ決定した。
「艦隊所属陸戦部隊の訓練状況は?」
リウが確認。
「殆どの兵士が初めて受ける訓練だから、もう少し時間掛かるでしょう。 今回は陸戦がメインになる想定なので、重要な訓練ですからね」
レイが状況を回答する。
「艦隊の訓練出動はどうします?」
副司令が、艦隊全体の訓練計画を立てるかどうかをリウの判断を求める。
「今回は時間が無いので、止めておこうか。 帝國軍に余計な刺激を与えないためにも。 ぶつけ本番で行こう」
とリウが決断した。
「今度、アルテミス王国軍のルーナ大将と打ち合わせに行かないといけないんだよね。 極秘に」
「だから、レアー号、私達の自宅代わりの高速船で行ってくるね。 往復1週間位だから」
「その間、留守をお願い。」
リウがルー少将以下に一時的に軍を離れる許可を求める。
「それは、今回の作戦で一番大事だろ? 頃合いを見て行ってきなよ。 しかし、2人の住んでいるあの船、 めちゃくちゃ速いなあ」
ルー少将が往復1週間と聞いて感心する。
「結局、帝國軍を防げた最大要因は、三国同盟の技術力が上回ったことだから」
リウが勝因を話す。
「そのアドヴァンテージを広げておくことも、亡くなった人に対する鎮魂曲になると思うの」
「そうだ、来週末の三連休、ここに居る皆さん、全員予定を空けておいて下さいね」
「ご家族の居る方は、家族を含めた全員ね~」
リウが嬉しそうに話をする。
「何処か良い所に連れて行ってくれるのか?」
そう尋ねられると、
「まあ、そんなところだから、宜しくね~。 これは命令である」
リウはそのように答えたのであった。
「アドヴァンテージを更に広げる為に、必要なことをやっておかないとね」
翌日、出勤したリウは副官のカイキ大尉に、
「今日は、ブルー・ドラグーンのイルバール大佐と会うから、地上軍本部行ったら段取り宜しく」
と指示し、ブルーム大佐とラートリー中佐が出発する時に、一緒に地上軍本部へと出掛けて行った。
ブルーム大佐は、
「司令官、今日は早いですね」
と尋ねてきた。
「ブルー・ドラグーンのイルバール大佐と話し合いをするので」
「第四艦隊は、ブルー・ドラグーンを選んだのですか?」
「選んだというよりは、カラーで決まったのかな」
苦笑いしながら、リウが答えた。
「色で?」
「レッドに対して、ブルーとかかな?」
「何処の連隊も、それ程差は無いから選べなかったらしいです」
ルー少将の気持ちに忖度して、お茶を濁すリウ。
安易な決め方に、少し心配になった大佐は、
「私も同席しましょうか?」
と申し出てくれた。
「よろしいのですか?」
内心喜ぶリウ。
「どうせなら、着いたらそのまま話に行きましょうか? 希望確認じゃなくて、命令なのですから」
「助かります。 その方が」
結局、大佐の申し出に乗っかったリウであった。
地上軍本部に到着すると、リウと大佐と副官は、その足で第三陸戦特殊連隊の連隊長室へ。
大佐がノックして部屋に入ると、いかつい大男が在室していた。
ブルーム大佐が、
「イルバール大佐、おはよう。 元気かい?」
イルバール大佐が立ち上がり、
「いつもと変わらんよ」
と言いながら、握手。
リウは、
『大きな人だなあ』
身長2メートルを超える大男に、その様な感想を持った。
イルバール大佐は、リウを見て表情が曇り、
「あなたは、宇宙艦隊の司令官だよな? 宇宙艦隊に移籍するもう1個の連隊は、うちで決まりかい? さっきルー少将という人から連絡貰ったけど」
レッド・ドラグーンの例があったので、その趣旨を直ぐに理解したようであった。
「そうなります。 よろしくお願いします」
リウがそう告げると、
「命令だから、致し方無いな」
と言って、渋々な様子で受け容れるのだった。
ブルーム大佐とブルー・ドラグーンの連隊長室をあとにしながら、イルバール大佐の反応を見て、
『ちょっと、雑な決め方をしてしまったなあ。 申し訳ない』
と思ったリウ。
ブルーム大佐は、
「うちの連隊は、アーゼル司令官に選ばれたから光栄なことですが、イルバール大佐の連隊は、消去法的な選ばれ方なので、同情の念を禁じえないですね」
と感想を漏らした。
「全く、その通りです。 命を賭けてもらうことになるかもしれないのに......」
そのままリウは、午前中の訓練に参加した。
汗をかいて、後味の悪い決め方を反省しながら......
その日の夕方、今回の決め方を反省したリウは、ルー少将に、
「先輩、ゴメン。 ブルー・ドラグーンの件だけど、命縣けの任務になるのに、安易な決め方をして......先方は、受け容れてくれたけど、渋々という形になっちゃった」
「いや、これは俺が悪かった。 自分の目で見ようとせず、適当過ぎた。 明日謝ってくるよ」
ルー少将も反省していた。
そして、
「もし、快く受け容れてくれなさそうだったら、別の連隊に変更することも考える」
「若輩者で経験不足なのに、地位だけが先に上がると、少し周囲が見えなくなってくる。 自分が若手だった時に、そういう嫌な上司を批判していたのに、いつの間にか、自分自身がそういう立ち位置になっちゃっているんだからな、全く」
そう述懐したルー少将は、みんなに、
『間違っていると思ったら、遠慮無く諫言して欲しい』
とお願いするのであった。
翌日、ルー少将はイルバール大佐の元を訪れ、謝罪した。
すると大佐は、
「わざわざ来て頂き、ありがとうございます。 精一杯働きますので、よろしくお願い致します」
丁寧に返答してくれて、快く受け容れてくれたそうだ。
『これで、一安心かな』
リウは今回の件を反省しつつ、そう思ったのであった。




