第45話(レッド・ドラグーン)
第七陸戦特殊連隊を訪れるリウとレイ達。
その時、ハプニングが......
翌日、リウとレイは副司令官コーダイ准将、副官カイキ大尉と一緒に、地上軍の本部を訪れていた。
「地上軍の本部は、初めてだなあ~」
ノンビリした口調で話すリウ。
「宇宙艦隊司令部や参謀本部、後方司令部とかに比べて、格下扱いなので、普通はあまり来る機会無いですよね」
「陸戦部隊は、部隊編成の9割以上を機械兵やクローン兵を使う様になって、所属している人間の数自体が少なくなっていますから」
レイが解説をする。
確かに地上軍の本部は、敷地は広いものの、建物自体は小さい。
特殊部隊は全員人間だが、それ以外の通常部隊は、機械兵やクローン兵を指揮し、操る為の人間が所属しているだけだ。
地上軍本部で受付を済ませて、建物の中に入る4人。
勤務している事務方が少ないので、シーンと静まり返り人気が無い。
特殊部隊の待機室は、本部からかなり離れており、訓練施設と一体になっている。
説明を受けた道順で、第七陸戦特殊連隊の駐屯地を目指す。
連隊長室も、そこに在るからだ。
リウ達が第七特殊連隊の駐屯地の出入口に到着した、その時......
一本の軍用ナイフが、リウとレイの方をめがけて飛んで来た。
レイが銃を取り出す前に、リウが静止して、ナイフを叩き落とす。
そういう嫌がらせの洗練があることは、副司令から聞いており、予想していたので、対応出来たものの......
『まさか、いきなり。 それも直接狙って来るとは』
これはレイも想定していなかった。
『ヤバイ、リウ様がキレた』
既にブチギレたリウは少将という立場を忘れ、女戦士になっている。
こうなった時のリウは怖い。
叩き落とした軍用ナイフを拾ったと思ったら、その瞬間に投げ付けた隊員目掛けて物凄いスピードで投げ返した。
その隊員は避けきれず、咄嗟に防御した腕にナイフが突き刺さる。
自業自得とは言え、うめき声をあげてうずくまる隊員。
仲間の隊員達が騒ぎ出すも、
「騒ぐんじゃねえ~。 自業自得だろうが」
とリウが一喝する。
その気合に気押されした特殊部隊の隊員達は沈黙してしまう。
その騒ぎに気付いたラートリー中佐が、直ぐ近くの連隊長室から飛んで来た。
流血した腕を押さえてうずくまる兵士。
その腕に、特殊部隊軍用ナイフが刺さっている。
そして、リウの目つきが今まで見たことの無い程の鋭い眼光で、ラートリー中佐も立ち竦む程の威圧感があった。
事態を把握した中佐は、
「少将閣下に、この様な暴挙をしでかす隊員が居たこと、深くお詫び申し上げます」
と言ってから、中佐自身がこの隊員の顔面に強烈なキックを御見舞したことで、意識が完全に飛んでしまったその隊員。
そして中佐は、周囲の隊員達に対して、
「悪ふざけでは済まないレベルだ。 治療した後、懲罰房に1か月間ぶち込んでおけ」
と命令し、隊員達は怪我した隊員を連れて去っていった。
「事前に来訪を通告して頂いていたにも関わらず、お出迎えをしないばかりか、少将にナイフを投げつける部下が出たこと、これは重罰に値します。 当該隊員及び監督不行き届きで連隊長並びに私を軍法会議に掛けて頂きたい」
中佐はその様に申し出たものの、一言も発しないリウ。
よく見ると、リウも右手から出血していた。
ナイフを叩き落とした時に、少し切ったようだ。
レイが慌てて、リウの右手を確認し、傷は浅かったので応急処置をして止血する。
その様子を見た、ラートリー中佐は、
『アーゼル司令官に怪我をさせてしまった』
事前の予想を大きく外れた展開に、顔面蒼白。
副司令が中佐に、
「由々しき事態だ。 直ぐに連隊長を呼んできなさい」
と厳しい表情で命令する。
副官のカイキ大尉は右往左往。
准将の厳しい言葉に、中佐は慌てて連隊長のブルーム大佐を呼びに行った。
数分後、訓練をしていたブルーム大佐が、急いで駆け付け、
「小官の監督不行き届きで、部下が来訪客にナイフを投げ付け、怪我をさせるとは申し開きのしようもない。 軍法会議に掛け処分して頂きたい」
と申し出た。
リウは、ずっと黙ったままであったが、漸く少将モードに戻って来たようで、
「軍法会議は無用だ、連隊長。 ただし今から私に忠誠を誓って頂く。 ラートリー中佐も同様だ。 急遽だが連隊に対し明日付で人事異動も発令する」
「本来は、その話をしに来たのだが、今回の出来事をみて、相談では無く命令でないと、レッド・ドラグーンは御せないと判断させて頂いた」
「在隊中の全連隊員を至急、集結させなさい」
その命令口調は、今まで見たことが無い位、厳しいリウの姿であった。
15分後、連隊員1000名の大半が隊庭に集結した。
先ず、連隊長のブルーム大佐が、今回の重大事象の発生を告げ、『何時まで古い慣習に囚われているのか』と全隊員を叱責した。
そして、リウが全隊員の前で、
「人を試すというくだらないことをした隊員は、返り討ちに遭った。 大戦で多くの者が命を捨てて市民を守ったのに、特殊部隊員は何をしていた? ここには力を持て余している連中が沢山居るようだから、働き場所を与えてやる」
「明日付で、第七陸戦特殊連隊員は全員異動。 異動先は第三艦隊。 最初の任務は死地に送り込んでやるから、死ぬ気で働け。 そして大戦で死んでいった者達に詫びろ。 以上だ」
と訓示したのだった。
黙ったままの連隊員達。
地上軍は、先の大戦でなんの功績も無く、市民を捨ててクロノス星系に逃げた卑怯者部隊も有り、評判は地に落ちていたのだった。
連隊長室に移動した時には、既に事件を聞き及んだ地上軍の幹部が集まっていた
「少将、本当に申し訳ない」
と謝罪されるも、リウは、
「第七陸戦特殊連隊は、明日から私の指揮下に入ります。 地上軍の幹部の方々も了承しておいて下さい」
そう説明して、急な人事異動の発令内容を告げた。
「よろしいのですか? 何の処分も無しで」
地上軍の幹部連中が重ねてリウに問うも、
「処分しても、何の意味も無いでしょ? 私の指揮下に入ると言う事は、今後の作戦で、死地に送り込まれるということですからね。 処分よりも厳しいですよ」
その様に笑顔で話すリウを見て、地上軍の幹部達は笑顔の下にある怒りの仮面を見たような気がして、ゾッとするのであった。
地上軍の幹部が去った後、ブルーム大佐とラートリー中佐が残った。
「ブルーム大佐、ラートリー中佐。 申し訳ないけど、次の出征で死んで頂くことになるかもしれない。 だから今回の件での軍法会議は無しだ」
リウは厳しい表情のまま指示をし、
「連隊の人事異動発令も1週間後のつもりだったが、統制不足の罰で明日付に変更する」と正式に告げた。
「とは言え、当面はここで訓練を続けて下さい。 出征が決まったら、全員ここには二度と戻れませんので」
すると、ブルーム大佐が、
「一つ質問があります。 ここに戻れ無いとは、大半は死ぬということですか?」
「作戦が成功すれば、そのまま駐屯するので、戻れないということです。 他には?」
質問に答えてから、
「無ければ、私から。 今後はこの様な人を試すことは止めて頂きたい。 大佐と中佐も今回の件、こういうことが発生すると予想していながら、放置したこと分かっていますよ。 出迎えすら無かったのですから」
リウは2人の幹部の考えを見抜いていたことを話してから、
「罰として、今から大佐と中佐は私の直属の部下です。 辞令も即交付します」
するとレイが、用意していた人事異動の辞令書を出してリウに渡した。
あまりにも早い展開と事前準備の良さに、唖然とする大佐と中佐。
確かにその場で2人に交付された文書は、統合参謀本部議長から発出された、第三艦隊への正式な異動の辞令書であった。
そして、
「明日から両名は、毎日宇宙艦隊司令部に顔を出してから、こっちで隊員の訓練をするように。 帝國軍装甲兵と対峙する訓練を中心に変更して下さい」
とリウは指示した。
ここで副司令が、
「ブルーム大佐。 旧知の私から言わせて頂く。 大佐が少将や准将を試そうとした時点で、もう負けだったんだよ。 その判断が第七連隊全員の運命を決めたってことだな。 試そうとしなければ、兄弟の居ない者、片親の者、他にも事情を抱えた者は、他の部隊に異動させるなど、色々と要望を聞く準備もしてきたのだが......」
「今回の出来事、連隊全体の判断ミスだと思って、諦めて頂く。 死兵と化した帝國軍装甲兵と命懸けで戦って貰う。 その為に残された時間、悔いの無い厳しい訓練をしろよ」
「そして、この事は、出征まで他言してはならないからな」
と告げるのだった。
ブルーム大佐とラートリー中佐は、
「少将閣下、副司令殿、参謀長殿、副官殿。 本当に申し訳ありませんでした。 古い慣習に囚われていたのは、私達の方でした。 そして、司令官に怪我をさせてしまったことも、詫びさせてください」
と改めて謝罪し、実力を試そうとした事実を認めたのだった。
リウは、
「あの隊員、1か月は長過ぎるから、3日間の独房入りにしておきなよ」
「これで、話しは終わり。 文句が有るなら明日向こうで」
そう言って立ち上がり、
「見送りは無用」
上官として2人に指示をして、連隊長室を出たのだった。
リウ達が去って行った後、
「全部読まれていたな。 こっちが浅慮だった」
「隊員それぞれの個別の事情を聞く為の今日の訪問だったのか。 その機会を失わせてしまい、事情を抱える隊員には申し訳のない事態となってしまった......」
後悔する大佐。
「少将は、一体何者なんですか? ナイフを投げ付けられて、反撃した後の雰囲気は、歴戦の戦士の様な威圧感がありました。 あの参謀長の射撃の腕前と言い......」
中佐も判断の甘さを悔やんで、なんとか言葉を絞り出す。
「だからあの若さで今の地位に居るのだろ? 特に少将はアルテミス王国では英雄扱いで、中将待遇となっている。 アルテミス王国の騎兵学校も出ているし、西上国の諜報員養成学校出との噂もある。 そういう方なのに、実力を試そうとした今回の我々の応対が浅慮だったと言っているのだ」
「特殊部隊とか、レッド・ドラグーンとか過大な呼称に胡座をかいていたな。 実戦経験者には敵わない」
「これからは、彼等3人が私達の直属の上司だ。 『死んで欲しい』と言われれば、死地に赴かねばならない。 今回の罪滅ぼしの為にも......」
ブルーム大佐は改めて、ノイエ軍随一の指揮官に、帝國軍と戦う為の戦士達として選ばれたことによって、命を捨てる覚悟を固める言葉を漏らすのだった。
帰りの地上装甲車の中で、副司令官コーダイ准将は考えていた。
『少将の怪我に慌てる参謀長の姿。 いつも冷静な彼らしくない。 それ程の怪我では無かったのに......』
『そう言えば、結婚したって言ってたな。 でも彼程の若手の有望株が、挙式せずに極秘結婚するのはおかしい......』
『先程の司令官の怒り方も、少し違和感が有った。 あの隊員がナイフで狙ったのは参謀長のように見えたが......』
『複合施設で見掛けた参謀長の彼女。 そう言えば司令官に似ている気がする......』
『普段、2人は殆ど一緒に居る。 副官を置いて、参謀長を連れて行くパターンが多いけど、他の艦隊ではあまり無いこと............』
『そういうことか。 2人が夫婦なのだな。 それなら全部説明が付く。 ずっと隠せるものでも無いから、いずれ打ち明けてくれるだろう。 その時私が信頼を得たっていうことだな』
その様に結論を導き出し、特殊部隊員の攻撃に対応する2人の態度から、リウとレイの関係に気付いたのであった。
「カイキ大尉。 さっき司令官が怒ったのは、自身が狙われたからじゃないぞ。 あの特殊部隊の隊員は参謀長を狙ったけど、訓練不足で手元が狂ったのだからな」
と説明する。
「部下が狙われたから、怒り心頭だったのだよ。 そこを勘違いしちゃダメだぞ。 それだけ部下思いの方だってことだ」
わざとらしく副官に事情を説明する。
「ところで司令官。 何処で護身術を学ばれたのですか? さっきのナイフの叩き落とし方は、オリエンタルな古風の技とお見受け致しましたが」
続けて尋ねるコーダイ准将。
リウは、
「西上国で教わりました」
と答えると、
「それでは、巷で流れている、『少将が西上国の秘密諜報員学校出』だと言うのは、本当なのですね」
と笑いながら、確認する。
「そんな噂流れているのですか~。 秘密学校は大袈裟ですが、士官学校入る前に、西上国の軍学校に留学していたのは事実ですけど」
半分誤魔化すような言い回しをしてみるのだった。
そのやり取りを見聞きしながらレイは、
『副司令に気づかれたかもな。 この間思わず結婚したって言っちゃったし。 リウ様の怒り方が尋常では無く、リウ様のかすり傷で自分も動揺し過ぎたから......』
と反省しながら、
『近いうちに打ち明けることにしよう。 協力して貰う為にも......』
司令部に戻り、皆が帰った後、リウは、
「ごめん、レイ。 私ちょっとブチギレ過ぎた〜。 レイが狙われたから頭にきちゃって」
「副司令のあの言い方だと、私達の関係に気付いたっぽいよね?」
それに対してレイは、
「間違いなく、気付いてますね。 私もリウ様の怪我に過剰な反応してしまいましたから」
「タイミングを見て、打ち明けましょう。 周囲に言いふらす様な方ではありませんから」
そこに、いつもの様にルー少将が入って来た。
「おっ、何だ。 2人でちょっと深刻そうな顔して」
と、いつもと異なる雰囲気に気付いた様子。
レイが簡単に説明すると、
「副司令に気づかれたか~。 2人はラブラブ過ぎるから仕方ないよ」
「コーダイ准将は、口数が少ない方だから、大丈夫だろ。 徐々にバレていくのは致し方無いし、いずれ全公表するつもりなのだから」
楽観的に話すルー少将。
第七特殊連隊での出来事についても、
「実力を試されたか~。 そういうことされると余計バレやすいよな。 夫が狙われて怒り狂う妻。 その姿見たかったなあ~。 2人共地位と役職、公式の経歴に似つかない、異常な強さが有るからな」
「今日は、3人で夕食食べるか? 地上軍本部で色々あって疲れただろ? その時の出来事も、もう少し詳しく聞きたいしさ」
とルー少将が誘うと、
「先輩の奢りなら行きますよ」
リウが条件を出したので、
「勿論、そのつもりだよ。 後輩に奢って貰う程、貧しい生活じゃないし」
そう答えたことで、直ぐに片付けをして3人で出掛けて行くのであった。




