第42話(帰国後のある一日)
帰国後、軍の施設内に籠もる形となったリウ。
ストレス発散をしたくなったリウは......
リウは、レイの苦悩を聞いてから、軍施設外に出るのを控えるように心掛けていた。
居宅代わりの新型艦レアー号も、宇宙艦隊司令部に隣接する軍事宇宙港の片隅に使用料を支払って停泊させており、帰国して10日間、ルー少将と話をしたアーゼルタワー以外、軍施設外に出ていなかった。
「う~、吹き出物が〜」
鏡を見ながらリウは呟く。
軍施設内に居続けていることで、ストレスを溜めていたようだ。
「ノイエ国内に居るのが、これ程窮屈だとは......」
今まで、女性の姿でノイエ国内に居たことが殆ど無かった。
「加減が難しいよね~。 女性の姿で堂々と出過ぎても墓穴を掘りそうだし」
リウの悩みは深い......
レイに、
「次の休みにデートしよ? アーゼルタワーでいいから」
「吹き出物が出るくらい、ストレス溜まっているみたいなの」
と提案した。
すると、レイからは、
「そうしましょうか。 ずっと軍施設に籠もっているのも良くないですから」
と賛同を得た。
翌日、リウは朝からウキウキ状態。
珍しく、薄く化粧をして、完全に女子モード。
プロクター少将の人格が消えてから、少将の時と女性の時の差異が小さくなってきているので、化粧をして、少しでもバレにくくする為の意図もある。
普段は着ないワンピースに、帽子にサングラスと、レイも初めて見るような姿に変身し、
「これなら、絶対大丈夫。 少将には見えないね」
と自画自賛するほど、完全な女子に変貌。
レアー号の生体頭脳『レア』に、
『身辺警護と付近全体の警備』
をお願いして、生体頭脳がコントロールするアンドロイドから渡された、超小型の警護装置を装着し、準備完了。
「行ってきます」
リウは生体頭脳レアに挨拶をして、レイと一緒に出発した。
軍事宇宙港の出入口ゲートは、レイカー・アーサ准将の知人としてほぼフリーパスで通過。
「将官になると扱いが違いますね。 ほぼノーチェック」
レイが感想を述べると、リウは、
「でしょ? これはこれでちょっと問題だけどね」
と言いながらも、
「でも、身体・所持品検査機は通過しているから、そこまで目くじらを立てる必要も無いかな」
と軍ゲートのチェック態勢を評価して、アーゼルタワーに歩いて向かう。
アーゼルタワーの隣には財閥傘下企業が運営する巨大な複合施設があり、数日滞在しても飽きることがなく、大人気となっている。
リウとレイは、ウィンドウショッピングやアトラクションを周り、2人だけの世界を楽しんでいた。
ところが偶然、その2人の姿を見かけた第三艦隊の幕僚が居た。
シュウゴ・コーダイ准将である。
軍事宇宙港の隣接地にある将官用家族官舎に住む准将。
妻と子供2人を連れて、官舎の直ぐ近くにあるアーゼルタワーの巨大複合施設を訪れていたのだ。
まだ幼い女の子を片腕で抱っこして、妻ともう一人の男の子と3人手を繋いで歩いていると、人混みの中にアーサ准将の姿を発見した。
アーサ准将は目立たなかったので、連れの女性が居なかったら気付かなかった筈だが、連れの女性は背が高くてモデルみたいな雰囲気を醸し出していて、かなり人目を引いて目立っていたのだ。
「あれは......」
呟く夫に、
「あなた、どうしたの? 知り合い?」
と妻が尋ねたので、
「艦隊の同僚だよ。 彼女が居たのかな? 知らなかったけど」
コーダイ准将は妻に答えながら、
『女性の方も何処かで見たことがあるような気が......』
と感じたのだった。
「挨拶しようかと思ったけど、デート中のようだから邪魔しちゃいけないね」
と准将は妻に言って、そのまま横を通り過ぎた。
コーダイ准将一家がレイの横を通過した際、レイも知人が通り過ぎた気がしたのだが、誰だか分からなかった。
この日は土曜日で、複合施設がかなり混雑していたからだ。
リウは、レイが少し立ち止まったので、
「レイ、どうしたの?」
と尋ねると、
「今、知り合いが居たような気がしたんだけど......」
「混んでるから、もうわからないなあ」
と答えるのだった。
その後、リウは普段のストレスを発散する為、レイの目から見ても、ちょっとはしゃぎ過ぎであった。
アトラクションで絶叫したり、バーチャルな世界を楽しんだりとリウ自身も大満足の一日であった。
翌々日。
第三艦隊の司令部室に出勤したリウとレイ。
副司令官のコーダイ准将も間もなく出勤してきた。
「おはようございます」
それぞれが挨拶をしてから自席に着くと、暫くしてコーダイ准将が、
「参謀長、土曜日アーゼルタワーの複合施設に居ませんでしたか?」
と尋ねてきた。
その質問にレイは、
『あれは、コーダイ准将だったのか』
と気付き、
「遊びに行ってました。 副司令もですか?」
と確認すると、
「私も家族と遊びに行ってました。 でも参謀長にあんな美人な彼女が居るって知りませんでした」
「デートの邪魔しちゃいけないと、声を掛けるのは止めましたよ」
と言われてしまったのだ。
レイは、素知らぬふりをしているリウをチラッと見て、
「アハハハ、見られちゃいましたか~。 全然美人じゃないですよ。 ちょっと怖いぐらいですから......」
適当に誤魔化して答えながら、もう一度リウをチラ見すると、めちゃくちゃムッとした顔をしていたので、ビビってしまった。
「そんな言い方、彼女さんに聞かれたら、怒られますよ」
と少し笑いながら答えるコーダイ准将。
レイは、
『もう、手遅れです......』
心の中で叫びながら、
「准将のおっしゃられる通りです。 私も表現を反省しないといけませんね」
内心、物凄く冷や汗をかきながら、半分リウに謝罪する内容で答えた。
「でも、あの背の高い女性、何処かで見たことがあるような気がするんですよね? あの方がモデルさんみたいで、相当目立っていたから、参謀長に気付いたのですから」
続けてコーダイ准将が話したので、レイは
『ほら、リウ様のせいじゃん。 いつもの適当な格好でイイのに、オシャレするから......』
という表情を込めてリウを見ると、リウは
『ごめんね』
と心の中で謝罪しながらも、目を逸らすのだった。
レイは思わず、
「実はあの子と結婚したばかりでして、家族として軍施設内を歩いていることもあるので、それで見たことがあるような気がされたのかもしれませんね」
ちょっと意味不明な回答をしてしまった。
するとコーダイ准将は、
「なるほど。 そうでしたか」
何だか納得してくれたので、レイはひとまずホッとするのだった。
この日も第三艦隊司令部は平和そのもの。
副官のカイキ大尉は、細々雑用で、あっちもこっち動き回っていたが、幹部の3人は暇そうであった。
艦隊自体、軍事宇宙港に停泊中で、乗組員は、それぞれの艦の整備や訓練で忙しいが、司令官や副司令官がそこに赴くと、要らぬ配慮や余計な手間を掛けさせてしまうので、それぞれの艦長に任せてあるのだ。
「しかし、あの戦争が嘘の様に平和ですね」
レイが呟く。
「私は参謀本部の参謀だったので、出陣はしませんでしたが、不眠不休の毎日でしたから」
と言うと、コーダイ准将は、
「俺なんか、戦場に着いていざ開戦となったら、帝國軍の旗艦狙い撃ち作戦で、いきなり吹っ飛ばされてしまったからな。 ずっと意識不明で、気付いたら第6惑星クロノスの軍病院のベッドの上だったよ」
「司令官は、今振り返ると、どう思いますか」
副司令がリウに尋ねる。
するとリウは、
「思い出すと辛いですね。 こうしてのんびり自席に座っていると、死んでいった先輩や同輩、部下達に申し訳ない気がします」
と答えるのみであった。
その様子を見て、2人の准将は、
『余計な話題をふってしまった』
と、内心反省するのだった。
ところが、当のリウは、そんなに深い意味があって言った言葉では無かったのだ。
『実は、なんとなく覚えているけど、曖昧なので、当たり障りない言葉で誤魔化しただけ』
というのが真相であった。
あの時、男の人格リウ・プロクターの感情が不安定過ぎて、現在の女の人格リウ・アーゼルと記憶の共有がキチンと出来ていなかったのだ。
定時後、皆が居なくなってから、レイは
「リウ様、余計な話題をふって申し訳ありませんでした」
と謝罪すると、リウは
「なんのこと?」
と言ったので、
「先の大戦のことです」
と説明すると、
「ああ、そのこと? ハッキリ覚えていないんだよね。 だから誤魔化しただけだよ」
と答えたので、レイは驚いた。
ちょうどこの時、ルー少将がいつもの様に司令部の部屋に現れたので、リウは、片手を上げて、
「先輩、お疲れ〜」
らしい、適当な挨拶をしてから、
「今日、先の大戦の思い出が話題になったんですけど、あんまり覚えていなくて」
「今度、また話題になった時困るので、先輩の覚えている範囲で教えてくれませんか?」
とリウが尋ねた。
すると、ルー少将は、
「とりあえず、リウは泣いてばかりだったな」
「准将に昇任後の艦隊整備や出勤準備も泣いてサボって、全部俺に押し付けたよ」
「最後はアルテミス艦隊に乗り換えて戦場を去って行ったぞ」
と、超簡単に説明した。
「全然活躍してないじゃん。 どういうこと?」
リウは不満そう。
「あんまり覚えていないんだったら、思い出す必要は無いよ。 確かに最終的に勝ったのかもしれないけど、辛いことが多かったから。 だから男のリウは、今のリウに記憶を伝えず、消えたのかもしれないしな」
珍しくシンミリしたことを述べるのだった。
それからルー少将は、言いたかったことを思い出して、
「そう言えば、土曜日アーゼルタワーの複合施設に居ただろ? 2人で」
「はい。 副司令にも同じことを聞かれました」
とレイが答える。
「レイはともかく、リウ、あの格好は逆に目立ち過ぎ。 あれじゃあ、『私をみんな見て〜って』言ってるも同然。 かなり注目浴びてたぞ」
「ああいうことを続けていたら、直ぐみんなに秘密がバレちゃうだろ? そんなに退役したいのか?」
と注意された。
「ぐぬぬ。 何も言い返せない......」
リウは悔しそうに呟く。
「リウ様、いつものスポーティーな姿で良いのだと思います。 リウ様はオシャレしたら女神になってしまいますから」
レイが惚気たような言葉を連ねる。
「何だ、もう夜の営みに向けたムード作りか?」
誂うルー少将。
「先輩は、これから出掛けるんですか?」
少しオシャレ姿のルー少将に確認するリウ。
「そうだよ。 俺もリウに負けないくらいのイケメンだから、これからデートだよ。 じゃあな~」
と言ってから、第三艦隊司令部室を出て行った。
「まあ、なんだかんだ言って、今我軍一番人気の男性将官だからね~」
レイがジョン・ルーを評価する。
「女性のリウと並んでも、全く見劣りしない位だから」
それなのに、そういう雰囲気を纏っていないフランクなところが、少将の魅力なんだろうとレイは思うのだった。
その日の夜。
「誰が怖いって〜?」
リウが鬼の形相をしたふりをして、レイを脅していたが、その姿は非常に愉しげな感じだった。




