第39話(結婚)
帰国前に結婚すると決めたリウとレイ。
秘匿で行われた結婚式......
ついに、この日がやって来た。
リウ・アーゼルとレイカー・アーサの挙式の日である。
出席者は、限定されているとは言え、現状で最大限の人数が呼ばれていた。
アルテミス王ヨハンとアルテシア王妃
リョウ・シヴァ丞相
エミーナ・シュンゲン丞相夫人
セリー・ヒエン大将夫人
リク・ルーナ大将
マリー・ルーナ大将夫人(王妃の元侍女)
レン・アルテミス王女
レナ・アルテミス王女
ナタリー・シュンゲン(エミーナの長姉)
エリー・シュンゲン(エミーナの次姉)
ナミー・シュンゲン(エミーナの三姉)
パトリック・アーサ(レイの父)
ジェシカ・アーサ(レイの母)
ルーカー・アーサ(レイの実弟)
そして、ラーナベルト・アーゼルとその側近5名の姿も有った。
出席者の面々は、王妃が出来る限り最大限の人数を揃えて祝ってあげたいと、知恵を絞った結果である。
レン王女やシュンゲン家三姉妹のように、この式に出席する際に、初めてリウ・プロクターがリュウ・アーゼルと同一人物だと知った者も居るが、いずれも正式に公表されるまで、口外しない約束を交わしている。
そしてこの日からリュウは、プロクター姓の使用を止め、以後正式な姓名である
『リウ・アーゼル』
を名乗ることとなる。
王家の教会内に、王妃が準備した清楚なウエディングドレスを着たリウ・アーゼルが、アルテミス王ヨハンに手を引かれて現れると、どよめきが起きた。
流石に、社交界の伝説となっていた美女。
誰もが憧れるその姿は、この日最高潮を迎えたと言っても過言ではないだろう。
「リウのお母様を超える美しさを感じるわね」
アルテシア王妃がリウを見た感想を漏らす。
「容貌だけだったら、お母様の全盛期の時の方が少し上かもしれないけど、背が高くて引き締まった筋肉質のスタイルはリウさんの方が断然上回っているから」
双子の娘に説明していた。
エリー・シュンゲンは、
『まさか、大戦の英雄のプロクター少将とリュウさん、いや今日からリウさんが同一人物だったなんて......でもあの内面から滲み出る強さと美しさは、若き英雄だからこそなのかもね』
そんなことを内心考えていた。
リウは、教会内に入って、出席者の中に御祖父様の姿があるのに気付き、
『ゲッ』
という顔をしてしまった。
『私もアーゼルの名前を散々利用して生きてきたのだから、式に呼ぶべきなのはわかって居るんだけど......』
相変わらず、複雑な心境のままであった。
そして、
「花嫁に比べると新郎は見劣りするなあ〜」
「姫と若い執事にしか見えない」
出席者全員が一様に思っていた感想であった。
出席者に対して、花嫁と花婿が永遠の愛を誓う。
リウとレイカーが口づけを交わすと拍手と祝福の言葉が飛び交った。
「おめでとう、リウさん」
「お幸せに」
「リウ、おめでとう」
リウもレイカーも、とにかく笑顔だった。
それも、これまでにない程の、人生最高の瞬間と言える嬉しそうな笑顔。
結婚指輪の交換の時に、リウが人差し指に付けている別の指輪を見て、高貴な女性陣達から驚きのどよめきが......
そして、ラーナベルト総帥の方を見るのだった。
総帥は顔色一つ変えず、立っていたが......
リウが人差し指に付けていた指輪は、
『砂漠の涙』
と言われる、時価不明の非常に高価な宝石が付いた指輪だったからだ。
『これを付けている人には幸運がやってくる』
そういう伝説もある程の、有名な宝石『砂漠の涙』
現在はアーゼル家の宝と言われていた筈のものだが、まさかリウが付けているとは......
挙式は、あっという間に終了。
花嫁と花婿を囲んで記念撮影。
非常に豪華な出席者達。
『英雄達の結婚式』
後世では、きっとそう言われることであろう。
リウは、レイのご両親と弟さんに
「順序が逆になって申し訳ありません。 挙式後に挨拶させて頂くことになるなんて」
と謝罪するも、
「こちらこそ、息子レイカーがお世話になっています。 うちはちょっと特殊な仕事をしているので、連絡の取りようが無いですから、気にしないで下さい」
その様にレイの両親が挨拶を返した。
「しかし、弟さんがおられたのですね。 初めて知りました」
と言いながら、レイの方を睨む。
『何故、前もって教えないの』
と。
「弟の方は、私達以上に特殊な仕事なので、その存在をあまり話さないようにしているんですよ」
レイの両親はレイが説明しなかった理由を話してくれたのであった。
レイは、総帥側近の同僚達からの祝福を受けていた。
「超高嶺の花『リウお嬢様』と一緒になれるなんて、奇跡だな」
「いや、レイは純粋な奴だから、お嬢様の心を射止められたんだよ」
「最高難易度のミッション『リウお嬢様との結婚』。 それを成し遂げたのだから、レイは財閥伝説のエージェントだな」
彼等らしい言葉で、祝福するのだった。
一通り、祝福を受けた後、リウは教会の檀上に立って、出席者に挨拶を始めた。
「皆様、本日はご多忙の中、私とレイの為にお集まり頂き、ありがとうございます」
「本来は、新郎のレイカーが皆様に挨拶するべきでしょうが、私達は普通の夫婦と少し異なるので、私が挨拶させて頂きます」
と前置きを述べた。
「私は今迄、2人の人物として生きてきました。 男の人格のリウ・プロクターと女の人格のリュウ・アーゼルです」
「私は複雑な生い立ちで、特殊な育てられ方をした結果、2人の人格が形成されました」
「今迄の人生の大半は、リウ・プロクターでした。 しかし本来の私は女性。 リュウ・アーゼルの方です」
「レイと出会ったのは9年前ですが、徐々に恋心が芽生えてきたのです。 女性の人格リュウに」
「そして数ヶ月前、レイは自身の正体を私に打ち明けました。 そのことでリュウの人格が強くなりました。 この人と一緒に生きていきたいとの強い思いが......」
「リウが悩んでいた帝國軍の侵攻は、最悪の事態にはなりませんでした。 それでリウは安心したのでしょう。 恋をしているリュウの人格に全てを譲り、消えることとなりました」
「もう、リウ・プロクターは戻ってきません。 彼は幼い頃の厳しい教育に耐える為に作られた人格。 消えたら二度と復活しません」
「ですから、これからは、本来の人格である私リュウが、リウとして生きていきます」
「今後は、リウ・アーゼルと名乗ります。 凄まじい努力と共和国に住む人々の幸せを願い続けて生きてきたリウへの感謝を忘れぬ為にも......」
「プロクター少将には、まだやり残したことがありました」
「それは、帝國との和平実現です」
「彼等の国は私達と価値観が全く異なり、道は困難を極めるでしょう。 それを何とか成し遂げて、自身の楽しみをすべて捨てて頑張ってきたプロクター少将への鎮魂へのプロムナードにしたいと思います」
「皆様、今後とも私達、そしてもう会うことが出来ないプロクター少将の為に、今迄以上の協力をして頂けると有り難いです」
その様にリウは話すと、挨拶を終了とした。
「何だか結婚式の挨拶らしくないけど、2人らしくてイイんじゃない?」
エミーナが感想を述べてから、拍手喝采となった。
そして珍しく、ラーナベルト・アーゼルの目には光るものが見えたような気がした。
その後は、挙式の余韻に浸る時間となった。
女性陣が、リウの周辺に集まって来て、
「指輪を見せて」
とねだった。
リウは、結婚指輪を見せようとしたが、
「そっちじゃない」
と言われて、キョトンとする。
「人差し指の指輪。 砂漠の涙だよ。 幸運が訪れるという謂われのある」
そう言われても、全くピーンと来ない様子......
「リウちゃんが指輪に興味を持つ様な女の子だったら、今頃私達帝國の奴隷だったんだよ、きっとね」
一番彼女のことを知るエミーナが、納得の様子で言うのだった。
リウは、
「この指輪レイから貰ったんだけど、もしかして......」
そう言いながらレイの方を見ると、レイは、総帥の方を見た。
リウは意を決して、総帥に近寄り、
「おじいさま、もしかして指輪はおじいさまが......」
と言うと、涙が止まらなくなった。
総帥は、
「その指輪には、幸運の謂われがある。 私は迷信は信じないが...... リウはまた戦場に行くのだろ? ならば、指輪を御守りとして、持たせてやっても良いと思っただけだ」
普段無表情な人らしい、ぶっきらぼうな言い方で貴重な指輪を孫娘に渡した理由を説明した。
「私は、おじいさまの前では素直になることは出来ません。 でも、ありがとうございます」
リウが涙声で御礼を述べると総帥は、
「リウ、勘違いするな。 譲ったのではない、貸しただけだ」
やはりこの人らしい言い方で、孫の心配をしている恥ずかしさを誤魔化すのだった。
シヴァ丞相は、ずっと泣きっぱなしだった。
エミーナが、
「あなた、まだ娘達が結婚する時なんて、ずっと先のコトでしょ? 娘達の嫁ぐ姿を想像して、重ね合わせて泣くには早過ぎ」
と呆れた顔で言われていた。
「そんなことは無い......」
丞相はエミーナに言うと、総帥の方を見ながら、
「あの人でも、涙を見せるのだぞ。 俺なんかが泣き止まないのは当然だ」
「しかし、あのような総帥の顔は初めて見るな。 長い付き合いだが、あんな穏やか顔は初めてだよ」
そのシミジミ言うのであった。
リウは、ルーナ大将とルーナ大将夫人のマリーのところに行き、
「大将閣下の奥様は、貴方でしたか。 11歳で母の葬儀に向かっていて、クロノス宇宙港で撃たれた時、王太子妃と同行していた侍女の方だったんですね」
「ええ、そうなんです。 だからリウ様が女性だと、あの手術の時から知っていました。 鈍感な旦那様はやっとこの間知ったそうですが」
と笑顔で答えた。
「ということは、王妃が2人を引き合わせたのですね」
リウが確認すると、2人は少し恥ずかしそうに『そうだ』と答える。
ルーナ大将は、
「リウ様」
と言ったので、リウは、
「呼び捨てで良いですよ。 今迄そうだったのですから」
今まで通りにして欲しいと勧めるも
「女性を呼び捨てにしたのでは、妻にも怒られてしまいます。 ではリウ殿、ノイエ軍で親しくしている将官は居ますか? 頼りになって」
と尋ねてきた。
リウは、
「居ますが......ルー少将という方です」
と答えると、
「大佐殿と結婚されて、艦隊に戻ると、リウ少将とレイ大佐の間には、何とも言えない夫婦の空気感が出てしまうでしょう。 身近に居る親しい人ほど、そういうものに気付くと思うんです」
「だから、帰国したら直ぐにでも、ルー少将に真実を打ち明けた方が良い。 それも早ければ早いほど良いと思います。 きっと彼も協力してくれますよ。 この場に居る皆さんと同様に......」
大将は自分の経験を踏まえて、アドバイスをした。
リウは、
「大将閣下、貴重な提言ありがとうございます。 帰国したら直ぐにでも、そうするつもりです」
そう言って感謝を述べると共に、大将自身が気付く迄、真実を打ち明けられなかったことについて謝罪した。
その後リウは、シュンゲン三姉妹のところに移動し、参列してくれたことに感謝を述べた。
「こちらこそ、素敵な結婚式に参列させて頂きありがとうございます。 これ程豪華な参列者の中に私達が入ってても良いのかと思うぐらいですよ」
三姉妹を代表して長女のナタリー・シュンゲンが返礼した。
「私達は、エミーナと仲良くしてくれているリウさんを以前から知っていましたからね」
三女のナミーも以前からリウのことを見知っていたのだ。
「エミーナの母親と私達三姉妹の母親は異なるんです。 私達の母親はお金しか興味の無い人で、育児放棄したことから、父の秘書だったエミーナの母に育てて貰ったんです」
「その育ての母は、エミーナが6歳の時に事故で亡くなってしまって。 以後は私達三姉妹でエミーナを育ててきました。 だからエミーナは妹であり、半分娘なんです。 私達にとっての」
「リュウさん、これからはリウさんですが、エミーナと同じ不老装置を埋め込んだ境遇で、こんなにも綺麗な方が、エミーナの親友となってくれて、本当に嬉しかったんですよ」
「だから、これからも、エミーナのことよろしくお願いします」
その様にエリーからリウは頼まれてしまい、
「こちらこそ、女性の友人が全く居ない厳しい境遇の時、エミーナと知り合えて本当に良かったです。 今後は、お姉様方にも、是非私の友人になって頂きたいです」
と答え、歓喜の輪が起きたのであった。
リウはレイに声を掛け、シヴァ丞相夫妻とヒエン大将の奥方に挨拶をした。
「お忙しい中、ご出席ありがとうございます。 セリーさんとは十年ぶりですね」
「これ程美しい花嫁の結婚式は、記憶に無いですよ」
と丞相とセリーさん。
「いつも助けて頂いてばかりで、何も返せていないのが、本当に心苦しいです」
リウが知り合ってからの厚意に対する感謝の言葉を述べると、丞相は、
「そんなことは無いですよ。 先日も私の為に夫婦で命を掛けて護ってくれたじゃないですか? エミーナという私には勿体無い位の女性のキューピッド役にもなって頂いたし」
「間もなく始められるだろう、次の作戦が成功すれば、三国同盟の民にとって安心出来る状態になるでしょう。 ただその代わりお二方は今以上に大変になる。 私はそれだけが心配です」
「前門の太陽系帝國、後門のノイエ国内の政敵という状況がね」
「成功は、反対に妬みも生じ、身内に敵を産むことにもなります。 私も丞相になる前、本当に大変でしたから」
そう話すと丞相は、過去を振り返って険しい表情をした。
「ただ、リウ殿には、レイ君が居る。 他にもノイエ軍内にも頼りになる提督もおられるでしょう。 仲間が居れば乗り切れます。 まして尋常でない夫婦だからね、リウ殿とレイ君は」
未来を予測する様な言い方をするシヴァ丞相であった。
それぞれに挨拶を終えると、普段多忙を極める出席者達は、三々五々王宮をあとにした。
残ったのは新婚の夫婦と、アルテシア王妃のみとなった。
「皆さん、忙しい人ばかりだから、あっという間に帰ってしまいましたね」
リウが寂しそうに言い、
「アルテシア王妃、ありがとうございました。 これ程多くの参列者になるとは思いませんでした」
と感謝を述べた。
「いよいよ、ノイエ国に帰るのね。 貴方は本当にカワイイから、今後が少し心配」
「今までは、男を装っていたから、こういう心配は無かったけど、これからは徐々に女性であったとバレて行くでしょ? もう少将の人格は無いのだから」
「すると、美しいリウを自分のモノにしたいという、男が出てくると思うの」
「それがね......邪魔なレイ君が狙われたり、そういう違う面の苦労が出てくると思うから、本当に気をつけてね」
王妃は今後の2人の行く末を相当心配していたのだった。
レイは、この話を聞きながら、先程総帥のエージェントから言われたことを思い出していた。
「これから2人は、色々と狙われるようになる。 あれだけ美しいお嬢様だからな。 それはレイカーも分かっているだろ?」
「今日来た5人は、もしリウ様に不測の事態が有った時に、援護に入るよう総帥から命じられている」
「困った時には遠慮するな。俺達はいつでも対応するから」
と言われていた。
弟からは、
「兄さん、あんなに綺麗な人を貰って、今後も護り続けることが出来るかな?」
「世の中、変態が多いからね~」
「幾らでも払うっていう金持ちの変態が、姉さんを狙って、俺みたいな連中を雇おうと既に動いているらしいよ~」
「俺は、兄さんが護りきれるかに興味があるだけ。 父さんや母さんを悲しませたく無いから、義姉さんを狙ったりはしないけどさ、気を付けなヨ」
と警告されていたのだ。
憮然とするレイ。
レイの様子がいつもと違うことに気付いたリウは、
「レイ、どうしたの?」
と心配そうに顔を覗き込む。
レイは、
「何でもありません。 それでは私達もホテルに帰りましょうか?」
と言い、
「王妃、今日は本当にありがとうございました。 リウ様は今後も私が護り続けますので、あまり心配なさらないで下さい」
その様な気休めのセリフを口にすることで、自分を改めて奮い立たせるのだった。




