第37話(尾行の結末)
リュウへの捜査局の尾行
やはりこれは犯罪であったのか?
アルテミス王国で開かれている復興会議における、最大級のイベントであった盛大な晩餐会の翌日。
この日は、シヴァ丞相夫妻が帰国する日。
アルテミス王国の軍事宇宙港で、西上国の総旗艦「サラマンダーⅤ」は出発準備を終えて、丞相夫妻の到着を待っていた。
勿論、リュウとレイも見送りに来ている。
リュウとレイがターミナルに着いてから暫く経つと、西上国関係者が滞在するクメルホテルから直接飛び立ってきた連絡用の小型駆逐艦が軍事宇宙港に到着した。
そして、駆逐艦に接続されたブリッジを通って、丞相夫妻が子供達や護衛将兵と降りてきたのであった。
直ぐに、総旗艦に乗り換えるべく、ターミナル内を足早に進む一行。
すると、丞相とエミーナは、途中で待っていたリュウとレイに気付き、横道に逸れて二人に近寄ってきた。
「リュウ殿とレイ君、見送りに来てくれたのか?」
丞相が声を掛ける。
ノイエ国軍の白色礼服姿のレイは、相当似合っていて、かなりカッコイイ。
エミーナがレイを見て、
「その姿なら、リュウちゃんと並んでも引けを取らないね」
と珍しく褒める。
「でしょ?」
リュウが嬉しそうに同意する。
「丞相閣下、エミーナさん。 本当にお世話になりました」
とレイが挨拶すると、
「いやあ~、こちらこそ助かったよ。 テロの現場にレイ君が居なかったら、今頃怪我して入院中で、予定通り帰れなかっただろうね」
先日、丞相とプロクター少将が狙われたテロ事件での、レイの素早い対応と行動力に感謝の意を示した。
総旗艦は直ぐに出発予定なので、あまり時間話をしている時間を割くことが出来ない。
そこで、去り際にエミーナと丞相は、小さな声で、
「近いうち、2人の為に、この惑星に御忍びで来るから、それまで元気でね」
と言い、リュウとレイも
「丞相閣下とエミーナ夫人もお元気で」
と返礼をした。
「それじゃあ〜」
丞相夫妻は二人に手を振り、側近が子供達を先に連れて行った総旗艦に乗り込む。
そして、丞相夫妻が乗り込んだ最新鋭戦艦「サラマンダーⅤ」は出発すると、あっという間に見えなくなってしまった。
リュウは手を振りながら、
「行っちゃったね~」
とレイに語りかける。
レイも、
「寂しくなるね~」
と返事をする。
リュウが、
「リウが居なくなって、ここでの予定を大量キャンセルしたから、私達も切り上げて早く帰らないとね」
約2ヶ月の滞在予定を短くすることを、プロクター少将として大佐に告げるのだった。
見送りが終わった二人はこの日、一旦ホテルに戻り、レイはホテルLSGアルテミスに駐屯中のノイエ国軍プロクター少将の執務室に出勤して、事務処理に従事することにした。
リュウはホテルのジムでトレーニングをしてから、部屋に戻って、
「残された惑星アルテミスでの日々で、やっておかねばならないことは......」
考えごとを整理していたのだった。
数日後、リュウは意外な人からのアポイントメントを受けていた。
エリー・シュンゲンである。
ASJグループ本社ビルの特別ラウンジで待ち合わせたエリーとリュウ。
ここは、エミーナが独身の頃、リュウとよく待ち合わせをした場所だ。
もうあれから十年が経ち、ラウンジ内のフルリニューアルで雰囲気は変わったものの、場所は同じ。
「ここには、エミーナとの待ち合わせで時々来ていました」
「もうあれから十年も経ったのですね」
リュウが過去を述懐する。
「私も時々、エミーナと楽しそうに話しているリュウさんをここで見掛けましたよ」
エリーもよく利用しているらしい。
「私は、仕事の打ち合わせでの利用ばかりですが」
「ところで、エリーさん、お話しって?」
リュウが本題について尋ねる。
「先ずは、リュウさんに謝らなきゃいけないの」
「例の中央捜査局の尾行や監視の件」
とエリーは切り出した。
「あの件って、やっぱりちょっとおかしかったじゃない?」
「テロ関係者の捜査という理由なのに、貴方の宿泊しているホテル付近で張り込んだり、貴方を尾行したりっていうところが......」
当初から、エリーが疑問に感じた部分を切り出す。
「そうですね」
リュウも当時から、ある疑念を持っていたので、頷く。
「どうしても腑に落ちなくて。 もしかしたら......と思うようになってね」
「やっぱりおかしいって夫に相談してみたの。 夫もそれは『盗撮目的だろ』って言ってくれて。 夫の兄がアルテミス王国軍の憲兵隊の准将なので、依頼して極秘捜査してもらったのよ」
エリーは白黒をつける為に思い切って、捜査官達に対する捜査を、別の捜査機関に依頼していたのだった。
憲兵隊という、強力な機関に。
「そうしたら、色々な証拠や不自然な捜査対象が沢山見つかって......最終的にあの捜査官達、貴方に対する盗撮や盗聴などが目的だったことを認めたわ」
「そして、リュウさんだけではなくて、今迄相当数の被害者が居るらしいの」
エリーが判明した事実を告げると、リュウは
『やっぱり』
という顔をした。
「経緯はこうよ」
エリーは、憲兵隊が解明してくれたリュウが被害対象になったいきさつを話し始める。
「今回テロが発生して、貴方の彼氏の大佐さんがテロリスト5人を射殺したでしょ?」
「その取り調べまでは、正規の捜査だったの」
「でも、ここからが捜査官達の趣味や性癖に基づいたインチキ捜査だったのよ」
「貴方の彼氏さん、まあまあのイケメンで、しかも29歳の若さで大佐でしょ?」
「だからエロ捜査官達は、きっと綺麗な若い彼女が居るに違いないと予想した訳」
「取り調べが終わって、あとを付けたら直ぐに、帽子を被った美人な女性士官が大佐さんに抱きついていたところを見たんだって」
「それで、上司に適当なテロ関係容疑をでっち上げて報告し、尾行を始めたそうよ」
一気に話をしたエリーは、ここで飲み物を一口。
リュウもそれをみて、出されていた飲み物に口をつける。
「この時は、大佐さんがノイエ国軍の駐屯するホテルに入ってしまって上手く行かなかったけど、大佐の宿泊先が別の超高級ホテルだと、捜査情報を悪用して知ったそうで、そっちのホテルを張り込んでいたら、リュウさんを見掛けたので、『超超々上玉だ』と部内の同好の士に知らせて、追跡のターゲットを貴方にしたそうよ」
エリーは眉間にシワを寄せながら、事実を話し終えたのだった。
「気持ち悪い話しだけど、そういう経過だったとわかったので、知らせておかないとと思ってね......」
これを聞いたリュウは鬼の形相だったと、エリーは後に語るのだった。
「美人女性士官......浮気か~〜あいつ〜〜」
とリュウは、唸っていたので、どうも方向が異なっていたような気が......
経緯を聞いてリュウは、エリーに
「私は撮影妨害装置を常に使っているので、盗撮の実被害は無かったと思います。 盗聴も、ホテルがホテルなので、多分大丈夫でしょう」
と説明し、
「そういうことだと......今後あの人達は......」
「今、リュウさんが予想した通りです。 中央捜査局は解体、インチキ捜査に従事、加担した捜査官は逮捕され、全員懲戒免職。 事実も公表されます」
「結果的に、リュウさんが話した2つの条件が満たされることになりました。 非常に残念な経緯によりですが......」
「しかし、リュウさんが丞相閣下の軍を利用して、捜査官を拘禁させなければ、今後も被害者が沢山出ていたことでしょう。 アルテミス王国の女性を代表して、感謝申し上げたく思います」
エリーはそう言って、リュウに頭を下げたのであった。
その後は、晩餐会での話しに......
「先日の晩餐会で、アルテミス社交界伝説の美女リュウ・アーゼルを見れて、実は感激していました、私」
エリーは非常に嬉しそうに話す。
「お恥ずかしい。 伝説なんかじゃないですよ。 ああいう場所の雰囲気が苦手で......」
「特に、男達が欲望丸出しで、群がって来るのが......」
「飾っている自分自身も嫌なんです。 本当は『おい、ふざけんな〜』とか普段平気で言っているのにね」
そう言うとリュウは思わず笑ってしまい、
「今回が最後だと思います。 アルテミス王国の晩餐会に参加するのは」
リュウは、その様に宣言をした。
それに対し、エリーは残念そうな表情で、
「見納めってこと? 勿体無いなあ~。 目の保養になるのに」
「他国で、絶対出ないとは言い切れないですが。 もう出ないって思っていても、数日前みたいに晩餐会に出てしまうこともありますから......」
その後エリーは、リュウが退席した後の晩餐会の様子を語るのだった。
「そうそう、リュウさんが晩餐会から抜け出した後、リイトン首相がなけなしの勇気を振り絞って、丞相のところに謝罪に行ったのよ」
「そうしたら、丞相に『もう少し早く来れば、本来謝るべき相手のリュウお嬢様が隣に居たのに......お嬢様が怖いから、居なくなったタイミングを見図って来たんだろ〜』って嫌味を言われて、大汗を掻いていたわ。 本当にタイミングの悪い人」
「連合政府の初代国家元首の座を狙っているらしいけど、このままだとノイエ国の......プロシードだっけ? あの若い軍人さんに惨敗するわね。 今回の中央捜査局のエロ事件も公表されちゃうから、足を引っ張られるし」
エリーも統一国家政府の国家元首選挙には、興味があるのだなと、リュウは思って聞いていた。
その後はエリーのビジネスの話になって、
「着飾っているリュウさんは素敵だけど、普段のラフなスタイルのリュウさんも凄く似合っていると私は思うの」
「リュウさんは、めちゃくちゃ体を鍛えているでしょ? 普通の女性用のオシャレな服装だと、筋肉質なところが目立っちゃうものね」
「一度、うちのブランドのスポーツウエアー着てみない? きっとフィットすると思うんだけど......」
その様にエリーから薦められたリュウは、
「では、また今度の時に」
と答えて、一応承諾したのだった。
「きっかけはともかく、こうしてせっかくお互い知り合いになれたのですから、また機会が有ったらお話ししましょう。 エミーナは遠くに嫁いでなかなか会う機会も作れないでしょうから、私で良ければ」
エリーに友人にならないかと誘われたリュウは、
「是非お願いします。 アルテミスとクロノスは近いですからね」
と答えて、いつの日かの再会を固く約束し、この日は別れたのだった。
その日の夜、勘違いしたままのリュウは、レイが戻ってくると、ブチギレて、問い詰め始めた。
「レイィィ......」
様子のおかしいリュウに、レイは驚く......
「リュウ様、どうしま......」
「浮気してんのか? テメエ〜〜〜」
「リュウ様、何を言って......」
結局、リュウの勘違いだと気付いて貰える迄、三十分程掛かったのだった。
「あっ......レイが事情聴取を受けて戻って来たあの時、抱きついたの私だった。 帽子被ってサングラスしてた時だよね。 ごめんレイ」
「美人女性士官っていう話だったから、つい熱くなっちゃって......」
「リュウ様、思い出すの遅すぎ......」
リュウの強い腕力で締められたレイの体は、あっちもこっちも痛みが残り......
「今日から暫くはサービスするから......本当にごめんね。 レイ」
でも、実はレイ、嬉しかったのである。
『リュウ様が、こんなに嫉妬してくれるなんて......』
内心思っていたのだった。




