第34話(付き纏い)
アルテミス王国中央捜査局捜査官に追尾されるリュウとレイ。
それに気付いた二人が取った行動は......
アルテミス王国の捜査当局に尾行される、リュウとレイ。
このまま尾行され続けると、リウ・プロクターの件が有るので不味いと判断し、ひとまず尾行を巻くことにした二人。
レイは、リュウの
深く被ったキャップ帽にサングラスを掛けた姿
を見て、
「リュウ様、その姿、格好良いですね」
と言ったところ、リュウはちょっとしたポーズを取りながら、
「そう? こういう格好もイイでしょ?」
「折角、リュウ様にもリウにもどっちにも見える姿ですから、ちょっと利用させて貰いますね。 リウのID、いま持っています?」
レイが確認すると、
「持ってるよ〜」
リュウが嬉しそうに答える。
「ひとまず、そこのホテルのレストランに入って、夕ご飯を食べますか?」
「うん、そうしよう。 尾行への嫌がらせでしょ?」
二人は歩いている途中で見つけた、如何にもカップル以外が入りにくそうな、ホテルのレストランに入店した。
尾行者2名は、
「畜生、ちょっとこのレストランは入れないな。 外で待つしかない」
と言いながら、仕方なくホテルのロビーに移動して、レストランの出入口の様子を窺っていた。
リュウとレイは、二人の距離が非常に近い特殊なカップル用の椅子に座って、ゆっくり食事を楽しみながら、
「はーい。 あ~ん」
「リュウ様に食べさせて貰えると、凄く美味しく感じます」
「レイ、私にも食べさせて」
「リュウ様、あ~ん」
「ホントだ〜。 レイに食べさせて貰うと、より美味しい〜」
尾行者が知ったら、少し頭にくるような二人だけの甘美な時間をレストランで過ごしていた二人。
小一時間経ってから、店を出る時にレイは、リュウの被っている帽子をスポーツブランドの市販品から、ノイエ国軍のキャップ型制帽に被り直させて、店の会計をしてホテルの外に出る。
そして、ホテルの玄関で客待ちしていた無人タクシーに、サッと乗り込んだので、尾行者達も慌てて後を付ける。
リュウとレイが向かったのは、ノイエ国軍が全面管理して駐屯する「ホテルLSGアルテミス」であった。
尾行者達は、敷地内にすら入ることが出来ない場所に行かれた為、地団駄を踏んで悔しがったがどうすることも出来ない。
リュウとレイは、悠々とチェックゲートを通過して、建物内に入って行く。
この時リュウは、リウ・プロクター少将として建物内に入ったのであったが、尾行者達は遠目から、レイの連れの女性にも兵士が敬礼しているのを見て、
「あの女性は、女性士官だな」
と判断していた。
そして、プロクター少将の執務室に入り、リュウは少将として直ぐに、
アルテミス王国政府と王室、アルテミス王国軍
に対して、
レイカー・アーサ大佐の長時間取り調べとその後の尾行、また取り調べの内容・方法について厳重抗議
を入れた。
レイは、
「ひとまずこれで、アルテミス王国の捜査機関も、少しは自重してくれるでしょう」
と言い、
「リュウ様、ありがとうございます」
と礼を述べた。
リュウは、
「大佐、ご苦労〜」
とワザとらしく言ってから、
「これで終われば良いけれど......」
小声で呟きながら、
『レイに関する抗議を受けたことで、執念深そうな捜査機関が、今度は私を尾行するのではないか?』
そういう予感を感じていたのであった。
尾行者達は、そのまま外で張り込んでいたが、捜査機関のトップから
「直ぐ打ち切って帰ってくるように。 君達の行動はノイエ軍に筒抜けで、プロクター少将から厳重抗議が入っている。 政府も王室も恥の上塗りだとカンカンだ。 今後は二度と筋違いの尾行をするな。 大佐は犯人の自爆テロを阻止した功労者だろ?」
との連絡が入り、捜査官達は
『国民の人気が高いプロクター少将からの抗議は不味い』
と思い、無意味な尾行を打ち切ったのだった。
しかし、
『何かがある』
勝手な思い込みで動いている、この捜査チームは、アーサ大佐以外の関係者についての捜査は継続しようとしていた......
レイは、今回の件についての報告書を軍のシステムを使って5分で作り終えると、他にも溜まっている事務仕事を処理し始めた。
リュウもプロクター少将としての仕事が有ったので、レイにわからないところを尋ねながら、事務処理をする。
大半は本国に残る第三艦隊絡みのものであったが。
2時間位経ったところで、レイが
「リュウ様、そろそろホテルセレーネーに戻りましょうか? ここでは落ち着けないでしょうから」
軍の借上げホテルでは、ずっとプロクター少将を演じ続けねばならず、気疲れすることから、
「そうだね。 もう尾行者も居ないだろうし」
レイの意見に賛同し、執務室の片付けをしてから、軍の拠点であるホテルLSGアルテミスより、滞在先ホテルへと移動したのであった。
翌日、レイは軍から呼び出しが入ったので、朝からホテルLSGアルテミスに出掛けて行った。
出掛ける際リュウに、
「今日はホテルで大人しくしていて下さいね。 まだアルテミス王国の捜査官達が、動いている可能性が有りますから」
と言い残した。
リュウは、大人しくホテル内のジムでトレーニングをしていたが、流石に暇をもて余し、
『もしかしたら、私が動いたら、捜査官の動きがわかるかも』
『エミーナのところに行ってみようかな?』
そんなイタズラ心が芽生えてしまったので、少し相手の動きを探って見ることにした。
いつものスポーティーなスタイルで、長い髪だけを簡単に束ね、ホテルを出るリュウ。
軽快に歩きながら、時々ワザと『達磨さんが転んだ』を繰り返してみる。
すると、怪しい男達が、何となく浮かび上がってきた。
『やっぱり私、監視されているんだ』
改めて捜査官達の動きが確認出来たので、シールド装置と撮影妨害装置をMAXにしてから、わざとランニングに切り替え、エミーナの滞在する「アルテミス・クメルホテル」に向かう。
一方、アルテミス王国の捜査機関の捜査官達。
アーサ大佐と一緒に過ごしている、謎の美女の存在に辿り着いていた。
『この女性は怪しい』
彼等のこの様な決め付けは、必ずしも間違った判断と言い切れないが、ベクトルが逆を向いたままの捜査が続く。
捜査官数名で見張っていたところ、ホテルからこの女性が出てきたので、まず、自動追跡装置を使おうとしたが、リュウが妨害装置を使っている為、全く役に立たず、結局古典的な人海戦術で追尾するしか方法が無くなっていた。
ここまで、アルテミス王国政府中央捜査局が捜査方針を間違った方向に向け続けている最大の理由は、
『シヴァ丞相や西上国の関係者が、捜査官による事情聴取に一切応じないこと』
にあった。
その為、
『今回のテロには何か裏がある』
と勝手に思い込んで、事件のシナリオの間違った筋読みをして、それに基づいて捜査を進めているので、真実からどんどん離れていっているのだが、当人等はそう思っていない。
だから、追跡や追尾がエスカレートしている状況なのだ。
リュウの尾行者達は、リュウの鍛えられた体力に、当然ついて行くことが出来ず、息を切らせて追い掛けていたが、当然こんな状況ではバレバレである。
とある場所で、ついにリュウに待ち伏せされてしまった。
「あの〜、貴方がた私のストーカーですか?」
「もう、警察呼びましたので」
そう言われ、焦りを覚える捜査官2名。
しかもリュウが呼んだ警察というのは、アルテミス王国の警察ではなく、西上国軍の警備隊だったので、直ぐに大騒ぎとなった。
「完全にしてヤラれた」
捜査官2名は気付いたが、手遅れであった。
リュウに待ち伏せされたこの場所は、西上国所有の広大な公園内で、治外法権区域だったのだ。
既に到着していた西上国軍の警備関係者は、捜査官2名を取り囲み、
『丞相閣下のご友人を追尾し、ストーカー行為するとは言語道断』
軍事用の重火器の銃口を向けられた2名の捜査官は抵抗出来ないまま確保され、有無も言わさず西上国軍の施設へ連行されてしまったのだ。
リュウは、
「私も一緒に行きますね」
西上国軍の警備責任者に申し出て、逆襲の取り調べに立ち会うことにした。
確保された捜査官2名が連れて行かれた場所は、西上国が借上げているアルテミス・クメルホテルの一室。
2名は、通信手段も取り上げられて、既にお手上げ状態。
「どうして、民間人、しかも他国人の女性を追尾していたのか」
厳しく追及される始末。
「このままだと国際問題に発展するだろう」
とまで脅されてしまい、仕方なく
『アルテミス王国政府中央捜査局の捜査官』
だと身分を白状し、
「テロ事件の関係者として尾行していた」
と告白せざるを得なくなった。
リュウが追尾される理由が全く理解出来ない、西上国軍の捜査官は、
「どうして、今回狙われた丞相閣下のご友人の女性が、テロ捜査の対象なのだ。 しかも丞相夫人のご親友だぞ」
逆に捜査官達は、自分達が尾行していた女性が何者なのかを教わることとなった。
リュウが来ていると知ったエミーナが、リュウのところにやって来たが、昨日のテロで関係者として捜査されていると聞き驚いた。
「だって、リュウちゃんがシールド発生装置使って無かったら、何人も死んでた訳じゃない? なんで」
周囲に誰も居ないことを確認してから、リュウに疑問をぶつけるエミーナ。
リュウは、
「シールドのことは秘密なの。 あの場に私が居たこと自体が秘密だから」
とエミーナに耳打ちすると、
「そうだったね。 リウの関係でね~」
少し残念そうに呟くと、細かい説明を受けなくても、理由を理解した。
そして、
「リュウは複雑で秘密が多いから、大変ね〜」
エミーナはこの騒動についての感想を漏らすのだった。
取り調べを受けているアルテミス王国の捜査官2名からも、ガラス窓越しだが、隣室で丞相夫人のエミーナと先程の尾行した美女が親しげに話している様子が見えた。
それを見て漸く、
『自分達の捜査方針が間違っているのではないか?』
と疑問を持ち始めた。
暫くして、准将の階級を付けた西上国の軍人が、リュウと一緒に、取り調べを受けている捜査官2名の部屋に入って来た。
「私は、丞相閣下の警備室長フォルラン准将です」
と自己紹介し、
「貴方がたが、こちらの女性を昨日のテロの関係者として追尾していたことが原因で、我が軍の警備隊に確保され、ここに連れて来られたと聞いていますが、間違いないですか?」
と確認する。
捜査官達は、
「はい、その通りです」
悪びれずに答えた。
「どうして、テロ事件の関係者だと決め付けているのですか?」
と准将が畳み掛ける。
すると、捜査官達は、口ごもってハッキリとした理由を言うことが出来なかった。
「貴方がたの間違いは、ノイエ軍のレイカー・アーサ大佐を疑ったことに始まっているのです」
准将は厳しく指摘し、
「アーサ大佐は、プロクター少将の幕僚ですが、昨日の式典の開始直前に、テロ情報を父親から入手した。 彼の父上は私も知っていますが、我が国の元諜報員です」
と裏事情を打ち明けた。
「内容は、ごく単純なテロ情報です。 それを貴方がたは曲解している」
「アーサ大佐は、丞相閣下とも知己の方です。 時間が切迫していたので、ひとまず丞相と少将の関係者に情報を伝えて、当人は犯人を探しに行った」
「そうしたら、偶然犯行を目撃し、二次被害を避ける為射殺した。 ただそれだけのことです」
准将は、テロの発生状況を明確に説明し、アルテミス王国政府中央捜査局は、捜査の方向を誤っていると指摘したのだった。
「丞相閣下は忙しく、貴方達の事情聴取を受けている暇はありません。 我々も同様です。 丞相閣下は明後日帰国されるので、今その準備で忙しいですから」
「ひとまず、貴方達を拘束します。 捜査局の然るべき地位の方が引受人として来られる迄我慢してください」
と告げた。
「アーゼル様。 彼等に言っておくことがありますか?」
准将はリュウに確認した。
捜査官達は、『アーゼル』と聞いて非常に驚いた。
『これは大変不味いことをしてしまったのでは無いのか』
と。
リュウは、
「誰にでも、秘密の一つや二つは有るのが普通だと思います」
「お二方にも、友人や家族が知らない、知られたくない、あんなことやこんなこと、あるでしょ?」
「私も同じです。 アーゼル家の者だとは、貴方がたに知られたくなかったですからね」
「アーサ大佐も同様です。家族のことや私との関係は公にしたくないのです」
「今日帰れるか明日帰れるかは、お二方の上司次第ですね。 ストーカー行為に準じる様な動きをしていたのですから......」
そこまで話したところで、准将に目配せをした。
准将は、
「そういうことで、我が国の法、しかもストーカー関連法違反容疑という不名誉な罪で、貴方がた2名を暫くこの部屋で拘禁する」
「丞相閣下や我々をテロの陰謀者だと疑ったことを反省してください」
そう告げると、准将とリュウは、鍵を掛けて部屋を出て行ったのであった。
部屋を出てからリュウは、
「フォルラン准将、色々お手数おかけします」
とお礼を言うと、准将は
「こちらこそ、昨日は丞相閣下が負傷されないように、身を盾にして庇って頂き、御礼の申し上げようもありません」
「怪我をされたと聞きましたが、大丈夫なのですか?」
逆に御礼の言葉を返された。
「怪我は、レイ......アーサ大佐に直ぐ処置をしてもらったので、もう消えかかっています。 心配して頂きありがとうございます」
その様に答えると准将は、
「先日の待合室での出来事、聞いておりますよ。 アーサ大佐のことはレイで通じますので」
と笑顔で言われてしまい、リュウは少し顔を赤らめてしまうのだった。




