第30話(リュウと御祖父様)
リュウは、十年ぶりに祖父ラーナベルト・アーゼルと会話をする。
リュウとリウ、2つの人格が作り出された原因となった、苦手な祖父との会話は......
次の日の朝、一緒に寝ていたリュウの
「あ~」
という大声で起きたレイ。
「リュウ様、朝から何騒いでいるのですか?」
レイが尋ねたところ、リュウは、
「レイ。 もし祖父様に、『私とレイが一緒になる』って言ったら、殺されないかな。 大丈夫?」
と確認してきた。
「そんなこと、契約書に書いて無いから、大丈夫ですよ」
何だか、ピントのボケた回答をしたレイ。
「そうなんだ〜。 じゃないよ。 本当に大丈夫なの?」
重ねて尋ねると、
「この仕事引き受けた時に、正直に話してあります。 リュウ様に憧れてますって」
「だから、大丈夫ですよ」
何だか大丈夫っぽく無い返事に、少し焦るリュウ。
「今日は、その祖父様と話をしなければならないから、超憂鬱だなあ」
西上国から買い付け契約をした中古艦1個艦隊分の融資について、御祖父様と話し合わなければならないのだ。
金額は、だいぶ値引かせたとはいえ、約5兆ノイエドルという巨額にのぼる。
ノイエ国からは事前に、
ある程度値引いてくれれば、国債と銀行融資で調達する
と言われていたが、戦後復興の予算難で、一度は2年後に見送っていた話なので、流れる可能性もゼロでは無い。
そこで、アーゼル財閥を融資に噛ませて、仮契約に漕ぎつけたものが流れないように、万全にしておきたいというのが、リュウの希望なのだ。
ただリュウは、御祖父様が超苦手で、事前にレイから総帥(御祖父様)に話を付けて貰ったところ、
久しぶりにリュウから直接聞きたい
という回答であって、融資自体には賛成していたとのことであった。
「そりゃあ、担保の要らない、絶対回収出来る融資先だもの。 反対するわけ無いじゃない」
総帥の回答に、リュウは、やや怒り気味。
「折角、財閥も利益取れるようにと絡ませているんだから、素直に賛成しろって言うんだよ」
「こっちは話をしたく無いっていうのに......」
言いたい放題のリュウ。
レイは、リウから複雑な幼少時代のことや暗い翳があることを聞いていたので、何も言えずに黙ったままであった。
暫くして、総帥と話す決心をしたリュウ。
「それじゃあ、レイ。 お願いね」
と言い、気持ちを切り替えて、総帥との直接対話の手続きをレイに始めて貰ったのである。
スクリーンに出た総帥(御祖父様)。
「直接話すのは久しぶりだなレイカー。 色々とリュウが迷惑を掛けて済まない」
「いえ、総帥。 私が進んで引き受けたことですので、一つも迷惑だと思っておりません」
「そうだったな。 お前はリュウに好意を持っているから、リュウの護りを任せているのだからな」
「はい。 本当に光栄です」
「それで、じゃじゃ馬は、お前と一緒になるのかな?」
「それは、御本人の口から聞いて頂かないと......」
「わかった。 そろそろ代わってくれるか?」
「わかりました。 暫くお待ち下さい」
これで、総帥とレイの会話は終了した。
「リュウ様、準備はよろしいですか?」
リュウは今のやり取りを聞き、ちょっとムッとしている。
「レイ。 いいよ」
リュウは絞り出す様に言葉を発して、交代をした。
「御祖父様、お久ぶりです」
「リュウか。 随分久しぶりだな」
「仕方ないでしょ? 人格が割れて複雑な状態なんだから」
「それはわかっている。 お前が子供の頃のことは、色々とすまなかったと今では思っている」
最初の会話は、ジャブの応酬で始まる。
そして、いよいよ本題に入る。
「融資の件は?」
「それはOKだ。 銀行部門に回してある」
「金額と条件は?」
「2兆ノイエドルを利率2.1%で5年間という条件でだ」
「それなら政府も飲むでしょう。 御祖父様、ありがとう」
「こちらこそ、礼を言う。 ありがとうな」
総帥から、融資の許可はアッサリと出た。
国への貸付だから損する可能性が無く、これは至極当然のことであった。
「功績はレイに付けておいて。 私はそういうの要らないから」
「わかった。 お前の希望通りにしよう」
ここで、リュウは会話を終わりにしようとしたが、
「リュウ、言い忘れている大事なことが有るんじゃないのか?」
「言い忘れ? 大事?」
「そうだ」
総帥にそう尋ねられても、リュウに心当たりは無い。
「無いと思うけど......」
リュウが困った表情で返事をすると、
「それは、レイカーのことだ」
総帥の方からレイの話題を振られてしまったのだった。
「それか~。 超言いにくいんだけど......」
「私はお前の好きにしていいと、あの手術の後言ったよな? だから、二言は無い」
御祖父様から、11歳当時の約束?を言われて、覚悟を決める。
「わかったよ~。 私はレイカーと一緒に生きて行くつもり」
「だから、レイカーにその許可を出してあげて!」
リュウは、ダメ元で交際の許可を思い切って言ってみた。
すると、
「もう出してあるぞ。 レイカーに許可を」
「あとはリュウ。 お前がどうするかだけだ」
「えっ......」
「レイカーは私のエージェントの一人だ。 雇い主なのだから、連絡は常に貰っているからな」
リュウの懸念は、杞憂だったのだ。
「......」
「それを話したかったから、今日この席を設けた」
「リュウのレイカーへの気持ち、よくわかった」
「それじゃあな」
総帥は表情を一切変えること無くそう言うと、連絡が切れたのだった。
拍子抜けしたリュウ。
そして、レイを睨む。
「こいつ〜」
と言った後、本気で襲いかかるのだった。
リュウは、力がレイより少し強いので、レイはヤラレ放題......
そのうち、
「ヤバイ、リュウ様。 それ以上は......」
と悲鳴っぽい声を上げるレイ。
リュウは、めちゃくちゃ仕置きをした......
約半日後。
「道理でおかしいと思ったんだよね」
「こっちは心配していたのに、契約書に殺されると書いてないとか、正直に話してあるとかさ。 ハッキリ言わないんだもん......」
「一緒に暮らす許可貰っているんだったらと、それぐらい先に言っといてくれてもイイのに......」
リュウは、嬉しそうながらも、まだレイを責め続ける。
「リュウ様を少し驚かせようと思って黙っていました。 申し訳なかったです」
レイは答えたものの、下半身の痛みで謝罪が雑な感じに......
「お仕置きって言っても、レイを快楽の世界に連れて行っただけだから、お仕置きになっていないしな~」
と言い、リュウはレイの逝きまくった姿を散々見れて、
『してやったり』
という風にニヤリと、半笑いするのだった。
翌日、この日リュウの予定は無かった。
天候も悪く、ホテル内からは出ないで、トレーニングばかりをして過ごしていた。
レイは、部屋で何かをしていたが、尋ねても詳しく教えてくれなかった。
覗き込んでも、何をしているのか?わからない。
ただ、総帥と何かやり取りをしていたので、エージェントとしての仕事だったようだ。
レイからは、
「リュウ様、昨日のようなことは少し困ります。 『嬉しくないのか?』と尋ねられれば、本音は嬉しいです。 リュウ様にしてもらえるのですから......」
「でも、程々にお願いします。 あそこまで長時間されると、その、ちょっと......」
少し恥ずかしそうにお願いされたので、
「調子に乗り過ぎちゃった、ごめんね。 でもレイかわいい」
思わずそう言いながら、抱き着いてしまうリュウであった。
翌々日、リュウがリウを意識して演じる初めての日。
今迄は、殆ど逆だったので、朝から緊張気味であった。
「レイ、どうかな?」
リュウのリウっぷりを確認してもらう。
「誰も疑いませんよ」
レイは、にこやかに答える。
『当然のことなのだけど......』
とレイは内心思っていた。
同一人物なのだから、変に演じる必要は無いのだ。
この日は、ノイエ国や軍の関係者と会わねばならない。
西上国からの購入仮契約をした中古の1個艦隊について、その資金繰りなどを、協議して決定に持っていく必要があるからだ。
「体調不良の言い訳も、そろそろ限界です。 記憶障害に移行していきましょう」
レイがリュウに提案し、リュウも『そうしよう』と頷くのだった。
「今回の会合は、私が基本的に話を行いますので、リュウ様はリウとして、横で調子悪そうにしながら見ていて下されば、それで大丈夫ですから」
レイは、予定と段取りを説明した。
そして、準備が出来たところでレイが
「それでは、向かいましょう」
出発の合図をしたので、
「はーい」
とリュウは返事をして、ホテルの部屋を出る。
交渉会場に向かう途中も、気を遣わなければならない。
何と言っても、ここはアルテミス王国。
リウを英雄視している国なのだから。
交渉会場がホテルと近いので、歩いて向かったのだが、リュウは、すれ違う人に好奇の目で見られていることに気付いた。
『ここでは、リウを見る目が本当に違うんだな~』
今更ながら、そう実感する。
流石に、街全体が警備対象となっているので、駆け寄って来るような人は誰も居ないが、アルテミス王国軍の軍人や警備官迄もが、リウを崇めるような視線で見ている。
『この国で、リウは本当に頑張って来たんだな~』
と、改めてリュウは思った。
同一人物なのに......何だか不思議な感じだ。
軍服を来たレイが、周囲に目を配っている。
『今更ながら、レイ軍服似合うなあ~』
リュウはそんなことを考えていると、会場に到着。
ノイエ国軍の士官が、リュウとレイを出迎えてきた。
「少将閣下、大佐殿。 お待ち申し上げておりました」
「連絡下されば、迎えを手配しましたのに......」
その様に挨拶をされたので、大佐が、
「少将閣下の具合が優れないので、気分転換で少し歩いてみたのです。 配慮ありがとう」
と返答すると、その士官は、
「さあ、こちらです」
交渉会場となる場所へと案内を始めるのだった。
通された席で少し待っていると、政府の財務担当者と軍の調達担当者がやって来た。
お互い挨拶をして席に着く。
全員が揃ったところで、
「それでは、始めましょうか」
とノイエ国軍参謀本部調達部門の課長オットー少将が開始の挨拶をすると、会合は始まった。
先ず、オットー少将は、レイカー・アーサ大佐に軍艦購入交渉の進捗状況について、詳細な報告を求めた。
そこでレイは、
「前回の購入については、大きな被害の直後でしたので、政府の方で交渉を行い、西上国のほぼ言い値で購入されたと聞き及んでいます」
「しかし、正直なところ中古軍艦1個艦隊を7兆ノイエドルを超えた価格でというのは、少し高過ぎると感じられたことでしょう」
「その為、今回はこちらにおられるプロクター少将のコネクションから、エージェントを使って、事前に価格交渉させて頂きました」
「その結果、前回少し高かった分も差し引いて頂き、5兆ノイエドルで仮契約をしております」
「資金調達についてですが、我が国は帝國軍による侵略戦争の被害が大きく、復興事業に多くの予算が必要です」
「本来は2個艦隊一括購入した方が安く購入出来たのでしょうが、1個艦隊ずつバラバラに購入する方針となっていました」
「しかし、今直ぐ帝國軍が再侵攻してくる可能性はほぼ無いとは言え、宇宙海賊対策や、通常航路の警備にも一定数の艦隊は必要です」
「ある程度の値引きが得られるのなら、残りも早目に購入すべきだと方針を転換して、その結果、今回の交渉に至った訳です」
レイはここまで一気に説明すると、テーブルに置いてある飲み物を一口含んで、一息入れてみせた。
続けて、
「購入資金は、国債の発行はせず、民間の協調融資で行う方針です」
「既に、次の通り融資の確約を頂いています。
アーゼル財閥系3行 1.5兆ノイエドル
LSグループ系3行 1兆ノイエドル
SAVグループ 1兆ノイエドル
エーテル銀行 5000億ノイエドル
ディアナ銀行 5000億ノイエドル
ASJグループ 5000億ノイエドル
の予定で、合計5兆ノイエドルとなります。 利率は1.8%で当初の融資期間は五年。 必要に応じて延長可能です。」
アーサ大佐はこの様に、交渉の状況を説明したのであった。
これを聞いてリュウは驚いた。
『一昨日の話しと違う。 LSグループは、アーゼル財閥の最大のライバル企業グループ。 SAVとエーテルは西上国の金融グループ。 ディアナ銀行とASJグループはアルテミス王国の企業じゃない? こんな組み合わせでの協調融資については、何も聞いていないし、一体どうなっているの?』
そう考えながら、レイを睨みつける。
リュウの鋭い視線に気付き、ちょっとビビったものの、アーサ大佐は説明を続ける。
「今回は、復興事業会議中の交渉でしたので、各国の金融機関の参加を頂く形となっています。 協調して復興に協力するという意味合いからです。 利率も通常2.1%前後のところを、下げて頂いております」
と言って、報告を終了した。
これを聞いた、軍幹部と政府の財務担当者達は、一様に
「これは、かなりの好条件だ。 2年後だと、値段も利率も高くなってしまうだろう。 今回正式契約すべきだ」
との意見であった。
こうして意見は纏まり、本国に報告後、仮契約は本契約へと進む見込みになった。
そして会合終了後、オットー少将がプロクター少将とアーサ大佐のところに歩みより、
「少将も大佐もご苦労様でした。 これ程良い条件だとは思いもよりませんでした。 ところで少将、具合は如何ですか?」
と尋ねてきたので、リュウは
「記憶障害が酷く有りまして......」
「ひとまず、結論が出て良かったです」
そう答えると、オットー少将が、
「それは良くないですなあ。 無理せず休まれた方が......」
と勧めたので、
「そうさせて頂きます。 ご配慮ありがとうございます」
とリュウは返事をした。
「大佐。 ひとまずプロクター少将をホテルの部屋へ送ってはどうですか? まだ少し話がありますから、直ぐ戻って来てほしいですが」
レイはその様に少将から言われたのだった。
リュウは、レイと一旦会場をあとにし、一緒にホテルの部屋に戻ったが、不機嫌でずっと黙ったままだった。
そして、戻るなりリュウはレイに、いきなり抱きついて、そのままベッドに強引に押し倒したが、怖い顔をして言った。
「レイ......」
「さっきの協調融資、一昨日と全然話しが違うじゃない?」
レイは、
「そうだね~」
と言いながら、
『ごめんなさい』
という表情も見せる。
「説明してもらおうか? それまで部屋から出さないから」
鬼の形相のリュウ。
するとレイは、急に笑い始めた。
『私が怖くて、おかしくなったの?』
リュウはそんなことを思ったが、そんな感じでも無かったので、一旦レイを放すと、
「リュウ様。 オットー少将と話が終わったらキチンと説明しますので、先に用件を済ませてきてよろしいでしょうか?」
「私が戻ってきて、説明したら、シヴァ丞相に会いに行きますので、リュウ様に戻っていて下さいね」
意外にも、冷静に話をされたので、リュウは、
「はい」
と素直に返事をして、結局レイを見送ったのであった。
その後レイは1時間程して、ホテルに戻って来た。
部屋に入るなり、リュウの口をレイの唇で塞ぐ。
そして、
「リュウ、ただいま。 あ~疲れた」
レイにしたら珍しいやや粗野なセリフを吐いたのだった。
リュウを見つめ続けるレイ。
『何だか、いつもと違うレイ』
そう感じて、少しドキマギしていると、
「こういう感じもイイね。 何だか普通だけど、新鮮」
レイは嬉しそうに話す。
リュウは、いつものレイと異なる姿を見て、不思議そうな顔をしていると、
「リュウ様は、勘違いしていることが一つあります」
「えっ」
「私は総帥のエージェントですが、それは諜報員の意味だけではありません。 交渉人の意味の方も有るのです」
いきなり説明を始めたレイ。
「今回の協調融資は、総帥の指示です」
「一昨日の時点では、協調融資に加わる金融機関が1グループ少なかったので、財閥の方で2兆ノイエドル融資の予定でした」
「昨日、私がこの部屋で行なっていた作業は、融資の再調整です。 アルテミス王国のASJグループが新たに加わったので」
先程のリュウの求めに応じて、経緯を話す。
「あと、私の両親が西上国の諜報員だった話、覚えてますか?」
「ちゃんと聞いてたよ~」
「それなら結構です。 両親の関係もあって、私はシヴァ丞相と知り合いです。 軍人のレイカー・アーサ大佐ではなく、総帥の交渉人としてのレイカー・アーサとしてですが」
「シヴァ丞相からは、今回の値引き交渉の条件の一つとして、融資に西上国の金融グループが関与出来るようにすることを求められていました」
「だから、そうなるように、交渉して調整したのです。 財閥や政府と」
「今回の大幅値引きは、勿論リュウ様の功績です。 シヴァ丞相は下交渉で15%引きの提示でした。 しかし総帥や私もリュウ様とは異なるやり方で、裏交渉をして、動いていたということになります」
「大きなお金が動く時には、色々な人の思惑が入るのです。 それを察知し、リュウ様の為になるように調整する。 これも私の命じられている任務の一つです」
レイは、一つ一つ丁寧に説明してくれた。
それを聞いてリュウは、
「私はまだまだ、お嬢様だったのね。 知らないところでみんなが動いて支えてくれているのに......」
「リウの時もきっとそうだった。 そういうことにリウは気付いていたのかしら......」
そう思うと、何だか自然と涙が出てきてしまった。
レイはそれを見て、
「リュウ様、泣かないで下さい。 これから丞相と会わねばならないのですよ」
そう優しく言われても、
「レイ、ありがとう。 私はまだまだ子供ね」
と、余計に涙が止まらなくなるリュウなのであった。
1ノイエドル=100円位と考えて下さい




