第28話(買付交渉)
久しぶりにシヴァ丞相と交渉をするリュウ・アーゼル。
それは、かつてと変わらぬ姿であったのか?
アルテミス王国に到着して3日目。
リウが消えたということで、マスコミとかの直撃取材等を避ける為に、
念の為、ホテルを変えよう
ということに決めて、チェックアウトで料金の決済をしようとしたところで、いきなり試練がやって来た。
リュウが決済しようとしたら、生体認証は当然パス出来るものの、暗証番号が......
「レイ、ちょっと」
小声で呼ぶリュウ。
そして、
「リウのカードの暗証番号、分からない......」
と嘆く姿。
「レイ、立替出来る? 結構高いけど......」
リュウが尋ねてきた。
「大丈夫だと思いますが......」
レイは答えたものの、値段を見て思わず、
「ゲっ」
と声に出てしまう程びっくり!
5000アルテミスマルクだったのだ。
『リウの奴、なんで今回に限りこんな高い部屋を......』と思ったレイ。
なんと、たった2泊で大佐の1か月以上の給料が飛ぶ金額......
『そうか。 リュウ様の気持ちを知ってたから、気を使ったのか〜』
と気付き、
「リュウ様、ここは支払っておきます」
結局、作り笑いをしながら、にこやかに返事をして、レイは支払いを済ませた。
「リュウ様。 今後困らないように、私の方で手続きをしますから、本人確認はリュウ様の方でキチンとやって下さいね」
と言い、レイはリウの所持品を確認してから、あっちこっちに連絡をとって、手続きを始めた。
その様子を見ていたリュウ。
「レイ、カッコイイ」
と意外にも単純に感動している様子。
レイもリュウが何だか感動しているのには気付いていたが、とりあえず無視して、最後はリュウに生体認証させて、あっという間に変更手続きを終わらせたのであった。
「リュウ様、終わりま......」
レイが言いかけたところで、くちびるを重ねられ、
「助かった~ ありがとう」
と、満面の笑み。
そして、
「今のは、サービス」
と超ニコニコ。
しかし、ここは超大型ホテルのロビーという公衆の面前。
しかも周囲に居た人達に、少し羨ましそうに見られていたので、
「リュウ様、あまり目立つことをしないで下さい」
レイは少し俯いて、恥ずかしそうに言うのであった。
リュウ・アーゼルは、母親の遺産であるアーゼル財閥の持ち分2%を保有している。
リュウの収入のほぼ全ては、この持ち分に対する配当だけであるが、相続して18年が経っているので、相当プールされている。
現在も、総帥直属の諜報員を兼ねているレイには、そのぐらいの知識はあった。
「キチンと手続きしておけば、リュウ様が金銭的に困ることはあり得ない」
と思い、直ぐ実行したのだ。
プールされているお金へのアクセスが回復したリュウは、
「レイ、ホテル代返すよ」
と言うものの、レイは、
「大丈夫ですよ。 私もただの軍人では無く、財閥のエージェントも兼ねてますから」
と断る理由をキチンと説明した。
「そんなに、エージェントの給料良いの?」
何だか興味を持った様子。
「金額は、リュウ様にも秘密です」
と言って、レイは答えなかったところ、リュウは急にスネだした。
「チェっ、教えてくれたっていいのに......」
ブツクサ文句を言い始める始末。
「それじゃあ、ベッドに入ったら、教えますよ。 ここじゃあ、なんですから」
拗ね始めると長くなりそうな感じがしたので、適当にあしらったところ、
「はーい」
と急に機嫌が直ったので、レイは一安心すると共に
『夜が怖いかも』
と少し不安を感じるのであった......
「さてと」
今日のリュウは気合が入っている。
「昨日も『お嬢、お嬢』って言いやがったアイツ等に、目にもの見せてくれてやる」
と言いながら、
「レイ、久しぶりのリュウ・アーゼルの初戦。 キチンと目に焼き付けておいてね」
レイには不気味なくらい優しい口調で宣言して、西上国との交渉会場へ向けて、颯爽と歩き始めるリュウであった。
リュウ・アーゼルが、西上国と交渉する会場のホテルに到着すると、西上国の政府・軍関係者が一様にリュウの方を注目する。
「あの人が......」
「十年位前、凄かったよなあ〜」
「久しぶりの復帰らしいぞ〜」
「美貌も、全く変わってない......」
ヒソヒソと噂する声が聞こえてくる。
『やっぱり、西上国でのリュウ様の評価はスゴイなあ~』
かつて青年の頃、レイが強烈に憧れた『月の女神』の威光は、十年の年月を経ても、衰えていないようだ。
リュウは、レイだけを連れて、交渉の席へ。
『一体、何の交渉に来たのだろう』
内容を明かされていないレイ。
暫くすると、シヴァ丞相とヒエン長官率いる交渉団が現れた。
リュウはレイと共に立ち上がり、一礼をして、
「お久しぶりです、丞相閣下、長官閣下」
昨日会っていたことを完全に忘れたかのような雰囲気で、堂々と話し始めるリュウ。
丞相と長官も、
「お久しぶりです。 お体の具合は大丈夫ですか? 長い間体調を崩されていたとお聞きしましたので......お手柔らかにお願いします」
と挨拶を返し、交渉がスタートした。
「今回は、ノイエ国のリウ・プロクター少将の依頼で、西上国がノイエ国に売却予定の残りの旧型艦1個艦隊分の買付に関する交渉をさせて頂きます」
とリュウが目的を述べて、交渉が始まった。
リュウはいきなり、先日ノイエ国が購入した代金から3割カットした総額を呈示した。
驚くシヴァ丞相とヒエン国務長官。
「いやあ、その価格ではちょっと......」
早速交渉打ち切りかという雰囲気に。
リュウがここで、
「丞相閣下。 私は新型艦2個艦隊分の交渉で、総額から15%も値引いて差し上げましたよね? あの後、アーゼル財閥総帥から、こっぴどく怒られてしまいました。 値引し過ぎだと」
「今回は、旧型、それも二十年落ち以上の艦ばかりじゃないですか?」
と厳しい指摘をすると、丞相は
「流石、リュウお嬢......様でらっしゃる。 厳しいことを言われちゃいましたなあ~ どうだ長官......」
ちょっと逃げ腰で、盟友に話しを振る丞相。
長官も、
「リュウお嬢......様の言われることも一理有りますが、その金額はちょっと......」
とかなり渋い様子。
側近の計算し直した金額を見てから長官は、
「リュウお嬢......様に、新型艦では無理言った金額で呑んでいただき、その結果、帝國軍に大きな損害を与え、追い払うことが出来たという恩も勿論感じております」
「ですから、あの時値引いて頂いた割引率でどうでしょうか?」
と、交渉下手のノイエ国が購入した総額の15%引きの金額を呈示した。
リュウは、それを見て、
「うふふ、やっぱり値引出来るじゃないですか? ノイエ国は足元を見られて高く買ってしまったのかしらね〜? レイ」
レイはリウに同意を求められ、どうしたものかと返事に困っていると、
「私の隣に居る者は、ノイエ国のアーサ大佐と申す者です」
「今回、体調を崩して来ることが出来ないプロクター少将の代理の方です」
「プロクター少将から何か言伝て、有りましたか?」
とリュウから予定通り話を振られたので、
「『こちらの呈示額を呑んで頂けたら、新型艦隊の最後の欠けているピースを提供させて頂く予定です』とリウが言っておりました」
これも予定通りのセリフであったが、レイは意味深な言い方で。丞相と長官に申し上げたのであった。
すると、顔色を変えた丞相と長官。
軍官僚も慌てて動き出す。
レイは、
「最新の人工頭脳技術の提供を仄めかした効果は、スゴイなあ」
と、その急な動きを見ながら実感するのだった。
そして、シヴァ丞相が、
「リュウお嬢......様、少し時間を頂けますか?」
ひとこと断りを入れてから、長官や国の交渉団、軍部関係者と一緒にヒソヒソと話し合いを始める。
少し経って、話しが纏まったようで、丞相が
「いやあ、リュウお嬢......様は、十年経っても交渉上手でいらっしゃる。 30%引きはちょっと厳し過ぎるので、もう少し割引率を下げて頂けたら、それで交渉成立とさせて頂きましょう」
と自ら値下げを提案してきた。
そこでリュウは、
「それでは、私のことを『リュウお嬢』と略して呼ぶことを今後一切止めると、丞相閣下と長官閣下、それにここに居ないもう一人のお方の、三英全員がお約束して頂けるのであれば、28%引きの総額に変更致しますが、如何でしょうか?」
と言ったので、レイは思わず笑ってしまった。
『結構、根に持っていたんだな、あの略し方に』
丞相と長官はびっくりした顔をしたが、
「今後、そのような略した失礼な言い方を控えさせて頂きますので、どうでしょうか?」
丞相が超渋い表情で約束してきたので、最終的にノイエ国が前回買った総額の27%引きで決着した。
交渉が終わって、丞相がリュウのところに来て交渉妥結の挨拶と新技術提供の確認をしにきた。
そこで、リュウは、
「丞相、昨日言いましたよね? あの略し方嫌だと」
キツい言い方で、相変わらずこだわっていたが、
「最初からリュウ殿とか、アーゼル殿だったら25%引きの予定でしたよ」
と教えて、益々翻弄するのだった。
購入費用は、契約書を交わした後、代金はリュウ様や財閥側が立て替えて、ノイエ国に艦隊を引き渡すらしい。
引き渡しの関係などは、レイが調整することになった。
「無理な理由付けて、レイをアルテミス王国に連れて来ちゃったんだから、少しは功績を立てさせて帰れるようにしないとね」
リュウは笑顔で言い、
「さて、私に気を遣ってくれて姿が消滅しちゃったリウの分まで頑張らないと」
気合を入れ直したリュウであった。
予定より、交渉が早く終わったので、契約についての細部を詰めてから、今日から宿泊するホテル探しをすることになった。
しかし、三国の関係者が大量に惑星アルテミスに来ている上、一部のホテルは帝國軍の攻撃で破壊され、営業してないことから、なかなか空きが見つからなかった。
その為、仕方なく、昨日特別ルームを借りた
最高級ホテル「セレーネー」の小さいスイートルーム
を、リュウ様のアーゼル姓パワーで無理矢理予約したのだった。
「あ~あ。 また祖父様パワー借りちまった」
「気分ワル〜」
文句を言って不満気なリュウ。
「そこそこのホテルで十分なのに......」
「私のポリシーに反する〜」
といつまでも愚痴るので、
「リュウ様。 リウが消えた関係もあるから、ある程度のところを選ぶのは致し方ないでしょ?」
レイが苦言を呈すると、
「レイに払ってもらおうかな? この部屋二ヶ月分だと宿泊料はレイの年収ぐらいだろうし......」
諜報員の年収を予想しながら喋るリュウは、ちょっと嬉しそうな様子であった。
1アルテミスマルク=120円位だと考えて下さい




