第25話(副司令官の選定とリュウの出現)
人材難のノイエ軍。
リウ・プロクター少将も艦隊副司令官を見つけるのに苦労していた。
リュウへの憧憬。
レイの想いがリュウを出現させてしまう......
の2本立て
リウが率いる第三艦隊の副司令官人事は、難航していた。
大戦の戦死者が多く、准将クラスの将官が極めて少なくなっている影響で、候補者が居ないのだ。
本来、艦隊参謀長も准将の中から任命すべきだったのだが、人材不足で、近々准将への昇任が見込まれるレイカー・アーサ大佐を艦隊参謀長に指名したくらいである。
「レイ、誰か良い人知らない? 副司令官に適任の」
リウ自身、全く心当たりが無くて困っている様子。
「A......、B......、C......」
と、ABC順に名前を言いながら、思い当たる人がいないか、考えている状態。
レイは、そんなリウの姿をみて
『リウって、ちょっとお馬鹿な、かわいいことするんだよね』
内心そう思ったものの、そういうやり方では見つかるはずも無く、流石に少し呆れて、
「リウ。 そんなことでは、ずっと決まりませんよ。 私の心当たりで良いのなら、名前を出しますから、人事ファイルで確認して下さい」
と言って、リウの端末に候補リストを送ったのだった。
『ヨング・ジャグリング准将』
年齢43歳
戦艦艦長→第一艦隊分艦隊司令官→第一艦隊参謀長
『シュウゴ・コーダイ准将』
年齢39歳
戦艦艦長→第四艦隊分艦隊司令官→宇宙艦隊司令部付
『マイケル・ゴールドカラー准将』
年齢36歳
戦艦艦長→統合参謀本部人事課長代理
レイから送られてきた3名の略歴を確認するリウ。
「一番歳上の方は、現在第一艦隊参謀長なのでしょ? 引き抜きになっちゃうから、ちょっと無理じゃない?」
「一番歳下の方は、人事課長代理か~。 優秀すぎるね」
経歴を見た感想を言いながら、レイに確認するリウ。
「ジャグリング准将本人は、艦隊参謀長より艦隊副司令官の方が格上だから、やりたそうでしたよ」
「ゴールドカラー准将は、確かにエリートです。 将来、人事課長→後方司令官→幕僚総監って進みそうな方です」
アーサ大佐は、淀みなく答える。
「真ん中の方は?」
最も適任そうな人物について、改めて確認するリウ。
「病気療養中です。 先の大戦で大怪我をして......リウが第四艦隊に異動する直前迄、第四艦隊の分艦隊司令官だった方ですね」
詳しい経歴をレイは答えた。
「う~ん、どうしようかな。 怪我が治って復帰したら少将に昇任するんじゃないの?」
「大戦時、宇宙艦隊司令長官付参謀だったので、帝國軍の総旗艦狙いの集中砲火で開戦直後に総旗艦が沈んで、瀕死の重症を負ったけど、運良く僚艦に助けられたそうで......」
「だから、『何の功績も無い』と言って昇任を断っているそうですよ」
レイは、階級が現状のままとなる事情を説明し、
「アポイントメント取りますか? 人柄も良いですよ」
リウが興味を持ったと見て、早速準備を始めるのだった。
約2時間後、リウとアーサ大佐は軍中央病院を訪れていた。
そしてコーダイ准将が面会室に現れると、アーサ大佐が、
「准将、お久しぶりです」
と挨拶をした。
すると、准将は、
「大佐、OK。 異動でしょ?」
目的を直ぐ理解したようで、何も言わずに承諾する。
その為リウは、
「准将。 私からの用件をお話ししなくても良いのですか?」
その様に確認をすると、
「失礼致しました、少将閣下。 病気療養中の小官をお見舞い頂きありがとうございます」
コーダイ准将は、御見舞の礼を述べてから、
「怪我の方は、もう直ぐ退院なので大丈夫です。 その後現役復帰する予定です」
「今回のお話は、『新しい第三艦隊の副司令官に就任しないか?』 ということですよね」
目的を事前に聞いていた准将は、その様に確認したので、リウは頷いた。
「もちろん大戦の英雄から、そのような名誉なお話を頂けるのであれば、喜んでお受け致します」
と言って、2つ返事で承諾してくれた。
その後、3人で少し雑談をしてから、第三艦隊司令部室に戻ったリウとレイ。
リウは、アーサ大佐に、
「レイ、ありがとう。 予め目星を付けてくれていたんだね?」
改めて礼を言うと、大佐は思わず、
「リュウ様、お礼の言葉は要りません。 当然のことをしただけですから」
と言ってしまい、
『しまった』
と思った瞬間リウは、
「レイ、『リュウ様』は駄目だって言っただろ?」
反射的に言ってから、笑い出してしまった。
「だから、最近リュウが出やすいので、勘弁してね」
と。
その後、カイキ大尉が研修を終え、司令部室に戻ってきた。
リウは、
「研修会ご苦労様でした。 疲れたでしょ? 今日はもう何も無いので、帰って良いですよ」
大尉に優しく帰宅を勧めると、大尉は
「今日は、まだ何もしていません。 だから何かあればおっしゃって下さい」
と申し出たところ、
「これから、ルー少将がこの部屋に駆け込んで来るので、話しをしたら、僕も帰るよ。 だから何も仕事無いんだよね~」
リウは変わったことを言うのであった。
すると間もなく、ルー少将が第三艦隊司令部室に駆け込んできた。
大尉は、プロクター少将の預言に驚いていると、
「リウ、コーダイ准将を副司令官に就けるって本当か?」
と悔しそうな顔をしながら言うので、
「先輩、相変わらず早耳ですね~」
リウがノンビリとした口調で答える。
「ずるいぞリウ。 俺が先に目を付けていたのに......」
心の底から悔しそうなルー少将。
そこでリウはレイの方をチラッと見るのであった。
その視線に気付いた少将は、
「アーサ大佐の仕業か~。 ちくしょう」
と言って、まだ悔しがっているので、
「先輩、コーダイ准将に渋られてたんでしょ? じゃあ仕方無いじゃないですか?」
リウに宥めらる。
そこでリウは、
「そうだ大尉、4人分アイスコーヒー買って来て下さい」
と購買用のカードを渡した。
そして、司令部室のソファーに手招きして、
「先輩、立ち話も何ですから、座って下さい」
少将の気持ちを落ち着かせるように勧めるのであった。
大尉が4個のアイスコーヒーを買って戻ってくると、少将2人はソファーに座って和やかに話しをしていた。
「大尉、ありがとうございます」
カイキ大尉はリウから見ると十歳以上歳上なので、丁寧語を使っている。
その様子を見たルー少将は、
「リウ、ちょっと丁寧過ぎるんじゃない?」
と指摘したことから、
「じゃあ先輩。 先輩に対してもタメ口で良いですか?」
「同階級だし、別に構わないよ」
と言ってしまった。
ところが、その後の会話がタメ口になって、何だかしっくり来ない様子。
ついにルー少将は、雰囲気に馴染めず、
「降参。 元に戻そう。 俺が悪かった」
自分の発言の全面撤回に追い込まれてしまった。
「でしょ? 自然体でイイんですよ」
リウは、そう宣うのであった。
「そう言えば、何だか話しを逸らされたなあ」
ルー少将は当初の目的を思い出し、
「アーサ大佐、どうやってコーダイ准将を口説いたんだ?」
と質問をした。
すると大佐は、自席に座ったまま
「それは企業秘密です」
と冷静に言うので、ルー少将はガックリ。
「准将だけは、今、異常に人材不足ですからね」
リウは状況を指摘しながら、
「先輩。 どうせ第三艦隊と第四艦隊は、出征時には今後も同一行動となるので、何ならコーダイ准将に第四艦隊も兼務の副司令官になって貰いますか?」
と提案する。
それに対し、ルー少将は
「俺が第四艦隊司令官兼第三艦隊副司令官だろ?実態は。 だからそうするか?」
まんざらでも無い様子だった。
そして、
「持つべきは優秀な同期生か~。 リウは良いなあ~。 レイみたいな出来る男が同期に居て」
と少し羨ましそうに言いながら、
「まあ、副司令官は別の人を当たってみます」
「ご馳走さま〜」
その様に挨拶をして、第四艦隊の司令部室に帰って行ったのであった。
大尉が帰った後、司令部室はまた2人だけになった。
「リウ、ちょっと良いですか?」
レイが少し深刻そうに話し掛けてきたので、
「レイ、どうしたの?」
と尋ねるリウ。
「今迄のリウ・プロクター准将は、ノイエ国国民の注目を浴びることは無かったですよね?」
再確認するアーサ大佐。
「そうだね。 今迄はアルテミス王国でだけだったね」
「それがどうしたの?」
リウは大佐が何を心配しているのかピーンと来ない様子......
「先日、プロシード少将がリウを出迎えて、その様子をマスコミに撮らせましたよね?」
リウは、
「うん」
と頷く。
『リュウ様、仕草がかわいい』
とレイは一瞬思ってしまった......
「それで?」
話の続きを促すリウ。
我に返ったレイは、
「あの出来事以降、世間はリウのことに注目しています」
「そして、私生活もあわよくば、暴こうとしているのですよ」
具体的な心配内容を告げる。
「リウの本当の姿は、リュウ様です」
「でも、まだ世間に暴露するつもりは無いんですよね?」
改めて確認する。
「まだ早いかなって思っている」
リウは自分の考えを答える。
「でも、このままだと、そのうちバレてしまいますよ」
「リウの警戒心がイマイチ薄いから」
と大佐はリウの問題点を指摘する。
「今迄、バレていないのは運が良かったのもあるでしょう」
「リウは背が高いし、胸が小さ目。 体もみっちり鍛えて、シックスパックが割れていて、筋力も標準男性以上にあるから、男装したら、女性だと思う人は滅多に居ないでしょう」
「顔もキリッとした顔立ちで目が大きく、優しそうな男に十分見えますからね」
と分析。
リウも、『胸が小さ目』というところだけは、ちょっと引っ掛かったが、
「そうだね」
と頷く。
「それで、今住んでいるところは?」
「定住してないよ。 旗艦かホテルだから」
と答える。
「旗艦は良いとして、問題はホテルです」
「先日、あとをマスコミに付けられてましたよ」
危機感がゼロで無警戒な状況を指摘され、
「え〜〜」
と驚くリウ。
「もう少し警戒して貰わないと、このままだと私が先に倒れてしまいます。 今迄結構尻拭いしているんですからね」
マスコミ対策を大佐が行なっていたことを知ったリウ。
「ごめんね、迷惑掛けちゃって」
心の底から謝罪しつつ、
「どうしたら良いかなあ?」
と、わざとらしく尋ねるリウにレイは、
「わかってらっしゃるクセに」
見抜いていることを告げる。
「御祖父様の御屋敷に住めと?」
「ほら、わかってらっしゃるじゃないですか?」
と答えを言う大佐。
「レイは今何処に住んでいるの?」
結論を出すのを、はぐらかそうとするリウ。
「その御祖父様の御屋敷ですよ」
という答えに、リウは絶句......
「マジで」
びっくりし過ぎてリュウ・アーゼルに戻ってしまったリウ。
「はい」
「レイが?」
「はい」
「マジで」
「はい」
同じ問答を繰り返す。
「もう約十七年も帰っていないんですから、そろそろ帰ってみたら如何ですか? クロノス星系に居る時ぐらい」
「いずれ、他の星系に行ってしまうんでしょうから......」
鋭い指摘をレイはするのだった。
リウは、リュウに戻ったまま話し始めた。
御屋敷に戻らない理由を......
「あの屋敷にはさ〜、苦しみの記憶しか浮かばないんだよ」
「母との思い出に良いシーンが一つも無くてさ〜」
「いつも罵倒されて。 親父に似てるって......」
「思い出すから近寄んなって怒鳴られてさ〜」
「祖父様にも厳しく躾された思い出だけ」
「折檻も沢山あって......」
「感謝はしてるよ、何不自由なく育ててくれたんだし」
「本当は死んでいた俺に、大枚叩いて助けてくれて」
「不老装置って、幾らするか知ってる? アーサ」
「10億ノイエドル以上するんだよ」
「それをあの冷酷な祖父様が出すなんてさ~」
そこまで話すと、リウは黙ってしまった......
レイが全く知らなかったリウの幼少期の深い闇。
あの屋敷には、リウにとって苦しみしか無いとは......
『ちょっと考えが浅かった』
とレイは反省するのだった。
2人の間に、長い長い沈黙の時間が流れる。
するとリウが、突然キャップタイプの制帽を脱ぎ、髪を解いてリュウの姿に戻って、レイの方に振り返った。
「レイ、これが今のリュウ・アーゼルの姿」
「8年以上、亡くなったハーパーズ提督以外誰も見たことの無い姿」
「きっとレイは、私が惑星アルテミスや惑星アイテールに出没していた時の姿を見たのが、最後だよね?」
「どうかな? 私は少し大人っぽくなった?」
「顔貌は9年以上、何も変化は無いけどね。 不老装置の女だから」
そこまで話すと、ジーッとレイを見つめる。
「レイ、ごめんね。 迷惑ばかり掛けてたみたいで」
「でも、我儘を言わせて」
「御屋敷には絶対帰れない。 だから今迄以上に私を護って......」
笑顔でお願いするのだった。
レイは呆然としていた。
9年前を最後に、忽然と消えたことになっているリュウ・アーゼルが眼の前に、現れたのだ。
レイカー・アーサは15歳から、総帥ラーナベルト・アーゼルの最側近の一人として選ばれ、他の側近と共に御屋敷で暮らしている。
そして総帥には、レイの一つ歳下の孫娘が居ることを知った。
レイが17歳の時、その孫娘リュウ・アーゼルが惑星アルテミスで財界デビューした時には、衝撃を受けた。
その姿を見て、アルテミスデビューだったこともあって、『月の女神』だと感じたのだ。
その後、ずっと憧れを抱いていた。
4年後、リュウ・アーゼルは完全に姿を消した。
暫くして、真実を知った。
リュウ・アーゼル=リウ・プロクターなのだと。
そして、総帥から命令された。
「お前がリュウを守るのだ。 それが今後のお前の使命だ」と。
以後、士官学校の同期生として、卒業後は同じノイエ国軍の軍人として陰に陽に支えてきた。
それがレイカー・アーサの生き甲斐。
もはや人生の全てに近い。
そのリュウ・アーゼルが眼の前に突如現れた。
それも、9年後の姿は想像を超えていた。
シヴァ丞相が、『三国を救う女神』と言っているらしいとは聞いていたが、そんな表現では足りない。
『女性に興味の無い、あのハーパーズ提督が命を捨てて迄リュウ様を守ってくれたのは、この姿を見たからというのもあろう。 全く後悔しなかった筈だ......』
レイカー・アーサはその様に感じたのであった。
レイの眼からは、自然と涙が垂れ落ちていた。
それ程の衝撃だった。
「リュウ様、申し訳ありませんでした。リュウ様の心の闇を知らず......」
「もう御屋敷に戻れとは言いません。 ただ宿泊するホテルのグレードは大きく上げて下さい。 マスコミ連中が近づけないところに......」
「それと、ありがとうございました。 リュウ・アーゼル様は私の憧れです。 9年前とは比べ物にならないです......」
「ただ、憧れている人からの、お願いのセリフはズルいです。 今後は止めて下さい」
レイはリュウに謝罪と感謝、それとお願いを伝えたのであった......




