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【完結から1年。順次補正中】正史・銀河四國史(未来における英雄の生涯)  作者: 嶋 秀
RIU・飛龍篇

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第23話(帝國遠征軍敗退)

戦いが始まって5ヶ月。

帝國軍は、補給が途切れ......


 超光速通信による『撃破成功』の合図。


 三国同盟領内で餓えた帝國軍の死命を左右する、帝國軍補給部隊撃滅の合図の信号を受け、総反撃の準備の為、待機していたアルテミス王国軍のルーナ大将の艦隊と応援のヒエン大将の艦隊は、帝國艦隊が駐屯しているアルテミス星系に向けて動き始めていた。


 「リウが成功したようです」

 ルーナ大将が嬉しそうにヒエン大将に語り掛ける。

 「リウ? ああリュウお嬢......」

と言いかけて、

 「ノイエ軍の准将さんね。 よし、我々も出発するとしましょう。 月の女神のもとへ」

 アルテミスが遥か昔の地球の神話で『月の女神』を示すことから、少し洒落たセリフを吐いて誤魔化し、ゆっくりと進軍を開始したのであった。

 エペソス星系方面からも向かっているリウが移乗したアルテミス王国艦隊の速度を図りながらの進軍であり、

 合計5個艦隊で餓えた帝國軍3個艦隊を包囲し、全面降伏に追い込む

のが目的である。



 リウ・プロクター中将待遇が率いるアルテミス艦隊は、最大艦速でアルテミス星系へと向かっていた。

 「提督。 我々は貴官を当艦隊に迎えることが出来て光栄です。 これほどの大戦なのに、我が国の市民に一人の犠牲者が出なかったのは、貴方のお蔭です」

 特別な艦隊を代表してリヒター少将が挨拶をした。


 「ところで、提督。 本当に敵は降伏するでしょうか?」

と少将から質問されたリウは、

 「飢え具合によるのではないでしょうか? 多くの食料を搭載して来ていたならば、まだギリギリ飢えてないでしょうし、通常の積載量ならば、もうとっくに飢えていることでしょう」

と答えながら、

 『おそらく後者だろう』

と予測していたのだった。



 実際のところ、アルテミス星系に駐留中の帝國軍3個艦隊は、既に戦闘が出来る状態には無かった。

 補給切れを理由に、帝國に撤退することも議論されていたが、

 『勝手に帰国したら全員処刑されるだろう』

という恐怖心が拭えない上に、

 『ノイエ領に深く侵攻した味方の補給経路を維持する為にも、撤退は出来ない』

という状況もあって、もはや身動きの取りようがなかったのだ。


 1日1食の節約を2週間続けたものの、完全に食料が底を尽いてから、既に5日が経過していたところで、突如各艦内に

 多数の未確認艦艇接近を示す警報音が錯綜し始めた

が、それは

 約2500隻もの艦艇の接近

であり、味方では無く敵であることに直ぐ気付いていた。

 だが、長期に渡る補給切れの空腹で、横になったままの兵士達は、誰も起き上がろうとせず、最早反撃は不能であった。

 その為、帝國軍を率いている司令官は、敵からの攻撃や通信が入る前に、

 「全面降伏する。 攻撃は無用だ」

と自らアルテミス王国艦隊に通信を入れ、1500隻近い戦闘艦艇を全て放棄することを決断したのであった。



 帝國軍降伏の報が入ってからルーナ大将は、アルテミス王国軍の新旗艦「レートー」と通信回線を開き、臨時提督のリウを呼び出してから語り掛けた。

 「あれから十四年。 漸くこの日が来たな」

と。

 王太子一家を守る為に、一緒に滞在していた王室の別荘で話をした日のことを思い出していたのだ。

 「あの時三十代前半だった俺も、50歳間近になってしまったよ。 でも、ようやくこの日が来て、リウの今迄の苦労が報われたな......」

 そこで、ルーナは言葉に詰まってしまった。

 「歳を取ると涙腺が緩くなってね......」

と言いながら、リウの方を見ると、リウも涙ぐんで目を赤くしていたのだった。


 「感傷に、浸っている場合じゃ無いな」

 ルーナ大将は、戦闘がまだ終わっていないことを憂慮しており、

 「ここの帝國軍の武装解除と、それに続く降伏兵の帰還措置は、俺達アルテミス王国軍で全部やっておくから、応援のヒエン大将とクロノス星系方面に直ぐに向えよ、リウ。 あっちの最後の戦いは、こちらのようにはいかないから」

 民間人の大虐殺をやった敵軍の処遇が非常に難しいことを指摘したのであった。




 ヒエン大将から、アルテミス星系方面の戦況が大きく変化し、帝國軍が降伏したとの連絡を受けたコトク大将は、暫く潜んでいたクロノス星系の近接宙域から艦隊を移動させ、威風堂々と、駐屯中の帝國軍と首都星系に篭もって抵抗を続けていたノイエ国民の前に姿を見せた。


 するとコトク艦隊に気付いたクロノス星系駐留中の帝國軍4個艦隊は、直ぐに逃走態勢への移行準備に入った。

 「いつの間に......」

 クロノス星系外縁部に、見慣れない艦影の艦隊が出現し、動揺する帝國軍の四提督。

 「あれが、噂の新型か」

 シルバーバーチ中将が押し殺す様な低い声で唸る。

 もう反撃する為のミサイルが底を尽いており、残り少ないビーム砲用のエネルギーを、帝國領迄逃走する燃料に振り分けても、辿り着くことすら出来ない状況にあった為だ。

 「あれほど、本国に補給要請したのに、未だに届かない」

 悔しがるウリヒ中将。

 「もしかして、補給部隊は全滅したのでは?」

 ここ数日通信妨害が酷くなり、情報が入らなくなっていたことに不安を感じていたリューネ中将。

 急遽、四提督のスクリーン越しでの会合を他の三提督に求めるのであった。

 

 5分後。

 四提督は話し合いの結果、占領地を全て放棄して、帝國領への撤退を決めた。

 補給物資が届かない以上、エネルギー不足とミサイル切れで、戦うことは出来ないからだ。

 やがて、帝國軍4個艦隊1700隻余りが、たった500隻、1個艦隊の西上国軍を恐れて、必死の逃亡を開始する。

 コトク大将は、それを悠然と追跡していくのだった。


 やがてクロノス星系の外縁部に差し掛かったところで、コトク大将は、クロノス星系に長期間篭もって、最後の抵抗に全てを賭けて来たノイエ国国民に対して、布告を実施することとした。

 オープン回線でクロノス星系に向けて、通信を開き、

 「私はシヴァ艦隊のコトク大将と申します。 救援に駆けつけるのが遅くなり、誠に申し訳ない」

と最初に語り掛けた。

 突然始まったこの通信を聞き始めた無数のノイエ国民は、固唾を飲みながら、コトク大将のその後の言葉に『帝國軍敗北・クロノス星系解放』の期待を込めて待っている。

 「悲劇となった大会戦後の戦況ですが、既にアルテミス王国艦隊は帝國軍を撃破し、アルテミス星系に駐留していた帝國軍は全面降伏しております」

 大将はその様に話して、帝國軍が敗退した事実をノイエ国民へ明らかにした。

 更に、

 「こちらに駐屯していた多数の帝國艦隊は、不利な状況を察知して、既に逃走態勢へと入りました。 この敵に対しては、アルテミス王国艦隊と我々の方で挟撃して撃破するので、ノイエの国民は早速国の再建に取り掛かって欲しい。 現時点をもって、クロノス星系は帝國軍の侵略から、解放されました」

 この言葉を聞いたクロノス星系に籠もる280億人以上のノイエ国民は、随所でガッツポーズや雄叫びを上げ始めたのだった。


 通信の最後にコトク大将は、

 「今回の大戦で亡くなられた多くのノイエ国民、三国同盟の将兵に対し、哀悼の意を捧げる」

との言葉で締めて、大将は制帽を脱ぎ、黙祷を捧げ始めたのであった。

 それを見ていたノイエ国民も、一旦騒ぐのを止め、仕事や家事をしていた人達もその手を止めて、大将に倣って黙祷を捧げる。

 通信はこれで終わり、やがてコトク艦隊は、アルテミス王国領方面へと進軍して行ったのであった。


 クロノス星系では、この布告を聞き終えてから、誰しもが改めて歓喜の声を上げ、各所でお祭り騒ぎが始まったのだった。



 クロノス星系から逃亡中の帝國軍は、コトク大将の通信をごく一部聞いたことで、突如現れた謎の艦隊がシヴァ艦隊だと知って、恐怖を感じ始めた。

 「なぜ、シヴァの艦隊がノイエに現れた......」

 マー中将は背筋に寒気が走る。

 「まさか、ウォルフィー軍が敗北したのか?」

 シルバーバーチ中将は、シヴァ艦隊の出現に激しく動揺していた。

 「既に、帝國への帰路が塞がれているのでは?」

 ウリヒ中将も、事態の急速な悪化に絶望的な表情を見せ始める。

 「アルテミス星系に駐屯していた味方は、何処にいるのだ? まさか我等を見捨てて帰国したのか?」

 リューネ中将は周囲の者を怒鳴りつけて、当たり散らす。

 「味方は我等を救援すべく、合流を目指しているのでは?」

 司令官が不機嫌だと暴力を振るわれるので、楽観的な観測を口にするリューネ中将の側近達。

 「おお、そうだろうな。 合流すれば7個艦隊。 負ける筈が無い」

 側近達のその場しのぎの適当な甘言にあっさり乗せられて、機嫌が直る中将であった。



 その後も帝國領を目指して、撤退を続けていた四提督の艦隊。

 通信妨害が酷く、クロノス星系とアルテミス星系の中間点まで戻ったが、アルテミス方面に居る筈の帝國軍3個艦隊と合流出来る様子は無かった。

 しかも、クロノス星系で突如現れたシヴァ艦隊の1個艦隊は、ずっと帝國軍艦隊の後方を、距離を取りながら追跡し続けている。

 「そろそろ、味方と合流出来る筈だが......」

 リューネ中将の考えはこの時点でも、まだ楽観論に支配されていた。

 他の三提督も、

 『味方が補給部隊と一緒に現れること』

を少し期待していたのであった。



 やがて、前方から多数の艦艇が接近して来た。

 「この場所で大艦隊と遭遇とは......これは、やっぱり味方だろうな」

 シルバーバーチ中将が嬉しそうな声をあげる。

 しかも、帝國軍の識別信号を出している艦隊であったからだ。

 「誰だ、悲観論を唱えたヤツは。 本来なら八つ裂きにしてやるところだが、今回は特別に許してやる」

 機嫌が非常に良くなったリューネ中将は、側近達にその様に申し付けていた。

 「こちらは帝國軍、ウリヒ中将の艦隊。 接近中の帝國軍艦隊、応答せよ」

 最前方に布陣していたウリヒ中将の旗艦の通信士官が、司令官の指示に基づき、接近中の艦隊に通常回線での通信を入れた。

 その時だった。


 後方を追跡して来たシヴァ艦隊が急速に速度を上げ、接近して来て、帝國艦隊の射程外から、ビーム砲とミサイルの嵐を見舞い始めたのだ。

 最後方に布陣していたマー中将艦隊の艦艇が次々と爆発して、轟沈してゆく。

 「どうした。 何が起きたのだ?」

 急な状況の変化を把握出来ない帝國軍の四提督。


 「前方から接近中の味方艦隊に、応援要請を出せ」

 シルバーバーチ中将が通信士官に慌てて命令を出す。

 士官は怒声を浴びせられぬよう、直ぐに命令された内容の通信文を送ると、前方から接近中の艦隊から、ビーム砲とミサイル攻撃で、通信に対する返事が有ったのだ。

 そう、その艦隊は、ヒエン大将とプロクター中将待遇が率いる新型艦艇の2個艦隊であった。


 ようやく、敵に包囲されていたことに気付いた四提督。

 エネルギー不足で、帰路の燃料すら足りない状況であり、

 『もはや、逃げ道は無い』

と悟った提督達であった。

 しかし、

 『今迄自分たちがノイエ国領内で行ってきた大虐殺や性犯罪、略奪を考えれば、降伏は出来ない。 降伏すれば、報復の虐殺返しをされて、生き残れないだろう』

と判断して、

 『無謀な攻撃』

へと走るまで、そう時間は掛からなかった。


 帝國軍は、ミサイルが尽きていたので、残り少ないエネルギーを使ってのビーム砲を乱射し、我武者羅に攻撃を始めた。

 そこで、リウのアルテミス王国艦隊とヒエン大将の部隊、並びに後方から追跡して来たコトク大将の艦隊は、挟撃態勢を維持しながら、長射程攻撃に専念し、帝國軍艦隊を追い詰め始めた。

 帝國軍の射程外から、次々に発射される新型艦の中性子ビーム砲と光速中性子ミサイル。

 四提督は死の淵へと追いやられたのだ。


 先ずは、ウリヒ中将が旗艦ごとミサイルの集中攻撃に吹っ飛ばされて、瀕死の重傷を負い、救難艇に搬送されたものの、3分後に死亡が確認された。

 次は、マー中将。

 コトク大将指揮下艦隊の中性子ビーム砲の集中砲火を浴びて、そのエネルギー流に飲み込まれて旗艦が蒸発した際に、一緒に消滅して死亡となった。

 残りのシルバーバーチ中将とリューネ中将は、ほぼ同時に戦死した。

 ヒエン大将の艦隊とリウ率いるアルテミス王国艦隊の攻撃に追い詰められた結果、それぞれの旗艦は同時刻に大爆発を起こして、轟沈したからである。


 こうして大虐殺を指揮した四提督はいずれも戦死し、地獄行の方舟に乗せられたことで、今まで各地で行ってきた数々の殺戮、暴行、略奪の罪を少し償ったのであった。


 その後も帝國軍は、自軍の攻撃有効射程外からのアウトレンジ戦法に為すすべもなく、次々と破壊されてゆき、司令官全員が死亡したことで、組織的な抗戦を諦め、敵前での無謀な逃走へと再び舵を切らざるを得なくなってしまった。


 流石に帝國軍の数が多かったので、200隻程は戦闘宙域からの逃走に成功したが、残り約1500隻の8割が破壊され、残りの2割は降伏した。



 降伏した帝國軍の処置について、コトク大将は急いでリウに通信回線を開いて話し掛けた。

 「リュ......じゃなかった、 准将、こいつ等の処分は我々2人に任せてくれないか?」

 「准将は、きっと今すぐ処刑したいほどコイツラが憎いだろう。 でも殺戮に殺戮で返しても、双方浮かばれない。 准将、君はまだ未来ある人だ。 今回の戦いで全てが終わった訳ではなく、また直ぐ次の戦いが始まる。 その為に、今回は私とヒエンに任せてくれ。 頼む」


 これに対しリウは、湧き上がる激情を必死に抑え、

 「コトク大将とヒエン大将に、降伏した敵の処置はお任せします」

と短く言った後、スクリーン越しのコトク大将に頭を下げ、通信を切ってから、麾下のアルテミス艦隊へ直ぐに戦場からの撤退を指示した。

 頭ではわかっていても、この場に居続けると、帝國軍の将兵に報復したい気持ちを抑えられなくなってしまうからであった。



 コトク大将は、その場を去ってゆくリウが率いるアルテミス王国艦隊を見送ってから、降伏した帝國軍の武装解除を開始した。

 と言っても、帝國軍を憎む気持ちは、大将にも当然有る。

 その為、降伏した帝國将兵は、鹵獲した帝國軍の補給艦に押し込められるだけであり、5隻の補給艦へすし詰めにしてから、直ぐに帝國領へ去るよう申し渡した。

 「グズグズしていたら、復讐しようとするノイエ国の国民に捕まり皆殺しにされるぞ。 お前らはそれだけのことをしたのだからな」

と指摘し、

 「お前達を帰らせてやるのは、うちのシヴァ丞相の温情だ。 そして二度と戦場に出てくるな。 次会ったら必ず艦砲で吹っ飛ばしてやるからな」

と釘を刺して、帝國領方面へと自力で向かわせたのであった。



 「彼等は帝國領まで辿り着きますかね?」

と、ヒエン大将がコトク大将に話し掛けると、

 「あとは彼等の持つ運次第だよ。 この先もノイエ軍の部隊が少しは居るし、それで攻撃されて死ぬのなら、それも彼等の運命さ」

 降伏将兵が母国に帰れる可能性は極めて低いだろうと答えてから、

 「とりあえずリュウお嬢が、復讐に狂った殺戮の女神にならずに済んだのだから、我々2人の作戦は成功だろ?」

とコトク大将は少し笑みを見せながら答えて、

 「8年ぶりに会ったが、益々美女ぶりに磨きがかかっているよな? だから、殺戮の女神という称号は全く似合わないだろうぜ」

と冗談めかしながらも、シヴァから指示されていた

 『リュウお嬢様を復讐者にするな』

という役目を果たせて、ホッと胸を撫で下ろす2人の大将閣下だった。




 ヒエン大将とコトク大将が捕虜にし、帝國領方面に去らせた大型補給艦5隻に詰め込まれた帝國軍将兵の生き残り10万人余りは、結局帝國領に辿り着く前に、全員が殺されていた。

 彼等を狙ったのはノイエ国と帝國との航行不能星域である国境付近を縄張りとする宇宙海賊達。

 一旦捕虜となって解放されたこの帝國軍将兵達は、あろうことか略奪した宝石類や貴金属類等を身に着けたまま、帝國に逃げ帰ろうとしていたのだ。

 それに気付いた宇宙海賊達。

 海賊達も家族や親族の大半はノイエ国民であり、少なからず、今回の帝國軍の残虐行為の犠牲になった者が居た。

 その後、帝國軍が敗北したことを知り、報復の意図も込めて、帝國軍の敗残兵狩りを始めていたのだ。


 解放後、必死に逃げてきた、帝國軍の5隻の補給艦。

 あと3日で、帝國領の旧ムーアー国領域というところまで到達した時点で、彼等の命運は尽きたのだった。

 宇宙海賊達に待ち伏せされていたのだ。

 補給艦のエンジンを破壊し、乗り移る海賊達。

 そして、大半の帝國軍将兵が高価な宝石類や高級腕時計、貴金属等を身に着けていることに、海賊達が気付いてしまった。

 それで万事休す。

 降伏時に武装解除されていたので、銃すら携行していない帝國軍将兵。

 あとは、残虐行為への報復を含めた、海賊達による敗残兵狩りの対象となるだけであった。

 次々と襲われて、殺されていく。

 そして、身に着けていた金品や宝石類を奪われるのであった。

 十数時間後。

 補給艦は宇宙空間を漂う棺桶へと変化していた......

 



 ルー准将が駐留する宙域に、帝國軍の敗残兵部隊200隻余りが現れたのは、クロノス星系が解放されてから6日後であった。

 そろそろ、クロノス星系に戻ろうかと準備をしていたタイミングでの出現。

 「准将、200隻程の帝國部隊が接近してきます」

 索敵班からの情報が、指揮デッキに一報された。

 その報告を聞いたルー准将は、

 『一部逃走したと聞いていたが、案外多いな』

と感じていた。

 そして、

 『叩くか、それとも逃がすか』

と、最終判断の決断に少し躊躇する。

 ルー准将の指揮官としての決定が、数万人の敵将兵の運命を決めるのだ。

 敵は物資が尽きて逃げて来たもので、反撃能力は殆ど無い、無抵抗に近い将兵達。

 しかし、ノイエ国内で大虐殺を行って来た、憎むべき連中である。

 その決断に、重い責任がのしかかっていた。


 少しの間を置いてから、ジョンは一つの決断を下した。

 そして、通信回線を開くよう通信士官に指示した。

 「停止せよ。 しからずんば攻撃する。 停止せよ」

と。

 二度繰り返したものの、そのまま逃走し続ける敵部隊。

 これで、彼等が死ぬ運命は、彼等自身が決めたのだ。

 少し気持ちが楽になったジョン・ルー准将。

 「全艦、攻撃態勢を取れ」

 強い口調で麾下部隊に命令を下す。

 直ぐに、

 「逃走中の敵部隊に、全艦、攻撃開始」

と追加の命令を発し、ルー准将の艦隊は、敵逃亡部隊にビームとミサイルの嵐を浴びせたのだった......


 数隻は、運良くそのまま逃げ切ったようだが、残りは全滅し、生存者は居なかった。

 『エネルギー切れで、何の反撃も出来ず、ひたすら逃げまくる無抵抗の敵を叩くのが、これほど気分が悪いとは......彼等自身が降伏を拒否し、その運命を最終的に決めたとはいえ......』

とルー准将は考えていた。

 だが、それと同時に、

 『これで今回の戦いは終わった。 シヴァ艦隊と戦っている帝國軍も撤退するだろう』

 長かった大規模な戦乱にケリがつき、漸く故郷に帰れると思うと、

 『最後の戦いも必要悪だな』

 そう考えて、自分を納得させながら、

 「全艦、クロノス星系へ向けて転進」

と帰還命令を出したのであった......




 二世皇帝に遠征軍壊滅の報が入ったのは、ルー准将の部隊がクロノス星系に帰還した日と同日であった。

 アルテミス星系に駐屯していた艦隊及びクロノス星系に駐屯していた艦隊との連絡が途切れてから、約2週間。

 その凶報は、シヴァ艦隊と対峙し続けていたウォルフィー元帥の艦隊とオズワルト大将の艦隊が撤退を始める直前に、元帥より入ったものであった。


 「元帥閣下。 敵のシヴァ丞相より通信文が入りました」

 通信士官が、旗艦の大きな椅子に杖を突いて腰掛けている元帥のもとに駆け寄って来た。

 「なに? シヴァから」

 元帥が士官に確認する。

 「読み上げましょうか?」

 「いや。 読み上げなくてもわかるぞ。 味方の本隊、主力艦隊が壊滅したのじゃろ?」

 「元帥閣下、どうしてそれを......」

 通信士官は、何も言っていないのに、通信文の内容を知っていた元帥に、驚いた様子で確認をするのだった。

 ウォルフィー元帥は通信士官の確認には返答せず、その後も通信文の内容を予測して話し続ける。

 「それで、シヴァは儂に、『撤退しろ。 追撃はしない』と言ってきたのじゃな?」

 「はい......そのとおりです」

 元帥は、その士官の反応を見てから、

 「オズワルト大将と通信回線を開いてくれ」

と告げたのであった。


 「オズワルト大将。 アルテミスとノイエに向かった味方の主力艦隊は全滅したそうじゃよ」

 「元帥閣下、それはまことですか?」

 流石にオズワルト大将も驚く。

 『全滅とは......』

と呻くように呟きながら。

 「オズワルトだって、予想していたのじゃろ? もうここからの撤退準備を完了しているのだからな」

 そう言うと、ウォルフィー元帥は笑うのであった。

 「それで、情報は誰からですか?」

 「リョウ・シヴァからじゃよ」

 その名前を聞いたオズワルト大将は、

 「それでは、本当なのでしょうね。 しかし壊滅とは......」

 「また殺戮等の残虐行為に走った報いじゃろ? 何時までも前近代的なやり方から抜け出せない指揮官ばかりじゃからの〜。 本隊の司令官連中の大半は」


 元帥もオズワルト大将も、帝國軍の一部指揮官による恒常的な残虐行為を常に批判していたことから、そうしたやり方を止めることが出来ない人物が、艦隊司令官クラスに何人も居ることを残念に思っていた。

 「それでは、速やかに、かつ堂々と撤退しましょうか?」

 大将が元帥にそう伝えると、

 「あれ? 儂は言ったかの。 追撃しないと言われたことを......」

 大将に言った覚えが無かったのに、撤退と言われて、記憶違いだったか確認する元帥。

 「いえ。 シヴァの申し出ならば、きっとそう言ってきたのだろうと予想しただけです」

 「いま儂は自身が耄碌してしまったのかと思ったぞ。 自分で喋ったことを直ぐ忘れてしまったのかと」

 そう言うと、元帥は大笑いしたのであった。

 「じゃあ、儂も大将閣下に倣って、粛々と撤退準備をするかの」


 元帥は、撤退命令を全軍に出すと、二世皇帝に、

 『帝國軍本隊が全滅したので、自分達も撤退する』

と事後連絡を入れたのであった。

 二世皇帝は、その報を聞き、愕然とする。

 結果は、大惨敗であった。

 8000隻もの大艦隊が宇宙の藻屑と消え、大半の将兵は戦死し、戻って来ないという最悪の結末で、人類史上最大規模の大遠征は大失敗に終わったのだ。


 

 その後、ウォルフィー元帥の艦隊とオズワルト大将の艦隊は、他の別動隊の提督達の艦隊と共に、整然とシヴァ艦隊の目前から撤退して行った。

 それを見送るシヴァ丞相。

 スクリーンから帝國軍の大艦隊が消えたのを確認してから、自軍の撤退命令を出す。


 『リュウお嬢様が私のもとを尋ねて来て、帝國軍の大遠征への備えを始めてから約12年。 ようやくその結末を、まずまず良い方向で迎えることが出来た。 三国を救った女神に感謝しないとな』

 その様なことを考えながら、ホッとした気持ちで、家族が待つ首都星アイテールに帰還命令を出した丞相であった。


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