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第2話(忘年の友)

若き日のリウ・プロクターは、将来の盟友の1人となる人物と出会ったのであった......


 アルテミス王国に滞在を続けて3年。

 14歳になった僕、「リウ・プロクター」は、王宮内にある騎兵隊の学校に入校することにした。

 その理由は、新しい見るようになったヴィジョンが多分に影響している......


 新しいヴィジョン。

 それは余りにも惨烈な光景......

  人々が軍隊に襲われ、逃げ惑っている

  焼かれ・殺され・犯され・奪われ......

  都市は破壊され、人々の顔は絶望に満ちている......

 あの軍隊は、きっと太陽系帝國テラの軍隊。

 テラは、専制君主独裁制の軍事国家だから、こういう殺戮行為をしても、お咎めは無い。

 勿論、太陽系帝國内の人々に対して行えば極刑。

 でも、敵に対して行う場合、処分されるようなことはあり得ない。

 地球人類は、銀河系宇宙に出るようになっても、未だにこういうことが止められない。

 だから、非常に好戦的な人種と異星人からは評価されているのだ。


 このヴィジョンを見るようになってからは、僕に何が出来るか自分なりに一生懸命考えた。

 僕一人が出来ることでは、テラの軍事侵攻を止めることは全く出来ないだろう。

 だから、先ず僕自身が軍人になって、共和国に生きる人々が皆で協力出来るように持っていき、いつかやってくるヴィジョンの世界のような現実が起きないように、みんなで軍事侵攻を食い止めるしか無いのかなと思っている。

 戦さでテラの軍隊を敗北させるしか防ぐ方法は無い。

 でも、それはなかなか難しい......

 テラは軍事国家。

 軍隊は剽悍で強いからだ......




 騎兵学校は、立憲君主制のアルテミス王国だからこそある軍隊学校の一つ。

 ノイエ共和国とかシヴァの国(西上国)では、こういう学校は無い。

 今どき馬に乗る兵隊なんて必要ない筈だけど、儀礼的に敢えて利用が続いている。

 地球時代から続く伝統ってことで。


 今迄僕は、勉強がメインで、運動系には力を入れたことが無かった。

 その為入校後始まった訓練はメチャクチャキツイ......

 14歳で入隊したのだけど、初日から体は死亡状態。

 訓練が終わってから、王宮内の自分の部屋に戻ると、バタンキュー......

 こんな生活が続いているから、アルテシア王妃や双子の姉妹と顔を合わせることも稀。


 教官からは、

 「お前、よくこの体力で騎兵学校入校を希望したなあ~。 無理だから早く退校して別の道へ進め」

と言われる始末。

 三年前のアルテシア王妃が狙われたテロ事件のヒーローとして僕の名が知られているから、

 「こんな体力だから、一発食らっただけで死にかけるんだよ」

 「せっかく金で買った命なんだから、粗末にするな、お坊ちゃん」

とか、周囲からも随分な言われよう。

 勿論、陰湿なものではなく、僕を励ます為に言ってくれているものだろうけど。


 キツくてキツくて、毎日毎日、自分との葛藤。

  もう辞めよう

  明日辞めよう

って。

 だけど、

  ヴィジョンの世界が現実になるのだけは絶対に嫌だ。

 だから、辞められない

 だって、みんなヤラれちゃうんだよ

 そんなの絶対嫌だ......


 そうこうするうち、数ヶ月したら、体が慣れてきた。

 まだ若いから、何とか順応出来たみたいだ。

 運動神経は結構良い方だったみたいなので、筋力が劣っていた点の問題解消すれば、訓練に付いていけるようになった。

 筋力が同級生より弱かった理由は、ちゃんと有るんだけど、それはいずれキチンと話せると思う。



 そして、ある日。

 大虐殺ではない、別のヴィジョンを見てしまった。

 それは、騎兵学校の年末年始休暇中。

 入校して1年。

 2年間のカリキュラムも丁度半分が過ぎた時......

 ノイエ共和国のお祖父様の邸宅に帰る予定は無かったので、王宮内の宛てがわれた部屋で、体を鍛えていた。

 その時、突如ヴィジョンが......


 王太子一家は、王家の別荘へ行き休暇中。

 その別荘に、何だか変な格好をした数十人の集団が突然現れ、武器をいきなり乱射し、気づいて応戦した王太子の護衛5人を次々と倒してゆく

 そして一家は、この集団に拉致され......

 恐怖に顔が歪むレン・レナの姉妹

 姉妹を必死に体を張って守る、アルテシア王太子妃と王太子

 その後は......

 語るも恐ろしい出来事に......



 王太子一家が襲われるヴィジョンを見たけど、僕は一緒に行動していないから、どうすれば......


 ひとまず王宮内の騎兵学校に行き、誰かいないか探してみる。

 でも、年末年始休暇中で人気ひとけが無い。

 どうしよう......


 困っていると、突然、銀色長髪の制服を着ていないズボラそうな軍人が現れて、僕を驚かせた。

 『この人、何処かで見たような気が......』


 「おい、学校は休みだぞ。 何で校内をウロウロしている?」

と質問されたので、僕は困ってしまった。

 『だって、ヴィジョンの話をしたって、信じてくれる訳が無いし......』


 「お前さんは、騎兵学校1年のリウ・プロクターだな? 有名人だから知っているぞ」

と、その軍人に僕の名前を当てられてしまった。

 「はい、そうです」

と答えたものの、僕は困惑したまま......

 血相を変えて立っている僕。

 その様子を見て、声をかけてきた軍人さんは、何らかの異変に気付いたようで、

 「どうしたんだ。 様子がおかしいよな?」

 ここまでは、良いのだが、

 「腹でも壊したか?」

と尋ねてきた。

 僕は、

 「違います」

とムッとして答えたところ、訝しむ表情を見せながら、

 「じゃあ、どうして学校内をうろついているんだ?」

と重ねて同じ質問をしてきたのであった。



 休暇中の学校内は、シーンと静まり返っており、物音一つしない。

 『他に誰も居なそうだし、もうこの人に話すしか方法が無いか』

と心に決めて、ヴィジョンについての説明と、今見たばかりの皇太子一家が襲われるヴィジョンの話を続けて説明するのだった。


 すると、この長髪の軍人さんは、予想外に僕の話を真面目に聞いてくれたので、僕は

 『この人なら一緒に行動してくれるかも』

と考え、

 「今から一緒に、王太子一家の別荘に向かって貰えませんか?」

とお願いをするのであった。


 すると軍人さんは、

 「うーん、どうするかなあ~」

と言いながら、ちょっと考え始めてしまう。

 「一緒に行ってくれないんですか? 何も無かったら謝ります。 でも物凄く心配なんです」

 重ねてお願いをしながら、

 「直接ひと言伝えて、王太子一家に休暇を切り上げて貰うので......」

と続けたところ、軍人さんは、

 「それじゃあ、根本的解決にならないだろ? 相手の正体を突き止めなきゃ、同じことの繰り返しになる。  それに、俺が悩んでいるのは、行く行かないじゃない」

 その言葉に、僕は意味がわからないという表情を見せたようで、

 「当直なんだよ、騎兵学校の。 だから校内に居たんだ」

と、代わりの当直を立てるかどうかで悩んでいることを説明したのであった。


 その後軍人さんは、ひとしきり悩んだ結果、

 「代わりを立てるのは無理だな。 長期休暇中だから、可哀想だ」

とブツクサ独り言を呟いた後、

 「責任取るしかないなあ~。 当直サボったのがバレたら......というより、リウ君とこれから一緒に行動するのだから、絶対バレるから、処分か〜」

と僕の方を見ながら笑い、

 「君の心配事を解消するために、王太子一家の別荘に連れて行ってあげるぞ」

と、僕の要望を承諾してくれたことに驚いてしまう。

 そして、

 「早く着替えて来い」

と僕に言って、軍人さんも何処かに連絡を取り始め、出発の準備を始めたのだった。



 一旦王宮に戻り、僕が動きやすい格好で戻って来ると、先程の軍人さんはレーザー銃を腰に付け、騎兵隊の軍服では無く、陸戦隊の装甲兵の格好で待っていた。

 軍人さんは、スポーツ系のウエア姿の僕の方を見て、

 「お前さん、その格好は......」

と言いかけたものの、

 「まあいっか、確かに動きやすそうだ」

と、ちょっと呆れた顔をしてみせた。


 騎兵学校の中庭には、既に数人の他の軍人が待っており、そこには、

  垂直飛翔型の小型戦闘艇

が停まっていた。

 僕は、軍人さんに

 「これで行くんですか?」

と尋ねると

 「早く行きたいだろ? ここは王都だから、大型船は許可無く翔ばせないし、それならこれが一番早い」

と、僕はすっかり陸用車両で向かうと思っていたので、すごく驚いた。

 「よく、このような戦闘艇準備出来ましたね」

と質問すると、

 「ふふふ。スゴイだろ」

と言って、胸を張ったので、少し笑ってしまった。

 「軍人さん、一体何者なんですか?」

と尋ねたが、この銀色長髪の軍人さんは、

 「しがない宮仕えのイチ軍人だよ」

と答えをはぐらかして、

 「早く、王太子の別荘に行ってみよう。 君が居れば突然訪問しても怒られないだろ?」

と言い、直ぐに乗り込むように促され、戦闘艇は上昇を始めた。

 この戦闘艇を準備した数名の軍人達は、こちらに向かって一斉に敬礼し、

 「大佐、ご武運を」

と言っているのが聞こえた。

 『この軍人さん、大佐なんだ

 若いし、もっと低い階級の人だと思ってた

 大佐は普通、学校の当直やらないでしょ?』

と僕は非常に失礼な感想を抱いたが、戦闘艇はひとっ飛びで別荘に向かうのだった。



 流石に宇宙艦隊用の機体。

 ものの数分で、別荘に到着。

 別荘の敷地内に着陸し、建物に向かうと、こちらに銃を向けている王太子の護衛達の姿が......

  『これは困った』

と、僕は両手を上げて立ち止まる。

 すると、軍人さんは、

 「騎兵隊隊長のリク・ルーナ大佐ですよ。 護衛の皆さん、銃を下げてくださ〜い」

と、半笑いで銃を下げるよう王太子の護衛達に命令した。

 すると護衛達は、ちょっと驚いた表情で一瞬固まった後、すぐさま直立して大佐に向かって敬礼をし、

 「大変失礼しました」

 「もう1名の方はリウ様ですね。 一体どうしたのですか?」

と言いながら、銃を下ろしたのだった。


 「あっ、騎兵隊の隊長だったのか。 騎兵学校生なのに、隊長のことを......だから見覚えがあったんだ」

と今更ながら気付いた僕。

 王太子一家も騒動に気付いたようで、建物の外に出てきた。

 僕は、一家の元に駆け寄り、

 「驚かせてごめんなさい。 でもヴィジョンが見えたので」

と詳しく状況を説明し始めた。

 それを聞いた王太子やアルテシア王太子妃は、ちょっとビックリした様子だったが、とりあえず僕と大佐を手招きし、

 「建物の中で、ゆっくり話しましょう」

と語り掛けてくれたのだった。



 建物に入ると王太子夫妻は、大佐に向かって

 「騎兵隊隊長のルーナ大佐でしたね。 王宮の警備いつもありがとうございます。 それによくぞ、ここまで来る決断をしてくれました」

 「なかなか信じられない話でしょうが、リウのヴィジョンが無かったら、私、アルテシアは既にこの世におりません」

と僕のヴィジョンの話しを信じて、行動してくれたことに感謝の意を伝えてくれた。


 続けて、王太子妃は

 「ところで、大佐。 休暇のご予定は?」

と質問したところ、大佐は、

 「有りません。 独身なので......」

とちょっと顔を赤らめて答えた。

 「では、私達と一緒に過ごしませんか? このまま休暇を中断して帰るのも一つの方法だけど......」

 「それだと、またいつか襲われるかもしれないし、必ずヴィジョンが見える訳でも無いみたいだから......」

 「それに、リウの見たヴィジョンが起こる日にち迄は分からないのだから、それが一番良い方法でしょ?」

と逆提案をされてしまい、どうしようかと迷っている様子のルーナ大佐。


 暫く考えてから大佐は、

 「しかし、私達だけでは、ここの警備体制が盤石とはとても言えません」

 「王宮に戻られる方が良いと思われますが......」

と、帰宮を薦めた。

 それに対して王太子妃は、

 「私達が予定を変えると、みんなの年末年始休暇がキャンセルになっちゃうし、それでは申し訳ないわ」

 「それに」

と言うと、王太子妃は笑顔で言葉を止めたので、大佐が

 「それに?」

と確認したところ、王太子妃は王太子の方を見ながら、

 「大佐がおられれば、百人力でしょ? 夫も若い頃は軍に居たので、夫から噂はかねがね聞いていますよ」

と、鋭い読みと行動力で、いくつもの難題を解決してきた有名軍人であることを称賛したのだった。


 大佐は、ちょっと恥ずかしそうに、

 「噂だけが、先行しているだけですから」

と答えた後、

 「王太子一家のご希望はわかりました。 ひとまず王室の警備隊長には連絡させて下さい」

と、このまま留まり、ことの行く末を見守るのを渋々ながら、賛同したのだった。


 その後、王太子は

 「大佐。 騎兵隊隊長の任務と騎兵学校の当直の件は大丈夫ですよ。 軍幹部に連絡して許可を取りましたから」

 「それと、装備使用の件は、大佐は元々艦隊の方だから、そっちに話をした方が良いのかな? あの機体は騎兵隊や警備隊の装備では無いし......」

 「未確認のテロ情報があったので、偶然騎兵隊の当直だった大佐と、幾つかの装備をお借りしたと連絡しておいたから......」

などと段取り良く、許可申請も同時に行われたのだった。



 僕は、かなり大事おおごとになってしまったことに少し動揺していたが、大佐は、

 「ちょっと大掛かりになってしまったが、気にするな」

 「未確認とは言え、王室へのテロ情報があれば、これぐらい当然だ」

と言ってくれた。

 「とりあえず、襲撃は夜だったのだろ? ヴィジョンで見たのは?」

 「はい」

 「場所は、この別荘だよな?」

 「はい」

 「よろしい。 それではここで待つことにしよう......」

 「大佐」

 「なんだ?」

 「大佐は、有名人なんですか?」

 「そんなことは無いけど......時間もあるし、昔話でもするか」

と大佐は答え、話を始めた。


 「俺は任官してから暫くは、憲兵隊だったんだ」

 「その頃、軍ではちょっとした事件が相次いでいてね、その捜査にあたったんだよ」

 「最初は、嫌がらせで物が壊されるとか失くなるとかだったんだだけど......」

 「結局は、殺人事件迄発生してしまって、しかも軍内部の出来事なのに、犯人がわからないまま迷宮入りしかけたのを、俺が不眠不休で謎を紐解いて逮捕、解決したっていう訳さ」

 「王太子殿下夫妻が言っていたのは、その名探偵のようなことをしていた時のことだよ」

 「概要はこんな感じだ」

と、ちょっと昔を思い出して懐かしいなあという表情を見せた。


 「その後は、希望していた艦隊勤務になったんだけど、アルテミス王国は比較的平和だろ?」

 「最近は太陽系帝國テラの勢力が拡大して、国境を接するようになったけど、それまではシヴァの国が帝國と小競り合いになったときに、援軍で向かって、小規模な戦闘に参加する。 それぐらいしか出番が無くて、普段は艦の掃除と訓練だけだから、飽きちゃってな~」

 「今は大佐だけど、俺は結構言っちゃう方だし、髪形もこんな感じだろ?」

 「目つきも鋭いから、上官と反りが合わなくて嫌われてさ、艦隊を出されちゃったんだよ」

と、肩をすぼめながら、仕方ないよねというようなポーズをした。


 「現在の肩書きの騎兵隊隊長って、この役職は普通大佐で退官する人が最期の方で就く名誉職なのさ」

 「騎兵学校だけを卒業した叩き上げの人に取っては、大変名誉な職だけど、俺みたいに、士官学校出のまだ三十代の大佐が就く場合は、完全に左遷コースなんだよな」

 「次は何処に飛ばされるかなあ......って、リウ君に愚痴っても仕方ないな」

と、年齢半分以下の子供に愚痴ってしまったのをちょっと後悔した様子だった。

 僕は、

 「軍の人事のことは、よくわかりませんが、大佐を見て一つ言えることが有ります」

 「へ???」

 「それは、銀色の長髪が軍服に似合っていますよってことです」

 「特に騎兵隊の制服によく似合いますよ」

キョトンとした大佐。

 そして、

 「ハハハハハ......」

と大笑いしてから、

 「だから、騎兵隊隊長なのかもな」

 「軍上層部も、そう思ってくれればイイのにナ」

と言ってニヤリとするのだった。



 「しかし、君ってちょっと不思議な感じがあるよね?」

と大佐は言った。

 「そうですか?」

と尋ねると、

 「まだ子供なのに、なんだかちょっと大人びていて、話しやすい雰囲気を持っているよね」

 「君が将来軍人になるのか、三国同盟の何処の国を選んで生きていくのか、それは俺にはわからないけど、そうした雰囲気は是非無くさないで欲しいなあ」

と、褒めるようなことを突然言ったので、リウは少し気恥ずかしそうだった。



 それから、2日経ち、3日経っても何も起こらず、ヴィジョンも見なかったので、僕は少し焦り始めていた。

  『あれは、見間違いだったのだろうか?』

と。

 大佐も僕の気持ちに気付いたようで、

 「悪いことは起きないに越したことはない」

 「君が見たヴィジョンで、俺や君が動いて、いま王太子一家と一緒に居る」

 「その行動で、未来が変化したのかもしれない。 ノイエ国首都星系宇宙港での出来事もそうだっただろ? だから、気にするな」

と優しく諭してくれた。


 そして、大佐から、

 「そういえば、ちょっと聞きたかったんだが、他に見えたヴィジョンって有るのか?」

と質問された。

 僕は、

 「有ります」

と答えると、大佐はくつろいでいた姿勢を正して、僕の方に向き直り、

 「アルテシア王太子妃から聞いたのだが、リウ君が最近よく見るヴィジョンで苦しんでいるんだろ?」

 「もし良かったら話してくれないか? 少しは楽になれるかもしれないから」

と申し出てくれた。

 そこで僕は、

  『太陽系帝國テラ軍が、アルテミス王国やノイエ共和国に侵攻して、共和国軍を撃破し、兵士達が残虐の限りを尽くしているヴィジョンをよく見る』

ことを説明した。


 すると、大佐は今迄見たことも無い深刻そうな顔つきになり、

 「そうか〜」

と大きなため息をついた後、黙り込んでしまった。


 暫くして、

 「テラの侵攻、君はどう思う?」

と尋ねてきた。

 僕は、

 「十分あり得ると思います。テラは軍事国家だし、戦馴れしていて軍も強いですから......」

と答えた。

 すると、大佐は、

 「まさしく、そうだな。 帝國軍は戦争馴れしているから、兵士の一人一人まで我々より強い」

と言ってから、

 「じゃあ、どうやって防げば良いと思う? 忌憚なく意見を述べられよ」

と追加の質問してきた。


 僕は、無い知恵を絞って、

 「テラと戦って、彼等を敗北させる。 これしか無いと思います」

と答えた。

 すると、大佐は、

 「正解」

と言って、僕の髪の毛をグシャグシャにした。

 「戦って勝つしかない。 でもそれが分かっていない連中が多過ぎるんだよ」

と言ってから、

 「交渉出来る相手なら、交渉して回避する方法もあるさ。 でもテラの連中は地球圏以外を奴隷の様に見下しているような人達の国だから、交渉しても決裂するのが目に見えている」

 「だから、戦って勝つしかない」

 「でも、現状では勝てないだろうな~」

と言葉を選びながら、大佐自身の意見を述べてくれ、現実の厳しさを再認識させられた。


 暫く考えてから、大佐は、

 「わかった!!」

と僕に向かって言った。

 「何がですか?」

と尋ねると、

 「君が騎兵学校に入校した理由さ。 君みたいなノイエ共和国の御曹司が、どうして軍隊に入ろうとするのか? イマイチ理由が分からなかったけど、そうかそうか」

 「戦って勝つ為か〜」

と言って、ちょっと嬉しそうな顔をした。

 「それで、君はどういう軍人になりたいんだ」

と尋ねてきた。

 僕は、

 「恥ずかしいから、言いたくありません」

というと、

 「笑わないから、教えろよ。 俺に出来ることがあれば、協力するよ~」

としきりに

  教えろ教えろ

と強く迫るのだった。


 根負けした僕は、

 「絶対に笑わないで下さいね」

と念押ししてから、息を整えて、

 「名将になりたいです」

とひと言答えた。

 「名将?」

と再確認の質問が飛んできたので、

 「名将です。 帝國軍に勝てる名将に。 例えばリョウ・シヴァ丞相やテラの大帝のような」

 「僕にそんな能力は無いかもしれません。 でも最低でも目指さねば絶対になれないでしょ?」

 少し恥ずかしながらも、自分の思いの丈を熱く話すリウ。

 「名将には天賦の才能も必要です。 人並み外れた努力もでしょう」

 「僕に天賦の才能は無いかもしれませんが、努力だけは出来る。 だから精一杯努力してみます。いつか必ずやってくる決戦の日迄......」

 「それで負けても、悔いは無いんじゃないかなと思うんです」

と、全てをぶつけた答えを大佐に話すのであった。


 大佐はその答えを聴くと、黙ったままだったが、やがて、

 「久しぶりに胸が熱くなるような言葉を聞いたよ」

 「リウ君と同様に『帝國がいつか攻めて来るのではないか?』と思っている俺だけど、なんだか諦めちゃっていた自分が恥ずかしい」

 「俺は、軍人なんだから、諦めるんじゃなくて、帝國と戦って勝つ方法を見つける努力をしなければならないよな」

と僅かに目を赤くして、僕の回答に対する感想を述べたのだった。



 その日の夜、

 みんなが寝静まってから暫くすると、ヴィジョンが脳の中を走った。

  『来る!!』

 僕は、そーっと起き上がり、大佐が寝ている部屋に......

 すると、大佐は既に起きていて、装甲服を着て待っていた。

 小声で、

 「ヴィジョンがありました。多分来ます。 でも大佐、どうして準備完了なのですか?」

と尋ねると、

 「戦闘艇の探知装置が反応したんだよ」

と教えてくれた。

 それと共に、

 「リウは、王太子一家の元へ」

と持ってきたレーザー銃の一つを貸してくれながら、

 「学校で使い方は教わったよな? イザとなったら落ち着いて撃て。 反動は殆ど無いから」

と言いながら、僕の背中を押して、一家の滞在している1階へ行かせてくれた。


 暫くすると、大佐の居る2階から、何発ものレーザー銃の銃声が......

 ピューン、ピューン、ダダダ......

 何度も何度も、銃声が聞こえる。

 僕は、王太子一家と合流し、護衛兵も合流。

 侵入者が、室内に入ってくるのに備える。


 2階からの銃声......

 戦闘艇の止まっている方角から、爆発音も......


 でも、室内への侵入者は現れない......

 まだ続く銃声。

 また外で爆発音。


 1時間位経っただろうか。

 もう銃声も爆発音も聞こえなくなり、暫くすると、大佐が2階から1階に降りてきて、王太子夫妻の元へ。

 「侵入を図った輩は、全て倒したと思います。 まだ残党が居るかもしれないので、護衛兵は一家の護衛を」

 「リウ、ちょっと一緒に見に行くぞ」

と大佐は状況を説明して、僕に一緒に来るよう指示した。


 外に出ると、フードを被り、異様な面を付け、白装束の人間が、あっちこっちで倒れて死んでいた。


 「これ、大佐が全部倒したのですか?」

と尋ねると、

 「半分以上は、アイツだ」

と戦闘艇を指さした。

 「戦闘艇の自動防御装置様々だな」

と説明してくれた。

 「でも、大佐は射撃の腕が良いんですね?」

と持ち上げると、

 「だから、憲兵隊に配属されたんだ。 今も騎兵隊だろ? 艦隊だったら射撃の腕は要らないからな」

と自嘲気味に答えた。


 「とりあえず、憲兵隊や王室警護隊に連絡だな」

 あとは彼等に任せよう。


 暫くすると、首都から軍やら警察やら多くの人がやって来て、検証や捜査を始めた。

 僕や大佐も事情聴取で、連日忙しい日々。

 王太子一家の休暇も強制終了となり、貴重な騎兵学校での休暇は、こうして幕を閉じた。



 あとから知ったのだが、僕の話を聞いて、王室の別荘に行った後、ルーナ大佐はあっちこっちに色々な手配をしていたらしい。

 憲兵隊も王室警護隊も動いていて、王太子一家の見えない範囲で警備網を構築していたそうだ。

 ルーナ大佐は、襲撃があるまでの4日間、大半はノンビリ過ごしていたように見えたが、それは僕の目が節穴だっただけだ。



 襲撃してきたグループは、狂信者の団体メンバー。

 自分達の信じるオカルト宗教の為、王太子一家を生贄の祭壇に掲げようと、襲撃してきたのだそうだ。

 メンバーの半分は射殺され、半分は逮捕され、組織は壊滅したらしいが、宗教を利用した陰謀めいた事件は、いつの時代も定期的に発生してしまうのが、人間の世の定めなのかもしれない。


 そういえば、ルーナ大佐は、

  憲兵時代の出来事で有名になったんだ

と言っていたけど、それだけではなくて、シヴァ丞相軍と帝國軍の艦隊戦でも活躍していて、有名になったそうだ。

 本人は謙遜して言わなかっただけみたいらしい。




 事件から1年が過ぎ、僕も騎兵学校を卒業することになった。

 僕は今回任官しないので、学校の仲間とは一旦お別れだが、いつかノイエ共和国軍の軍人となったときに、戦場で一緒に帝國軍と戦う日が来ると思う。

 そんな万感の想いに浸っていると、久しぶりにルーナ大佐が僕のところにやって来た。


 「リウも今日で卒業か〜」

 「任官しないから、同級生とはここでお別れだな」

 「寂しいかもしれないが、ここで任官しても、リウのあの希望は果たせないからな......泣くなよ」

と、祝いに来たのか、誂いに来たのか、という感じであった。


 「これから、あと1年は王宮に居るんだろ? 大学の卒業資格を取る為に」

と、どこで聞いたのか、翌年の僕の行動プランを確認されたのだった。

 僕は、

 「大佐、よく僕の予定を知っていましたね? 本当は僕のことが気になっているんですね?」

と誂い返しで尋ねると、

 「そりゃそうだ。 名将になって帝國軍を破って貰わなければいけないからな」

と意地の悪い言い方で、再び切り替えされてしまった。


 「まだ、役者が違うので、言い負けちゃうけど、何年かしたら、勝ってみせますよ」

と言うと、

 「俺程度には、楽勝してもらわないと、名将への道のりは遠いぞ」

と笑いながら、

 「とにかく、卒業おめでとう。 とりあえず第一歩だ」

 「俺も、騎兵隊隊長は卒業。 次は戦艦の艦長だからな。 暫くお別れだ」

と。

 僕に会いに来た目的は、異動の挨拶だったようだ。


 僕は、

 「艦隊復帰おめでとうございます。 僕の計画では大佐には中将まで昇進して頂かないと困るんで、頑張って下さい」

と言って、異動を祝福すると、

 「なに〜。中将? それは厳しいなあ。 その計画今度教えてくれよ」

 「まだ、ダメです」

 「もう少し大人になって、良い計画だと思えるようになったら、お見せしますよ」

と言ってから、

 「当分は王宮に居ますけど、再来年からは帝國に行こうと思っています」

とその次の計画も仄めかすと、

 「えっ、帝國に潜入するのか? それは大胆だなあ」

と言いながら、

 「将来の敵を見てくるのは必要なことだな」

 「そして、無事に戻ってこれたら、そろそろノイエの士官学校に入って貰わないと。 帝國の侵攻時に艦隊を指揮出来る提督になっているのには、時間的に間に合わなくなるぞ」

と、まだ見ぬ将来の心配までしてくれた。


 この出来事が、将来、大変重要な盟友となるリク・ルーナ大将(現在は大佐)との出会いであった......


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