第19話(ジャン・フォー・プロシード)
クロノス星系防御指揮官代理に任じられたジャン・フォー・プロシード准将。
彼とリウの因縁とは?
クロノス星系より、プロクター、ルー准将の部隊が出発してから5日後、帝國軍の5個艦隊がクロノス星系外縁部に出現した。
クロノス星系は巨大な星系全体をシールドで覆う防御システムが存在しており、難攻不落と言われている。
シールド自体は、恒星のエネルギーを利用しているので、破ることはほぼ困難。
しかし、シールド内にあるシールド発生装置が破壊されれば、当然シールドは消えてしまう。
その為、シールド発生装置の周辺は非常に堅牢な要塞となっている。
一番大きな問題点は、クロノス星系に居住する人口(250億人)があまりにも多く、自給自足が出来ないことだ。
星系が包囲され、シールドを張った状態が続くと、外部から必要な物資を輸入することができなくなり、最終的には食料や資源が足りなくなってしまう。
それ故、宇宙艦隊司令長官代理のタイラー中将は、特命で出動する准将2人に
「6か月以内に成果を」
という条件を付けたのだ。
帝國軍侵攻に伴う避難民の流入で、シールド内の人口は1割増となっており、非常に厳しい状況に陥っていた。
クロノス星系に到達した帝國艦隊は、シールドに対し、ひとまず一点集中砲火を浴びせたが、ほとんど効果は無かった。
若干、シールドが弱くなるものの、艦隊が突入出来る程のものではなかったのである。
その為、帝國艦隊は包囲することでの自滅を狙う方針に変更した。
帝國側もクロノス星系の弱点を把握していたということになる。
4個艦隊で包囲を続け、残りの1個艦隊は、他の未占拠星系の制圧を続ける方針となっていた。
その肝心なクロノス星系防御指揮官代理には、ジャン・フォー・プロシード准将が任命されている。
中佐になったリウが、第四艦隊に異動となった時に声を掛けてきた、あの男である。
フォー・プロシード准将は、先のエペソス星系大会戦時に中佐であったが、第二艦隊所属の巡航艦エウレカの艦長として出征しており、艦隊は壊滅したものの、巧みな操艦で激戦をくぐり抜けた上、非常に多くの負傷した将兵を救出して帰還したことが評価され、リウやルーと同様に一気に特別昇任し、今回准将となっていた。
士官学校4年課程を首席で卒業し、将来の統合参謀本部議長と目される程の秀才。
しかも、同期生をかなり大事にし、勇気と思慮深さもあり、如何にも勇将っぽい体格の良さ、精悍さに、甘いマスクをも兼ね備えていることから、軍部だけでは無く、政権内でも
政界に転出させ、将来の国家元首に
との声が出ていた程の男であった。
今回、フォー・プロシード准将が、特別の栄誉でクロノス星系防御指揮官代理となったのは、実は政界からの推薦であった。
父親を帝國軍に殺され、苦学の末にエリート軍人となった大会戦の英雄の一人
帝國への敵愾心が強く、クロノス星系防衛戦でも必ず功績をあげるだろう
というシナリオで。
そして裏では、当人自身がそのようなシナリオを政界に売り込んだのだ。
帝國軍を追い払ったら、軍から政界に転出するとの約束をすることで。
リウとフォーの関係は、リウ側から見れば、
幼馴染だが微妙
というものだが、フォー側から見ると
相当なライバル意識をリウに対して持っている
のであった。
フォーが馬鹿にしていた第四艦隊副司令官ハーパーズ少将がエペソス星系大会戦の英雄となり、その配下だったリウ達迄もが高い評価を受けたことで、フォーは、
このままだと軍内部での出世レースで、リウに負ける
軍才では多分敵わない
と内心悟っていた。
また、今回の大会戦の大敗の経緯から、
ノイエ軍の評価が地に堕ち、軍で出世してもかつての様な評価が得られなくなった
ということも、政界転身を決める大きな要因であった。
『クロノス星系防御指揮という、功績をあげやすい役職をチョイスし、帝國軍が駆逐されれば、大戦の英雄の一人として政界に転出し、大統領の座を視野に入れて狙っていく』
という人生設計へと思い切って大転換したのだ。
こういう決断力の良さは、評価されるべきだが、動機は、
リウより常に評価されたい、上に居たい
という
幼い頃の根深い嫉妬と執念
から来ていたものであった。
時は遡ること23年前。
ノイエ共和国首都星系クロノスの第五惑星ヘーラー。
まだ幼きリウ・プロクターが住む大邸宅の敷地内に、一組の母子が引っ越してきた。
リウの母の友人であったマリア・プロシードと、その長男ジャン・フォー・プロシードである。
この母子の夫は仕事先で、運悪く太陽系帝國の艦隊と小国家の戦闘に巻き込まれてしまい、帝國艦隊の中性子ビーム砲を浴びて、乗船していた商船ごと瞬間に蒸発してしまったのだ。
夫を失い、困窮した友人のマリアを哀れんだリウの母は、自分の屋敷の住み込み家政婦として雇い、敷地内に住まわせて生活の面倒を見てあげようとした。
ただ、そのことが、フォー・プロシード少年の心に大きな翳をもたらしてしまう......
大財閥の跡取り候補の孫として、何不自由なく暮らしているリウ・アーゼル(プロクター)。
祖父から非常に厳しい教育を受けていたリウであったが、それすら愛情故なので、フォー少年には羨ましかったのである。
それに対し、母マリアは、友人であるはずのリウの母に媚び諂うような態度であり、それがフォー少年にとって、最も見たくない嫌なシーンだった。
6歳になって学校に入学する年齢になったが、リウお坊ちゃんは、超名門校なのに対し、フォー少年は普通の庶民の学校。
勉強は僕だってリウに負けていない
という自負があり、実際そうだったのだが、実力は変わらないのに、既に人生の始まりの最初の学校から雲泥の差。
しかも、リウはもの凄く優しい。
誰にでも優しく、身分の差とか親が居ないとか貧しいとか、そういうのを全く気にしない。
『リウには勝てない、生まれが、環境が違い過ぎる。
でも、自分が一番に成りたいんだ』
と強く思うようになってしまったフォー。
だから、フォー少年は、母マリアに、
「もう、こんなところ居たくない」
と懇願するようになり、結局、逃げるように出ていって以後音信不通となっていた。
この幼き頃の体験が、後にフォーにとって大きな因縁と心のシコリとなり続け、リウを苦しめることになってしまう......
リウには何の責任も無いにも関わらず。
それは、2人にとって不遇な出来事としか、言いようの無いものであった。