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第16話(少将の死)

撤退を決めた第四艦隊の残存部隊。

ところが急速に帝國軍が迫り、絶体絶命に陥った。

誰かが、犠牲にならなければ......


 ハーパーズ少将が麾下艦隊へ撤退の命令を出した直後に、帝國軍の攻勢が一気に強まり、撤退の援護に入ったアルテミス艦隊のルーナ中将の集中砲火を突き破った帝國軍部隊は、ノイエ軍第四艦隊に急速に迫り、危機に陥りつつあった。


 少将は、ここに来て、大きな決断を迫られる。

 それは、

 『誰かが帝國軍の攻勢を一時的に阻止し、その間に撤退しないと、残存のノイエ艦隊全軍が壊滅する』

というものであった。


 戦況の一変を感じ取ったリウ・プロクター中佐が少将に、

 「小官が、この艦に残ってルーナ中将と連携し、帝國軍の攻勢を阻止します。 少将は別の艦に移って残存部隊を率いて撤退してください」

と進言をした。

 続けて、

 「今、ノイエ軍には少将以上の艦隊指揮官は居ません。 ここで負けても、長い戦いは始まったばかりで、まだまだ続きます。 先日お話したように、少しでも状況を改善する為の次の策も打ってあります。 ノイエ国内でも新たな時代に向けた戦いが始まっているのです」

とリウにしては、珍しく熱い口調で述べてから、

 「ノイエ軍の幹部は今回の敗戦の責任を取らされ、中将以上の将官は全員予備役編入となるでしょう。 これからは、少将閣下がノイエ軍艦隊を率いて、帝國軍と戦ってください。 お願いします」

と語った。


 ルー中佐も、

 「小官からもお願いします。 ここはプロクター中佐と共に帝國軍の攻勢を阻止しますので......」

と申し出た。


 すると、少将は

 「いや、ちょっと待て。 俺がここで阻止するから、中佐二人が他の艦に移るのだ」

と言い出し、結局押し問答に......

 最終的に少将は、

 「ちょっと考えさせてくれ」

と言い、指揮デッキ内にある副司令官室に入ってしまったのだった。


 そして一分後、副司令官室から

 「プロクター中佐、ちょっと来てくれ」

と連絡があり、中佐は部屋に入ることとなった。

 リウが入室すると、少将は開口一番、

 「予想はしていたけど、中佐は思った以上に強情だなあ」

と笑いながら、

 「それぐらいの人じゃないと、強い意思を持ち続けることと、その若さでこの地位まで上がって来れないものなあ」

 そう言いつつ、デスクの引き出しを開けながら、

 「こうなると予想していた人が居て、預かっている手紙があるから、今直ぐ見てくれ」

 一通の手紙を取り出し、リウは手渡された。


 リウが手紙を開封して読み始めると、それは、

『リウ。 ここはハーパーズ少将の命令に従ってくれないか?

 お前の気持ちもよくわかる。

 艦隊指揮官としての能力は、もしかしたらお前より少将の方が上かもしれない。

 ただ、シヴァ丞相は、お前が艦隊司令官として指揮出来る様に、新型艦艇の1個艦隊を予備として準備してくれているのだよ。

 お前が戦死した場合やノイエ軍の首脳部がお前を艦隊司令官に任じない場合には、白紙になる話だがね。

 リウは強情を張らずに撤退して、まだ続く厳しい戦いに、身を投じ続けなければならない。

 それが俺を巻き込んだお前の使命だ。

          リク・ルーナより』

という内容であった。


 中佐は、これを読んで、

 「いつ、この手紙を......」

 「ついこの間さ。 惑星アルテミスで受け取ってね。 ルーナ中将とは数年前からの知り合いなんだよ」

と少将は言い、

 「強情を張らないで、ここは俺に任せろよ」

 「俺と違って中佐は、三国の希望の女神なのだから......」


 リウは、『女神』と言われて目を見開いたが、黙ったままだった。

 「俺だって色々言われているけど、一応男だ」

 「こんなところで、自分が逃げる為に、部下の女性を死なせたって言われたら、今後生きて行くのがつらいからな......」

と言い、苦笑いして見せた。


 そして、

 「俺は直属部隊の100隻を率いて、帝國軍に突撃する。 その間に中佐はルー中佐を連れて、残存部隊を率いて撤退しろ。 これは司令官代理としての命令である」

と険しい表情で命令する。

 更に、

 「ルー中佐は、軍には珍しく偏見を持たないイイ奴だ。 指揮能力も高い。 プロクター中佐の足りない部分を補ってくれるだろう」

と続けた。


 またリウが、男性のふりをしてきたことについても、

 「中佐が性別を隠したのは、帝國軍との戦いに全てを掛ける為だろ? その判断は正しかったと俺は思う。」

 「我軍で女性だった場合、どんなに優秀な人でも、中佐の年齢では中尉止まりだったろう。 中尉だったらノイエ軍では何も出来ず、戦死して終わりだったに違いない」

との意見を述べて、男の軍人として過ごしてきた決断を肯定してくれたのだった。

 「俺も、性差別みたいなもので苦しんできたからな」

と言うと、目を瞑る少将。

 少し過去を振り返っている様であった。

 その間、リウは黙ったままだった。



 やがて少将は、少し笑顔を見せながら、

 「中佐、最後にお願いが2つある」

と少将は言い、引き出しからもう一通の手紙を取り出した。

 「俺にも家族が居る。 両親宛ての手紙だ」

 「中佐が今後帝國軍に勝って、奴等を撤退させ、クロノス星系に平和が戻ったら、この手紙を届けて欲しい」

 リウが差し出された手紙を受け取ると、 

 「それともう一つ......」

と言って、少将は少し黙ったので、リウは

 「はい」

とようやく返事をした。


 「帽子を取って、束ねている髪も解いて、リュウ・アーゼルとしての顔を見せてくれないか?」

と言ってきた。

 それに対して、リウは暫く黙ったままだったが、やがて被っていた帽子を取り、長くなってきた髪を解いてから、頭を二度振り、女性の『リュウ』となって、少将の方を真っ直ぐ見つめた。

 「噂通りだ。 中佐はそっちの方が、男の時よりも100倍イイな。 もう思い残すことは何も無い......」

と嬉しそうな顔をしながら感想を述べると、

 「さあ現況での時間は、ダイヤよりも貴重だ。 若手を連れて、直ぐに退艦準備に入れ」

と改めて命令を出した。

 すると、敬礼をしたリュウ・アーゼルのエメラルドグリーンの瞳からは、一筋の涙が流れ落ち続けるのだった......



 リウの説得を終えてから直ぐに控室を出て指揮デッキに戻った少将は、ルー中佐にも退艦命令を出した。

 髪を直す為に、少し遅れて戻ってきたプロクター中佐は、ルー中佐に

 「少将の命令だ。 先輩、他の艦に移乗するよ。 時間が無い」

 真っ赤な目をしたまま言って、少将の方を向いて再び長い敬礼をしたのだった。


 プロクター中佐、ルー中佐が艦橋を降りて、小型救難艇に乗り移り、中佐2人と同様に上司から退艦命令を受けた他の何人かの若手下士官・士官と共に、戦艦ベルクに移乗したのは、10分後だった。

 戦艦ベルクには分艦隊司令官のニミッツ准将がおり、プロクター中佐は第四艦隊司令官代理ハーパーズ少将の命令を伝えた。

 すると、ニミッツ准将は、直ぐに第二艦隊の残存兵力を率いているホーウィン准将に連絡をとって、ハーパーズ少将からの緊急撤退命令を伝えると、帝國軍への突撃部隊を除く第四艦隊の残存艦艇約200隻と第二艦隊の残存艦艇250隻は共に撤退準備に入った。



 やがて戦艦トパーズは、副司令官直属部隊の他の僚艦100隻余りと共に、帝國軍に突撃を開始した。

 ハーパーズ少将は、突撃命令を出した後、直ぐ下のデッキに座るアリエス大佐に向かって、

 「済まない、大佐。 一緒に死んでもらうことになってしまって......」

と言うと、大佐は自動操艦モードに切り替えて、帝國軍のど真ん中へと真っ直ぐに艦の航路を設定しながら、

 「司令官代理。 プロクター中佐とは良い話が出来ましたか?」

と尋ねてきた。


 「ここで敗北して、ノイエ国は帝國軍に蹂躙されるだろう。 でもきっと彼女等が、ノイエ国と軍を立て直して、同盟2カ国と協力して帝國軍を駆逐してくれるだろう。 安心して地獄に行けるよ」

 その様に答えてから、

 「大佐にも見せてあげたかったなあ~。 帝國軍から三国を救う為に、幼い頃から命を掛け続けてきた女神の、その涙を流している絶世の美女ぶりを......」

 「この子の為なら、命を捨てても惜しくはないって思ったね......」

と言い、少将は満足そうな笑顔を見せた。

 すると、艦長が、

 「そうですか。 小官も最後に噂の救世主である三国の女神の姿を見たかったですね。 その夢はもう叶いそうもありませんが......」

 それが彼等の最後の会話であった。



 少将等の命を掛けた突撃のおかげで、帝國軍の攻勢は一時的に弱まった。

 その隙に、第四艦隊の残存艦約200隻は、第二艦隊の残存艦艇250隻や、その他に生き残っていた5個艦隊の敗残兵約300隻の僚艦と共に、大会戦の戦場を離脱することに成功したのだった。


 また、最後まで戦場に残って味方の残存艦艇の撤退を支援していたルーナ中将の艦隊も、新型の長射程亜光速光子ミサイル数万発を帝國軍にお見舞いし、完全に足を止めさせてから、悠然と戦場を離脱し、ディアナ星系方面へと撤退して行ったのであった。




 最終的には、

  帝國軍3800隻余りの損失

  ノイエ軍2200隻余りの損失

  アルテミス王国軍1400隻余りの損失

となり、損失数は敵味方同数だったものの、ノイエ軍艦隊は7割以上を失い、宇宙戦力がほぼ壊滅し、継戦能力を喪失したのだった......



 帝國軍では予想外の余りの損害数に、二世皇帝が激怒していた。

 仕方無く、予備兵力の1個艦隊と老提督ウォルフィー元帥の部隊から1個艦隊をアルテミス王国側の戦線に送ることに作戦変更となっていた。




 一方、西上国のシヴァ軍とテラ帝國の別動隊ウォルフィー・オズワルド軍の戦いは、当初帝國軍12個艦隊6000隻に対して、西上国軍11個艦隊5500隻を動員したので、戦力的には互角の筈で有った。

 ところがシヴァ丞相は、新型艦艇で構成された艦隊について、保有する全3個艦隊を最初から最戦線に動員したことで、帝國軍を序盤から圧倒していたのだ。

 「何だ、あの艦隊は?」

 帝國軍を率いるウォルフィー元帥とオズワルト大将は、見たことの無い艦影で構成されるシヴァ艦隊の先鋒3個艦隊による、射程外からの猛攻撃に大きな出血を強いられていた。


 「シヴァめ〜。 帝國軍の大攻勢に備えて、やはり隠し玉を準備していたか〜」

 芳しくない戦況について、元帥との会合の席で、オズワルト大将が呻くように悔しがる。

 「あの艦隊の性能は、帝國軍の艦隊の性能を遥かに上回っているの〜。 このままでは大遠征は失敗するかもじゃな」

 ウォルフィー元帥が、あえて大将の気持ちを落ち着ける様な物言いをしてみた。

 「大遠征が失敗に終わる......」

 大将は元帥の言葉に冷静さを取り戻した。

 「儂もそなたも、大遠征には反対じゃった。 だから、皇帝陛下の気持ちを変える最大の要素になるかもじゃろ、あの新型は。 このままでは我等はシヴァに負ける」

 「元帥もそう思いますか。 性能差があまりにも大き過ぎる」

 初戦は、シヴァに一方的に押し込まれ、1割近い損失を出してしまっていたのだ。


 「当面は守りに徹しましょう。 こっちから攻め込んだのに、おかしな話ですが」

 オズワルト大将は元帥に、全軍の方針変更を説明する。

 「そうじゃな。 本隊が戦っているアルテミス側戦線の結果次第では、帝國領方面へ徐々に引こうかの」


 その後、西上国軍は新型艦隊を1個艦隊、他の戦線を転進させたので、ウォルフィー元帥とオズワルト大将は何とか戦線を維持出来ていたのであった。

 「シヴァは、新型の一部を他の戦線に移動させたみたいだな」

 オズワルト大将は、副司令官のボーデン中将に聞こえる様な声で呟く。

 「何処に持って行ったのでしょうね」

 中将は大将の呟きに返答をすると、

 「おそらく、やや劣勢なアルテミス王国軍への増援にだろうな」

 「もう一つの国では無いのですかね?」

 「ノイエか? 情報によるとシヴァとあの国はあまり関係が良くないらしいぞ。 ひとまず、西上国と隣国のアルテミス王国の守りを固めるのが先決だろうな」

 オズワルト大将は戦況を交えて中将に説明する。

 「アルテミス王国にも、新型艦隊は有るのでしょうか?」

 ボーデン中将がふと感じた疑問の質問に、

 「有るみたいだぞ。 もう一つの戦線でも、アルテミス王国艦隊の中に、見たことの無い艦艇が少数だが参戦していて、味方はまあまあ苦戦しているらしい」

 オズワルト大将はウォルフィー元帥から聞いた極秘の戦況情報を腹心である中将に話した。


 「すると、シヴァとアルテミス王国軍は、温存している新型を示し合わせて一気に最前線に投入して、反撃に出て来るかもしれませんね」

 ボーデン中将が自身の考えを述べると、大将は、

 「シヴァが新型を一部転進させたのは、我等との初戦で勝利をおさめて余裕が出たから、戦力バランスを一部修正し、反転攻勢に出る為だろうな。 元帥はこちらの戦況が良くないから、撤退を何度か皇帝陛下に進言してくれているらしいが......」

 「今回の大遠征は、皇帝陛下自ら計画したものですから、そう簡単に他人の意見を受け容れられないでしょう。 大敗する前に撤兵するのは難しいということですかね?」

 そう答えたボーデン中将も、戦況が帝國にとって、ますます悪化することに備えなければならないと、気を引き締めるのであった。 


 

 西上国側での戦いは、その後も互いに砲火を交えながら、睨み合い状態が続いていたが、帝國軍本隊の損害が大き過ぎたことで、二世皇帝の命令により別動隊のウォルフィー艦隊から1個艦隊がアルテミス王国方面に転進させられたことで、再びシヴァ丞相の艦隊が優勢となり、戦線を帝國領方面へ押し込み始めていた。

 シヴァは、コトク大将に、

 「新型艦の艦隊の効果は予想以上に大きいな。 序盤の勝利で、ウォルフィーの爺さん側の艦艇数が1個艦隊分減少したので、こちらも1個艦隊転進させたが、それでも敵をかなり押し込みつつある」

と戦況についての話をしていた。

 「王国軍とノイエ軍が戦った大会戦で、帝國軍の損害が大きかったから、皇帝は撤兵も考慮するかと思いましたが......」

 大将は、予測が外れた自身の意見を述べるのであった。

 そして、

 「アルテミス王国のディアナ星系に送ったヒエン大将の新型艦隊が、そろそろ効果を出す頃ですな」

と確認する。


 「アルテミス王国軍のルーナ中将が、損害微小で大会戦の戦場から抜け出せたらしいぞ。 これで大将に昇進だろ」

と大会戦側の戦況を説明しながら、今後の展開について、

 「ルーナ大将とヒエン大将の新型2個艦隊でのゲリラ戦。 帝國軍は相当苦しむだろうな。 アルテミス星系を占領しても、誰も居ないし、物資もエネルギーも何も得られないから」

 盟友にそう話すと、今のところ自国とアルテミス王国軍に関しては、想定通りの展開になっていることで、ほぼ満足していたのだった。


 「問題は、ノイエ軍とリュウ嬢ちゃんだ」

 シヴァはコトク大将に言った。

 「戦況の記録を見たけど、嬢ちゃんの上司の少将閣下は、それは見事な戦闘指揮ぶりだったよ。 彼が生きていれば、ノイエ軍も大戦後は安泰だったろうに......」

 「丞相が、そこまで褒めるなんて珍しいですなあ」

とコトク大将が言うと、

 「その彼が、嬢ちゃんを逃がすために、命を掛けた突撃で戦死した影響が、嬢ちゃんには今後大きく出るだろう。 その点が心配なんだよな」

と答えた後、

 『眼の前のコップを高々と上げて、遠くアルテミス王国の方角を向いて目を瞑り、亡くなった勇将ハーパーズ少将に哀悼の意を示した』

 シヴァ丞相とコトク大将であった。


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