表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/140

第15話(大会戦の開戦)

いよいよ、大会戦が始まった。

当初は健闘する連合軍。

しかし、帝國軍との兵力差は徐々に大きくなり......


 ノイエ国艦隊は、アルテミス星系外縁部で先に待機していたアルテミス王国艦隊と合流を果たし、いよいよ決戦の地エペソス星系へ移動を開始した。


 迎撃作戦に関しては、各艦隊を1列に並べて帝國軍の大軍を迎え撃つという部分のみ決まっていて、後は両国の艦隊司令部の判断で動くことになっていた。



 ジョージ・ハーパーズ少将は、アルテミス王国艦隊について、リウ・プロクター中佐から聞いた新型艦隊の件があったので、どのような編成になっているのか気になっていた。


 すると、アルテミス王国軍は、思い切った編成をしているらしいことに気付いた。

 ルーナ中将の中核艦隊100隻が、どうも見慣れない中型戦艦のみで構成されているらしく、更に300隻の中規模3個艦隊を、ルーナ中将指揮下におかせているようなのだ。


 その様子にプロクター中佐も気付いたようで、スクリーンに拡大投影してから、

 「中佐、あの100隻が例の新型か?」

と尋ねると、

 「おそらく、そうです。 実物を見るのは小官も初めてなので......」

との答えを貰った。

 「中将に1000隻の指揮を預けているようだな?」

 「そういう編成に見えますね」

 新型艦100隻の前面に900隻が展開している。

 それを見て、

 『きっとルーナ中将は、預けられ過ぎだとブツクサ文句を言っているんだろうな』

とリウは想像をしていた。


 その通り、リク・ルーナ中将は、少し不満を持っていた。

 『3個艦隊も同時に面倒を見ろだなんて......これもリウのせいだな』

と、帝國軍侵攻防衛計画を提出後、それまでと異なり過大評価されていることに困惑していたのだ。

 ルーナ中将は実戦経験がある方だとはいえ、本格的なガチンコ勝負の経験は無い。

 あくまで数度の応援部隊としての派遣だけだからだ。

 しかし、同時に、

 『これだけあれば、いざという時に、ノイエの第四艦隊の撤退の援護は出来そうだ。 その為に、虎の子の新型艦艇を投入したのだから......』

 戦場でもリウのことを相当気にかけているのだった。



 決戦場に到着したノイエ国艦隊とアルテミス王国艦隊。

 既に展開も終えて、太陽系テラ帝國軍の侵攻を阻止する態勢が整った。

 情報によると、既に西上国軍シヴァ艦隊と帝國軍ウォルフィー艦隊は、交戦状態に入ったとの連絡があり、こちらも間もなくだろうとのことであった。


 殆どの将兵にとって、初めてとなる戦いに、緊張状態が続いている......

 静かな時間が続く......


 突然、静寂を警報音が切り裂いた。

 敵が索敵網に入ったのだ。

 スクリーンを凝視する多数の眼......

 無数の点が徐々に大きくなってくる。

 少将の指示で、

 「全艦、戦闘態勢を取れ」

とルー中佐が、叫ぶ。

 そして、

 「全艦、総力戦用意」

と指示が続く。

 数十秒の間があり、ハーパーズ少将が右手を真上に上げて、前へ振り下ろした。

 その合図を見たルー中佐が

 「撃て〜」

と戦闘指揮デッキに向けて叫ぶ。

 すると、麾下各艦から中性子ビーム砲が発射された。

 物凄い数のビームの閃光......

 少し間があって、幾つかの爆発の光。

 すると相手からも無数のレーザービーム砲の光がこっちに向かってくる。

 光速中性子ミサイルの束と一緒に......

 戦闘トパーズの前方に展開する幾つかの艦から爆発の光が発せられた......


 「小型戦闘艇、人型兵器モビルスーツ、発進準備」

 ルー中佐が少将の指示を麾下全艦に伝える。

 既に戦闘は始まり、無数の通信が交錯する状態となった。

 ビーム砲と光速ミサイルの撃ち合い。

 その度に多くの命が散ってゆく......

 大型艦から、小型戦闘艇と人型兵器も発進し、混戦状態に入った時だった。

 「敵各艦隊より、集中砲火。 来ます」

 オペレータの慌てた様子の大声が響いたのであった......




 一方の帝國軍本隊。

 三国同盟側の艦隊が一列に並んで迎撃体制を取っている状況を確認したことで、帝國軍としても艦隊を一列に並べて侵攻する方針に決まった。

 「我軍の方が、艦隊数が多い。 一列に並べば、数の多い方が勝つ。 これは自明の理だ」

 これは皇帝の発言。

 今回の大遠征計画の帝國軍本隊の総指揮は、皇帝親征の形式。

 遠隔地からとは言え、二世皇帝自らが采っている。

 超光速通信で送られてきた敵の布陣を見て、周囲の者に自身の考えを披露していたのだ。


 皇帝自身も若い頃に、何十戦も艦隊戦を経験している老将だ。

 軍人として特別な才能は無かったが、決して無能という訳ではない。

 先帝以下、百戦錬磨の智将、勇将、猛将といった存在に比べると、平凡であったというだけであり、経験値はかなり高い人物であった。

 「臣等もそう考えます」

 皇帝の判断に、同意する臣下。

 そもそも太陽系帝國の皇帝の考えに、臣下が口を挟めるものではない。

 それが専制国家というものだ。

 「各艦隊指揮官に、その様に命令を出せ。 それと、指示を付け加えよう。 先制攻撃として我軍が最も得意とする戦法を敵に見せつけてやれ。 敵旗艦への一点集中砲火をな」

 二世皇帝は、側近や臣下に命令を出すと、巨大な皇宮内の中央指揮室の指揮デスクにどっしりと座し、戦況を見守り始める。

 側近達や帝國宰相以下の廷臣達も、皇帝と一緒に超大型俯瞰スクリーンを見詰めて、開戦状況を刻一刻と見守っていたのであった。


 


 戦いが始まって間もなく、第四艦隊を含めたの連合軍各艦隊の旗艦方向に、帝國軍各艦隊からの集中砲火があり、第四艦隊でも護衛の巡航艦数隻と共に、旗艦が大きく爆発したのだ。

 それを見たハーパーズ少将は、

 「旗艦の生存者は......」

と叫び、通信士官が旗艦への通信を試みるも......

 応答は無かった。

 1分後、旗艦の直ぐ横に布陣をしていた戦艦バルバトスから通信が入り、

 「第四艦隊旗艦の轟沈を確認。 脱出者は無く、生存者は居ない模様......」

との内容であった。


 ハーパーズ少将は、第四艦隊麾下の各艦に通信回線を開くように指示すると、

 「副司令官のハーパーズ少将である。 旗艦は破壊され、司令官ホール中将以下が戦死されたため、小官が指揮を引継ぐ」

と第四艦隊の麾下全艦に告げたのだった。


 少将は通信を切ると、2人の中佐に向かって

 「これから忙しくなるぞ」

と告げたので、ルー、プロクターの両中佐は、敬礼をしながら、

 「はい」

と返事をし、少将も立ち上がって、轟沈した旗艦の方角に、暫く敬礼を続けるのだった。


 やがて、数と経験に勝る帝國軍が連合軍を押し込み始める。

 第四艦隊は、旗艦を失ったものの九割の艦艇が健在で、交戦を続けていた......

 ただ全体的に見ればノイエ艦隊は、予想以上に健闘しており、まさに「背水の陣・死兵」という状況であった。


 しかし、消耗戦が続くと、兵力差の割合が徐々に広がってくる。

 当初は8000対6000であったが、既に7000対5000という状況となっている。

 このままだと半日後には、5000対3000となってしまい、そうなると戦力差の割合が広がって、包囲殲滅の危機へと陥るだろう。


 連合軍の指揮官達は、焦りを感じ始めていた。

 ルーナ中将を除いて......


 ルーナ中将は、リウがかつて立てた防衛計画の全容を知っている唯一人の指揮官だ。

 エペソス星系の戦場に居る指揮官の中では、であるが。


 今行われている戦いの目的は、出来るだけ帝國軍の戦力を削ることだと正確に理解している。

 目標は4000隻。

 4000隻削れば、帝國軍の残りの戦力は4000隻となり、これでアルテミス王国とノイエ国の占領地を支配し、残存軍の抵抗にも対抗しなければならなくなる。

 アルテミス王国は、ディアナ星系防衛の第二艦隊と今回未投入の新型艦の1個艦隊500隻が無傷で残っている上、シヴァ艦隊からも新型艦1個艦隊の応援部隊が密かにディアナ星系に向かっている。

 だから、今ルーナ中将自身が率いている1000隻の部隊をそのまま連れて帰れれば、以後帝國軍に対してアルテミス王国軍が優勢になるだろうことを確信していた。


 ただ問題はノイエ国軍だ。

 実は、新設計の新型艦1個艦隊弱をアーゼル財閥が建艦し所有している。

 しかしこれは、初戦の敗戦後、リウ・プロクターが率いる予定の艦隊として整備してあるもので、そうならなかった時は、アルテミス王国艦隊となる予定。

 既に人員は王国軍から手配して乗艦しており、スタンバイ状態に置かれているのだ。

 シヴァ丞相は、この艦隊の所有権を持つアルテミス王国軍と秘密裏に協議し、条件付きで一時的に権利を保留とすることの了承を得ており、これはリウも知らないことであった。

 その代わりが西上国からアルテミス王国への1個艦隊の応援なのだ。


 『ノイエ国軍が現在の無能な幹部を一掃出来るか? それによりあの国の命運が決まる』

 リク・ルーナは、戦況を見つめながら、そうなることを期待していた。




 旗艦が轟沈した後も、司令官代理ハーパーズ少将は、的確な指揮で帝國軍の攻勢をかわしていた。

 ハーパーズ少将麾下直属の部隊だけでは無く、司令官ホール中将直属部隊であったベネデッタ・ニミッツ准将率いる分艦隊も、目覚ましい活躍をしており、序盤に旗艦が沈み、ホール中将以下第四艦隊の司令部が戦死しても、第四艦隊が艦隊としての機能を維持出来ていることに、大きな貢献をしていた。


 「司令官代理は、ホール中将よりも指揮能力が上だぞ。 だから我が第四艦隊はまだまだ戦える。 さあ、みんなの家族や恋人、ご両親を守る為に、帝國軍の連中を一人でも多く地獄へ送り込んで、俺達と一緒に道連れにしてやろうぜ」

 ニミッツ准将は分艦隊の各乗組員を勇猛な言葉で鼓舞するセリフを通信で流すと、旗艦を沈めて勢いに乗った帝國軍艦隊の先頭部隊に猛攻を加えていた。

 中央部の部隊を巧みに後退させながら、突進して来た帝國軍艦隊をU字型の縦深陣へと引き摺り込む。

 そして、ハーパーズ少将の部隊と連携して、艦列が伸びた帝國軍艦隊の先頭部隊を袋叩きにして足を止めることに成功。


 猪突猛進し過ぎて、敵中に深入りし過ぎた帝國軍艦隊。

 足が止まり、三方より包囲されたことに気付き、我に返る。

 「不味い、一旦引け〜」

 帝國軍艦隊の司令官は危険に気付いて転進命令を出すも、もはや手遅れ。

 突進し過ぎて、艦列が伸び切った分、陣容が非常に薄くなってしまい、他の帝國軍艦隊が並ぶ位置まで撤退するまでに、大きな損害を出してしまったのだ。

 「ニミッツ准将もなかなかやるな~」

 ハーパーズ少将が僚友を褒め、リウとルー中佐も同意する。

 「味方は予想以上に健闘していますね」

 リウは少将に話し掛ける。

 「アルテミス王国艦隊が、帝國軍の突破を許していないからな。 我々より多くの敵を引き受けてくれているのに、有り難い」

 少将も参謀の2人の中佐に同盟国艦隊の奮戦に感謝の言葉を述べる。



 第四艦隊の隣に布陣していたノイエ国軍第二艦隊も、第四艦隊同様に、帝國軍の旗艦狙い撃ち作戦によって旗艦が沈み、司令官以下が戦死していたが、分艦隊司令官ユアン・ホーウィン准将の指揮のもと、艦隊としての機能を維持し続けて、大健闘していた。

 「隣の第四艦隊に負けるなよ。 うちの艦隊は今回の出征艦隊で最精鋭部隊なのだからな」

 ホーウィン准将は、少将以上の幹部が全員戦死した第二艦隊の厳しい戦況の中で、残された将兵で最上位階級の将官だったことから、急遽第二艦隊司令官代理として指揮を采っていたが、なかなかの指揮ぶりで、まだ約8割の戦力を維持していた。

 「敵は、数の多さを活かして力任せに突進を繰り返してくる。 それに付き合うな。 柔らかく敵の突進力を受け流すのだ」

 そう言って明確な方針を麾下部隊に示し、突撃を食らっている部隊を直接指揮しながら、敵の突進の直撃を避けさせ、致命傷を受けないように徹底していたのだ。


 「第二艦隊は、巧みな動きだな? 指揮官は誰だ?」

 ハーパーズ少将はリウに質問をする。

 リウはその確認に即応して、直ぐに調査して、

 「分艦隊司令官のユアン・ホーウィン准将です。 少将はご存知の方ですか?」

 「いや、面識は無いな。 名前だけは聞いたことが有った様な気がするが......でも、頼もしいな。 味方にも無名だけど有能な指揮官が居てくれて」

 大スクリーンに出されている隣の第二艦隊の健闘を見ながら、嬉しそうにリウに語った少将。


 「有能な人物が准将止まりだから、我軍は駄目なんだよな。 だからこういう状況に陥る」

 一瞬で表情を曇らせたハーパーズ少将。

 第二艦隊と第四艦隊は敵の攻勢を防いでいるが、他の艦隊は帝國軍に押されっぱなしだ。

 それでも、死兵と化しているノイエ軍艦隊は、実戦経験が殆ど無かった割に大健闘していると言える状況だった。

 しかし数の劣勢から、徐々に戦力が削られてきており、その悪影響が同盟国のアルテミス王国艦隊にも現れ始めていた。





 帝國軍は、予想以上の敵の抵抗に損失が最悪の想定をも上回ってしまっていた。

 「何たる苦戦。 我軍の各艦隊司令官達は何をしているのだ」

 皇宮内の中央指揮室。

 リアルタイムでは無いが、約10分遅れで随時戦況が表示されている超大型俯瞰スクリーンを睨みつけながら、二世皇帝はイライラを爆発させていた。

 「敵は12個艦隊程度。 こちらは16個艦隊以上だぞ。 力攻め同士の戦いで、何でこれ程苦戦するのだ?」

 皇帝は側近達や廷臣達に、怒りをぶつけていた。


 中央指揮室の遠く離れたところで、戦況を見詰めていたマー衛将軍は、バツの悪そうな表情をしている。

 出征を決めた最後の御前会議で、帝國軍本隊楽勝の予測を軍事の専門家として理路整然と述べてしまったが、敵の思わぬ善戦に、予測が大外れとなっていたからだ。

 『これが死兵というやつだな。 国家存亡の危機に死を恐れずの奮戦。 これは殆ど計算していなかった......』

 内心そんなことを考えていたが、言葉にして発することは無い。


 戦況を見詰めたまま、ずっと考え込んでいる衛将軍。

 やがて、

 『帝國軍は勝つには勝つだろう。 ただ、陛下の目指す人類統一は頓挫するな。 これ程の兵損を出してしまっては。 別動隊も苦戦との連絡が随時入っているし......』

という結論に至った。

 衛将軍の地位にあるマー・タイ中将は、次世代を担う少壮気鋭の提督と言われており、帝國内で評判の高い人物である。

 現在の大会戦の戦況から、この大遠征の帰趨をこの時点で見抜き始めており、皇帝の怒りの矛先が自身に向かわぬように、色々と考えを巡らせていたのであった。

 

 大会戦での思わぬ苦戦に、二世皇帝の怒りが爆発しそうな雰囲気だったので、廷臣達から宥める様に求められたのが帝國宰相ルーゼリア大公。

 衛将軍からも、

 「陛下の怒りを一緒に宥めましょう」

と誘われたので、頃合いを見計らって渋々玉座の前に進み出た。

 「宰相と衛将軍。 何の用だ」

 2人の姿を見た二世皇帝は不機嫌そうに話し掛けるも、ルーゼリア大公は大遠征反対を表明していたこともあり、その地位や経歴から、尊重しない訳にもいかない。

 「今回の想定外の戦況。 臣は軍事の専門家として、判断の誤りがあったことを陛下に詫びさせて頂きたく存じ上げます」

 衛将軍は謙った様子で、謝罪をして見せる。

 その言葉にやや驚きの表情を見せた皇帝。


 「衛将軍よ。 貴殿が謝罪するべきものではない。 今回の帝國軍本隊の編成は、予自ら立案したものであるし、皇帝親征の形式をもって、予が直接指揮を采っているのだからな」

 二世皇帝は、戦いの責任は自身にあると明言をする。

 その玉言にやや安堵した将軍。

 ただ、ここからが肝要な内容であった。

 「皇帝陛下。 臣は軍事の専門家でありますから、不興を被ること覚悟の上で申し上げます。 現在の大会戦が我軍の勝利で終わりましたら、その戦果をもって撤兵すべきだと臣は愚考し、この場で意見具申申し上げるのであります」

 大胆な提言を行った衛将軍。

 これには、帝國宰相もかなり驚いた表情を見せていた。

 「なに。 緒戦の大会戦が終わったら兵を引けと将軍は言うのか?」

 「はい。 畏れ多いことではありますが」

 皇帝は少し考えながら、大公に話を振ってみる。

 「帝國宰相の意見は?」

 「はっ。 臣も衛将軍殿と同意見であります。 それは、陛下が周囲に当たり散らしている状況からも、妥当なものだと考えますが」

 要は想定外の苦戦に有って、損失も大きいと、皇帝自身がそういう状況が原因での不機嫌さからくる言動や行動で認めているであろうという、ルーゼリア大公らしい諫言であった。


 「今後も継戦するのであれば、それは予の責任において行えと両者は言うのであるな。 わかった。 周囲に当たり散らすのは止めるから、もう少し考えさせてくれ」

 二世皇帝は2人にこの様な返事をして、とりあえず自身の態度を改めることと、御前会議で、『衆論を大遠征計画賛成へと導くように』との極秘の勅命に従って、皇帝の意向に沿った主戦論を唱えたマー衛将軍の責任は問わぬと廷臣の前で宣言したのであった。




  

 時間が経つに連れ、味方の数が減って来ていることをハーパーズ少将は実感しつつあった。

 そんなことを考えていると、

 「司令官、αxxx、βxxx、γxxx座標に砲火を集中してください」

 プロクター中佐が進言してきた。

 少将は、

 「?」

と一瞬躊躇する反応を示したところ、

 「前面に展開する敵艦隊の次の集結ポイントです」

と更に進言してきたので、ルー中佐に砲火の集中を復唱させた。

 すると、新たに第四艦隊目掛けて突進してきた敵艦隊は、先を読まれた予想外の集中攻撃に足が止まり、急速に混乱が生じて、それが艦隊全体に広がったのであった。


 「いまだ。 全艦、前面の敵艦隊に突撃」

 ハーパーズ少将が叫ぶ。

 ルー中佐が麾下全艦に向かって、

 「全艦突撃」

と大声で復唱する。

 暫くすると、敵艦隊は混乱状態に乗じた第四艦隊の短時間突撃に、被害甚大で攻勢を諦め、大きく後退していくのであった。


 その後、第四艦隊が展開する戦場の宙域に、一時的な空白の時間が発生。

 既に戦闘開始から36時間超。

 「司令官、この時間を利用して補給と兵士の短時間休憩を」

と、再びプロクター中佐が進言。

 少将は、

 「そうだな。 ルー中佐、そのように指示を」

と命令してから、

 「俺も一旦休憩する。 敵が再び攻勢に転じたら起こせ」

と言い残して、指揮デッキにある仮眠室に入って行った。



 少し時間に余裕が出来たことから、リウはルーナ中将の戦闘指揮を確認することとした。

 小型スクリーンにその戦況を映し出すと、

 新型艦の長射程の中性子ビーム砲で、敵の射程外から攻撃し、怯んだ敵に3個艦隊で攻勢を掛け、敵が反撃に転じると、射程外から新型艦で再び集中砲火を浴びせて足を止めさせ、その間に旧型艦隊を引かせる

という攻撃を繰り返していた。


 『流石だなあ、今回の戦闘の意味を理解した攻撃をしている』

とリウは感じ、

 十二年前に、大戦時のアルテミス王国軍主将として、当時のルーナ大佐を任じる計画とした判断は正しかった

と思うと、何だか少し嬉しくなってしまったのだった。



 やがて、大きく後退して体勢を立て直した帝國艦隊が、再び攻勢に転じ始めた。

 その為、少将を起こして、再び戦闘準備を整える第四艦隊。

 健闘しているとは言え、2割を超える損害が出ており、他の艦隊が帝國軍の数的優勢に耐えられなくなり、随所で次々撃破されていたことから、このままでは敵中に孤立するおそれが出てきた。


 既にノイエ国艦隊は半数以上を失い、アルテミス王国艦隊も、ほぼ無傷のルーナ中将の艦隊を除けば、やはり半数近い損失となっており、連合軍は合計で2500隻以上を失っている。

 敵も損害数はほぼ同数だが、元々2000隻以上多いので、戦況は刻一刻と悪化の一途を辿っていた。


 少将は、

 「このままでは、我が艦隊も不味いことになるな」

と短く状況認識を言葉にした後、

 「ただこのまま引いても、逆に敵の攻勢を引き込んでしまうだろうから、まだ難しいか」

と呟き、

 もう少し踏ん張って戦闘を継続するしかない

という判断に至ったのであった。



 戦闘開始から48時間以上。

 目前の敵の攻勢は何度も弾き返しているが、味方はより少なくなり、撤退の決断をする時間が急速に迫っていた。

 敵も想定以上の損害に動揺している様子はあったが、優勢が決定的になったことで、元気を取り戻し、再び攻勢が強まってきていた。


 ノイエ艦隊は、クロノス星系を出発時には3000隻あったが、既に1000隻を切ってしまっている。

 アルテミス艦隊も首都星系出立時には、3000隻あったが、残存数は約1500隻となっている。


 敵は8000隻が現在は4500隻あまり。

 損害は大きいものの、連合軍に2倍近い兵力差をつける戦況となり、この戦場での勝敗はもはや決したと言える状況であった。

 ノイエ艦隊は、帝國軍の作戦で序盤に旗艦が集中的に攻撃され、宇宙艦隊司令長官を始め、出征した中将以上の幹部が多く戦死し、全軍を統括する命令系統が崩壊している。

 その為、全軍撤退の命令を出すことが出来ない状況にあった。

 ハーパーズ少将は、

 『どうやって、全軍を撤退に導くか』

と非常に悩んでいた。


 そこに、

 「敵多数、密集隊形で突入してきます」

 プロクター中佐が冷静に状況を読み上げた。

 少将は、

 「それは、不味いな」

と一言呟き、

 「全艦、後退」

と命令を指示した。


 暫くすると、通信士官から、

 「アルテミス艦隊より入電」

と声が上がったので、

 「通信を開け」

と少将が指示した。

 すると、アルテミス王国軍のルーナ中将が現れた。

 ルーナ中将は、ハーパーズ少将の隣にリウが居るのを見て、ほっとした顔を一瞬見せた後、

 「少将、勝敗は決しました。 撤退してください」

 「私の艦隊が援護します」

と申し出てくれたので、少将は、

 「お願いする。 申し訳ない」

と短く答えて礼を言い、撤退を決断したのだった。


 そして、

 「ルー中佐、麾下全艦に撤退の命令を」

と指示した。

 ところが、ここで帝國軍の攻勢が一気に強まってきてしまったのだ。

 おそらく、撤退の雰囲気を察したのだろう。

 ルーナ中将の艦隊が帝國軍に猛攻を浴びせるが、帝國艦隊はそれを突き抜けて、第四艦隊の残存部隊に迫ってきたのであった......

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ