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第14話(惑星アルテミスにて)

ノイエ国艦隊は、アルテミス星系に向けて出発した。

惑星アルテミスに到着後、待ち受けていたものとは......


 色々な人の思いを乗せて、ノイエ国首都星系クロノスの軍事宇宙港から次々と艦艇が出発する。


 あまりに数が多いので、宇宙港に入れず、惑星外縁に停泊している艦も多数有る。

 ノイエ国創建以来、最大規模の7個艦隊3000隻弱が、アルテミス王国へ向かおうとしていた。


 見送りに来ている人は、ほとんどの人が今生の別れとなることを感じ、涙を流している。

 軍幹部、政権幹部も国の命運を掛けた戦いの為、続々と軍事宇宙港に集まり、兵士達の出発を見送っていた。


 そして、ラーナベルト・アーゼルも、たった一人の孫娘の出征を財閥の本社ビル総帥執務室の窓から見送っていたのだった......

 孫娘から送られた

  「大会戦敗北後、軍に対し非常大権の行使を要請する」

 との文書を手にしながら......



 出発前に副司令官ハーパーズ少将と参謀のルー、プロクター両中佐は、第四艦隊旗艦で開かれた司令部の会議に出席していた。


 艦隊参謀長ウエダー少将は、宇宙艦隊司令部からの連絡事項を伝えた。

 先ず、アルテミス王国の首都星系アルテミスの外縁軌道上で、アルテミス王国の8個艦隊と合流する。

 交代で一旦惑星アルテミスで休息を取った後、帝國軍の侵攻を喰い止める為、アルテミス王国の帝國側最外縁部にあたるエペソス星系へ進出。


 ここで全艦隊を1列に並べて、敵を迎撃する


 西上国の艦隊は、帝國のウォルフィー元帥率いる大規模な別動隊12個艦隊約6000隻が、直接西上国へ向かったので、その迎撃の為、合流は出来ない


 アルテミス王国外縁部で衝突が予想される帝國軍は16個艦隊8000隻以上。

 味方は15個艦隊だが総艦数約6000隻で、数ではだいぶ劣る。


 これが現在迄の情勢であった。


 帝國軍の動員規模は事前想定の13000隻を超える、合計14000隻超という艦艇数であり、

 ここ数年軍事行動を控えていた分を含めて全力投入してきた

とリウは感じたのだった。


 特に、シヴァ丞相を警戒し、西上国の全軍5500隻を超える数を老将に与え、動きを封じることに主眼が置かれているように思えたのだった。


 エペソス星系付近の決戦場で、劣勢が予想される状況に、第四艦隊の司令部は誰も言葉を発することは無かった。

 最後にホール中将が、

 「諸君、皆の全力全霊をこの一戦に掛けて、存亡の危機を勝ち抜こう」

と激励の言葉で締め括り、会議は終了した。



 ハーパーズ少将は乗艦に戻ると、

 「司令部は既にお通夜状態だな」

と感想を述べ、2人の中佐も頷いて同意したのだった。

 ルー中佐は、

 「あそこに居たら、きっと戦闘開始直後に集中砲火で吹っ飛ばされて、死んだのも理解出来ないまま、この世から消えそうだ」

と、予言のようなことを言ったので、少将は、

 「あんまりネガティブ過ぎる空気をまとっていると死神を呼び込むってことだな」

と、冗談で返す。


 そこで少将は、プロクター中佐のちょっとした変化に気付き、

 「中佐は、最近髪を伸ばしているのか?」

と尋ねてきた。

 リウは、

 「ちょっと、切りに行く時間が無かったので、伸ばしてみることにしました」

と答えるのだった。

 それに対し少将は、

 「ふーん」

と言いながら、先日のリュウという女性の話を少し思い出していた。

 暫く、リウの顔を見つめたままでいると、

 「少将、如何しましたか?」

とプロクター中佐に逆に尋ねられてしまい、

 「いや、何でも無い。 司令部から指示があり次第、アルテミス星系に向けて出発しよう」

と誤魔化すように、出征の準備を指示するのだった。



 全艦隊が出発したと聞いて、ラーナベルト・アーゼルは筆頭秘書を呼んだ。

 「総帥、如何しましたか?」

 「出征した艦隊が壊滅し次第、軍首脳全員の責任を問う為、非常大権を行使する」

 「目的は、今回出征していない中将以上の全将官の解任・予備役編入だ」

 「非常大権の行使ですか?」

 「そうだ。 その準備に取り掛かるように」

 「わかりました。 国家元首との会談はいつになさいますか?」

 「艦隊が敗北後、直ぐで設定するように」

 「根回しは頼んだぞ」

 「お任せください」

との会話が為されていたのだった。




 アルテミス星系に向けて出発後は、どの艦も、戦いに向けての準備で皆が忙しかった。

 いや、忙しくして戦いのことを忘れようとしていたのだろう。

 ただ、リウ・プロクター中佐は、いつもと変わった様子は無かった。

 作戦参謀と言っても、今回は大軍対大軍の正面からのぶつかり合いなので、作戦というものの入り込む余地が無い。

 あまりすることが無いので、艦内を巡回し、不安で押し潰されそうな兵士を励ます。

 戦闘が始まる迄、それに徹しようと考えていた。


 ルー中佐は、そんなプロクター中佐の様子を見て、

 「何か達観している僧侶見たいな人だな~」

と思い、巡回を終えて指揮デッキに戻ってきたリウに質問をした。

 「中佐は、どうしてそんなに平常心で居られるんだい?」

と。

 「そういう感じに見えますか? 内心は緊張しているんですよ」

と当人は言うものの、どう見ても、緊張しているようには思えない。

 「何度も艦隊戦を経験しているベテランって感じだけど......経験あったっけ?」

と尋ねると、

 「......」

 ずっと考え込んでしまった。

 そして、

 「多分無いかな?」

という答えが返ってきた。

 『士官学校に入る前の経歴が謎なんだよな~。 常に少し謎めいている人だけど、やっぱり謎だ』

とルー中佐は、リウのことを改めて思うのだった。



 クロノス星系を出て1週間後、ノイエ艦隊はアルテミス星系に到着した。

 全将兵に一日ずつの休暇が与えられ、惑星アルテミスへの降下も許可された。

 リウとルー中佐は、兵士に先を譲って、後半での降下を選んだ。


 翌日、2人の中佐は惑星アルテミスへ降り立つと、既に惑星は閑散としており、人影は見当たらなかった。

 戦争が始まるので、殆どの住人はディアナ星系などへ避難してしまっていたのだ。

 その様子を見て、

 「退避計画は無事に進めることが出来たんだなあ」

と思い、リウは内心喜んでいた。


 街に出ても全てが休みなので、軍事宇宙港に戻ったところ、アルテミス王国政府の関係者とアルテミス王国軍の士官にリウは声を掛けられた。

 「もしかして、ノイエ国軍のリウ・プロクター中佐ですか?」

 「ええ」

とリウは答えながら、横に居たルー中佐の方を見る。

 すると、政府関係者と王国軍の士官は、

 「中佐を探していたんですよ。 今日惑星に降下されると聞いていたので、お待ちしておりました」

 「珍しい濃いエメラルドグリーンの瞳を目印にして」

と言われたので、

 「こんなに大勢の将兵の中から、よく見つけられましたね」

とリウは少しリップサービスすると、

 「そうなんですよ。 さあこちらへ」

と軍事宇宙港のターミナルの奥の方へ進むよう勧められたので、少し警戒しながら、ルー中佐と一緒に、勧められた方向に移動してみることにしたのだった。


 5分程歩くと、何だか大勢の人影が見えてきた。

 リウは、

 「これは一体なんですか?」

と尋ねると、

 「中佐をお待ちしていたのですよ。 アルテミス王国を救ってくれた英雄として......」

と言われたので、

 「戦争に勝った訳では無いですよ。 まだ......」

とリウは言ったものの、

 「もう勝ったも同然です。 中佐のお陰でアルテミス王国は万全の準備が出来ました。 名将シヴァ丞相との強力な同盟関係が築けたのも、中佐の努力があっての賜物です」

と言われてしまったので、ちょっと困ってしまったリウ。

 すると、

 「王室関係者、軍首脳、政府首脳も、中佐に一目逢いたくて、敢えて退避を遅らせていたのです。 先に逃げてしまってはあまりに申し訳ないと」

 「是非、待っていた方々と、一瞬で良いですから会ってやってくださいませんか?」

と言われてしまい、

 「ルー先輩に、後で説明しなければならないなあ」

と思いながら、渋々勧められた場所へと向かうのだった。


 ルー中佐は、アルテミス王国の人達が、何を言っているのか意味がよく分からなかったが、英雄とか言っていたので、

 『リウちゃんの謎が一つ解けるような気がする』

と思い、楽しげにリウのあとを付いて行く。


 会場に着くと、既に歓迎式典は始まっていて、いきなり壇上に押し上げられてしまったリウ。

 これでもアルテミス王国としては、リウとノイエ国軍に迷惑を掛けないように、ひっそりとやっているつもりだったのだ。

 「リウ・プロクター中佐は、現在ノイエ国軍人ですが、かつては、我が国の王室の一員として10年近く暮らしていたのです」

 「中佐は当時から、帝國軍が大挙して雪崩込んで来ることを予想し、我が国がその災禍に巻き込まれることを憂慮して、多くの策を立ててくれました」

 「その結果、我が国は対帝國戦で可能な限りの対策を打つことが出来、万全の体制で迎撃し得る状況です」

 「隣国の名将リョウ・シヴァ丞相と盟友関係を結べたのも、中佐が丞相と極めて親しい関係を築いてくれたからこそなのです」

 「我々は、初戦は負けて多くの犠牲者が出るかもしれない。 それは目を背けられない事実です。 世紀の大会戦ですから......でも中佐とシヴァ丞相が立ててくれた第二、第三の策がある限り、必ず野蛮な帝國軍を遥か彼方へ追いやることに成功するでしょう」

 「中佐は、これから死地へ趣き、我軍の将兵と共に、テラの賊徒との大きな戦いに向かうと聞いています」

 「皆さん、このようなリウ・プロクター中佐の勇気と叡智を、我が国を救ってくれた救国の英雄として、今ここで讃えようではありませんか?」

と、司会者が述べた後、直ぐにアルテミス王国政府首脳から、プロクター中佐にアルテミス王国軍の中将待遇授与を行う記念式典を実施し、アルテミス王国の国家斉唱となったのであった。


 その後は、握手会に......

 リウは、本当に困った顔をしていたものの、結構キチンと挨拶をしていた。

 ただ最後に、リク・ルーナ中将が出て来て、

 「リウ、久しぶり。 約束通り中将になったよ」

と言いながら握手をして抱き合った時だけは、嬉しそうにして少し涙を浮かべていた

というのが、現場に立ち会ったルー中佐の目撃談だった。


 ルー中佐は、アルテミス王国の歓迎式典の司会者の話を聞いて、初めて知ったことが沢山あり、

 「そうだったのか。 リウちゃんは、やはり普通の人では無いと思っていたが......」

という感想だったが、驚きはしなかったのであった。



 「ルー先輩、すいませんでした。 何だか巻き込んでしまって......」

とリウが謝ると、

 「救国の英雄様に謝って貰っては困ります」

と冗談を言いながら、

 「3時間潰れちゃったから、何か奢って貰おうかな?」

と言って、迷惑を掛けた分は宇宙港の売店の買い物分を奢って、帳消しにして貰ったのだった。


 「しかし、本当に人が居ないなあ。 店も全部休み。 惑星全体がゴーストタウンだね~」

とルー中佐は感想を述べた。

 「退避計画は?」

 先輩の質問に、リウが答える。

 「小官が策定しました」

と。

 ルー中佐は、

 「よろしい」

と言いながら、

 「ノイエ国はダメだな、準備不足で」

 「市民も沢山死ぬな」

と確認すると、リウは

 「はい、力不足で申し訳ありません」

と答えるのが精一杯だった。

 「リウのせいじゃないさ。 提言を無視したノイエ国軍上層部の責任さ」

 「ここの国みたいに、ちゃんとリウや丞相の意見を受け容れていれば、そういう悲惨な事態は避けられたかもなのにな」

とルー中佐は言い、自国の置かれた状況が同盟2カ国よりも非常に悪いことに気付かされたのだった。



 2人は早目に艦に戻り、指揮デッキに居た少将に帰艦の報告をした。

 デッキには艦長のアリエス大佐も居たので、敬礼をした。

 すると大佐から、

 「プロクター中佐。 アルテミス王国側の歓迎会はどうだった?」

と質問されたので、

 「少しびっくりしましたが、大佐から事前に聞いていたので、びっくりし過ぎずに済みました」

と答えた。

 少将は、

 「王国政府としては、控え目にやるので許可してほしいって言ってたけどな」

と、事前に申請があったことを打ち明けたのだった。

 「艦隊司令部には、言ってないからな。 こういうのはあまり広まると、妬まれて嫌がらせされるのがオチだから」

 「ルー中佐も、さっき見たこと聞いたことは、当面他言してはダメだぞ」

と言ってくれたのだった。


 そして、ルー中佐に対して少将は、

 「アルテミス王国の人達が、中佐の歓迎式典で言っていたことは全て事実だ。 少し誇張は入っているだろうが」

 「プロクター中佐は、自分の人生、青春の楽しみを捨てて迄、今回の決戦に備える準備を可能な限りしていた数少ない人の一人なのだ」

 「しかし、うちの国は、提言を軽視して受け容れなかった。 受け容れていれば、おそらく今回の決戦で勝って終わっていたのに......」

 「今回、こんなこと言っては副司令官として良くないが、ノイエ軍は大敗するだろう。 事前準備していたアルテミス王国軍を遥かに超える損害を出して......」

 「軍首脳は全員辞表を出して辞任。 政権側から裁判に掛けられて、刑罰を受ける軍幹部も多数出るだろう」

と予想をした。


 「でも、そこに希望の光があると思う。 腐った無能な軍幹部が追放され、君達のような若い有能で勇気を持った人達が、新しい軍幹部になるだろうから」

 「だから、特にルー中佐とプロクター中佐は、絶対に生き延びろ。 そして同盟2カ国と緊密に連携をして、最終的に帝國軍をノイエ国から追い払ってくれ」

と少将は熱く語り、横に居たアリエス大佐は

 「そうだ」

と言わんばかりに頷くのだった。


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