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第13話(第4艦隊出動)

ついに、帝國軍が動き始めた。

ノイエ国の宇宙艦隊もアルテミス王国へ向けての出動予備命令が出たのだった......


 帝國軍宇宙艦隊の大規模な別動隊は、ウォルフィー元帥を総大将、オズワルト大将を副将として、帝國軍本隊に先立って進発して行った。


 二世皇帝が、盛大な出征式における屋外の祭壇の最前列に陣取って、その出陣の様子を見守る。

 「元帥。 シヴァの動きを封じてくれよな。 よろしく頼むぞ」

 皇帝は自ら老将の手を取り、懇ろに出征を労う。

 この時、かつて2人が若かりし頃、先帝のもとで部隊長として肩を並べて戦っていた時代を皇帝は思い出していた。


 「お互い、年を取りましたな~」

 豪快に笑う元帥。

 「こうして元帥の手を取ると、数十年前のことを思い出す。 予が苦戦に陥る度に、若かりし頃の元帥の果断さと勇猛さに、何度助けられたことか」

 まだ太陽系帝國(当時はテラ王国)が銀河連邦を構成する有力国家の一つでしかなかった頃、国王ツォー・アークの息子の一人として、父を支える為に戦陣の先頭で戦っていたものの、軍事面では平凡な才能しか無かった、ザッハー・アーク。

 そこで先帝は、ウォルフィー隊長を次男を支える将卒として、特別に付けてくれていたのだ。

 そうした関係故、元帥は皇帝に諫言をしても咎められることは無い。


 「陛下。 それでは行って参ります」

 元帥は笑顔で敬礼すると、目の前に停泊している元帥自身の旗艦に向かって歩みを早める。

 続いて、オズワルト大将が二世皇帝に最敬礼をしてから、大将の旗艦へ。

 その後も、各艦隊司令官が同様に最敬礼後、それぞれの旗艦へと早足で乗り込んで行く。


 やがて準備が整うと、12個艦隊を率いる元帥の旗艦が大空へと上昇。

 それを見守る皇帝以下、帝國の重臣、廷臣、将軍達。

 その後、各旗艦がそれぞれの艦隊に合流すると、遥か彼方にある、西上国との国境へと出征したのであった。



 その数日後。

 今度はアルテミス王国領方面へ侵攻する、帝國軍本隊の出征式も行われた。

 こちらは皇帝親征の形式をとっている為、総司令官は二世皇帝自身である。

 ただし、帝國宰相ルーゼリア大公より、

 『玉体にさわるので、皇帝親征といえども、最前線ではなく帝都から指揮を采るべきです』

とキツく諫言されたので、皇帝自身は戦場に赴くことが出来なかったのだ。

 その最大の理由は、二世皇帝の跡継ぎ候補が幼少の実子しかおらず、老齢の域に入った二世皇帝に万が一の事態が発生することは、絶対に許されない状況だからであった。


 居並ぶ艦隊司令官を前に二世皇帝は、

 「皆の働きに期待する。 励めよ」

と短い言葉を掛ける。

 その玉言に対して、最敬礼で答える各艦隊司令官の中将達。

 やがて艦隊司令官達は、それぞれの旗艦に乗り込むと、大空の彼方へと飛び立って行ったのだった。


 その様子を皇帝と共に見送ったルーゼリア大公。

 出征を見送りながら、腹心である側近に対して、

 「御前会議で皇帝陛下に媚びを売り、偉そうな発言を繰り返した、ヨハン・シルバーバーチも、アウグスト・リューネも、結局は自分達の私兵から、ただの一隻すら今回の大遠征に加わっていないではないか。 それぞれ2個艦隊程度の戦力を保有しているくせにな。 所詮、地方軍閥の当主など、ただ大言壮語を吐くだけで、役に立たない連中なのだよ」

と愚痴をこぼして批評する。

 更に、宰相や三公と共に、大艦隊の見送りで一緒に並んでいるマー・タイ中将に気付き、その方を睨みながら、

 「最後の御前会議で、尤もらしい発言をした衛将軍すら、こちら側で出征を見送る立場に収まっている始末。 本当に大遠征が絶対成功すると思っているのならば、シルバーバーチもリューネも、そしてマー将軍も積極的に出征している筈だからな」


 宰相は、大遠征への危惧を相当感じている。

 その為、慎重論を述べたのだが、それを潰す発言を繰り広げた連中のことは、相当気に入らないのであった。


  



 一方、リウ・プロクター中佐は、ハーパーズ少将からの色々な質問に答えた後、改めて過去を振り返っていた。

 『もっとノイエ国が参加し易い計画案を立案出来なかっただろうか?』


 しかし、テラ人国家の中で最も裕福な国で、最新鋭兵器を多く有し、首都星系を覆う堅固なシールドシステム迄をも有する、自他共に認める最強共和制国家「新合衆国(ノイエ共和国)」を説得出来るだけの危機感を打ち出すのは難しかったのである。

 それに、

 『同盟国とは言え、それぞれの国家にそれぞれの思惑があり、帝國の脅威があっても、艦隊の設計やシステム迄も、事実上統合する今回の建艦計画に、ノイエ国が参加を決断する可能性は元々低い』

とも考えていたので、致し方ないと思っていた。


 アルテミス王国が、事実上シヴァ丞相を盟主とする防衛計画案に参加を決断出来たのは、

 三国同盟の中で最も国力が低いこと

 進取の気鋭に富む、最もリベラルな国である

という条件が整っていたからである。

 地理的にも、

 真正面で帝國の軍事的圧力を受け続けている状態

であり、自負心が強いノイエ国よりも、帝國軍と何度も実戦経験が有って、名丞相の居る新興国家の西上国を頼る方針に転換したのは、時代の流れに乗った決断だったと言えよう。




 その後、帝國軍の活動はかなり活発となってきており、人類史上最も大規模な艦隊が旧ムーアー国方面と、西上国方面の2方向に移動を開始しているとの情報が三国同盟側に入ってくるようになった。

 その為、いよいよノイエ国軍艦隊にも、出動予備命令が発出されたのであった。

 今回の出動予備命令とは、

 『数日以内に、アルテミス王国軍と合流の為、首都星系防衛の任がある第一艦隊を除く全艦隊に、出動が命じられる予定』

というものである。

 将兵は、予備命令を期に、

  家族の居る者は家族と、

  恋人の居る者は恋人と、

  誰も居ない者は不安を抱えながら、

自宅で最後になるかもしれない夜を過ごすのだ......


 しかも、帝國軍との大戦が想定され、無事に帰って来れない将兵が多数出てしまうことが予想されていたので、ノイエ国全体を暗い雰囲気が覆い尽くしていた......


 また、帝國寄りの星系に居住する国民に対し、クロノス星系への避難を推奨する布告も発布された。

 命令としなかったのは、パニックを避ける為であったが、ここに来てノイエの国民は、事態が急速に悪化している事実に気付いたのであった。

 目端の利く国民や富裕層は真っ先に、ノイエ国外に脱出を考え、アルテミス王国のディアナ星系や西上国のアフロディア星系へと退避する者も出始めていた。

 『とにかく、帝國からより遠い星系へ』

と行動した人は、相当賢明な判断であると言える。

 国外の避難先の一番人気は、シヴァ丞相を頼っての西上国行きであった。

 やはり、守勢の名将として高い名声を有するリョウ・シヴァの存在は、危機になれば成る程大きいのである。



 リウ・プロクター中佐は、とりあえずクロノス星系で最後になるかもしれない夜を、戦艦トパーズ内で過ごしていた。

 すれ違う兵士に、

 「中佐、どうして艦内に?」

と何度も質問されたが、

 「一緒に過ごす人が居ないからだよ」

 その度に丁寧に答えていた。

 その答えを聞いた兵士は、一様に、

 『見た目が凄く良いのに、信じられない!』

という顔をするものの、

 「失礼致しました」

と最後に答礼されて、リウが苦笑いをしながら返礼して、大概のやり取りは終わっていた。



 艦内の様子を見て廻ってから、艦橋に行き、最上部の指揮デッキの先端に立つ。

 眼の前に広がる超大型のスクリーンには、首都星系周辺の星々が映し出されている。

 リウは、深い感慨を持って、

 『いよいよ、この時が来てしまったのだな』

との思いに耽っていた。

 十数年もの長きに渡り、この日の為に努力してきた自身の人生のことを少し振り返りながら、改めて思いを巡らす。

 アルテシア王妃、ルーナ中将、シヴァ丞相、丞相夫人エミーナ、コトク大将、ヒエン大将、王室で勤めている多くの人達、丞相府の側近の人達............

 18歳になってからノイエ国軍士官学校入学の為、母国に帰国する迄の間に、アルテミス王国や西上国内の数々の場所で出会って来た、色々な人達の顔が思い出される。


 『やれるべきことを全て出来たのであろうか?』

 改めて、考え直すリウ。

 多くの人々の協力によって、西上国とアルテミス王国では、最善に近い対応策を出来たと思う。

 ただ心残りは、ノイエ国であった。

 母国に関して、無力であったという思いが強かったのだ。

 現状、何の対策も実現出来ていない。

 自身の階級も中佐止まりであり、

 『大戦に間に合わなかった』

との悔しさでいっぱいだった。

 大帝の死が少し早く訪れてしまい、予想以上に開戦が早まったことが最大の要因であり、リウの年齢では不可抗力の事態であったが......

 スクリーンをじーっとみつめながら、色々な思索を繰り返す、深いエメラルドグリーン色の瞳は、少し潤んできているように見えた。



 長い時間艦橋の指揮デッキで感傷に浸っていると、階下から声がした。

 「中佐、どうして艦内に?」

 下を見ると、艦長のアリエス大佐が艦長席に座っていて、声を掛けてきたのだ。

 「大佐......」

 リウはひとこと呟いてから、

 「最後の夜になるかもしれないのに、よろしいのですか? 奥様や子供さんと過ごさなくて......」

と確認するのであった。

 すると大佐は、

 「出動前には納得する迄、艦の操縦システムをチェックしたくてね」

と答えたのだ。

 そして、

 「チェックも一通り終わったから、そっちに行っても良いかい? 艦長デッキは狭いからさ〜」

と承諾を求めてきた。

 それに対してリウは、

 「どうぞ、どうぞ。 是非来てください」

と返事をし、艦橋最上部に来るよう薦めるのだった。


 やがてアリエス大佐は、指揮デッキに上がって来て、

 「実は、この艦の指揮デッキに入るのは初めてなんだよ」

と、少し嬉しそうに語り出す。

 「自分が艦長の戦艦だろ? 艦長席に他の人が座わるのが嫌だから、指揮官も同じ気持ちかなと思ってさ〜」

 その理由を説明する。 

 「でも、そんなちっぽけなプライド、捨てなきゃと思ってね」

 かなり吹っ切れた表情で続けると、

 「今回の出征で、無事に帰って来れるのはごく一部になるだろうから、やってみたいことは、先に全部やっておこうと思ってさ~」

と言いながら、指を口に当てて

 「シー」

っと言って、大佐は指揮官の椅子に座ってみたのだった。


 「あと一階級上がれば、分艦隊司令官になって、この座席に堂々と座れるんだけど、どうやら叶いそうもないから......」

と、暗に今回の出征での死を覚悟していることをリウに伝えたのだった。

 その覚悟を聞いて、

 「大佐は、だから奥様や子供さんと......」

 リウはそこまで語ると、言葉に詰まってしまう。

 それに対して大佐は、

 「気持ちが揺らいじゃうからね~」

と答えてから、何だか少し寂しそうな表情を浮かべて、先程のリウと同じ様に指揮デッキの最前部に立って、スクリーンを見つめ続けるのであった......



 暫くしてから、大佐は、

 「王室の小さな軍師さんが、今回うちの艦隊には居るから、無事に帰還出来るかもしれないけどな」

と言い、かつてアルテミス王室で生活していた一時期、リウに付けられていた渾名を大佐が語ったので、びっくりしたのだ。

 その時のリウの表情を見て、艦長は嬉しそうに、

 「私の妻はアルテミス王国の出身でね。 今回、先ずアルテミス王国に行くことになるが、そこで中佐に対するアルテミス王国あげての歓迎が待っているらしいぞ」

と、リウも知らない行事が有ることを仄めかし、

 「妻がそう言ってたから......王国政府で勤務している妻のご両親から聞いたらしいけど......」

 最新の国外情勢だと言いながら、教えてくれたのだった。




 出動前最後の夜、ハーパーズ少将はイケメンの下士官ポール・ヴァンナム軍曹と、いつも通り一夜を共にしていた。

 「そう言えばポールは、軍に入る前、アーゼル財閥の本社ビルで働いていたんだよな?」

 「そうだよ。 バーのウエイターでね」

 「リウ・アーゼルって聞いたこと有るか?」

 「リウ? リウ、リウ......う~ん。 発音が似ているから、もしかしたら同じ人かもなあ~。 リュウ・アーゼルっていう人なら知ってるよ~。 もの凄く綺麗で背の高いアーゼル家のご令嬢。 一時期財閥の関係者としても活躍していたから、バーに飲みにきた財閥の社員がよく噂してたからね。 「ヤりて〜」とか酔っ払って騒いでいた奴も沢山居たし」

 軍曹は少将の質問に、そう答えたのだ。


 そして、少し思い起こしながら、

 「もちろん顔も見たことあるよ。 財閥の公式映像だったけど、バーに出入りする社員達の噂通り、確かに物凄い美女だった」

と言った後、更に奥底から記憶を絞り出して、

 「確かシヴァ丞相夫人は、リュウお嬢様の大親友だった筈。 その後暫く経つと、パタっと名前を聞かなくなって......体を壊して引退したっていう噂だったかな? ちょっと記憶が曖昧だけどね」

と懐かしそうに話したのだった。


 「ジョージ。 超美人って聞いて、少し興味を持ったの?」

 「いや別に......ポール、ありがとう」

 少将は恋人の説明に感謝の言葉で返して、この話題を打ち切ったのだった。

 ひょんなことから、少将の疑問が解決するような答えを、恋人との雑談から得てしまったのであった。




 翌日ハーパーズ少将は、昨晩の会話を思い出す。

 『プロクター中佐とシヴァ丞相の繋がりは、全く不明だったが、リュウという女性と中佐が同一人物か双子か......おそらく同一人物だろうが......そう考えると全てが繋がる。 丞相夫人と大親友という関係から』

 ただ、こうも思った。

 『俺だって、性的嗜好で誹謗中傷を受けているし、冷遇もされて一定の苦しみがある。 だから、中佐が男性と偽って軍に居ることで、そういう目に遭わないように、万が一の時は壁になってやらないとな』


 そして、少将はこの件について、一旦自分の胸にしまっておくことに決めたのだった......


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