第12話(中佐の正体)
ハーパーズ少将は、来るべき決戦に備えて、色々と考えていた。
その結論は......
ハーパーズ少将は、間もなく始まる帝國軍との戦いに備えて、
『少しでも麾下艦隊の死者を減らしたい
何か勝利への道筋となるようなものは無いか?』
と、寝る間も惜しんで、手懸りを探していた。
自国の資料だけではなく、同盟2カ国の各種資料や帝國軍の資料迄も......
少将なので、副官としてエーレン大尉が居るのだが、病気療養中で事実上の空席となっており、資料集めも少将自身で行っていたのだ。
同盟国の資料と雖も、一部は秘密指定されていて見ることが出来ないので、その部分は自身で考えて補うしかない。
作戦参謀に就任させたリウ・プロクター中佐が作成に関与していると聞いた『対帝國戦防衛計画書』なる文書には、参考になりそうな内容があるだろうから、中佐に直接尋ねても良いのだが、そこは軍人としての自身の矜持が許さず、
『ある程度自分で考えて、答え合わせ的な感じで尋ねてみようか』
と決めていたのだった。
リウ・プロクターが少尉の時にノイエ軍上層部に提出した対帝國戦防衛計画書は、完全な形で見ることが出来る。
最初は、
功績欲しさの怪文書
的な扱いをされていたので、廃棄に近い状態だったのだが、隣国のアルテミス王国軍にもほぼ同じ内容の計画書が提出され、しかも採用されている事実が明らかとなってからは、将官以上でないと見れない秘密文書として取り扱われている。
それを確認すると、
帝國の侵攻が間近と予想される理由
民間企業の能力を使った戦力増強計画
帝國領に近い星系の退避計画
実際に戦闘となったときの各国艦隊の損害予測
などが基本となっている計画書だ。
これだけを見ると、確かに良く出来ているが、他国で珍重されている理由が含まれている程のモノでも無い様に思われる。
アルテミス王国に出された計画書には、
作成者欄にリウ・プロクターだけではなく、西上国の丞相リョウ・シヴァの署名がある
帝國領に近い星系の退避計画が、ノイエ国に出されたもののに比べて詳細な内容
戦力増強については、ほぼ同一
であった。
しかし、異なる点もあり、
戦闘結果の予測(敗北)と再起策についての記載があるのだが、秘密指定されていて閲覧不能
再戦して勝利を得る迄の方策、勝利後の復興策、更には帝國軍の再侵攻阻止策まで書かれているようが、これも秘密指定されていて全く不明
であり、極秘文書扱いされている部分も多いのがわかる。
よって、アルテミス王国軍がこの計画書を珍重している理由は、秘密指定されている部分にあるのだろうとは推測出来るが、その部分は、
シヴァ丞相が援軍を出す確約をしているのだろう
ぐらいことしか、少将には浮かばなかったのだった。
一方、西上国には、同様の文書が存在しない。
アルテミス王国に出された計画書からすると、シヴァ丞相とリウ・プロクター中佐は、当時何回も会っている筈だが......それについて調べてみると、
一度だけ、しかも10分程度の記録
しか残っていない。
しかも一般面会扱いで、全く重要視されていないから、面会の事実が普通の公開文書に記載されているのだ。
『全く重要視されていないとは......凄い違和感だなあ~』
少将は、ここで考えが行き詰まってしまった。
『基本的には、同じ内容の計画書である筈だけど......』
帝國軍がバラバラに攻めてくるのならば、内容が違うのは当然だが、今回、アルテミス王国とノイエ共和国は同じ戦場で戦うだろうから、ほぼ同じ内容になる筈......
『う~ん......』
考えているうちに、眠気に襲われてしまう。
そこでまた、別の日に改めて考えてみることに決めたのだった。
その後の、とある日。
プロクター中佐が、副司令官傘下の艦隊運用に関する決裁書類を持ってやってきた。
ハーパーズ少将は、対帝國戦防衛計画書について、思わず質問したくなるが、ぐっとこらえる。
「副司令官、どうかされましたか?」
いつもと異なる様子を察したのか、プロクター中佐が尋ねてきたので、
「いや、何でも無い」
と一応答える。
『どうも、考え過ぎて、ちょっと睨んでしまったようだ。
しかし、謎を秘めているんだよなあ
そんな感じには見えないけど......』
と中佐を見ながら考え込む。
決裁が終わると、書類を持って中佐は部屋を出て行く。
そこで、対帝國戦防衛計画書について、改めて考えてみることにする。
先ず、作成日を見比べる。
アルテミス王国に提出されたものと、ノイエ国軍に提出されたものでは2年以上異なること
に気付いた。
帝國軍の侵攻予想年を見比べてみる。
アルテミス王国に提出されたものは十年後、ノイエ国軍に提出されたものは五年後
と、随分予想が前倒しになっていることにも気が付いた。
『大帝の死去から五年後が基本になっているから、それで侵攻予想年が変わったのか~』
これらから見えてくるのは......
ノイエ国に向けた対帝國戦防衛計画は、本来もっと細かい計画書が作られていたが、三年前倒しになって前提が変わってしまい、それが提出できなくなった
ということなのかもしれない。
『中佐にそれを見せて貰うか~
それで何か戦いのヒントが有れば』
と、少将は漸く決断した。
『もう一つの謎は、
あのシヴァ丞相と、どのように討議をしたのか?
ということだな。
そう簡単に会えるような人じゃないし、そもそもどうやって知り合ったのか?
本当に謎だよな~......』
シヴァ丞相に関する資料は、ノイエ国では殆ど手に入らない。
特に重要なもの程入手不能。
だから、リウ・プロクター中佐が実際にはどれぐらいの頻度で面会していたのか、調べるのは不可能なのだ。
『シヴァ丞相との関係を本人に聞いてみるのが一番だけど、本当のことは言わないよな~
ひとまず、次に会ったら、質問出来る部分は質問しよう』
という結論を出したのだった。
翌日、プロクター中佐が、再び決裁で副司令官室にやって来た。
そこで、
「中佐、少し聞きたいことが有るんだが?」
と質問すると、中佐は、
「小官でお答え出来ることであれば......」
と少し警戒する感じで答えてきた。
「対帝國戦防衛計画書についてなのだが.......」
と水を向けてみたところ、中佐は少し目を見開くような反応があった。
「ノイエの軍部に未提出の詳細版が有るのなら、見せてくれないか? 帝國との戦いの準備で、少しでも情報が欲しい。 参考にしたいのだ」
と理由を説明する。
すると、
「詳細版ですか? 詳細版というよりは前提条件が変わったので、廃棄したものは有りますけど......」
とやや口を濁す言い方をしてきた。
更に続けて、
「あまりに悲惨な内容の為、軍幹部を刺激してしまうことから、提出を見送ったのです」
と、軍部に提出しなかった理由も述べたのだった。
その後、
「今直ぐがよろしいですか?」
と中佐は尋ねてきた。
そこで少将は、
「直ぐ準備出来るのか?」
と尋ねると、中佐は機械式腕時計に隠されていたマイクロチップを取り出し、中に入っている文書を出して見せた。
そしてプロクター中佐は、
「少将閣下。 この文書は見る前に前提条件があるので、それを頭に入れてから、ご覧ください」
と前置き。
「わかった。 先ずは条件を聞いておこう」
と少将が承諾したので、
「ノイエ国軍に、有能な艦隊司令官が皆無であるというのが前提条件です。 少将閣下も居ないということです」
と説明。
「俺も居ないの?」
「そうです」
「了解した」
「では、どうぞ」
等のやり取りがあった後、遂に隠されていた文書の内容が目の前に現れたのだった。
その内容は、確かに悲惨であった。
戦力増強の声を無視した場合、
初戦で健闘するも、艦隊は8割以上の損失で継戦不能に
略奪や暴行、特に性被害が無数に発生
最大で死者1億人以上、負傷者10億人超
喪失財産1000兆ノイエドル以上
最終的には、アルテミス王国軍と西上国の連合軍が帝國軍を駆逐するが、数年は掛かり、ノイエ国は事実上消滅する
というものであった。
『これは......』
思わず黙ってしまう少将。
最後は帝國軍が駆逐されるというのが、意外な感じがしたので、その部分を質問してみる。
すると中佐は、
「それは確実です。 ノイエ国軍が壊滅しても、残りの2カ国の軍は壊滅しません。 逆にノイエ国の悲惨な状況を見れば両国がより一層一丸となって対応する上に、西上国のシヴァ丞相やコトク大将、ヒエン大将やアルテミス王国軍のルーナ大将らの有能な指揮官の存在と、ノイエ国が未だ知らない新設計の艦隊による反撃で、帝國に逆転勝ちするでしょう」
と答えたのだ。
少将には初耳のことがあったので、
「新設計の艦隊?」
と再確認すると
「ええ」
と答える中佐。
「ノイエ軍は知らない?」
と再々確認すると、
「戦力増強を軽視・拒否した時点で、この話に加わることはできませんから」
という厳しい答えが返ってきたのだ。
それを聞いて、ようやく対帝國戦防衛計画がノイエ国の分だけ簡潔だった理由を理解したのだった。
戦力増強がメインで、そこを積極的に受け入れ、条件がクリアされると初めて、詳細な計画書が出て来る。
そして同盟両国の技術の粋を集めて設計された高性能な新型艦の整備計画に加われる上に、その性能に基づいた帝國軍駆逐作戦が立てられているということなのだ。
だから、シヴァ丞相のサインがあったのだ!
少将は、中佐に改めてその点尋ねると、
「その通りです。 残念ながらノイエ国軍は、そこに参加する資格を得ることが出来なかったのです」
と答えた。
「新設計の艦隊は、オーバーテクノロジーを有する異星人の協力も得ています。 西上国の制御技術とアルテミス王国の超微細化技術をより進化させる面で......」
「異星人である彼等も、帝國軍に蹂躙されれば、テラ人と一緒に溶け込んで暮らしている安定した生活が脅かされるので、協力してくれることになりました」
「新設計の艦隊は、現在の艦隊の6割の人員で運用出来ます。 艦のサイズは7割の大きさに縮小していますが、火力は1.5倍、速度も1.3倍になっています」
「西上国にアルテミス王国が全面的に協力するようになって約5年ですから、まだ新設計の艦隊は3個艦隊弱という整備状況でしょう」
と、リウはかなり饒舌に新設計の艦艇について、少将に詳細な説明をした。
少将は、この話を聞いて愕然となる。
『5年前にノイエ国軍が、リウ・プロクター少尉の話をまともに聞いていたら、新型艦隊の整備計画に加われたのか......それは、最大の希望の星だったろうに......』
と。
「ところで、中佐。 君は一体何者なんだい?」
「どうして、祖国では無い西上国とアルテミス王国にそこまで関与出来るのだ?」
少将は、大きな疑問を確認したくなったのだ。
「少将はご存知なかったですか? 軍の中には知っている方も結構居ますが......」
そんな前置きをしてから、疑問に答えたのだ。
「小官は、リウ・アーゼルという別名があります」
「アーゼルって、アーゼル財閥の一族なのか?」
「ええ」
「それでは、軍に入る前は......」
「アーゼル財閥の財閥幹部でした。 対外交渉的な部門のです。 小官は10代の多感な時期にアルテミス王室で育っており、王国との繋がりが強いので......」
と中佐が答えたところで、少将は、
「もしかして、我軍の幹部はそのことを知らなかったからこそ、貴官の提出した危機対策を無視したのでは......」
と、別の疑念をぶつけたが、
「皆さん、ご存知ですよ。 5年前に出した防衛計画案は、アーゼル姓で出していますから」
との答えを聞き、少将は絶句するしか無かったのであった。
そこで、急いで自分の集めた資料を確認すると、作成者はリウ・プロクターとなっているものの、署名欄には、「アーゼル」と確かにサインが為されていた......
また、ルー中佐から教えられた通り、リウ・アーゼルだけではなく、ラーナベルト・アーゼルのサインも連名されていたのだ......
「当時少尉の小官のサインだけでは説得力が無いので、財閥の総帥ラーナベルトも、軍の最高幹部を説得してくれました。 しかし、無傷の艦隊を有し、自軍が最も強いという意識が強いノイエ国軍の最高幹部は、一笑に付して、戦力増強を断ったのです。 三国共同での対帝國軍防衛計画への参加自体も......」
と述べつつ、中佐は非常に残念そうな顔をするのだった。
「ここまでお話したので、もう少し詳細な内容を話しておきましょうか?」
と中佐は尋ねてきた。
少将は、
「お願いする」
と言い、話の続きを促す。
「新設計の艦隊は、アーゼル財閥がアルテミス王国の最大人口を有するディアナ星系に新設した造船所と西上国のアフロディア星系に新設された国営造船工廠で建艦されています」
その説明に、少将は再度驚いていた。
「アルテミス王国のディアナ星系と、シヴァ国のアフロディア星系?」
「そうです。 太陽系帝國の首都星地球から、最も遠い2星系です」
『そこまで考えられた防衛計画だったのか......
絶対に帝國の野望をを打ち砕くという目的の為、帝國軍の侵略に長期的に抵抗出来るようにと......
どうして、我軍の幹部は参加を断ったのだ
本当に大馬鹿者達だなあ~』
少将は、何とも言えない溜息をつき、
「我軍の最高幹部は、本当にどうしようもないね」
と感想を言いながら、
「最初に詳細な計画を示さなかったのは、シヴァ丞相の要望だろ? ここまで魅力的な計画を最初から全部知っていたら、参加しない筈がないものな?」
と中佐に確認すると、
「少将のご明察の通りです。 『自分達で危機感を持っていない国に参加資格は与えられない』という意味なのでしょう」
と、残念そうに答えたリウ。
「しかし、ディアナとアフロディアか~」
ディアナ星系は、アルテミス王国の副都と言われる、王国最大の経済圏だ。
首都星系アルテミスの数倍の経済規模を有し、遷都すべきだとの議論がしょっちゅう出ている実質的な首都星系である。
また、アフロディア星系は、人類の開拓精神の塊のような星系だと聞く。
新天地を求める夢追い人達が銀河中から集まってきており、現在最も活気のある星系で、新興国の西上国らしい場所。
そうした場所に旧態然の象徴である地球圏への抵抗拠点を築いて反攻する。
本当に、両国の国民を勇気付ける情報だ。
少将は、両国の国民が少し羨ましく思えた。
そこには希望があるのだから......
「中佐、君はアルテミス王国軍の軍人にも成れただろ? あっちだったら今頃准将ぐらいになっていたのでは? 向こうの軍学校を卒業しているのだから......」
と、またまた疑問をぶつけると、
「そうかもしれませんね。 でも小官はノイエ国の国民ですから。 まして選択を誤って、今窮地に陥りつつある祖国を見捨てることはできません。 例え、敗戦で死んだとしても、アルテミス王国やシヴァ国の軍人になれば良かったと後悔することは無いです」
と言い切ったのだった。
「既にアルテミス王国では、首都星系アルテミスより帝國寄りの居住者に、退避をさせる計画が始まっています。 好条件でのディアナ移住者を大量に求める形で......」
「各企業からも従業員に対し、アルテミス星系からディアナ星系への異動命令が大量に出ています。 王室も古くなった現王宮の解体、建替えを理由に、一時的な遷宮を発表していますし、政府や議会も機能の分散を理由に、ディアナ星系への移転をする等、さり気ない形で、多くの国民を移動させているのです。 本当の目的を言ったらパニックになりますからね」
「移動計画は、上手く進んでいるみたいなので、アルテミス王国で育ててもらった恩の一部は返せたかなと思っています」
と、笑顔で説明したのだった。
「ということは、アルテミス王国の退避計画も、中佐が......」
と言いかけて、
『ルーナ少将、いや今は中将、がそう言ってたよな』
と思い出して
「いや、何でも無い」
と言い直すのであった。
「少将、少しは安心出来る材料が今回の話に有りましたか?」
と中佐が尋ねてきたので、
「同盟2カ国に関してはね」
と答え、
「ノイエに関しては、全く無いけどな。 相変わらずお先真っ暗状態だな」
と溜息を吐きながら答えたのだった。
「そろそろ、帝國寄り星系からの国民脱出計画を考えるか~。 でも逃げ場が無いんだよな、ノイエの場合」
と少将は言い、中佐がノイエ国民の脱出計画を示せなかった理由を理解していた。
ノイエ国は、首都星系クロノスが比較的帝國領に近い位置にあり、またあまりにも巨大(可住惑星が3つ有る稀な星系)で、居住者が多く、他の辺境の小さな星系のキャパシティでは受け容れられないのだ。
その代わり、クロノス星系を防御する巨大なシールドとその設備を守る堅固な要塞が存在するので、これもあって軍幹部は対帝國戦防衛計画を軽視したのだろう。
「とりあえず、クロノス星系に移すとして.......」
「要塞が堕ちたら、地獄絵図か~」
「頑張るしか無いな、艦隊戦で出来るだけ帝國艦隊を道連れにするように......」
と言い、少将の腹は決まったのだった。
一方、世紀の大遠征が決定した帝國では、急速に出動準備が整い始めていた。
元々、皇帝自ら先頭に立って進めていた大出征計画。
御前会議での正式決定前に、事前準備がほぼ終わっていたので、間もなく全軍の出動も可能な状況となっていた。
「元帥閣下。 出動準備は順調ですか?」
ウォルフィー元帥の盟友であるオズワルト大将が、宇宙艦隊司令部内の最上級士官用スイートラウンジ内で、元帥の姿を見掛けたことから、挨拶に立ち寄ったのであった。
「おう。 大将閣下の方はどうじゃ?」
「閣下は止してください。 私の方は順調です。 ところで、元帥閣下がここに居るのは珍しいですね」
「昔は先帝に呼び出されて、時々タダ酒を頂きに来ていたけれどもな。 今日は、ただ単に艦隊幹部との打ち合わせ場所が全部使われていて、空きが無かったからじゃよ」
オズワルト大将の姿を見て、すくっと立ち上がり最敬礼をしているウォルフィー元帥の幕僚達。
オズワルト大将も、両足を揃えたきっちりとした敬礼で返礼する。
大将は、元帥の幕僚達に、
「楽にしてくれ。 気を遣わないで構わない」
と告げてから、元帥との話を続ける。
「前代未聞の出動数。 どの艦隊でも、出征前の入念な打ち合わせは必要ですから。 私も会議用の部屋を予約しようとしたら、宇宙艦隊司令部内の会議室も待機室も貴賓室も、全て埋まっていましたよ」
そう答えたオズワルト大将は、出征前の最終打ち合わせは、結局私邸で行っていたのであった。
「私の麾下の2個艦隊は、元帥閣下の指揮下に入ることが、先程正式に決まりました。 よろしくお願いします」
オズワルト大将は、二世皇帝より正式な出征先の勅命を受けてきたところだった。
「それは重畳じゃ。 貴官が一緒ならば、儂が楽できるからの」
元帥は、しかめっ面を緩めて、嬉しそうな表情を見せる。
「それで、当面の相手はシヴァ丞相ということになりますが......」
「難敵じゃな。 今回は今まで以上の相当厳しい戦いになると、儂は見ておる」
元帥の話を聞き、表情が変わったオズワルト大将。
「その理由は?」
「これはさる筋からの極秘情報じゃが、シヴァはどうも数年前から大量建艦をし、待ち受けているらしい。 最後の戦いは先帝の親征だったから、結構年数が経っているが、その間にな」
「大量建艦と言いますと、どれぐらいの規模でしょうか?」
「少な目に見積もっても2個艦隊以上。 おそらく4個艦隊前後だろう」
「そうなると、我々が向かう先は、敵の方が数も優勢かもしれないということですな」
「シヴァのことだ。 何か策を弄していることじゃろうし......」
その話を聞き、大将も渋い表情となってしまう。
大遠征に表立って反対した軍幹部は、元帥と大将だけであったが、その憂いが現実のものになりそうだと感じたからだ。
その後オズワルト大将は元帥の隣に座ると、声を潜めながら、
「今回、私と元帥閣下が西上国方面への別動隊に組み込まれたのは、戦功をあげたい連中が、随分前から陛下に注進し続けた結果なのでしょう」
「その通りじゃろうよ。 主戦場に向かう帝國軍本隊のメンバーは、地方軍閥のシルバーバーチの一族とか、リューネの一族とか、衛将軍のマー中将の一族とかじゃろ? 有力者の縁者だらけで、実績のあまり無い連中ばかり。 そいつ等に取って儂とオズワルトは目の上のたんこぶじゃろ」
そう答えると、ニヤリとした元帥。
更に声を潜めて、
「もし敵に、まだ世に知られていない優れた指揮官が居た場合には、帝國軍本隊は厳しい戦いになること間違いない」
先帝の立身出世に従軍して大活躍を続け、名将といえるウォルフィー元帥とオズワルト大将。
しかし、老将と言われる年齢となり、煙たがられる存在となってしまっていた。
本来であれば、帝國宰相に次ぐ三公の一つである大将軍の地位にあるウォルフィー元帥が別動隊である西上国方面の総大将となるのであれば、大将軍とほぼ同格扱いの驃騎将軍の地位にあるオズワルト大将が帝國軍本隊の総大将になるべきだった。
ところが、五月蝿いジジイ達は纏めて別動隊へという、政治的な力が作用した結果、帝國軍本隊は総大将不在の、艦隊司令官である中将ばかりが並列した横並びの陣容となっている。
全軍を現場で統括する総大将がおらず、皇帝が遠くから指揮する親征形式。
これが、今回の帝國軍による大遠征の最大の欠点であり、逆に三国同盟側には、有利に働きそうな状況であった。