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第110話(惑星アフロディア)


数ヶ月をかけて、ようやく到着したかつての大星系アフロディア。


セレーネの無人艦隊の侵攻で破壊されたままの惑星の状況に、ショックを隠せないキラン達、偵察部隊。


すると突然、待ち伏せしていた七星士4人の攻撃を受けてしまうのであった......


 イヴェラとシィーアが、初の対戦訓練をした翌日。

 キランはシィーアに、その真意を尋ねることにした。


 医療施設ブースで、この日も勉強をしているシィーア。

 「おはよう〜」

 入室しながらのわざとらしい挨拶に、訪問目的を察する。

 「昨日のことが聞きたいのでしょ?」

 直ぐに意図を見抜かれてしまったキラン。

 「バレバレか〜」

と言いながら、真意を尋ねる。


 「恋のライバルだからよ」

 本音を語るシィーア。

 「えっ、それだけの理由なの?」

 「他に理由って要る?」

と逆に質問されてしまった。

 「......」

 その対象であるキランには、何と言うべきか、答えが見つからない。


 「感謝してよね。 あの後、しつこく対峙訓練の要求して来ないでしょ? イヴェラ」

 そう言いながら、ニコっと笑顔を見せた。

 「確かに、言われてみれば」

 ようやく、シィーアの真意を理解したキラン。

 「ありがとう。 僕の為だったんだね」

 「キランが迷惑そうな表情を見せていたからよ」

 「そんなに嫌そうな顔してた?」

 「だから、秒殺したのでしょ。 でも秒殺だとイヴェは納得しないし、溜まっているストレスも発散出来ないからね」

 一応、医療技術者として、大病を患ったイヴェラの精神状態のことも考えての対戦だったらしい。

 そのことを理解出来たキランであった。


 「それで、私の動きはどうだった?」

 対戦訓練を見学した感想を求められる。

 「実戦の時の凄みを知っているから、遊んでいる様にしか見えなかったよ」

 「相手はイヴェラだから遊んでないよ。 結構本気だったの」

 そう答えると、この話題は終了。

 シィーアは再び勉強を始め、それを見て邪魔をしないようにと、キランは静かに部屋を出て、自主練習に励むこととなった。




 出発から数ヶ月が経ち、ようやくアフロディア星系が近付いてきた。

 セレーネとの戦いに敗れて崩壊した西上国の辺境星域だったこの星系。

 セレーネは、クロノス星系とテラ星系の2箇所を拠点に、それぞれ円形に勢力を広げている。

 その為、辺境星域はセレーネの勢力圏外である場合が多い。

 基本的にセレーネの淘汰の対象は、ノイエ国民とテラ帝國民であって、それ以外の国に殆ど興味は無い。

 大叛乱の成功後、その他の国が大同団結し、セレーネに敵対して軍を侵攻させたので、灰色の宰相ハルトに指揮を采らせて、無人艦隊で返り討ちにした結果、西上国は崩壊したというだけのことであった。



 「アフロディア星系に、セレーネの軍は常駐しているのかな?」

 キランの質問にレアは、

 「辺境だから、常駐はしていないと思うよ。 現在の技術レベルだと、クロノス星系から通常航行で3週間以上の距離が離れているアフロディア星系では、無人艦隊や無人軍隊の遠隔制御がかなり難しいからね」

 レアも遠隔制御のスペシャリストであることから、限界がどの辺りにあるのか、よく理解していた。


 星系外縁部に到着すると、レアは斥候部隊を編成して、主惑星アフロディアへの偵察を実施することに。

 キラン専用の小型戦闘艇を使って、キランとイヴェラ、それにローシュ少将とオプス大佐の4人が、偵察がてら主惑星へ降り立つことを目指す。



 「レア、行ってきます」

 キランが戦闘艇に乗り込んで申告すると、直ぐに発進。

 戦闘艇には、全方位リアルタイムカメラや各種索敵装置が装備されているので、アプロディテ号からも戦闘艇を通じて、惑星の状況が確認出来る。


 その後、キランの戦闘艇が惑星アフロディアの衛星軌道上に到達しても、攻撃されることは無かった。

 惑星側からレーダー等の索敵装置が稼働している様子も無く、静かなまま。

 「レアの言った通り、常駐している宇宙戦力は無さそうだね」

 キランは各センサーの探知結果を確認してから、3人に状況を話すと、ローシュ少将が、

 「とりあえず、地表の状況を上空から撮影して、レアのもとに映像を送っておこう」

と指示し、地表が視認出来る高度での偵察を開始する。

 かつては、辺境開拓の最大拠点として、活気が有った筈なのだが、中心の大都市は大きく壊されたまま放置されており、上空を飛び交う船や艦艇の姿は1隻も無い。

 「ほぼ廃墟の様ですね、この惑星は」



 セレーネの無人艦隊との大決戦で敗北後、そのまま大部隊での侵攻を受けてしまった西上国。

 首都星アイテールが無惨に破壊され、首都星居住の国民の大半がその時死んだことで、国は崩壊。

 その後、西上国を構成していた主要星系は、セレーネの無人艦隊に順次都市を破壊され、住んでいた市民達はセレーネ側に制宙権を奪われていたことから、侵攻される前に脱出することもままならず、大都市の全てが破壊された際に、大半の者が命運を共にしたと聞く。

 西上国の領域で攻撃を受けず残ったのは、セレーネの脅威とならない、規模の小さな辺境星系のみ。

 これらの星系は、国家機構の崩壊で他の星系との交流が殆ど断ち切られてしまったので、以後自主的に自治を行っていると言われていた。



 上空から偵察をしばらく続けてから、大きな森の中に着地した戦闘艇。

 4人は超小型の反重力地上戦闘車両に乗り換え、地表の偵察を開始する。

 キラン専用の小型戦闘艇は光学迷彩を施し、シールドを張った上で、自動警戒モードに切り替え、レアの制御下におくこととした。


 「住民は生きていないのですかね?」

 キランは少将に質問する。

 「生き残りは居ると思うよ。 セレーネは今まで地上部隊を使った掃討作戦の様な、市民皆殺し行為は実施していないからね」

 森を抜けると、広がる平原や廃墟には、骸があちらこちらに落ちている。

 「きゃあ〜」

 死骸を見て、車両内で最初は小さな悲鳴をあげていたイヴェラも、あまりの多さに、やがて慣れてしまうのだった。


 「少将は、この惑星に来たことがあるのですか?」

 着陸地点から数百キロ走行した後到達した、元々は大きな公園だったであろう湖畔で一休みしている時に、キランが質問する。

 「200年以上前に一度来たことがあるよ。 リウ・アーゼルが生きている頃だったかな?」

 記憶を呼び戻しながら、ローシュ少将が質問に答える。

 「もしかして、少将はリウ・アーゼル提督に会ったことが有るのですか?」

 イヴェラは目を輝かせながら、質問を続ける。

 その質問に、アーガイル・ローシュ少将は昔のことを少し振り返るのだった。




 「アーガイルさん。 なかなか夫の意識が戻らないのですが......大丈夫なのでしょうか? 私の手術の時は半日程度で戻ったのです」

 心配そうな表情を見せるリウ。

 その表情に、一瞬ドキッとするアーガイル・ローシュ。

 この時、アーガイルはJJ・R・アーガン社の研究員兼医師であった。

 『この方が、巷で噂になっているリウ・アーゼル提督か〜。 アルテミス王国では英雄で、社交界の華と言われているのだよな』

 エルフィン人から見ても、魅力ある容姿を持つ、背の高いテラ人女性であるリウ。

 まだ世間では、男のふりをしていたが、既にエルフィン人の世界では女性だと知れていた。

 「装置の埋め込み手術で、長い人だと1週間近く、意識が戻らない方もおります。 手術は成功していますし、各数値にも異常はありません。 2〜3日もすれば、元気な姿を見せてくれますよ」

 「ありがとうございます。 アーガイルさん」

 リウは少し涙ぐみながらも、美しい笑顔を見せていたのであった......


 その2日後。

 レイカー・アーサのベッドの横には、手を握ったまま疲れて寝てしまっているリウの姿が。

 『少し羨ましいくらいだな~』

 主治医と一緒にレイカーの容態を確認する為、病室に入ったアーガイル。

 すると、来訪者の気配に気付き、リウは目を覚ます。

 「これは、先生とアーガイルさん。 お見苦しい姿を見せてしまい、申し訳ありません」

 うたた寝してしまい、その顔に、握っていた手の跡がくっきり残ってしまっていたリウ。

 主治医もアーガイルも、その姿を見て思わず微笑んでしまう。

 「リウさん。 間もなくですよ。 今後はキチンとお休みになられますように」

 主治医の言葉に、少し恥ずかしそうなリウ。

 でもその日に病室から出ることはなく、レイカーが目覚める迄、リウは病室で待ち続けたのであった。

 



 その様な昔のことを思い出して、ちょっと笑みを浮かべてしまう。

 そして、

 「少し話をしたことも有りましたね。 200年以上前に、現在のレイカー・アーサ元帥が不老装置の手術をJJ・R・アーガン社の特別施設で受けた時、当時の私は医師兼研究員でしたから。 病室で心配そうにしている提督は美しい女性でしたよ」

 意外な事実を話したので、キランもイヴェラも目を爛々と輝かせていた。

 「ということは、レアが生体頭脳だった初期段階の時のことも、知ってらっしゃるのですか?」

 歴史をよく勉強しているイヴェラが、更に詳しいことを聞きたいと思って質問する。

 「おお、よく知っているね。 アーサ元帥が手術を受けた時に、生体頭脳レアが当時のリウ・アーゼル少将に引き渡されたのだったね」

 ローシュ少将も、随分昔のことだが、レアにその辺の事情を聞いたことが有って、少し知っているようだった。

 「ただ、レアのことは当時知らなかったよ。 ごく一部の人だけが知るトップシークレットだった筈だから」

 それを聞いて、少し残念そうな2人。

 最初どういう形態だったのか、興味があったからだ。

 「レアは最初、大型の人工頭脳と同じ装置に入れられていたと本人から聞いているよ。 その後、どういう進化をして、現在の様になったのかは教えて貰ってないけどね」

 そこまで聞けたので、2人は知識欲を満たされた様であった。



 外の空気を吸いながら、その様な話をしていると、周囲に気配を感じた4人。

 直ぐに反重力車両に乗り込み、急発進。

 生き残っている住民達が、車両や車両の積載物を奪おうと、キラン達の周囲に出没し始めていたのだった。

 「やっぱり、生き残っている人達が居るのですね」

 「余計な戦いはなるべく避けよう。 住民は我々の敵では無いから」


 更に偵察を続けていると、やがて都市だった地域に入って行く。

 生き残りが居る以上、都市部がどの様な状況であるのか、知っておく必要性を感じたからだ。

 かつては、高さ1000メートル以上の超高層建物群が数千棟整然と建ち並んでいた区域に到達したキラン達。

 上空からの攻撃で、全ての建物が破壊されており、原型すら留めていないものが大半だ。

 「随分酷い状況ですね」 


 レアの拠点である惑星アプロディーテーには、超高層建築物は殆ど存在しない。

 広大な大地の割に人口は1000万人程度しか居住していないため、必要性が無いからと聞いているが......

 「もしかして、アプロディーテーに超高層ビル群が無いのって、こういう事態になった場合の被害を避ける為ですか?」

 イヴェラがレアの考えに気付いた様で、2人の年長者に質問する。

 「そうなのかもね。 こういう建物って急に攻撃されたら、逃げることは不可能だもの」

 反重力車両内から建物群の廃墟を見て回りながら、オプス大佐がその感想を述べる。

 崩れた大量の瓦礫の中に、いくつもの骨が混じっているからだ。

 当時の人々が感じた恐怖の状況を思い浮かべながら、4人は祈りを捧げつつ、偵察を続ける。



 すると、突然の攻撃を受けてしまった。 

 高エネルギー反応に対する警報が鳴ったので、一発目の攻撃と二発目の攻撃の間に、間一髪のところで4人は車両内から脱出したが、強力なビーム砲の連続集中砲火を受けて、シールドごと反重力車は吹っ飛ばされて横転。

 「みんな、大丈夫か?」

 少将が大声で確認すると、軽く手を挙げる他の3名。

 3人共、直ぐ近くに居たので、集結して体を低くし、瓦礫内に身を潜める。

 やがて、その周囲にも攻撃が集中してきたので、場所を移動しつつ、様子を窺う。

 「遠距離攻撃だな」

 ローシュ少将が低い声で呟き、暫く経つと集中砲火は止んだ。

 「惑星の住民達の残党ですかね?」

 キランが呟くと、オプス大佐は、

 「あのビーム砲は、セレーネの軍が使っているものでしょう。 核融合レーザービーム砲ね」

 「では......」

 「セレーネの軍が居るってことよ」

 その話を聞き、身構えるキランとイヴェラ。

 隠れたまま暫く様子を窺っていると、反重力車両のところに4人の人影が見えたのだった。


 キランは反重力車の動いているセンサーを使って、4人の会話を聞き取ろうとする。

 「誰も居ない......」

 「逃げられたか......」

 「周囲をよく探せ。 キウン、クガシンは右側を。 私とレシュは左側を探す......」

 その様な会話であった。

 「七星剣か......」

 少将が会話で出て来た名前を聞いて、思わず呟く。

 七星剣と聞いて、気合いが入ったイヴェラ。

 気力もみなぎってきた様だ。


 「我々も二手に分かれよう」

 するとイヴェラが、

 「私と大佐は左側、少将とキランが右側でどう?」

と提案。

 異論は出なかったので、その様に組み合わせが決まるとそれぞれが少し移動して隠れ直して配置し、七星士を待ち伏せすることにした。

 大きな瓦礫に身を隠したイヴェラとオプス大佐。

 2人は黙ったまま、五感を鋭くして、様子を窺う。


 数分経つと、徐々に何者かが近付いて来る。

 コツコツと響く小さな足音と、ガサガサと瓦礫をかき分ける音が段々と大きくなる。

 そして、音が消えた瞬間......

 イヴェラとオプス大佐の隠れている場所に、レーザービーム砲の砲撃が。

 2人の全方位個人用シールドが衝撃を受けたものの、破られることはなかった。

 イヴェラは両手を中性子ビームバズーカに変化させて、砲撃発射地点を正確に狙い撃つ。

 すると、

 「グワッ〜」

 「オワーッ」

と2つのうめき声が。


 すかさず、声がした場所付近にイヴェラが砲撃を追加で撃ち込みながら、その場所に接近する2人。

 そこには一人の七星士が負傷して倒れていたので、とどめを刺そうと、オプス大佐が右腕に組み込まれている専用ナノ兵器のロングスピアを一気に伸ばして、その体を突き刺そうとした時、跳躍して飛び込んできたもう一人が、ビームソードを振るってイヴェラと大佐に斬り掛かる。

 「しまった」

 思わず舌打ちするオプス大佐。

 ロングスピアを伸ばしたところだったので、近接攻撃に対処出来ない。

 体を躱そうか、それともそのまま受け止めようか、一瞬躊躇してしまう。

 これは負傷して倒れた同輩を利用して、奇襲を仕掛ける敵の罠であったのだ。


 しかし、イヴェラはその計略に完璧な対応が出来ていた。

 瞬間で両腕をビームサーベルに変化させて、飛び込んで攻撃してきた七星士目掛けて、クロスに一閃。

 七星士の一人であるクガシンのビームソード攻撃は、オプス大佐とイヴェラの体を僅かに掠めたものの、迎え討ったイヴェラのビームサーベルで胴体を真っ二つに切断。

 その剣撃の圧力で2つに分かれた物体は吹き飛ばされて、遠く離れたところに落下。

 それぞれが痙攣している。

 「くそっ」

とクガシンは呟き、直ぐに絶命。

 ピクリともしなくなったのであった。


 巡航艦の主砲に匹敵する威力の中性子ビームバズーカをマトモに受けて倒れた七星士のキウンは、オプス大佐のナノ兵器の槍の一撃をそのまま喰らって、致命傷を負って動けなくなったところをイヴェラの剣撃で首を落とされ、胴体も真っ二つにされて、死亡するに至る。


 「イヴェラちゃん、ありがとう」 

 オプス大佐は、自身の危機を間一髪で救ってくれたことに感謝を述べる。

 「残りは2人。 キランと少将に加勢しましょう」

 イヴェラは冷静な状況判断で、大佐にそう告げると、少し離れた場所で大きな物音と粉塵が舞い上がり、激戦が続いている様子の方向へと駆け進み始めたのであった。



 一方、キーランとローシュ少将。

 七星士のテリンとレシュは、2人が待ち伏せしている場所を先に発見し、先制攻撃を加えていた。

 長射程の小型核融合レーザービーム砲で、キーランと少将が居る場所に集中砲火。

 キーランの三重の光子ビームシールドで何とか直撃を防ぐも、アトラス人2人が使う全方位シールドとは異なり、一方面しか防ぐことが出来ない。

 しかも、少将は防御シールドが無いので、2人はシールドの両端から巻き込んで入ってきたエネルギーの暴風に晒されていた。

 その場でシールドを張ったまま、踏ん張って耐えていたものの、やがてエネルギーの暴風に吹き飛ばされてしまったキーランとローシュ少将。

 ただ吹き飛ばされながらも少将は、体勢を捻りつつ光子アローを連続で放ち、七星士のテリンとレシュを負傷させていた。

 キーランも左腕を光子ビームランチャーに変化させて、テリンとレシュの居るだろう攻撃源に対して、光子弾を乱れ撃ちする。

 予想以上の反撃の威力に、キーラン&ローシュ少将と同様に、七星士の2人も吹き飛ばされてしまうのだった。


 ただ七星士(七星剣)筆頭のテリンは流石に強い。

 真っ先に体勢を立て直すと、キーランとローシュへ再びレーザービーム砲を乱れ撃つ。

 七星士側の徹底した遠距離攻撃に、やや劣勢のキーランとローシュ。

 キーランもビームランチャーで乱れ撃ちして、敵の攻撃の手を緩めさせようとするが、テリンとレシュの動きは早く、キーランの攻撃は目標を後追いする形となってしまい、空砲となっていた。


 「不味った」

 やや焦りの色を見せるキーラン。

 それに対してローシュ少将が、

 「キラン君、ビームライフルに切り替えてくれ。 私のアローと君のライフルで、確実に一発ずつ七星剣を狙い撃とう」

と指示をする。

 それを聞き、やや冷静になったキーラン。

 敵の動きを凝視しつつ、ランチャーをライフルに切り替える。

 素早く動き続けて、的を絞らせないようにしながら、遠距離攻撃を続けるテリンとレシュ。

 2人で交互に、小型レーザービーム砲をキーランとローシュ少将目掛けて撃ち込み続ける。

 キーランのシールドで直撃は防いでいるものの、その猛攻でキーランもローシュ少将も中程度の負傷を受けてしまっていた。


 傷が出来る度に、

 「痛てっ〜」

とキーランは呟きながらも、少将と同時に一発ずつ丁寧に狙撃する。

 正確な狙撃は、七星士2人のシールドを打ち破り、数発ずつ光子弾が命中していた。

 しかし、超強化クローンの指揮官タイプがベースの七星士。

 痛みを殆ど感じないので、動きが止まらない。

 「確実に命中しているぞ。 奴等は痛覚を持っていないが、あと数発ずつ撃ち抜けば、動きが止まる」

 少将は、爆風で瓦礫の破片が刺さって眉間から流血しながらも、キーランを励まして、射撃を続ける様に指示する。

 キーランも少将の、その奮闘ぶりに気合いを入れ直して、精密射撃を続ける。


 そして遂に、キーランのビームライフルから放った一撃が、レシュの眉間を撃ち抜き、脳が損傷してレシュの動きが止まった。

 そこに少将がアローで光子矢弾を連射モードで放つ。

 次々に命中して、足が完全に止まる。

 「少将、援護をお願いします」

 キーランは討ち取るチャンスと見て、接近戦を仕掛ける。

 「了解した」

 少将もキーランの判断を是認し、もう一人のテリンに光子矢弾を集中させ、キーランを集中攻撃されないように牽制する。

 その間に、キーランは右手をビームサーベルに変化させて、急速にレシュに接近。

 脳を大きく損傷し、動きが完全に止まったレシュは、壊れた機械兵のごとく、持っているレーザービーム砲を乱射し続けているものの、狙いが全く定まっておらず、方角違いの場所を攻撃し続ける。

 その背後からキーランがビームサーベルで斬撃。

 レシュの体は、頭から爪先迄、左右真っ二つに切断され、死亡したのであった。



 残るはテリンのみ。

 光子矢弾の連射を飛び回りながら、回避し続けていたが、レシュが斬られたのを見て、撤退しようとする。

 しかし、背後からイヴェラとオプス大佐が迫ってきていたのだ。

 4対1の不利な状況でハサミ打ちにされ、撤退を諦めたテリン。

 最後に一太刀浴びせようと、イヴェラとオプス大佐を目掛けて特攻攻撃を仕掛けてきた。

 キーランも少将も、敵の意図に気付き、精密射撃でテリンを狙うが、数発が命中しても、動きが止まらない。

 これが超強化人間、超強化クローンの凄さであった。

 普通であれば既に瀕死状態であるテリンであったが、ビーム砲を捨てて、レーザービームサーベルを両手に持ち、イヴェラとオプス大佐に斬り掛かる。

 オプス大佐がロングスピアでテリンの胴体を貫くが、それでも動きは止まらない。

 そのまま、イヴェラに斬り掛かって来た。


 イヴェラは両手をビームサーベルに変化させて、その攻撃をやや斜めに構えて待ち受けている。

 「イヴェラ、危ない......」

 キーランの叫び声が響く中、キーランのライフルから放たれた光子弾がテリンの脳を直撃する。

 少将の放った光子矢弾がテリンの両足を貫き、足がもつれる。

 しかし、テリンはレーザービームサーベルでイヴェラを突き殺そうとする。

 そのサーベルがイヴェラの体に一瞬触れた瞬間、イヴェラの両手の中性子ビームサーベルがテリンの両腕を切断。

 テリンが把持していたレーザービームサーベルが支えを失って、地面に落下する。

 返す刀で、イヴェラのサーベルがテリンの胴体を真っ二つに裂き、返り血がイヴェラにかかる。

 そこでテリンは少し痙攣したあと、絶命したのであった。



 「イヴェラ、大丈夫?」

 両腕両足から出血して、血を垂らしながら、キランが駆け寄って来る。

 「私は大丈夫よ。 それよりキランの方が大きな怪我しているじゃない?」

 冷静な指摘に、心配される所以は無いと言いたげなイヴェラ。

 「これは、一本取られましたね」

 少将が笑いながらキランの肩を叩く。

 ローシュ少将も、顔面は血塗れであったからだ。

 オプス大佐が2人の応急処置をしながら、

 「イヴェラちゃん、やるわね。 初めての戦いで敵の攻撃に一歩も引かず、常に冷静に斬撃を加えて。 私も紙一重のところを助けて貰ったわ」

と感謝の言葉を口にする。

 「今回は、重力の有る場所での戦いでしたから、いつもの訓練の様に動くことが出来ました」

と自身の戦闘を冷静に分析して説明する。



 やがて、最後に倒したテリンについて、キランの狙撃が致命傷なのか、イヴェラの斬撃なのかが議論の焦点に。

 「どっちなんだろうな~」

 ローシュ少将が、遺骸を確認しながら、傷を調べる。

 「僕はどっちでもイイですよ。 七星士を倒して、僕等が無事だという事実さえあれば」

 「私は気になるけど......キランがそう言うならば」

と言って、功を争う矛先を収めたので、両方が同時という結論になったのであった。


 「今回の敵は超強化クローンだから、致命傷を与えただけで油断せず、その後確実に命を奪うようにしたことは、非常に良い判断だよ。 下手すれば、体を真っ二つにされても、まだ動いて最後の攻撃を仕掛けて来る場合もあるからね」

 少将は、イヴェラの戦い方をその様に評価して褒めたのであった。

 「ありがとうございます。 初めての実戦でしたが、思った以上に気持ちに迷いが無かったです。 敵がクローンだということもありますが」

 イヴェラもキラン以外の人には、大概素直な態度を見せる。

 今回はエルフィン人とアトラス人が一緒に戦った仲間だったので、テラ人嫌いが出なかったこともあるのだろう。



 「もう少し、偵察を続けようか? 反重力車両も横倒しになっただけで、壊れてはいないみたいだから」

 少将が偵察継続の方針を示し、他の3人も同意する。

 キランとオプス大佐が横倒しにされた車両を元の向きに戻し、システムをキランがチェック。

 レアが惑星開拓用に作った車両で有り、システムが単純な分、頑丈で壊れにくい。

 再び4人は車両に乗り込み、惑星アフロディアの状況確認を始める。

 七星士4人を倒した後、追加の攻撃は無かったので、他にセレーネの手先は居ないものと判断していた。



 人影は時々見掛けるが、表に出て来る者は誰も居ない。

 生き残った少数の住民は皆、隠れる様に暮らしているようだ。

 「この都市区域では、生き残りの大半の人々は地下で暮らしているみたいですね」 

 戦闘で付いた切り傷を大佐に処置して貰いながら、イヴェラが自身の考えをみんなに話す。

 「地上部分に比べて、地下は被害が小さい筈だからな。 ただ大きな損害を受けて、ボロボロなことに大差はないよ」

 「生き残った者が少なければ、かつて豊富にあった物資がまだ残っている筈です。 それを細々と費消して生き延びているのでしょう」


 偵察した限りでは、新たに自治政府や小さなコミュニティレベルの組織すら発足している様子が無く、郊外や未開拓地にある壊れていない農業等のプラントも動いている様子が見られない。

 セレーネの攻撃で、恒星を利用したエネルギー供給網が完全破壊されているので、かつての各種プラントを動かすのは大変であろうが、既にセレーネの軍は撤退しており、その後一定の復旧は不可能ではなかった筈だ。

 どうして、破綻したままなのか......

 惑星アフロディアが全く復興への道を歩み始めていないことだけが、明らかとなったのであった。


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