第101話(人工頭脳ミレ)
リウが納められる筈だった、惑星ディアナの巨大設備。
レアは、この設備を有効利用することを考えていた。
そして、稼働した新しい人工頭脳『ミレ』。
当初はリウが納められて、3種族を護る予定だった特別な人工頭脳に、レアは新たな使命を与えたのであった。
リウが居なくなってから、1年以上が経ったある日。
レアとレイカーの姿は、ヤーヌス星系には無かった。
レアー号は、アルテミス王国最大の星系ディアナの恒星周回軌道上に有ったのだ。
リウ・プロクターが志を立ててから、最初に過ごしていた国であるアルテミス王国。
当初リウは、ディアナに作られた施設のシステム内に収められる予定であり、その施設の有効利用等を考えるレアは、長期滞在予定で訪問していたのだ。
「ここが、リウを収める予定だった惑星ね。 思っていた以上に超近代的な雰囲気......」
惑星ディアナに初めて降り立った時の、レアの感想の言葉であった。
惑星アルテミスが地球時代のヨーロッパに似た雰囲気の、低層の建物が多い惑星であるのに比べて、高さ2000メートル級の超高層建物が林立している未来都市といった雰囲気を醸し出している。
ディアナはアルテミス王国の副都だが、首都星アルテミスの数倍の経済規模があり、事実上首都扱いされているので、人口も非常に多い。
銀河系内における地球人の居住領域としては、辺境星系の扱いとなる地理的な位置にあるのだが、人口が多いことで、辺境とは見なされていない星系だ。
訪問目的の施設自体は完成していたものの、その後エルフィン人が偶然の産物で生み出した生体頭脳レアにリウが収められることになったので、施設は現在のところ無用の長物となっていた。
「今回は、この惑星の施設に用が有るのでしょ。 一体どうするつもり?」
レイカーがレアにその意思を確認する。
「将来の有事発生を想定して、何か使い道が無いかなって思ってね」
ノイエ国に居るエルフィン人のAA・アーガンを通じて見学の依頼をしてあったことから、エルフィン人の代わりとして、アルテミス王国内に多数居住するアトラス人の責任者の案内で、施設を訪問した2人。
肝心な中核部分を重点的に見学する。
超強化ガラス製のカプセル。
そのカプセル内には不気味な謎の青色液体が充填されている。
そして、頭に着ける半円形の装置と背中に装着するモノ等が、液体内に浸されたままとなっていた。
これらの装置には無数の配線が施されている。
ここに生きたままのリウが収納されて、これらの幾つかの装置が接続されると、半永久的に生きた人工頭脳として、施設全体が機能する予定であったのだ。
惑星ディアナの、とある場所の地下500メートルに、この施設はつくられていた。
「リウの収められる予定の場所だったけれど、実物をこうして見ると、レアで良かったって思うよ」
レイカーが、レアとガラス張りのカプセルを見比べながら、『つくづくそう思う』という表情をしている。
「そうでしょ? 私ならば、悍ましさゼロの美しい姿だからね」
えっへんと胸を張るレア。
リウと異なって、出るところが出ているシルエットも美しい。
その後は、エルフィン人の技術者とアトラス人の技術者を交えて、レアは話を始める。
緊急時に、レアのバックアップとして使えないかを念入りに確認しているようだ。
レイカーは専門外なので、討議には加わらず、施設の見学を続けていた。
すると、レアが訪問しているとの情報を聞きつけたアルテミス国王夫妻が、突然この施設にやって来たのだ。
「どうしたのですか? 国王殿下夫妻がわざわざこのような場所に......」
レイカーが驚いた表情を見せる。
「レアさんが来ていると聞いてね。 ひと目お会いできないかと思ったのだよ」
国王がその様に答えたので、レイは打ち合わせ中のレアのところに戻って意思の確認をする。
すると、レアは技術者との討議を一旦中断し、暫しの休憩時間としてから、物々しい雰囲気で側近達に囲まれている国王夫妻のもとに、一人で近付いて来た。
「初めてお目にかかります。 国王殿下、王妃殿下」
レアは丁寧な言葉遣いで、夫妻に話し掛ける。
その言葉を聞き、ハッとする夫妻。
レアが「初めて」と言ったことに気付いたからであった。
見た目は、リウ・アーゼルとほぼ同一の女性であるレア。
しかし、その中身は別であることを実感してしまう。
『もしかしたら再会出来るのではないか?』
その淡い気持ちが、夫妻をこの訪問へと駆り立てたのであったが、裏切られた結果の様に夫妻には感じられた。
そのことに気付いていたレア。
だが、あえてリウを演じるのも、再び余計な期待を抱かせてしまう。
その為、一切リウとしての振る舞いを出さないことに決めたのだ。
リウはいつもハグをしていたが、レアはハグをせず、握手のみの挨拶を夫妻と交わす。
会話も、レアになって以後のことのみに徹し、リウの時代の話題は一切出さなかった。
そして、最後に、
「ご夫妻は、リウ・アーゼルと再会出来るのではないかと思って、この様な場所にまで足を運ばれたのでしょうが、ご期待に添えず、申し訳ありません」
「私はリウと極めて似ていますが、別人格です。 その点だけはハッキリ申し上げておきたく思います」
その言葉を聞き、悲しそうな表情を見せる夫妻。
ただそのまま帰しては、あまりにも可哀想であると思い、
「今回、私がこの施設を訪れたのは、危急の際に活用出来ないかと考えてのことです。 ですから、ご夫妻は帰宮されたら、子々孫々までこう伝言を残されるのが宜しいかと思います。 『平和が破られ、王国に存亡の危機が訪れた時には、この地下深くにある施設を訪れなさい。 リウとレアが関わるこの場所が、危機を救う道標になるかもしれない』との」
これで、国王夫妻がこの場所を訪問したことへの意味が生じ、レアと会談したことも無駄にはならないとの配慮であった。
「わかりました、レアさん。 貴方の役割はリウと異なり、現在では無く、未来に向けてのものが大半なのですね」
アルテシア王妃は、レアの言葉の意味をその様に捉えたのであった。
「お二方が抱いておられる、リウとの素敵な思い出は、そのまま記憶の中に留めておいて下さい。 私はレアです。 私と交流することは、偽のリウとの記憶を新たに作ってしまうことになります。 それによって、お二方の中にある本物のリウとの記憶が塗り替えられ、徐々に消えてゆくのは、私の望む結果ではありません」
レアはその様に答えると、国王夫妻に礼儀作法に則った丁寧な挨拶で別れをしてから、再び技術者との討議を始めるのであった。
「国王殿下、王妃殿下。 辛い現実ですが、レアはリウを塗り替えてゆく存在です。 彼女は現在ではなく未来により大きな責任を負っております。 またリウと異なり、地球人に対しての責務は何もありません。 あくまで銀河系に住む異種族同士がなるべく争いをせず、衰退している異種族が争いに巻き込まれず、平和に暮らしていける様にとの使命だけを帯びている、特別な存在です」
レイカーは、レアがリウの雰囲気を一切見せなかったことへの説明を付け加える。
「もちろん彼女は、リウと全く同じ様に振る舞うことも出来ます。 ただそれは偽者のリウです。 お二方を尊重して、あえてその様な態度を取らず、レアとして接した意味を大切に感じて頂けたら、幸いです」
そう言って、改めて心からの謝罪をしたレイカー。
「いや、私達が間違っていたのです。 リウは惑星ネイト・アミューで最期の会談を設定して、私達に別れを告げていたのに、今回それを無意味にする行動をとってしまいました」
国王はレイカーにその様に反省の言葉を告げるのだった。
「私達が年老いたということですね。 つい、もう一度逢いたいという気持ちを抑えられず、こんなところに迄押し掛けてしまって」
王妃も続けて答える。
「先ほどレアが言ったことですが、この施設の件を是非王家に伝わる伝承の一つに加えて頂けないでしょうか? 彼女は慧眼です。 いつか危機的な事態が起きることになるでしょう。 その時、この施設が役に立つかどうか、それは遠い未来のことなので私にはわかりませんが、王家の子孫にとっては、心強い伝承になるかと存じます」
レイカーはその様に勧める。
そして、国王夫妻に、
「いつの日か、またお会いしましょう。 その日までご壮健で」
最後の別れの挨拶を告げると、国王一行のもとから離れていった。
目的を果たせなかった国王夫妻。
ただ、その表情は晴れ晴れとしていた。
『リウは、この世の何処にも居ない。 その事実をキチンと受け止めよう』
と、強い決意を持つに至ったのであった。
気付くと、国王夫妻一行は姿を消していた。
レアは打ち合わせに夢中の様だ。
レイカーは、巨大な装置と青色の液体が入ったカプセルを見つめ続ける。
国王夫妻同様に、『リウはもう居ない』という感慨を少し持ちながら......
気付くと、レアが後ろに立っていた。
「レイも寂しい? リウと逢えなくなって」
「国王夫妻とは違うと思うよ。 レアの中にリウがいると、僕は感じているし。 意識して演じた偽者では無く、自然と出て来るレア流のリウがね」
「ありがとう。 そう言って貰えて嬉しいよ。 リウは私にとっても憧れの存在だから......」
「国王夫妻は、リウ・アーゼルではなく、長く時間を共にしたリウ・プロクターと会いたかったのだと思う。 それはレアの中には存在しないものだから」
「そっか〜。 リウの中に居た別人格の者の面影を求められても、それは無理だわ。 私の中に記憶として残っているだけで、消えてしまったその人格のことは、全くわからないからね」
レアは笑顔を見せると、用件は済んだと言って、施設を出ると説明したのであった。
結局、数ヶ月間ディアナ星系に滞在して、施設を完成させることに決めたという。
「私が遠隔コントロールするのでは無く、独立した分身を置いて、施設を稼働させておくことにしたよ」
「大丈夫なの? コアが無い大型人工頭脳って、危険性が有るんじゃない?」
レイカーが心配そうに質問する。
行き過ぎた自動化で、地球人は何度も失敗をしている。
自動化システムやクローンに、社会が乗っ取られる経験を数回繰り返しており、その度に大きな犠牲を払って、人間の手に主導権を取り戻し、西暦3900年を迎えているのだ。
その経験の影響で、現代から1900年先の地球人の社会は、案外自動化が進んでいない。
失敗を糧に、自動化のバランスをある程度とっているからであった。
「だから、施設にある大型人工頭脳の影響範囲を、ディアナ星系だけに絞ることにしたわ。 コアには私のクローンを使うけど、性能を大きく落として、地球人のクローンっていう形式でね」
その後、レアー号の医療設備でレアは自身のクローンを作り上げた。
あくまで地球人ベースのクローン。
だから、リウのクローンと言うことも出来るが、そこから、学習訓練を始める。
法律に基づき、クローンは生殖機能が無く、脳の一部機能も最初から備わっていない。
これは、自動化社会の失敗を繰り返して来た地球人の知恵と経験に基づき、クローンの能力に制限をかける法律が全銀河共通で制定されているからであった。
帝國であろうが、三国同盟だろうが、政治体制に関わらず、クローンの制限法は制定から数百年経つものの、遵守され続けている。
それだけ、クローンは運用を間違えれば、危険な存在であるのだ。
『闇クローン』というものも、アングラの世界には存在しており、それを使っている人達も居るのは事実であった。
しかし、各国何処でも、闇クローンへの取り締まりは厳しいし、社会の中でクローンが増え過ぎないようにバランスを取るため、特に軍隊や治安組織はクローンをなるべく使わず、機械化兵や機械化治安兵等を大量運用している。
クローンが大規模に運用されているのは、医師や看護師、介護等、より柔軟で高度に人間的な作業を求められる世界が多いというのが、この時代の実情であった。
三ヶ月程、レアは自ら創生したクローンの訓練を行ってから、再び施設を訪れた。
そして、カプセルにそのクローンを設置する。
レアは、自身をベースにしたクローンの能力を相当省略しており、あくまで装置の一部に埋め込む生体チップという位置付けで生み出していた。
人が持つ生殖機能や本能だけではなく、感情や欲求を司る部分も完全にカットされており、機械の様に決められたことを冷徹に、そしてより高度に判断する能力だけを持ち、人工頭脳のコアとして求められる部分だけに特化した生命体を創生していたのであった。
「レアも冷徹な部分を持っているんだね」
レイカーはそのクローンが設置される様子を見ながら、レアに話し掛ける。
「冷徹? クローンにまで情をかけていたら、キリが無いよね。 まして、私が作ったクローンは感情も欲望も何も無い、人間とはだいぶ異なる生命体だよ」
「いや、そうした形態がって思ったんだけど......」
レイカーもあまり良い言い方では無かったと、少し反省する。
「こういう生命体を創ったことが、冷徹ってことね。 レイが言いたかったことって」
頷くレイカー。
「クローンの難しいところよ。 普通に創ったら、感情や欲望は有るでしょ? そこをもカットしたクローンを創り出せるのは、現在は私だけかな。 生命の神秘を弄り回していることは、良くないって思っているけど、今回だけは特別ね」
ここでレアは、少し悪戯心が芽生えた。
「この子の設置をレイが嫌うのならば、私があの装置に入るけど?」
そう言われて、慌てて首を振るレイカー。
「何処かで、線引きをしなければならないのよ。 こういう装置を使う以上ね。 私としては、なるべく可哀想でない形で創ったクローンをあの装置に入れる様に配慮したつもりなんだけど......」
「ごめん、僕が間違っていたよ」
レイカーは素直に謝るのだった。
「この子が本来持つべき感情や欲望は、私が引き受ければ良いの。 あくまで私の分身として、判断と能力だけを発揮出来る様に設定しただけ」
レアはそう答えると、レイカーを抱き締める。
「この装置は、私達が苦境に立った時に、きっと救いの神になるよ。 あのクローンは私とリウの良いとこ取りをした上に、感情と欲望が全く無い。 変な意思を持つことの無い強力な人工頭脳になる筈だから」
その言葉から、レアには確固たる悲劇の未来が見えている様だ。
それに備えての行動だと、レイカーも完全に理解出来た。
「そんなに厳しい未来が待っているの?」
「そうなるわ、間違いなく。 私もレイも生き残れないかもしれない......」
「僕はともかく、レアも?」
「私だって生命体。 普通じゃ死なないけど、特別な兵器が開発されて、攻撃されたら、死ぬことも有るわよ」
レアのクローンがカプセル内に設置されると、装置が稼働を始める。
3種族が作った装置なので、通常とは異なる強大な人工頭脳。
地球人が使っている人工頭脳とは、性能が桁違いであるのだ。
レアは稼働し始めた人工頭脳を『ミレ』と名付けたが、暫く話をしていた。
そして、幾つかテストも実施する。
「ミレ。 何か有った時には、この星系に居る軍事力を制御して、みんなを護ってあげて。 それまでは、時々テストをするぐらいで過ごしてね。 基本的には休みながら」
「はい、レア様」
抑揚のない機械的な声で喋ったミレ。
「時々、様子を見に来るから」
そう言い残して、施設を去るレアとレイカー。
やがて2人は、ネイト・アミューへと帰って行ったのであった。
レイカーはネイト・アミューに戻ると、アウローラ社の売却手続きに入った。
入札の結果、アーゼル財閥とLSグループが残り、最終的な条件提示が行われた。
そして、最終的な決定の為に、アーゼル財閥からはディオ・アイザール取締役が、LSグループからはクリス・ラインシュトナー代表自らが、惑星ネイト・アミューにやって来た。
クリスがわざわざ出席したのは、ただ単にレアに会いたかったからという動機であったが......
両社の出した買収条件は、ほぼ一緒であった。
そこでレイカーは、ディオとクリスに新たな提案を示す。
「両社で半分ずつの保有にされたらどうですか? リウの晩年の行動が功を奏して帝國と和睦出来れば、更に事業拡大出来るでしょうし、そうならなかった場合のリスクを、両社で分かち合うのも一つの手だと思いますが」
その提案を考慮する為に、一旦レイカーの提案を持ち帰る両社。
翌日、レアも出席して、最終決定の席が設けられた。
「先輩、方針は決まりましたか?」
レイカーがディオに確認する。
「総帥は渋かったよ。 最大のライバルと共同で買収することに......」
「でしょうね。 でも、両社で共同運営した方が良いのかなと思っていまして。 リウの残した成果を片方だけが得られるのは、彼女が望む結果ではないでしょうから」
「クリスはどうするの? 代表だから一存で決定出来るでしょ?」
レアの質問に、
「そうだけど......やっぱり財閥と共同っていう部分に反対が多いんだよね」
クリスも渋い表情であった。
「ただ、ネイト・アミューがずっと発展出来るかどうかは、微妙だよね。 帝國と和睦して交易が始まれば、より重要性が増す地理的な位置だけど、そうでないと、ノイエ本国と離れている飛び地だから、色々とリスクもあるでしょ? 私も統治官、いずれはクビになるだろうし」
レアが重ねて共同買収を勧める。
「僕はレアに、ずっと統治官やって貰うつもりだよ?」
「クリスが引退すれば、クビになるよ。 間違いなく」
「そうかなあ〜」
「人口も多い大きな星系だし、統治官の権力は大きいからね。 その利権に目が眩んだ権力者に、実権を奪われることになるよ」
「そっか〜。 レア達はそこ迄先の未来を見ているのだものね」
将来のことを考えて、共同買収提案をレイカーとレアは両社に示したのだ。
そこで、クリスはアイザール氏と話し合いを始める。
「こういう形で話すことになるとは思いませんでした」
「私もだよ。 不思議な感じだね」
軍では同じ財閥派に属しており、歳の差はあるものの、リウを支える盟友として、お互い面識が有った。
今回はライバル社同士を代表する立場での再会。
先ずクリスが話を切り出す。
「リウ・アーゼル亡き後の、ヤーヌス星系の発展に一抹の不安がある。 それは共通認識ですよね?」
「統治面で辣腕をふるった人物が居なくなったのですからね。 後継者のレアが居ると言っても、近い内に惑星ネイト・アミューを離れるそうです」
それを聞いて、クリスはレアに確認する。
「レア、統治官の仕事はどうするの?」
「遠隔でするよ。 私の代わりのロボットは、毎日一生懸命働いているよ。 統治官の椅子に座って」
リウが健在の時に設置したロボット。
余計な意思など持っていないので、24時間365日、ずっと真面目に働いている。
「それに、レアー号には統治専用の人工頭脳が有るからね。 ディオとケイトの脳と思考回路をコピーしたものが」
レアはそう語り、通信さえ切れなければ、何の問題も無いと保証する。
「わかった。 それで結論だけど、当社は5割ずつの提案受け容れる。 僕の一存でね」
クリスは決断を下す。
ディオもそれを聞いて、
「我が財閥も、LSグループが受け入れるのであれば、同意します」
と答えた。
するとクリスが、
「CEOは、財閥のアイザール取締役に兼務して欲しいな。 それが唯一の僕の条件。 やっぱりこの星系をよく知る方だからね」
ニヤリとしながら、意向を確認する。
「良いのですか? 私で」
ディオは少し驚いた表情を見せた。
財閥側の条件と一致したからだ。
「僕も久しぶりに、総帥と話をしましたよ。 リウ同様に僕も苦手ですが、一応僕もアーゼル家の本家筋の血を引く、唯一の若者ですからね」
そう種明かしをし、アウローラ社の共同買収が決まった。
アーゼル財閥の株式0.5%、LSグループの株式1%との交換による買収で、アウローラ社の株式と交換される2社の株式は、レイカー・アーサとレア・アーサが共同所有することとなった。
これで、リウが残した巨額の借金も、15年くらいで余裕をもって返済出来るであろう。
両社共、資金を出さずに、株式交換だけで新市場の既得権益が手に入るのならば、安い買物だと判断している。
交渉成立後レイカーは、ディオ、クリス2人と握手をしながら、にこやかな笑みを浮かべた写真撮影を一応しておいた。
「こういう機会は、もう無いですからね」
と言って。
最後に別れ際、レアは2人に、
「今まで、色々とありがとう。 リウに代わって御礼を申し上げておきます。 今後は、会える機会も少なくなるから」
そう言ったので、2人は驚き、
「会えなくなるって、一体何処に行くの?」
クリスが確認する。
「西上国に行くからね」
その答えを聞いて、少し安堵の表情を見せる。
「西上国ならば、遠いけど、会う機会は有ると思うよ」
ただ、レアはそれ以上何も言わなかった。
交渉を終えて、首都星系に帰還するディオとクリスを見送る、レアとレイカー。
普通に手を振って、2人が乗船する客船を見送る。
やがて、民間宇宙港を離れる客船。
見送るレアの瞳は涙で溢れていた。
おそらく、ディオとクリスと会うことは二度と無い......
万感の想いを込めての見送りであった......