第100話(英雄の評価)
レアは、リウが出来なかったことを少しずつ実現してゆく。
そして、次の時代に備えての動きも少しずつ。
ある日、ジョン・ルーとは、リウの英雄としての評価について、長々と話をしていた。
残された盟友達を励ますかの様に......
1週間の予定であった、レアとレイカーの首都星系滞在。
リウの保有していた財閥特殊株の相続も、結局ラーナベルト総帥が亡くなる迄貸与される方を選択して、無事手続きも終わっていた。
それに加えて、アウローラ社の売却に関する提案を正式に行い、今回の首都星系訪問の用件は、全て終わったのであった。
「では、先輩。 アウローラ社の資産査定等に必要なものは、帰ってから送りますよ」
レイカーはアイザールに最後の挨拶をする。
「よろしく。 それでは2人共、元気で。 また、いつか会おうな」
ディオは、レアとレイカーにそう告げると、民間宇宙港ターミナルの前で別れるのであった。
秘書と共に帰って行くディオ・アイザールの姿を見えなくなる迄、手を振って見送ってから、2人はターミナル内に入る。
「帰りは、惑星アルテミスに少し滞在するんだよね?」
レイカーがレアに確認。
「いよいよ、私もモデルデビューね」
少し気の早い言い方に、
「まあ、程々に」
と心配な様子のレイカー。
「レイ。 もしかして、私の人気が出たら困るって思っているのでしょ? 俺だけのレアじゃなくなるって」
「うん、まあね。 レアはきっと人気出るからさ」
「私は既婚者のモデルっていう形で世に出るから、そんなに心配しなくて大丈夫よ」
四十世紀のモデルは、大半が仮想世界の人物である。
それは美形だけではなく、いくらでも必要な男女モデルを揃えられるから。
実在の人を使うのは、特殊な動きとか、どうしても仮想世界で出来ないことをする場合の、ごく一部だけに留まるのが普通だ。
「今回は、実物モデルなのでしょ? 珍しいよね」
「そういうのが偶にあってもイイんじゃない? 厳密に言えば、私も生身の人間では無いけど」
「そんな感じしないけどな~」
レイカーは素直な感想を述べると、
「必要が有る時に実感すると思うよ。 レアが人間じゃないってことをね」
そう言って、謎めいた表情を見せるレア。
リウの頑張りもあって、ようやく平和な時代が訪れ、レアがその真価をみせる様な場面は無い。
「こういう時代が続いて欲しいなあ」
思わずレイカーが呟いたのをレアは聞き漏らさず、
「私も、そう思っているよ。 レアの本当の姿を見せる必要の無い時代が長く続くようにね。 真の姿は化け物だから」
レアはそう言いながら笑うと、レイカーの腕に抱き着いて、宇宙港のターミナル内を歩いて行くのであった。
惑星アルテミスに到着すると、エリー・シュンゲンが全ての準備を整えており、ターミナルに迎えが来て待っていてくれた。
「レア様、どうぞこちらへ。 お付きの方もどうぞ」
迎えに来ていた執事のクローンにそう言われて、レアが思わず笑う。
「レイが、お付きの方だって」
「どうせ、そんな感じにしか見えないですよ」
珍しくむくれるレイカー。
その姿を見て、更に喜ぶレアであった。
ASJグループの本社ビルに到着すると、エリー自身が出迎える。
「レアさん、待っていたわ。 早速撮影を始めて良いかしら? ご主人も立ち会って下さって構わないですからね」
そう言うとスタッフが現れ、あっという間に準備が始まる。
この時代なので、髪型や化粧等は全て自動。
ロボットやクローンが段取り良く行ってしまう。
ものの数時間で、ASJグループの宣材として非常に多数の撮影は終わる。
「お疲れ様でした、レアさん。 ご主人どうでしたか?」
「いやあ〜、普段見れない姿が沢山確認出来て、良い経験になりました」
そう答えるレイカー。
「私の良さを改めて実感したかな?」
レアは最終契約書にサインしながら、嬉しそうだ。
「ASJグループの専属ってことで、お願いしますね」
エリーに念押しをされると、
「リウの奥底に有った願望を実現させてみただけなのです。 本格的に活動するかどうかは決めていません。 それとリウに代わって御礼を言わせて下さい」
レアは感謝の気持ちを伝える。
「もし好評で、リクエストの機会が有ったらまた来ますね。 当面はネイト・アミューに居ますから」
その後は、ASJグループの高級ホテルへチェックインとなった。
帰りの船のスイートルームチケットも用意されていたので、
「もしかして、これも狙っていたの?」
レイカーがレアに質問すると、
「どうでしょうね」
と言いながら、レイカーをベッドに押し倒す。
レアはリウの鍛えられた筋力をそのままコピーしているので、以前のリウ同様に力が強いままで有った。
「さあ、化け物のレアがレイを襲っちゃうぞ~」
そんなことを言いながら、夜は更けてゆくのであった。
翌日には、惑星ネイト・アミューに向けて出発する。
最後は、ASJグループが運航する客船であった。
スイートルームにレアは大満足。
「行きとは大違いだね?」
レイカーがレアに感謝の気持ちを示すと、
「エッヘン。 私のお蔭ですからね~」
レアも嬉しそうであった。
「自腹切らないって、最高〜」
と叫びながら......
「リウとレアの一番異なる点って、金銭に関することだよね? 随分違うと感じるけど」
「私は、リウに金勘定ばかりさせられていたからね。 だからだよ」
結局、リウのせいだと言いたいらしい。
惑星ネイト・アミューに到着すると、レアはレアー号を呼んで、迎えの小型艇を呼び寄せる。
そして、レイカーと一緒に恒星ネイトの周回軌道上に停泊させているレアー号に帰ったのであった。
「レアー号は、基本的にこの場所に停泊させておくの?」
「うん。 ここならば、エネルギーも自給出来るし」
レアは、少しずつレアー号を進化させている。
恒星を利用したエネルギーの自給システムの拡張も、レアが実施したものだ。
「もう少し、効率の良いエネルギーの自給システムを開発しないとダメかな? 少しでも支出を減らす為に」
将来を見据えて、その様なことを考えていたレア。
『それは、将来必ず発生するであろう、何か大きな事態への準備なのだ』
と思ったレイカーであった。
その後、暫くは忙しく働くレアとレイカー。
モデルのレア・アーサは、やがてかなりの人気が出て、人々の間に周知される様になっていた。
これでレアは、リウ・アーゼルの生き写しという認識から、独立した存在へと変化したのである。
「モデルデビューしたレアの狙いは、レア・アーサという存在を、人々の間に確立することだったのでしょ?」
レイカーは、その狙いを確認する。
「狙っていた訳では無いよ。 ただ、そういう風な状況の方が、だいぶ先の未来で役に立つかなと思って」
一度人気が出れば、あとは契約先の企業と肖像権の契約をしておくだけで、仮想世界であらゆる映像が作られ、その気になれば、半永久的にレアがモデルとして存在し続けることも可能であるのだ。
「レアが予測している未来って、どういうものなの?」
「悲しい未来だよ。 でも地球人類の歴史を振り返れば、そういう事態が発生するとの予測が出ているの。 何回計算し直してもほぼ100%の確率。 私の名前と顔を売ったのも、その準備の為かな?」
詳しい予測の内容は、話そうとしないレア。
ただ、トンデモナイ指導者が登場して、ハイパー核兵器を使ってしまえば、惑星ごと人々を抹殺することも可能な時代である。
だから、世紀末論や陰謀論を唱える識者が多いのが実情であり、そういう理論には常に一定の人気がある。
今の平和は一時的なものでしかないと、レイカーも認めざるを得ない状況なのであった。
そんなことを考えてから、レアを抱き締める。
「レイどうしたの。 急に?」
「レアが重荷を背負っているのではないかと心配になったんだ。 かつてのリウの様に」
「ありがとうレイ。 でも私はリウと違って、使命を帯びている訳では無いよ。 たとえ人類が自滅して滅んだとしても、私が責任を感じることは無いの。 ただ、出来ればその争いに無関係の人達、たとえば衰退が続いて、静かに暮らしているエルフィン人、アトラス人、ドヴェルグ人等の種族が、地球人の自爆行為に巻き込まれて滅びないようにする。 それが私の願いみたいなものかな? 私は3種族の特別な技術の融合で偶然作り出された、奇跡の生命体なのだから......」
そう話すレアの表情には、未来の厳しさを考え過ぎてしまったせいか、一抹の寂しい表情が感じられるのだった。
以後のレアは、基本的にレアー号で過ごすことが多くなっていた。
艦内に多数設置されている人工頭脳の制御をしながら、新しいシステムの構築や改良、新規の開発等に勤しんでいる。
レイカーは、アウローラ社の筆頭株主兼経営者として、こちらも忙しい日々であった。
ほぼ毎日、惑星ネイト・アミューとレアー号を往復しながら、次々とアウローラ社の価値向上に力を入れる。
今後、2人が安定した生活を確保するには、アウローラ社をいかに好条件で売却出来るかに掛かっていたからだ。
その為、時々、丞相のもとで生活しているレイザールと会話することもある。
レイザールがレアー号で生活していた時には、アウローラ社の業務管理をレイザールがやっていたので、レイカーが質問する必然を認めると、通信を入れることが多かった。
「レイザールは、そっちで進学するのだろ?」
「うん。 そのつもりだよ」
「俺達も、いずれ西上国に拠点を移そうと思っている。 アウローラ社が無事売却出来て、レアのこっちでの仕事が落ち着いたらだけどな」
「それは、レアの希望?」
「いや、2人の希望だよ。 俺は元々西上国と帝國で育った人間だから」
「ノイエ国は、常に不安定でしょ? 2人が居なくなって大丈夫なの?」
「リウが今迄やって来た努力が花開いたから、数十年は大丈夫だろうね。 ただリウの盟友達が年老いて第一線を去った後は、どうなるかは分からない。 それは三英が先に居なくなる西上国も同様だよ」
「結局、優れた指導者達に率いられていた国は、一旦繁栄するけど、その人達が居なくなると、衰退が始まる。 盛者必衰が地球人の宿命なのかもしれないですね」
レイザールも帝國の皇帝一族。
既に皇籍を外れたので、アーク姓を名乗れなくなっていたが。
地球人の過去の歴史について振り返り、現在そして未来を考えて、色々と思うところがあるようだ。
「そういうことかもな。 だからアルテミス王国が一番安定しているのかもしれないよ。 あそこには王室という国のコアがあるし、常に最もリベラルで、三国同盟内で国力が一番低いから、国民が慢心しにくい。 世論や人々が一時的な論調や風潮に流されず、不安定化しないという特徴の国だからね」
レイカーが、彼なりの各国の分析結果をレイザールに説明する。
「レアと一緒だね。 レアにはリウ・アーゼルという確固たるコアがあるから」
そう話すレイザールは、最後にリウと会話が出来なかったことを非常に残念に思っていた。
最期の手紙を貰ってはいたが......
「そのうち、しょっちゅう会えるようになるさ。 それまでは、学業に励めよ」
レイカーは保護者らしいことを少し話すと、通信を切る。
ある日、レアはルー大将と最後の再交渉を行っていた。
ネイト・アミュー方面軍の事務処理請負の最終金額交渉であった。
「先輩。 この金額が最終提示なの?」
目茶苦茶渋い表情のレア。
「軍もお役所だからな。 予算が急に増える訳では無いんだよ」
ルー大将も申し訳ないという顔を見せていた。
「この金額じゃあ、やっぱり赤字だよ」
抗議するレア。
「それはわかっている」
「リウが安く請け合い過ぎなんだよ。 全く」
レアはブツブツ文句を言っている。
天井を見ながら、暫く色々考えていたレア。
「リウ・アーゼルっていう英雄は、巨額の自腹を切ったことで成功したんだよ。 ある意味ね」
元々が安過ぎた契約の理由を愚痴るように、『仕方ないなあ』という感じで、ルー大将と話を始める。
「恵まれた出自を最大限利用し、それを御祖父様が裏で支えていた。 2人は相反する間柄だったけど、お互いやり手同士。 成功の為に、双方が相手を利用していたという訳なのよ」
ルー大将も、その意見に頷く。
「総帥は、帝國に三国同盟が滅ぼされるのは絶対に避けたい立場だった。 そんなことになれば、アーゼル財閥も終わり、数千万人以上の従業員やその家族は路頭に迷ってしまうからな」
レアはお菓子を頬張りながら、話を続ける。
「しかし、総帥に軍才は無い。 三国同盟イチの名宰相と言われるリョウ・シヴァとの関係も弱かった。 そこで、孫娘のリュウ・アーゼルと男の人格リウ・プロクターに着目したっていう訳なの」
「贔屓目に見ても男の人格のリウは軍才が有りそうだった。 これは幼少時に総帥がスパルタ英才教育を施した効果だろう。 女性の人格のリュウ・アーゼルには交渉人として卓越した容姿と才幹が有った。 容姿はアーゼル一族が美形揃いであること、その才幹はラーナベルト総帥譲りの天性のものであろうか?」
ルー大将もレアに尋ねる様な形で、自分の考えを述べる。
レアもリウの記憶を呼び返しながら、
「そうだろうね。 総帥は実質的にリウに巨額の援助を行っていた。 本来は娘が死んだ時に、孫のリウへ巨額の株式を相続させる必要は無かったのに。 新型艦艇を建艦するに当たる設備投資だって、天文学的な金額だし、特に先輩へ無償提供した新型艦艇100隻なんかは、その典型例だよ」
と答えると、大将も、
「軍主流派による嫌がらせの給料の遅配も、リウが肩代わりしただけでなくて、遠隔地赴任手当ても、自腹を切って独自に増額していたからな。 だから、方面軍の将兵が不満を漏らすことは殆ど無かった。 これは英雄の名声として非常に大きな効果がある」
と続けた。
「統治の成功は、もちろんリウの才覚もあるけど、コスト度外視の事務処理請負による影響も大きいね。 私の存在を最大限利用して」
「そのツケが、今こうして出ている訳だな。 急に予算を増やすのは無理だよ、特に方面軍に関しては」
「リウが支払っていた手当ての増額分はどうするの? もう支払えないよね?」
「それは、既にカットしているよ。 これからは徐々に将兵の不満も溜まっていくだろうな。 一時的とはいえ、今迄貰っていたお金が貰えなくなるっていうのは、不満をより抱えやすくなる」
リウが居なくなったことで、資金面での苦労はレアだけでなく、ルー大将も抱えていたのだ。
「その代わり、リウの名声は益々高くなる。 兵士に配られていた独自の割増報酬の影響っていうのは、亡くなって以後の英雄の名声にとって非常に大きい。 リウはそのことに気付いていたのかな?」
「過去の『英雄』と呼ばれる人達にも醜聞は沢山ある。 表裏の無い人間なんて居ないのだから。 死後、その部分が隠蔽され、功績だけが美化され残ると、歴史に名を残す『英雄』になるんだよ。 リウは過去の英雄に比べると線が細いかもしれない。 でも、醜聞の少ない理想的な人格を持っていたよね」
レアはルー大将の質問に、そのようにしか答えなかった。
人の心に対する金銭が持つ影響力は非常に大きい。
その力を利用しようと、リウにそんな打算が有ったのか、それとも遠征で新領土に連れて来てしまった兵士達に対する償いとして、純粋な気持ちで報酬を増やしていたのか、その答えはレアだけが知っていたが、誰にも話すことは永遠に無いのであった。
そこまで、双方がリウについての評価の話をすると、
「今回は、今迄積み上げてきたリウの成果を無駄にしないために、1年間だけ事務処理の請負を、軍の最終提示額で延長してあげるよ。 ただ以後はこの金額を改定できないのであれば、それ以上の延長は無いよ。 私の希望提示額は、それ自体が最低価格なのだから」
そう答えながら、レアは仕方ないという表情で、新しい契約書にサインを入れるのだった。
そして、
「私から事務処理の請け負いを切られると想定して、今後1年間のうちにシステム強化をするんだよ、先輩。 私はリウと違って、こういうものは相当シビアだからね。 契約が切れて、軍が一時的なパニックに陥っても、手伝ったり温情をかけることは一切しないから」
今回限り特別な配慮をして赤字で請け負う以上、以後特別扱いはしないと、最後通告したのであった。
「それで、英雄の衣鉢を継いで、ノイエ軍のトップを暫く続けざるを得ない司令長官殿は、今後どうするの?」
「あと2年経ったら、首都星系に戻るよ。 リウの為にも、これから長い期間、長官と議長を相次いで続けなければならないだろうから。 レアもそう思うだろ?」
「お互い、リウ・アーゼルの為に、暫くは相当無理をしなければならないけど、頑張りましょう。 彼女の『英雄』としての評価が歴史的に確立されるまで......」
「その言い方だと、レアもこの惑星を去る予定だな? で、何処に行くのだ。 最終的に」
「当面は、西上国かな。 先輩はノイエ軍のトップをあと30年も続ければ御役御免だろうけど、私は数百年先の未来を見据えた行動も、今から取っておかねばならないからね」
「おっと、それは大変だ。 そんなに未来は厳しそうか?」
「先輩はどう思う?」
レアから逆に質問されて、ジョン・ルーは少し考えてから、
「う~ん。 100年くらいは大丈夫だろうけど、その先は大きな波乱が有るのではと思っているよ。 地球人の歴史って、その繰り返しだものな」
「やっぱり、先輩もそう考えるんだね。 歴史をリウと一緒に作って来た仲間の一人だから、私もその考えを尊重するよ」
「悪いな。 レアと一緒に次の苦労をしてあげられなくて」
「いや、もう十分苦労したでしょ、先輩は。 その成果が少しでも長く維持出来るように心懸けてくれれば、それで十分」
最後にルー大将は、レアの今後の予定を聞いたので、それを考慮して、一応確認をする。
「ネイト・アミューの統治官の座はどうする? 負担ならば、変更も考えるけど......」
「リウのやって来たことが無駄にならないように、そして勝ち得た平和を長く維持出来るように、統治官は私が続けるよ。 先輩が引退する時に、改めてどうするか考えることにしようよ」
「それは助かる。 ヤーヌス星系が今後も順調に発展して行けば、いずれ利権を求めて、ネイト・アミューの統治官のポジションを狙う輩が必ず出てくる。 そしてそれが政治の腐敗の始まりになってしまうのだろうな。 残念だけど」
「リウは、政治の腐敗を一番嫌っていたからね。 その為に、統治機構だけは、人の悪意や欲望が入り込めないように、自動化を進めて来た。 自動化し過ぎると、また別の問題が生じるけど、それを防ぐ為の存在が私なのだし、ネイト・アミューの規模ならば、自動化の問題点を考慮する必要は無いってことでね」
レアはそう語ってから、その場で立ち上がった。
そして、
「先輩も頑張ってね。 私も頑張るよ。 困ったら連絡頂戴」
そう言って、握手を求める。
ルー大将も右手を差し出して、固く長い握手を交わすと、
「しかし、リウの人物批評をそっくりなレアと語り合うって言うのは、不思議な感じがするな。 それでは、また。 今日は署名してくれてありがとう」
と答えたのであった。
方面軍司令部を一人出て行くレア。
リウで有ったのならば、何人もの護衛が付いて居たのだが、同一の存在なのに、レアはただ一人。
てくてく歩いて、宇宙港の方に向かって行く......
『短い間にも、時代は確実に変わってきているのだな』
建物の玄関先で姿が見えなくなるまでレアを見送りながら、ルー大将はそう感じでいた。
やがて、宇宙港で迎えに来た小型艇にレアは乗り込むと、恒星ネイトの周回軌道上に停泊しているレアー号に帰って行く。
大将は、その様子を司令室の窓から眺めていたが、小型艇の姿が遥か彼方の大空に消えて見えなくなると、自分の仕事に戻ったが、その表情はレアと会談する前より、晴れ晴れとしていた。
それは、英雄の仕事を引き継ぐという重い責任を自分だけではなく、多くの仲間達が分担してくれていることに、レアと長い話をしたことで改めて気付かされ、頼もしく感じていたのかもしれないからであろう......