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第10話(太陽系帝國)

この7年の間に、太陽系帝國では大きな動きがありました。それは......


 リウが、ルー中佐と話をした時に出てきた

 帝國テラの大帝が予想以上に早く薨去した

ことについて、状況を振り返ってみましょう。



 先ず、太陽系帝國とは、テラ人発祥の惑星地球テラを中心とする巨大帝國。

 人口は約1000億人。

 首都星系は太陽系。

 首都はテラ。

 現時点での太陽系の人口は150億人を数え、帝國随一の繁栄を誇る全ての中心の地である。


 23世紀に資源が枯渇しつつあった地球は、環境汚染も酷く、完全な衰退期に入り、100億人を超えていた人口も一時期は50億人以下にまで人口減少してしまったのだ。

 フロンティアが無くなると衰退するのは歴史の必然。

 そこで、各国政府は太陽系各惑星における資源開発を精力的に進める様になり、テラ人は宇宙空間における生活を本格的にスタートさせたのであった。

 当初は、人工的な巨大構造物を幾つも造り、そこに居住する形を取っていたが、これら人工構造物はテロや戦争に脆弱であり、大きく破壊されて何度も多くの居住者を死なせる事態が発生したので、太陽系外に進出し、可住惑星を探す方針へと変換したのであった。


 やがて、幾つかの可住惑星が発見。

 進取の気鋭に富む人々は、母なる地球から遥か彼方の遠くの地へと旅立って行ったのだった。

 しかし、これらの新しい地に対して、どの程度の自治権を付与するのか。

 そうした問題が同時に浮上し、最終的に自治権は与えないという結論が出たことで、植民惑星と地球との小競り合いが始まったのは、当然の帰趨であった。

 植民惑星という長年の扱いに怒りを溜めていた移住者達。

 そして、ついに全面戦争へと発展し、軍事力の弱い植民惑星側が中性子兵器を使用。

 太陽系側は甚大な被害を受け、地球上の多くの国家が滅びるという結末に至ったのであった。



 その後、各国有力政府が政権運営を集約し、新たに共和制の太陽系連邦が成立後、地球における資源開発の一切禁止と、政治・経済・金融の中心地となるように限定した

 『地球再建計画』

を推進したことにより、技術革新もあって、地球は破滅的な汚染状態から奇跡的な復興を遂げたのであった。


 再び発展期に入ったテラ人は、他の星系にも大きく版図を広げ、太陽系連邦以外に幾つもの星間国家が成立することとなっていく。

 それは、地球から余りにも遠い星系や惑星の人口が急増し、地球中心の共和制連邦国家である太陽系連邦に対する不満が爆発し、中性子ミサイル攻撃で滅亡しかけた、あの戦争の再発を防ぐ意味から、新国家の独立が次々と認められたのであった。

 この頃から、常に地球を中心とする『地球優先主義』やその考えを基にする宗教活動が活発になったが、それに対して各星系は対等な立場だとする考えの『反地球主義』も唱えられ、両極端な考えが激しく対立する様になり、あちらこちらで太陽系連邦軍と各星系の自治軍との小競り合いが増えていったのであった。


 その小競り合いは、再び大規模な戦争へと発展してしまう。

 それが、第一次反地球戦争の開戦。

 各星系側が、地球への資源や食糧の輸出を全面禁止したことをキッカケに勃発した戦争。

 地球側が各星系政府を『格下』に見下す傲慢な態度を結局変えることが出来ず、それに対する怒りが爆発したことによるものであった。


 滅亡しかけて以後、精力的に整備してきた圧倒的な軍事力で、初戦で星系連合軍を駆逐した太陽系連邦軍。

 経済・金融封鎖も組み合わせられたことで、予想以上の苦境に陥る各星系政府。

 地球に近い星系は次々に降伏し、太陽系連邦の属領へと転落する結果となり、戦争は地球側の圧勝で一旦終結となったのであった。



 しかしその後、太陽系連邦は益々増長し、再び各星系の民を奴隷の如く扱う様になったことで、それに耐えられなくなった多くの人々が、太陽系連邦の手の届かない遠くの新天地を求めて、大きな危険を伴う銀河系中心部へと進出。

 この人々が発見した新しい星系に建国された小国家の国々の末裔が、ノイエ国、アルテミス王国、西上国の三国同盟へとその系譜が繋がっているのだ。



 その後、連邦側の厳しい締め付けに窮した各星系は再び立ち上がり、第二次反地球戦争が勃発。

 前回の失敗に学んだ星系側は、遠い星系に太陽系連邦軍を引き込んで戦う方針を徹底したことで、今度は連邦軍側が大苦戦。

 持久戦に持ち込まれたことで、資源の乏しい太陽系連邦は飢えることとなり、最終的に和睦が成立。

 新天地を求めて去った人々の支配する地を除いて、全星系を緩やかに統治する統一政体の銀河連邦が結成されるに至る。

 太陽系連邦は、銀河連邦を構成する国家の一つとなり、各星系と太陽系は、一応対等な立場となったのであった......



 銀河連邦成立後、テラ人は再び発展期へと突入して、版図が広がって行く。

 やがて、銀河系を支配していた異星人のアトラス人との人種間戦争等を経て、銀河の覇者になったテラ人と銀河連邦。

 それから大変長い年月が流れ、衰退期に入った銀河連邦は、政治的に腐敗し、文化的にも退廃して図体だけデカい老朽国家となり、治安が著しく悪化して不安定になった社会とマイナス成長が当たり前となった経済状況が、銀河連邦に住む人々の心に大きな翳りを与える様になっていた。



 そこに登場したのが、銀河連邦を構成する太陽系連邦軍のエリート士官ツォー・アーク。

 彼は非常に優れた才能を有しており、先ずは軍部内で頭角を現す。

 政戦両略を兼ね備えた非凡さと果断速攻ぶりで、宇宙海賊や腐敗した官僚、企業家達を続々と倒してゆき、連邦市民達の喝采を浴びる様になったのだ。

 ツォー・アークの容姿は平凡で、痩せた見栄えのしない男であったが、常に自信溢れた態度を見せ、人々に優しく接し、才能有る人物を愛でるその姿勢と、優れた才能から、人気はうなぎ登りとなっていった。


 「アーク少将に軍の実権を。 そして、腐敗した政治家達の一掃を」

 心ある太陽系連邦の市民達は、それを合言葉に、退廃した社会の変革を期待する様になる。

 太陽系連邦は、銀河連邦内でも特に際立った政治不振と景気の低迷が続いていたことで、人々はその救いを地球優先主義の思想や宗教に求めてしまっていたのだ。

 そうした情勢を憂慮していたツォー・アーク少将。

 やがて同士達に、

 「たとえ、軍人によるクーデターだと後世の批判を受けても、国を救う大義を僕は選びたい」

と宣言し、ただ一人でも決起すると宣言。

 その言葉に心を動かされた配下の者達やアーク少将を支持する人々は、

 「そこまで決めたのであれば、我々も少将に進んで従う。 運命を共にし、万が一失敗し我が身が滅んでも、少将の責任だとは絶対に言わないさ」

と口々に言い出し、機を見計らって、自ら見出した有能な若手将校や官僚、政治家達と共に決起。

 軍部内でクーデターを起こして、軍の実権を即握ると、直ぐに政争へと乗り出し、大きな戦乱を引き起こすことなく、その実力と人望で、あっという間に軍の総司令官と太陽系連邦政府国家元首の地位を手にすることとなったのであった。


 その後タイミングを見ながら、共和制の太陽系連邦を解体して専制国家である太陽系王国の成立を宣言。

 彼は心の底からの専制主義者という訳では無かったが、連邦制の政治的な優柔不断さを嫌ったことから、復古主義的な王制による統治体制を選択したのであった。

 初代王となり、その実力で銀河連邦にもその力と存在を認めさせたことで、巨大帝國建国への第一歩が始まる。



 新国家太陽系王国の国民達は、アーク王の清新な政治と、経済最優先の政策に期待を寄せ、その後それらが大成功を収め、太陽系王国は大きな成長期に入ったことで、彼のことを全面的に支持し、王の姿を見ただけで狂喜乱舞する様にもなる。

 やがて、アーク王のその能力と統治体制は、銀河連邦の人々にとっても憧れの存在になってゆく......


 頃合いよしと見たアーク王は、銀河連邦を構成する国家のうち、太陽系に近い星系を王国の国力と軍事力、各星系に住まう市民達の圧倒的支持を背景に、ほぼ無血で次々と手中に収めていった。

 この出来事は、銀河連邦の警戒心を大いに刺激して、徐々に両者は対立する様になる。

 しかし、アーク王の政戦両略の優れた手腕に抗する実力は、もはや銀河連邦には残されていなかった。

 その為、軍事力だけに頼ることとなった銀河連邦。

 本格的な戦争へと進むまで、それほどの時間は掛からなかったのだ。



 その後発生した多くの戦いの殆どにアーク王は勝利し、銀河連邦は完全崩壊。

 銀河に住まう人々を統治する存在としてアーク王は、太陽系帝國を建国して初代皇帝へと登り詰める。

 戦いだらけのツォー・アークの生涯の中で、戦わずにアーク王の軍門へと積極的に下り、崩壊した銀河連邦の帝國による再統一に協力した小国家が幾つか存在し、こうした国家には特権として自治権を与えられたことで、これが4大地方軍閥の成立へと繋がる。

 のちに帝國の頭痛の種となる地方軍閥であったが、それは急速に勃興した弊害として、致し方のない負の遺産と言えるものであった。



 このようにして成立した太陽系帝國。

 銀河連邦の勢力圏の大半を再統一後、銀河連邦のオブザーバー的な立場にあった三国同盟と対立する様になり、特にその一つの西上国と小競り合いが頻発する様になったが、それ以上版図を広げる意思は見せることなく、急速に勃興した反動を避ける為に、晩年は内政の充実に力を注いだアーク皇帝。 


 その太陽系帝國初代皇帝ツォー・フォン・アーク、公称「大帝」は、リウがアルテミス王国から帰国した2年後に、99歳で突如此の世を去ったのであった。

 平均寿命が120歳超の時代に、その年齢に届くこと無く薨去したのは、一代で巨大帝國を建国したその重責と長年戦場に身を置いていた事が原因だと指摘されていた。


 死因は心臓死。

 前兆は無く、本当に突然の死であった。


 大帝の死後、第二代皇帝(二世皇帝)には、皇太子だった

  ザッハ・フォン・アーク

が即位。


 二世皇帝の即位後、偉大な大帝の死に乗じて、太陽系帝國に滅ぼされた国の一部過激派分子が蠢動し始め、爆弾テロが相次いだものの、冷静な政治家であるザッハ・アークは、帝國宰相ルーゼリア大公等、有能な大帝麾下の廷臣達と協力して、反乱を一気に鎮圧することに成功。

 すると、追い詰められた反帝國派は、二世皇帝の暗殺を計画する。

 しかし、裏切り者が出て、この計画が皇帝側に露見してしまい、焦った反帝國派は強引に実行しようとして大失敗したという結末の、皇帝暗殺未遂事件の発生へと繋がってゆく。


 ただその首謀者の中に、二世皇帝の愛后の一人である「シンキ后妃」が居たことで、皇帝は激怒。

 シンキ后妃は、捕まる前に毒を飲んで自死したが、それで皇帝の怒りが収まるものでは無かったのだ。

 シンキ后妃は、帝國随一の絶世の美女と言われていた女性で、既に大富豪の御曹司と結婚していたものの、その美貌にひとめぼれした当時の皇太子、現在の二世皇帝がドサクサに紛れてシンキの夫を殺害し、略奪して自分の后とした。


 夫を殺され、絶望し、心を閉ざしたシンキだったが、絶対的権力者の皇太子(二世皇帝)に無理矢理犯され続けた結果、一人の男の子が生まれる。

 しかし、いくら皇帝の子とは雖も、弑逆未遂犯という重罪人が産んだ子。

 ところが、二世皇帝に男子は、この子しか存在しない......


 二世皇帝やその腹心である帝國宰相ルーゼリア大公は、こうした状況で非常に悩みを抱えることに。

 二世皇帝の生きている男子は、シンキが産んだ子、すなわちレイザール・フォン・アークのみ。

 他に子が居た時期もあったものの、帝國建国初期に発生したテロや相次ぐ戦さで命を落としており、近年、漸く久しぶりに産まれた男子であった。


 二世皇帝の年齢は既に70歳。

 今後、男子が産まれる保証は無い。

 その為、レイザールを皇太子候補とはしたものの、正式な皇太子にはしないという結論に。

 別に男の子が産まれたら、廃嫡して処刑。

 まだ乳児の幼い2人の妹が、女帝として即位した場合には、その時点で処刑。

 あくまで保険の為に一応生かしておく。

 このように決定したのだった。



 シンキ元后妃は、ムーアー国にかつてあった王族の遠縁という血筋。

 愛后を反皇帝派と陰謀者が巻き込んだことで失った怒りが収まらない二世皇帝の命により帝國軍は、辺境星系に形だけの独立を維持していたムーアー国に攻め込み、元王族を皆殺しにする。

 その後、忌み嫌われた一応の皇太子候補レイザール・フォン・アークが、まだ6歳ながらも、ムーアー国の元王宮に半ば幽閉される形で遷され、ムーアー王の尊称を与えられた。

 シンキ元后妃の子なので、一応ムーアーの旧王族の末裔という血筋に連なっているのであった。



 一方、これらの処置に驚いたのが、アルテミス王国。

 帝國内の細かい事情は当然知らないものの、突如国境を接するムーアー国が完全に滅ぼされた上、皇太子候補までもが隣接地域に遷されて来たので、一気に帝國に対する警戒感が広がる。

 その為、ルーナ准将とアルテミス王室は共同で、リウ・プロクターから託されていた、対帝國防衛計画の文書を軍上層部と議会上層部に提示し、防衛計画が具体的に動き始めたのだった。

 この計画文書に、シヴァ丞相の署名が有ったことで、アルテミス王国としては、相当重要視するに至る。

 なお、この功績等が考慮され、ルーナ准将は少将に昇進したのであった。


というのが、リウが士官学校を卒業する頃迄に発生した大きな事変であった。




 人事異動後、簡単な事務仕事をこなしてから、手の空いた時、ルー中佐はリウに、

 「副司令官の戦艦に行こうか? 案内するよ」

と誘ってきた。

 そこで、

 「それでは先輩、お願いします」

と答え、先任のルー中佐は、新任のリウ・プロクター中佐を戦艦の案内に連れて歩くことに。


 ノイエ国軍第四艦隊は約500隻の艦艇で構成される、正規編成の1個艦隊である。

 アルテミス王国軍は、3個艦隊は500隻編成だが、残りの5個艦隊は300隻を1個艦隊として運用している。

 帝國と西上国は全て500隻を1個艦隊として編成しており、帝國は25個艦隊、西上国は10個艦隊を保有。

 ノイエ国は4個艦隊は500隻編成、3個艦隊は350隻編成での運用となっている。


 第四艦隊副司令官ハーパーズ少将の搭乗艦「戦艦トパーズ」は、艦隊旗艦よりひと回り小さいものの、全長1000メートル超の巨艦である。

 艦長はアリエス大佐、通常運用時は副司令官ハーパーズ少将の他に、将官は居ないため、ルー中佐とプロクター中佐は、戦艦の副艦長コウ中佐と並んで、ナンバースリーの地位となる。


 そんな状況にルー中佐は、

 「旗艦と異なって、副司令官の戦艦には上司が少ないから気楽でイイと思うよ」

と話す。

 先日まで第四艦隊司令部の主任参謀だったことで、周囲が上官だらけ。

 『気苦労が多くて、余計なところで疲れた実情』

も吐露する。

 それに対しリウも、

 「艦長とは命令系統が別なので、上司が1人っていうのはいいですね」

と、ルー中佐に同意するのだった。



 戦艦に搭乗の幹部の部屋は、結構広く、佐官以上は1人一部屋の割当である。

 リウも戦艦での勤務は初めての為、

 「ノイエの戦艦は、他国の戦艦よりひと回り大きいから、広さも違いますね~」

と素直な感想を述べる。

 『これならば、リュウ・アーゼルだということがわからないように気を遣い過ぎる必要性が少しは減るかな?』

と内心少し考えながら、宛てがわれた個室を確認するのだった。


 ルー中佐は、艦長のアリエス大佐のところにリウを連れてゆき、

 「大佐、新任のプロクター中佐共々、ご挨拶に来ました」

と言い、2人で敬礼。

 すると大佐は、見事な返礼で

 「艦長のアリエス大佐です。 よろしく」

答礼してきたので、

 「副司令官付き艦隊主任参謀のルー中佐です」

 「同じく、作戦参謀のプロクター中佐です」

 「よろしくご指導ご鞭撻の程、お願い申し上げます」

と声を揃えて挨拶し直す。


 すると、大佐は少し笑いながら、

 「2人共、そんなにきっちり答礼しなくても構わないよ」

 「直ぐに大佐になるんだし」

 『過剰な気遣いは要らないよ』

と言ってくれたのだった。


 「そうだ、2人は副司令官直属だから言っておくけど」

とアリエス大佐は前置きして、

 「ハーパーズ少将は、色々と悪い噂も流されてしまっている方だけど、我軍有数の指揮官だと思うぞ。 そこのところだけは勘違いしないでおいてくれよな」

 「噂の全てを否定出来ないのが、ちょっと残念だけど、本来なら既に中将になっている位、優秀な方だからなあ」

と言い出し、少将に関する噂の大半は、

 『出世が早かったので、足を引っ張る為にライバル達が誇張して広めたものだ』

と、大佐は指摘するのだった。



 艦内をひと回りして、設備の案内や確認が終了してから、宇宙艦隊司令部に戻って、ルー中佐は、

 「あの艦が、俺達の戦いの舞台になるのだろうなあ。 ちょっと前迄は、戦争なんて遠い国での出来事で、シヴァ丞相への応援部隊に当たった時だけのことだと思っていたのに......」

と複雑な気持ちを言葉にする。


 帝國軍の動きはかなり活発となっていて、大動員への気配を隠そうとしていない状況から、いずれ近いうちに、帝國軍と大きな全面衝突があるだろうというのが、ノイエ国軍軍人の共通認識になりつつあるのだった。


 その述懐にリウは、

 「帝國軍は約10年ぶりに、大きく動き出す準備が始まっているようですね。 それが西上国方面なのか、それとも新たに国境を接したアルテミス王国方面なのか......」

と言いながら、内心は

 『確実にアルテミス王国へ攻めてくるだろう。 西上国方面へと同時に......』

と考えていたのだった。




 一方、太陽系帝國では再び御前会議が開かれていた。

 老将ウォルフィー元帥と帝國宰相ルーゼリア大公は、前回と変わらず、大遠征計画に反対の意見を示し、他にはオズワルト大将も反対意見を表明したものの、その他の重臣は日和見派や中立派が大勢を占めていた。


 今回の御前会議には帝國の重臣の他に、大きな兵力を保有する四大地方軍閥の当主も、皇帝自らの招請を受けて参加していた。

 その中の一人が、居並ぶ重臣達に遠慮することなく立ち上がって、

 「それでは、私、ヨハン・シルバーバーチが計画への賛同理由を申し上げよう」

 集まっている重臣を前に、大袈裟な物言いから、話を切り出してみせる。


 「大帝陛下は、明言こそしなかったものの、人類社会統一への意思を示しておりました。 それは度々西上国方面への出征を行っていたことからも明らかでしょう」

 ヨハンはここまで話すと、周囲を見渡す。

 二世皇帝は我が意を得たりと満足そうに頷く。

 「今計画は、英邁なる皇帝陛下が、先帝の意思を引き継ぎ、その大業を成就させようと、御心を砕いて立てられた素晴らしい出征計画なのです」

 「私も拝見させて頂きましたが、非常に緻密な計算がなされた上でのものであり、この計画に従って行軍すれば、我が勇猛なる帝國将兵の進む道の前に立ちはだかる者など、居よう筈がありません」

 シルバーバーチは、声高らかにその様に発し、少壮な将軍や廷臣達を代表する意見を述べたのであった。


 実は中堅以下の者達は、内心では戦いを求めていた。

 それも、大きな戦いを。

 それが太陽系帝國における立身出世への近道、特急券であるのだが、先帝が身罷って以後戦いが無く、しかも先帝以来の老臣達が重要ポストを握ったまま、引退しようとしない。

 そうした状況を打破するには、二世皇帝が実行しようとする人類統一計画こそ、最大級の戦いが発生する、最後の大チャンスである。

 ここで功績をあげれば、それに応じたポストを与える為に、居座る老臣達は皇帝より引退を迫られて退くであろう。

 そんなことを考えている者が大半であったのだ。


 「シルバーバーチ殿のおっしゃる通りです」

 同じく四大地方軍閥の当主であるアウグスト・リューネがすかさず立ち上がり、賛同の意を表明する。

 「三国同盟など、太陽系や地球に住むことが出来なかった、貧賎な者達が辺境域に建てた小国に過ぎません。 恐れる必要など、何処に有るのでしょうか?」

 この意見に、再び皇帝は深く頷く。

 『素晴らしい壮言だ。 こういう意見を聞きたかったのだ』

 二世皇帝は内心で非常に満足な様子であったが、あえてその気持ちは表情に出さない。


 「私も、両軍閥当主の意見に賛成致します」

 少壮の勇将として名を馳せる衛将軍のマー・タイ中将が優雅に起立して、よく透る声で大遠征計画実行へ皇帝陛下の決断を促す。

 「三国同盟は現状、我等の兵力の7割程度の動員力しか有りません。 確かに西上国に名将がおられるのは事実。 しかし、他の2カ国は戦闘経験の殆ど無い将兵しかおりません。 翻って我が帝國軍は、大帝以来の経験豊富な将兵ばかり」

 中将は、流石に軍の専門家。

 その言葉にはかなりの説得力がある。

 「その弱点を突くのが上策でしょう。 今回の出征計画案は、その部分にキチンとフォーカスされており、西上国軍の動きさえ封じてしまえば、帝國軍の勝ちはほぼ決まりと言えます。 経験豊富な未曾有の大軍と対峙するノイエ軍と王国軍は、戦う前から肝が潰れ、我が軍が敗れる心配は無いと小官は考えますが」


 中将の意見は、二世皇帝の考えとほぼ一致しており、大遠征計画反対の声を掻き消してしまうものであった。

 「衛将軍の意見や、最も良し」

 皇帝はその様に発言し、周囲をゆっくりと見渡す。

 居並ぶ臣下達に、もはや反対する者は誰もおらず、御前会議における議論の行方の方向性は完全に決したのであった。

  

 「予の心は決した。 異論もあろうが、ここは予を信じて、一致団結し、大帝が果たせなかった、最後の仕事を成し遂げようぞ」

 二世皇帝は高らかに宣言をする。

 それに対して、重臣全員が、

 「陛下の御意のままに。 身命を賭して大業の成就を必ず遂げます」

と唱和する。


 この様にして、帝國軍の大遠征計画は正式に決定したのであった。


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