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晴晴(はれはれ)

作者: 中林宙昊

教室の隅の席に座る彼女の顔は、一体いつからああだったのだろう。

真っ赤になって仕方のない視界を、目を抑えながら思う。


しかしながらまぶしいのは夕日のせいではない。

こう言っても信じてもらえないだろうし、まして気持ち悪く思われてしまうのがオチだろう。


信じ難いだろうがとりもなおさず言おう。


「光っている」のだ、彼女の顔が。


いや、分かる、諸君らの言いたいことは十分に理解できる。

俺も何気持ちの悪いことを言ってるんだと思う。

まるでひと昔前の少女漫画かのような有り体の表現、

得も言われぬ感覚ではあろうが、確信して言おう。


これは「現実」である。


気が付いたのは昨日だ。

しかしおそらくそれよりも前からそうであった。自分でも間抜けだと思う。

彼女の席は後ろで俺の席は前のほうなのだが、ここ一週間妙に黒板が見やすいなあと思っていたが、後ろに文字通りの「電球顔負けサーチライト人間」がいるんだから当然であろう。


さらに妙なことに、この光はどうやら俺にしか見えないらしい。

彼女の顔から発される光は懐中電灯やらとは比べ物にならぬほど強かった。

しかし同級生が彼女の目の前にたむろして普通に話しているものだからそんなお手軽に失明しようとせんでもと思ったら、何と怯む様子すら見せないのである。

まだその同級生が眼球無敵スーパーマンである可能性は否めないがおそらくこれらの光は俺の幻覚であるか、あるいは俺だけにしか見えない宇宙的パワーを秘めたメッセージであるかの二択だろう。


現在夕暮れの教室にいるのは彼女と俺だけである。

クラスのギャルに彼女と話がしたいと放課後にセッティングしてもらったのだが、その時の変態を見る目!俺はそんな人間じゃない!!!

ちなみに焼肉奢ると言ったら三秒でしてくれたぞ。


「ねぇ、話って、何?」


席に座る彼女から問いかけられる。

当然の疑問だ。自分を呼びつけた相手がこうして独白と葛藤を目の前でするものだから訝しげに思うのも当然だ。


「え、ええ、でもちょっと待ってもらってもいいですか!?」


今からすることは決まっている。

しかしながらいざとなると心の準備というものが!

依然として彼女の顔は見えないがその毛伸びをするしぐさから、明らかに本題はまだかと呆れている。

俺の経験の浅さから、どう話せばいいか上手くまとまらない。

ちくしょう、なんでもっと上手に話してこなかったんだ!!!


ええいしゃらくせぇ!!こうなったら!!!!!

リュックをドン!と机に置き、チャックを開けてあるものを取り出す。


「え!?」


「ごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごく」


「めっちゃ飲んでるね」


「ごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごく」


「まだ飲むの?」


「ごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごく」


「わかんないけど致死量とかないの?」


ぷはりと瓶を置いた。

これはウイスキーである。


親父の部屋から勝手に引っ張り出してきたから銘柄?とかってのは知らないが、もしもの時のために持ってきて良かった。


これで、、、言える!!!!


「す、好きです、付き合って下さい!!!!!!!!」

「!?」


初めてだ、こういうことを口にするのは。

生まれてこの方根暗に育ってきた性分、女性関係はもちろん、友達ですら少ない俺が、飛び級し過ぎてはいないか。

時が止まったような気がする。

空気の流れや斜陽の光、そこにあるものすべてが止まってしまったような、そんな長い感覚がする。


恐らくだが、俺の見ていた彼女の光というのは幻覚であろう。

先週ほどだったか、彼女に話しかけられたのは。

うーむ、なんと説明すべきか、どうしても恥ずかしく思えてしまう。


話したのはその一度だけだったが、俺は彼女に惚れたのだと思う。


彼女の整った顔立ちや、理性的な物言いに惹かれていたのだ。


俺もその感情には気が付いていなかった。

しかし思う節は脳裏にあったというか、おそらく今回はそれが、

幻覚の光として形を患って現れたのだと思う。


つまりこの光を消すには、

「きっぱりと諦められるようにフラれる必要がある」と推理した。

もともと根暗な俺だ、フラれるなんてそりゃたやすいだろうが念には念をとだから未成年飲酒にまで手を出したのだ。


「いいよ」


ほら、これで光は消えるんだ。

これで安心して授業に、


「は?」


意味がわからん。

光が消えていない。


「いいつってんじゃんか」


消えてないどころか、どんどん強くなっていくじゃないか。

俺は混乱の末頭痛が起き、くらくらと倒れこんで気絶してしまった。


その後のことは当記述の趣旨から逸れてしまう為、割愛させてもらう。

そうだな、せめて言うのであれば、

まず校内での未成年飲酒という前代未聞の事件で停学処分を食らったのを知らされたのは入院先のベットの上であった。

あれだけウイスキーをかっくらったのだ、俺が倒れたのは急性アルコール中毒だった。

当然両親にはひどく叱られたが、事情を話すと親父はなんだか少しだけ自慢気だった。

見舞いにも少ないながらに友人やクラスメイトが来てくれて、そこそこいい気分だった。それに例の彼女も来た。


彼女との関係がどうなったのかもここでは語らない。

彼女が言うには少なくとも、俺が見たあの光は幻覚じゃなかったらしい。

それがどういうことが俺には未だに分かっていない。

がとにかく、この話はここまでだ。


成就した恋ほど、語るに値しないものはないのだから。

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