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依頼7.当ギルドはワーカーの成長を応援します!

「おはよう、スタン」

「おはようございます、ギルドマスター!」


 翌朝。

 ギルド受付に降りてきたスタンは元気いっぱいだった。

 血色も肌艶もよくなっている。

 それもそのはず、万年金欠気味でろくにご飯を食べてなかったスタンが、朝食を取ったのだ。

 それも破格の値段で。

 なんでもできる神獣、べトロワの美味しいご飯を!

 そりゃ声も張りが出るだろうて。


「ご飯は美味しかったかい?」

「それはもう! あれがギルド食として出るなんて、今でも信じられないです。しかもあんな格安で……」


 私はうんうんと頷く。私も食べている。

 べトロワは今すぐ店を持ってもやっていけるぐらい料理スキルが高い。神様の恩恵にしたってすごいぞ神獣。

 私は自分の手柄のように笑顔で頷いたあと、すっ、と一枚の紙を出す。


「これは?」


 スタンが覗き込む。

 紙は都市から配布された依頼書だ。

 内容は昨日と同じく、ゴブリン討伐。


「昨日と変わらずゴブリン討伐の依頼だよ。ただし、最低15匹以上の依頼」

「15匹って……ストーンクラスが受けられるんですか?」

「本当は難しい。でも、べトロワが頑張って交渉してくれたおかげ。あとは、そもそもやりたがるワーカーがいないってことで、特例。下りやすい特例みたいだけどね。で、カッパークラスの依頼だけどウチが受注できた」

「なるほど」


 スタンが納得する。

 ゴブリン討伐は街境まちざかいに住む住民たちにとって大事な仕事で依頼だが、ワーカーにとって正直あまり旨味はない。


 数が少なければまだしも、多くなるほど単価が安くなる。

 絶対どこかでピンハネされてるけど、Gランクギルドではまだ何もできない。


 とはいえ、単純に実入り自体は多くなるし、レベルアップにもつながるので、これを逃す手はない。


 と、こんな初心者に向いている仕事がなぜ不人気なのか。

 それは単純にお金とリスクの問題であると言える。

 カッパーやブロンズのワーカーたちは、実力があるとはいえ、15匹以上のゴブリンとなると怪我をするリスクがある。


 彼らはこんな仕事で怪我をしたくない。

 万が一、怪我でもして治療が必要になったら、高額の医療ギルドのお世話になるか、自腹で購入した貴重なポーションを消費するハメになる。


 派遣ギルドの資金力で一括購入も可能なポーションも、個人で買うとそうはいかない。


 安物のポーションでもゴブリン5~10匹討伐して得る分のお金がかかる。

 正直に言ってリスクが大きい。怪我なくゴブリンを討伐できなければ明らかに損になる。


 できればやりたくない、というワーカーたちの気持ちもよくわかる。


 さらに言えば一括購入することで少しだけ価格を抑えられたギルドも、『正規価格』として相場以上の額で売ってたりする。なんてブラック。


 ということで、ギルドの資金をワーカーにじゃんじゃか使う予定の私たちカイリギルドが、他の連中がやらない仕事を積極的にもらっていく。


 ポーションは依頼を受けるワーカーに対する支給品として真っ先に候補に挙がるモノにしているしね。怪我も多少は安心。


「でも、俺にできますかね。昨日、ギルドマスターのおかげでレベルは上がりましたけど……」

「できるよ。というかこのレベルの依頼なら、スタンはすぐに一人で受注できるようになる。そのためにサポートは惜しまない」

「ギルドマスターはどうしてそこまで……」

「働く人を応援したいから」


 即答する。今の偽らざる気持ちだ。

 ワーカーという職業の実体の一つは、スタンを見てわかった。


 そして、自分に出来ることなら、本気で手伝いたいと思っているのだ。


「で、どうする? スタン。この依頼、受けてくれる?」


 私が訊くと、スタンはグッと唇を引き結び、それから大きく頷いた。


「はい! やります! お願いします!」

「よし。というわけで、次に自分に必要だと思う道具を申請してね。これはこっちで決めてもいいんだけど、それだと独り立ちできないから」

「は、はい」


 断らないだろうと見越して用意しておいた支給品申請書を渡す。

 スタンはペンを取り、一つ一つ必要なものを書き加えていった。


「今回の討伐は15匹。前回、1匹は私が倒したからスタンは実質4匹しか倒してない。さらにそれを加えて、私がいないことを想定して支給品を考えて」

「はい!」


 ヒントを与えつつ、自分の頭で考えさせる。

 自分で考えるのはとても大事だ。


 同時にとても難しい。

 しかし、とても難しいことだからこそ、とても大事なのだ。


 ギルドの言いなりになるのは簡単で楽だが、その分搾取されても気づかない。

 ある日突然切られ、実績はあるが一人では何もできないワーカーが出来上がる。


 そんなワーカーが他のギルド、仕事でどんな扱いを受けるか。そしてどんな末路を遂げるかは想像に難くない。


 私は一度でもこのギルドに所属したワーカーを、そんな風にはしたくなかった。


「こんな感じで、どうでしょうか」

「見せて……うん、これはいいけど、ここは……」

「あ、そうか……じゃあ、ここは……」


 私はスタンと紙を見つめ、支給品の加減を決めていく。

 途中からべトロワも参加し、より実戦に基づいたスタン用支給パックが出来上がっていく。


「回復用のポーションに、途中休憩用の野営道具、食料にその他道具……うん、一日仕事ならこんなものでしょう」

「ありがとうございます!」


 私とべトロワの許可が出たところで、スタンが頭を下げる。

 初回なので時間はそれなりにかかったが、なかなかの装備に仕上がった。


 あとはこれをべトロワに渡し、べトロワから申請書通りに支給される品を受け取って準備完了だ。


「さ、行こうか。スタン」

「はい。今日もよろしくお願いします!」

「行ってらっしゃい、カイリ様、スタンさん」


 べトロワに見送られながら、私たちは本日の討伐へと向かった。


ー・ー・ー・ー


「5、6……8匹いるね。どう? やれそう? スタン」


 街を出てしばらく歩いたところで、ゴブリンの群れを見つけた。茂みに隠れて様子をうかがう。


 数は多いが、討伐が難しいというレベルではない。

 依頼書の適性クラス、ブロンズであるならば。

 ストーンクラスのスタンにはまだ難しい。


 詳しく言えば、クラスそのものより、レベルだ。

 スタンのレベルは3。ゴブリンたちとレベル差はない。

 2匹ほどレベル3が混じっているが、ほとんどが2だ。


 一対一なら負けないだろう。

 例えばスタンのレベルが10なら、この数だって苦戦しないだろう。


 けれどほぼ同格。

 そうなったときは、当然数の多いほうが強い。数が暴力なのは異世界だって変わらない。


 ただし、先ほども言ったように圧倒的なレベル差があれば数だって意味を成さない。ここはそういう世界だ。


 だからできるだけ早くスタンのレベルを上げる。そうすればスタンはすぐにここ程度のモンスターに苦戦しなくなるだろう。


「正直、怖いです。足は震えてるし、ビビってます。けどギルドマスターが、信頼してくれる人がいるので、俺は……やれます」


 スタンの答えに、私はうなづく。


「いい心がけだね。じゃあ、念のためあっちの2匹は私が相手をする。それ以外は任せるよ」

「はい!」


 レベル3は引き受ける。同格2匹と格下6匹だと依頼達成が危ういとみた。


 しかしレベル差1とはいえ、格下6匹の相手ならスタンはできる。もちろん危なくなれば助けるが、勝てれば自信につながる。


 そしてレベルアップと、一対多の経験が獲得できる。


「じゃあ始めようか。危なくなったらすぐに呼んで。自分の状況を考えて適切な行動をとれるワーカーこそが……」

「本当に強いワーカー、ですよね」


 続きを引き取ったスタンに、私はニヤッと笑う。

 そして背中を叩き、合図を出す。


「行け!」


 ゴブリンの群れが茂みに近づいた瞬間、私たちは飛び出した。


「ギギィッ!?」


 不意を突かれたゴブリンたちが慌てふためく。

 しかしレベル3の2匹がすぐに立て直す。やはり引き受けておいて正解だった。


 2匹は私に武器を向ける。

 命の危機だ。


「それを待ってた」


 神の恩恵「ギルドの守護者」が発動する。


 一時的に身体能力の上がった私は、レベル3の2匹を小型ナイフで一閃。


 一気に狩る。


「やぁあっ!」


 スタンも2匹を不意打ちで仕留めると、体勢の整わない3匹目に剣を突き刺す。4匹目を盾で殴ってよろめかせ、剣で斬ってとどめを刺した。


「ギギィッ!」

「くっ!」


 やっと武器を構えた5匹目と6匹目が反撃してくる。


 スタンはそれを剣と盾で受け止め、蹴りで5匹目を吹っ飛ばす。


 その隙に6匹目と1対1に持ち込み、脚と脇腹を浅く斬り、動きが鈍くなったところで首を落とす。


「はぁっ!」

「ギギッ……ギッ……」


 立ち上がろうとした5匹目に飛び掛かり、剣を突き立てる。

 最後のゴブリンが動きを止め、生きているゴブリンはいなくなった。


 あっという間の勝負だった。


「はぁ、はぁっ……」

「すごい! すごいよスタン!」


 私は思わず拍手していた。

 数が多い相手なので心配していたが、杞憂だった。

 スタンはレベル3という数字以上に強くなっていた。


 私の声に、スタンはハッとしてこちらを見る。


「あ、ありがとうございます。ギルドマスターが強い2匹を押さえてくれたからです」

「いや、それでもすごい。私の想像以上だよ」


 素直な感想を述べると、スタンが照れ臭そうに頬を掻く。

 そんなスタンの身体がぼんやりと光った。

 レベルアップの兆候だ。


 私は急ぎ、鑑定眼でスタンを見つめた。


『スタン:ワーカー(クラス:ストーン)

所属:カイリ人材派遣ギルド

レベル4

体力:15(+2) 力:15(+2) 防御:14(+2) 素早さ:15(+2)

装備:鉄の剣 ラウンドシールド 軽防具』


「スタン、またレベルが上がってる!」

「本当ですか! やった!」


 喜ぶスタンを見て、私は昨夜こっそりべトロワと話したことを思い出す。


 スタンが通っていた養成所を調べて貰っていた。

 その養成所は、本当にスタンを荷物持ち、雑用としてしか実戦に出していなかったようだ。スタンの話は誇張抜きだった。


 そんな中でも、スタンは腐らず、ずっと一人トレーニングを続けていたらしい。


 その努力が今、開花しているのだとすれば、不謹慎だが養成所の教官たちに礼を言いたい。


 仮にちゃんとスタンを育てていれば、養成所を代表するワーカーになった可能性もあっただろう。


 けれどそうしなかった。目先の金にばかり目が眩み、金づるのつもりで縛り付けておいたんだろう。彼の才能を見なかった。育てなかった。


 だからこそ、こうしてスタンと私たちは出会えたのだ。


 神の特典、強運もついてるっぽいな、これは。


「本当にすごい。よし! この調子で15匹いこうか」

「はい!」


 もちろんここ以外のギルドなら開花せず死んでいただろう。 

 私は、私たちと出会えたスタンの幸運にも感謝した。


 そうして、少しの休憩を挟み、日が暮れるまで討伐を行った結果、スタンはなんと自力でゴブリンを30匹討伐していた。


 とんでもない成果だ。


 そしてレベルは──。


『スタン:ワーカー(クラス:ストーン)

所属:カイリ人材派遣ギルド

レベル7

体力:25(+2) 力:26(+2) 防御:23(+2) 素早さ:26(+2)

装備:鉄の剣 ラウンドシールド 軽防具』


 レベルは7になっていた。

 能力的にも、ソルジャーの色合いが濃くなっている。


「それじゃあ、帰ろうか」

「はい! ギルドマスター」


 能力だけならスタンはすでにカッパー、いや、ブロンズはあるかもしれない。


 スタンがギルドの主力になる日もすぐ近くだろう。


 私はべトロワが急激に強くなったスタンを見たときの反応を楽しみにしつつ、帰途につくのだった。


最後まで読んでいただきありがとうございます!

避ければ高評価やブックマークしていただけると幸いです。

では、次回もよろしくお願いします!

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