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22/22

依頼22.邪神ってそれ本気で言ってます?!

「さて、それじゃあアマルとルイスにはさっそく市場に言ってもらおうかな」


 歓迎会を終えて、翌日。

 カイリはギルドの受付で、注文票をアマルに渡す。


「基本的にはそれに書いてあるものが必須。その上で、アマルとルイスのセンスで、このギルドに必要だと思うものを購入してみてほしい。ま、最初はべトロワについていってもらうけど」

「よろしくお願いします」


 べトロワが丁寧にお辞儀をすると、アマルが応え、ルイスも慌てて姉の真似をしてお辞儀をした。


「ギルドマスター、元ゴールドクラスはどうするのですか?」


 アマルが問う。

 そこはカイリも悩んでいたところだ。


「気になるのは本音だけど、今は二人が入ったところだし、派遣先もようやくそれぞれの資質にあった場所にできそうなんだよね。だから、とりあえずまずはこのメンバーで仕事を動かせるようになったら、そのギルマスを詳しく調べてみることにしたいんだよね」

「なるほど……」


「大丈夫、一~二週間で慣れてみせるから。一応、アマルたちもそのつもりで情報は逐次集めておいて。ギルドの専属になったバッヂを付けていれば、早々嫌な対応取られることもなくなるだろうし」

「わかりました。ギルドマスターがそういうなら、まずはお仕事に慣れることにします」

「します!」


 アマルとルイスの返事にカイリは満足げな顔を返し、べトロワに視線を向ける。


「じゃあ、頼んだね、べトロワ」

「承知しました、カイリ様」


 三人が軽く会釈をして、ギルドから出ていく。

 アマルもルイスも基本的には覚悟があるので、あとは経験だけだ。

 専属でどれだけ役に立ってくれるか、これからの成長が楽しみだ。


「ギルマス、おはようございます」

「ああ、おはようスタン」


 入れ替わるようにして、受け付けにやってきたのはカイリギルド初のワーカー、スタンだ。

 早朝の鍛錬を終えたようで、すでに剣と軽装具に身を包み、準備万端といった様子だった。


「今日は何か仕事ありますか?」

「もちろんあるよ。ちょっと待ってね」


 カイリがゴソゴソと受付の机の下にある棚から書類を取り出す。

 スタン向けだと思って用意してあった仕事だ。

 ワーカーたちは毎朝、こうして受付にやってきて当日の仕事を受け取る。

 仕事をしたくないときは受付に来なければいいし、また受注しなければいい。

 シンプルな話だ。


 もちろん今のカイリギルドに休むという選択を取るワーカーはいないので、いつでも仕事に向かえるようにいくつかの“日持ちする”仕事をストックしてある。


「これ、どう?」


 カイリが書類を一枚、机に出す。


「薬草10種の採取……ですか?」


 内容を見たスタンが呟き、カイリは頷いた。


「うん。これまでスタンには魔物退治を中心にやってもらっていたけど、こっちの仕事も向いてると思って。あ、魔物は出るから退治することには変わりないけどね」

「でも俺、薬草の種類そんなに知らないですよ。基本的なものしか」

「大丈夫、これがある」


 そう言って、カイリは下の棚からそこそこの厚さがある冊子を取り出した。

 使い込まれた表紙には『薬草図鑑』と書かれている。


「この近辺にある薬草のことがほぼ網羅されてる。これがあればひどい間違いが起こることはないと思うよ。どう? 挑戦してみない?」

「……やってみます!」


 スタンは嬉しそうな顔をして頷いた。

 彼にはまだ言っていないが、なにやら新しいスキル『採取』が生えてきているのだ。

 効果は採取する物の質が安定し、また稀に採取したものが増える。なかなかのスキルだ。


 何が発動条件だったのかは知らないが、生えたものは生えたのだから活用しない手はない。

 幸い、スタンもこういったことには乗り気な青年だ。

 予想通りの反応をしてくれて、カイリも思わずニッコリ微笑んでしまう。


「ではさっそく行ってきます!」

「朝ごはんは食べた?」

「もういただきました!」

「それじゃあ安心だ。いってらっしゃい」


 スタンは快活な返事をして出ていく。

 ここに来た頃からは考えられない。しかし、それが本来のスタンなのだろう。

 仕事の成果も高い。

 つくづく、他のブラックギルドが彼に過酷で向いてない仕事をさせなくてよかったと思う。

 もちろんうちのギルドにいる限り、所属するワーカーたちにそんな仕事はさせないけれど。


「おはようございます、ギルドマスター」


 スタンが仕事を受け取ったのを見て、すでに上の宿舎から下りて来ていたジノたちがやってくる。


「おはよう、みんな」


 ジノを先頭に、ゴルド、イング、クラリ、ナルシュカの五人が受付の前に立つ。

 五人それぞれと挨拶を交わしたあと、カイリはスタンのときと同じように、一枚の書類を机の上に出した。


「今日仕事を受けてくれるなら、これが五人に任せたい派遣先」

「ふむ……」


 ジノが紙を取り、後ろから四人が覗き込む。


「ゴブリンとホブゴブリンの群れか」と、ゴルド。

「近辺の洞穴に棲息し始めた。数は確認できるだけで20匹以上。ホブゴブリンも2匹以上は確実、と」

「洞穴か……」


 イングとナルシュカも口を開く。

 短剣のイングはまだしも、弓使いのナルシュカは今の武器になってから洞穴などの狭い場所での戦闘は初めてだ。


「槍も取り回し注意だな」と、ジノ。

「君たちの連携とレベルならこれぐらいの規模でも大丈夫だと思う。よっぽど油断しなければまず負けないだろうし。狭い場所で戦うのも一応経験としてね」


「魔法の撃ち方に気を付けないと」と、クラリ。

「そうね。ゴブリンよりも同士討ちのほうが危険かもしれない。まあ、それも踏まえて経験してきてほしいんだ。頼める?」


 ジノたちは顔を見合わせたあと、カイリに向き合ってコクリと頷いた。


「もちろん。このギルドのために、やり遂げてみせますよ」


 ジノが力強く言った。

 言葉は悪いが最初に拾ったときに自信なさげな五人の姿はもうない。

 努力して、過去に打ち勝った人間は根っこから強くなるものらしい。


「じゃ、いってらっしゃい」


 先の二組と同じようにカイリが見送り、ジノたちがギルドを出ていく。


「ふー」


 カイリは一息ついてから、すぐに立ち上がった。


「私もそろそろ出かけるとしますか」


 それから準備をして、ドワーフ・エルゲンの村へと向かう。

 初心者から中級者用までの、武器を含めた装備の相談の約束があるのだった。


ー・ー・ー・ー・ー


「……ということで、これらを買うときは値切るのが基本です。こちらは値切らなくてもいいです。品自体が貴重ですので」

「なるほど……」


 市場では、べトロワが見て回った商品について説明していた。

 商人の子どもたちなのである程度知識はあるだろうが、一度は実践して見せたほうがいい。

 そう判断して、店を回る前に商品の予習と相場の確認、それから儲けそのものよりも、必要かどうか、今買うに値する値段かどうかなどの心構えをアマルとルイスに叩き込んでいく。


「じゃあポーションを言い値で買うのは……」

「まずありえないですね。上級ならまだしも普通のポーションは値切り前提で売っています。ですので大量に買うから、セットで買うからなど値切りは基本なんです」

「僕にできるかな……」

「大丈夫、できるまで教えます」

「ひぇ……」


 熱心に教わるアマルに比べて、少し腰が引けたルイスに、べトロワは圧の強い笑みを向けた。

 彼女らが商人として一端になるのは、そう遠くない未来かもしれない。


ー・ー・ー・ー・ー


「これは……うわ、毒草だ。解毒草と似てるって書いてあるけど、本当によく似てるなぁ」


 薬草採取に派遣されたスタンは、さっそく毒草に引っかかりかけて冷や汗を拭った。

 解毒草と薬草を手際よく回収しつつ、採取先である森の中を歩き回る。


「なるほどなぁ。この草とあの草は混ぜちゃいけないのか。どちらかを布で包んで、分けて運んだほうがいい、と」


 昼ごはんのべトロワ特製サンドイッチを食べながら、薬草について実地で学習していく。

 今まではオーソドックスな依頼である魔物退治ばかりをやっていたので考えもしなかったが、養成所で習った薬草の基礎知識はほとんど役に立たなかった。

 ならば一旦先入観となる知識は忘れ、改めて図鑑と向き合いながら採取していったほうがよっぽど勉強になる。


「この草、甘いって書いてあるけど……本当か?」


 ピンク色の鈴に似た花が生っている薬草を見て、スタンは訝しげに首をかしげる。

 試しにと舌先で花を舐めてみる。


「うわ、本当に甘い!?」


 花は実際、甘かった。

 砂糖ほどではないが、優しい甘さが口の中に広がる。

 その名も『甘味草』。

 名に偽りなしの薬草だった。


「うわぁ、面白いなぁ。指定されたやつだけじゃなくて、もっと知りたい」


 もちろん依頼を放り出すことはないが、スタンは新しい知識が増えていくことにささやかな喜びを覚えていた。

 これまではただ生きるためだけに、戦い方を頭と身体に叩き込んできたのだ。

 けれども少しの余裕が、スタンに学びの楽しさを湧き上がらせた。


「よし、この依頼が終わっても薬草採取がないかギルマスに聞こう」


 そうして新たなに決意をしたスタンの背後には、何匹ものゴブリンが倒れていた。

 苦戦していたのはつい先日だが、もはや昔だ。

 スタンは薬草採取をしながら、魔物を片手間に倒せるほど成長しているのだった。


ー・ー・ー・ー・ー


「──ぉお、りゃあっ!」


 洞穴に響いた裂帛の気合とともに、ジノが槍を思い切り投擲する。


「ギャバアアッ!?」


 しなりながら飛翔した槍は、洞穴の奥に陣取っていたホブゴブリンの頭部を貫き、あっさりと絶命させた。


「……よし、これで終わりだな」

「そうみたいだな、だが気は抜くなよ」


 槍を射出した態勢から戻ったジノに、横方向を警戒しながらゴルドが言った。

 大きな盾を持つ彼の前には、吹っ飛ばされたもう一体のホブゴブリンが倒れていた。


「思ったよりもあっけなかったね」

「そうですね……ホントに、思ってたより……」


 ゴブリンたちに刺さった矢を回収しながら言うナルシュカに、魔法で辺りを照らしながらクラリが頷く。


「気配はない。討伐成功だ」


 殿を務めるイングが呟き、二振りのナイフを鞘に納めた。


「強くなったな、俺たちも」


 ジノがホブゴブリンから槍を抜き、軽く振って血を落とす。


「まあ、全部ギルドマスターのおかげだけどな」


 ジノの言葉に、全員が頷く。

 カイリギルドに所属してから、いいことづくめだ。

 あとはなんとなくだが、あのギルドに所属していると、自分たちの実力以上の力が発揮できているような気がする。


 それはジノたち共通の認識だったが、今は深く考えることはしないでおこうと全員で決めた。

 自分たちを真っ当に評価してくれたカイリのために働く。

 五人にとって、それが今の一番だ。それ以外のことは割とどうでもいい。

 もちろんカイリは「自分の時間は自分のために使ってー!」と言うだろうが、他のギルマスからは絶対に聞かれないだろうことを言う、そんなカイリだからこそ役に立ちたいのだ。


「よし、帰るぞ。討伐の証拠は忘れるな」

「「おう!」」「「はい!」」


 それぞれが応え、ジノたちはあっさりと洞穴を制圧して意気揚々と帰路につくのだった。


ー・ー・ー・ー・ー


「ただいまー」

「おかえりなさいませ、カイリ様」


 カイリがドワーフ・エルゲンの村から帰宅すると、受付に座っていたべトロワが立ち上がりお辞儀をした。

 カイリは笑顔で受付に向かい、それから机の上に奇妙なものが置かれていることに気づいた。


「……なにこれ?」


 それは木像だった。

 粗削りだが、人の形をしていることはわかる。

 見た覚えのあるモデルだ。


「ねえ、べトロワ。これって……」

「神様です」

「……はい?」

「神様です」


 べトロワの言葉がすぐには理解できなかったが、繰り返されてようやくちょっと頭に入ってきた。

 そう、見覚えがあると思ったら転移したときに会った神によく似ているのだ。


「……で、この神様に似た像がなんなの?」

「神様から緊急のお話があるようです。一回限りで壊れてしまいますが、これでお話ができます。カイリ様に合わせますと……通信機のようなものでしょうか」


 通信機?とカイリは首をかしげる。

 そんな便利アイテムがあるのか。


「これ、量産とかできないの? 困ったら神様にすぐ連絡して……」

「今回は神様資金が降りてきましたが、ギルドの資金で作ろうとしたら9体が限界です」

「…………え? うちのギルドの資金で?」

「色々複雑なものが重なって出来ているので、素材や加工で1体10億かかるので」


 カイリは一度目を閉じて、右耳から入ってきた10億という言葉を左耳からスポンと追い出す。

 聞かなかったことにする。


「それで、どうやって使うのこの、10億の通信機」

「祈ってください。そうすれば神様のもとへ行けます」

「行く? なんか死ぬみたいだね……」


 言いつつ、カイリは両手を合わせて自分なりに祈る。

 死ぬみたいという言葉にべトロワから否定が入らなかったことを少しばかり恐れながら、目を閉じる。

 そして一瞬の浮遊感に驚いて目を開けた瞬間だった。


 そこはカイリギルドではなくなっていた。

 だが知っている場所だ。

 ここは──。


「やあ、久しぶりだねカイリさん」

「……神様」


 そこにいたのは紛れもなくこの世界にやってくる前に出会った、あの金髪イケメンの神様だった。相変わらずイケメンだが、目の下に隈のようなものが見える。

 神様も寝不足になるのだろうか。と、カイリは首をかしげた。


「では」


 神様は言って、いそいそと白いタイルの床に膝をついた。

 それから両手もつき、額も床に擦りつける。


「…………」

「…………」


「……なにやってるんですか?」

「……君の元いた世界での最上級謝罪」

「……嫌な予感しかしないので帰っていいですか?」

「は、話を聞いてくれたら」


 カイリは臭いものを嗅いだときみたいな顔をして、神様の後頭部を見た。

 金髪がキラキラしている。眩しい。


「なんですか、もー。絶対面倒ごとじゃないですか。神様がそんなことするなんて。私、ギルドの経営がけっこう忙しくなって楽しくなってきたんで、特典とかの話じゃないなら聞きたくないんですけど」

「……君、しばらく見ない間にたくましくなったね」


 神様がちらっと顔を上げる。


「どっかの誰かに肝心のワーカーがいないギルドに放り込まれればたくましくもなりますよ」

「……うっ!?」


 神様が再び額を床に擦りつける。


「……はぁ、もういいですから話を進めましょう。立ってください」

「ありがとうカイリさん」


 神様がシュバッと即座に立ち上がる。

 カイリは手にハリセンがあったら絶対叩き込んでた、と思った。


「実は、とても大変なことが起こってしまって」

「大変なこと?」


 神様が神妙な顔をしたので、カイリも合わせて顔を引き締める。


「ご存じのとおり、君のいる世界はブラックギルドが横行しているだろう?」

「そうですね。そのおかげでいい人材をゲットできていますけど」

「ブラックギルドは人々から安定と安心を削り取っている。そのせいで人々は神に祈る習慣を失くし、逆に呪詛を吐くようにまでなってしまった」

「それは、まぁ」


 どうにもならない現実を前にして人にできることは、自分の運命に唾を吐きかけることだ。

 神という都合のいいものがいれば、文句を言うのも普通だろう。


「文句や呪詛ぐらいならそこまで問題はなかった。けれど、その呪詛を己の力に変える邪神が目覚めてしまった」

「……邪神?」


 嫌なワードが出てきたと思った。

 ブラックギルドだけでも嫌なのに、なんでそんな世界を巻き込んだものになりそうな──。


「邪神エルドワーズ。君のいる世界の人々の心や関係を荒ませる神だよ」

「……うわぁ、嫌な神だ」

「奴はまだ目を覚ましただけで復活したわけではない。完全復活するにしても、まだまだ呪詛や荒れた心などが足りない。でも」


 神様は一度、小さな息を吐いた。


「奴が目を覚ましたことによって、ブラックギルドの活動が活発になってきた。人々は搾取されて疲弊し、互いにいがみ合い、足の引っ張り合いをし始めている。些細なことが許せなくなって、弱きものを叩き、強きものも叩く世界になりつつあるんだ」

「……確かに、ほんの少しだけですけど、私が転移した直後よりも小さな諍いが増えてるような」


「気のせいじゃないんだ。それに邪神を崇拝して復活させようとしているギルドもあるらしい。まだ公には出てきていないけれど」

「どこのギルドかわからないんですか?」


 神様は首を横に振った。


「残念ながら。邪神の加護が私の目を妨害するようでね」

「じゃあ、つまり……?」


 カイリは嫌な予感をひしひしと感じながら聞いた。


「君が察しているとおりだと思う。カイリギルドにはこれからホワイトギルド設立だけではなく、邪神復活を妨害してほしいんだ」

「やっぱり……どこのギルドが敵かもわからないのに?」

「それについては大丈夫。カイリギルドがこれまでどおりホワイトギルドへの道を邁進し続ければ目立って、向こうからやってくると思う」

「それはつまり……私たちが邪神の信者に狙われるということでは?」


 神様がニコッと困り眉で苦笑い。

 なに笑とんねんこいつ、とカイリは臭いものを嗅いだときみたいな顔をする。


「無理だよ、無理無理! 私たちまだカッパークラスに上がったばかりで、そんな邪神の手先となんか戦えないって!」

「いや、まだ時間はあるんだ。さっきも言ったように邪神自体は復活していないし、信者たちがカイリギルドの存在に気づくのはもう少し先になる。そこでカイリさんには早急に、しかしできる限りバレないようにギルドの力をつけて仲間を集めてほしい」


「むちゃくちゃなこと追加してきたー……」

「すまない。無茶なことは承知だ。だからこれから、僕はカイリギルドへの恩恵を強くするよ」

「……そんなことできるの?」

「ああ。でも、もちろんリスクもある。恩恵を受けることで急激に強くなる可能性があるし、そうなったら目立ってブラックギルドに見つかりやすくなる」

「……えぇ。強くなるには神様の力が必要なのに、恩恵を受けると邪神に見つかるリスクが上がるってこと?」

「そういうことになるね」

「うわぁ……」


 カイリは目をつぶって顔を上に向けた。


「でも、でもさぁ」


 カイリは再び神様を見る。


「どうせ多少目立っても恩恵を受けて強くなっておかないと、復活した邪神を止められなくて世界が悪に飲みこまれるとかそういう展開でしょ?」

「そういう展開だね。世界中の人々が邪神に隷属させられて、呪詛を吐き合い、いがみ合いながら生きる世界で強制労働させられる」


 即答する神様にカイリは再びはぁ、と嘆息した。


「わかった。わかりました。やりますよ! そんな世界は勘弁なので。どのみち、これ以上理不尽な目に遭っているワーカーを見たくはないし、そんな世の中くそくらえって感じだし」

「……やっぱり君、たくましくなったよね」

「……おかげさまで」


 いきなり、神様がポンッと手を叩く。

 するとカイリの周囲が光に包まれる。


「引き受けてくれてありがとう、カイリさん。ギルドにはいきなり最大の恩恵は与えられないけど、ワーカーたちの役に立つ恩恵を贈っておくよ」

「はい、よろしくどうぞ。またね、神様」


 カイリは精一杯の笑みを浮かべてみせる。

 少しだけ引き攣っていた。


「またね、カイリさん。君に神の恩恵を」


 神の笑みのあと、眩い光に包まれて思わず瞼を閉じる。

 そして次に開けた瞬間、カイリは見知った木造建てのギルドへと帰ってきていた。


「……ただいま」

「おかえりなさいませ、カイリ様」


 べトロワが言うと同時、目の前にあった木像が砂のようにサラサラと崩れていく。

 さらば10億の木像通信機。


「どうでした?」

「無茶ぶりされた。でも、頑張ってみるよ。約束したしね……手伝ってくれる? べトロワ」

「もちろんです、ギルドマスター」


 べトロワの柔和で可愛い笑みに癒されたカイリは、続けて拳をグッと握る。


「よし! それじゃあやれることから一つずつやっていきましょうかね」

「ただいま戻りましたー」


 カイリが気合を入れるとともに、派遣先からスタンが戻ってきた。


「あ、おかえりー……って」


 カイリはスタンを見てあんぐりと口を開ける。

 その背嚢いっぱいに薬草が入っているからではない。

 鑑定で見えたスキルに、茫然としたのだ。


スタン:スキル 状態異常耐性(全)、ダメージ半減


 ヤッバイスキルだった。

 神様の恩恵だとすぐに気づいた。


「こんなやばいの今付けたら、すぐに目ぇつけられちゃうでしょ!!」


 天に向かって吼えるカイリ。

 のちの最強にしてホワイトギルド、前途はまだ──多難である。

ということで様々な話を上乗せしたまま第一部完でございます。第二部は早くて9月、遅くても11月ごろには始めたいと思っておりますので、楽しみにお待ちいただけると幸いです。ではまたお会いしましょう!またね!

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