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依頼18.初昇格

「よくやったー!!」


 カイリはジノたちが帰ってきて、見事その討伐の証を見せると、大声を上げてバンザイした。

 信頼はしていたが、同時に心配もしていた。

 万が一ケガなどしていたら、大変だからだ。

 しかしジノたちは怪我一つなく帰ってきてくれた。

 しかもなんだか行きよりもさっぱりした顔つきをしている。

 最後に残っていた憑き物が取れたような顔だった。

 もちろんジノたちが話してくれるまでカイリに知る由もないので、そのまま素晴らしい仕事を成し遂げた彼らを受付で出迎える。


「では、こちらはお預かりします」

「よろしくお願いします」


 ゴルドがべトロワに討伐の証を渡す。

 べトロワは受付の裏に下がってポイント計算を始めるが、まず間違いなく足りているだろう。

 カイリは無事に派遣を終えたことを考えて、べトロワと何度も計算していたのだ。


「いやー、これでようやくうちのギルドもFランクになれるよ。みんなもきっとカッパークラスかな。本当にお疲れ様。みんなのおかげだよ」

「いや、俺らのほうこそ。ギルマスが拾ってくれなかったら、下手したら死んでました。冗談抜きで。だから俺たちこそ、働かせてくれて、信用してくれて、ありがとうございます!」


 ジノが頭を下げると、残りの四人も頭を下げた。

 その姿を見て、カイリは慌てふためく。


「や、やめてよみんな! 私はただ、みんなが快適に働けるように手伝いをしてるだけなんだから」


 神様から乞われて始めた仕事だ。

 未だに右も左もわからない若輩のギルドマスター。

 でも、少しでもみんなが良い職場に出会ったと思えたのなら、それは素直に嬉しいことだ。

 照れや困惑を感じつつも、カイリはそう思った。


「申請が通ってFランクになって、それからみんながカッパーになったら、もっと大変な場所に派遣することも多くなると思う。そのときもみんなが快適に働けるように頑張るから、だから私こそ、これからもよろしくお願いします」

「は、はい!」


 カイリが頭を下げると、ジノたちは感激したような顔で返事をした。

 そして顔を上げると同時に、べトロワが裏から戻ってくる。


「カイリ様、事前の計算通りポイントはバッチリでした。討伐証明書とギルド昇格、ワーカー昇格の申請も出しておくので、結果は明日になりますね」

「よし! じゃあ明日に備えて、今日は美味しいもの食べてゆっくり休んで!」

「おー!」


ー・-・-・-・-


 そして翌日。


「みんなやったよー!」


 ギルドにカイリの喜びの声が響き渡った。


「カイリギルドは本日からFランクギルドに。そしてみんなはカッパークラスに昇格だー!」

「うぉー!」

「よっしゃー!」

「やったー!」


 ギルドにはスタンやジノたちのパーティーがいて、今か今かと待ち望んでいた報告に喝采を上げる。


「俺、このギルドに入れなかったら、一生ストーンクラスだったから……俺、俺……」


 スタンが涙ぐんで言う。

 その肩をジノが掴んで、わかります!という風に強く頷いた。

 ワーカー全員が喜び、べトロワも楽しそうにその光景を眺めている。

 カイリもその光景に笑顔を浮かべていたが、突如、久々にクラッとくる感覚を味わい、机に手をついた。


「あ……」

「大丈夫ですか、カイリ様」


 べトロワがそっと支えてくる。

 みんなの喜びに水を差さないようにするのはさすがだ。


「うん、大丈夫。神様から、新しい特典が届いたみたい」

「え、本当ですか!」


 カイリは改めて笑みを浮かべ、強く頷いた。


「みんな、聞いて」


 言うと、ワーカーたちはすぐにカイリを見た。


「ギルドのランクが上がったことで、神様から新しい特て……恩恵を受け取ったの! 一つはマジックバッグ。小型だけど、荷車一台分の収納力がある。これをもちろん全員分」

「おぉっ……!」


 マジックバッグは当然希少品だ。

 しかもそれが人数分なんて普通はあり得ない。

 そう、普通ならば。


「これでみんな、中型の魔物を倒しても運ぶことができるね。大型はまだこれじゃ無理だけど」


 そして、とカイリは指を一本ピッと立てる。


「もう一つは神様の加護(小)が我がギルドのワーカーたちに付与されました。これは状態異常無効というとんでもないスキル。ワーカーのみんななら、これがどれほどやばいかわかってくれるよね?」

「…………」


 カイリの言ったことが飲み込めないのか、スタンを始め、ワーカーたちは呆けた顔をしていた。しかし徐々にその意味を理解し始めると、歓喜の声を上げる。


「す、すごい! 状態異常耐性の指輪なんて超高級品なのに、無効……?」

「私たちには、たとえば毒とか麻痺が効かなくなったってことですか?」

「そういうこと。これが神様の加護(小)の力なんだって。ただ、これはギルド員以外には絶対に言わないようにって神様の言づてが聞こえたから、注意してね」

「は、はい!」


 神の言いたいこともわかる。

 先ほどスタンが状態異常耐性の指輪と言っていたが、それは本当に超高級品アクセサリーだ。

 毒のみ無効の指輪でも500万ゴールドから。

 全耐性となると国宝級──は言い過ぎだとしても、億は確実に超えてくる。

 王宮や共和国の筆頭魔術師を数名集めて作るレベルだというから、その値段設定にも効果にも納得できる。

 しかしこのギルドに入るだけで、それよりもすごい無効の効果が手に入る。

 入りたいワーカーが増えるのは、カイリの仕事が増えるだけなのでいいが、スタンたちワーカーが捕まって調べられたり、果ては解剖なんてなったら嫌だ。

 これは基本的にスタンたちがブラックストーンクラスになり、単体ではほぼ負けなしといった強さになったぐらいでないと公にはしづらい話だ。


 そしてもう一つ気になったのは、そんなとんでもない能力がまだ(小)だということだ。

 しかも言ってしまってはなんだが、まだ最底辺から一つ上にランクが上がっただけだ。

 それでこれだけの加護が付与されるなら、大になったら次はいったいどんな加護が……。


ー・-・-・-・-


 一方、その頃天界では──。


「……あれ? 僕間違えて無効にしてる? うわ、やば……ええ、どうしよう」


 神は己のミスに気づいて驚愕していた。

 書類の山が一部壊れて上級天使に怒られる。

 平謝りしつつ、頭の中をぐるぐる回転させる。


「まずいな……本当は微小耐性、耐性、無効の予定だったのに。これ、期待しちゃうよなー。やばー、僕ってどうしてこんな……」

「神様! ちゃんと仕事してください!」

「は、はい! すみません!」


 上級天使に叱られ、神は慌てて書類仕事に戻る。

 仕方がない。こうなったら何か考えなくては。

 状態異常無効の先を──。


ー・-・-・-・-


「さて、みんな。改めてカッパークラスに昇格おめでとう!」

「ありがとうございます!」


 ワーカーたちが引き締まった顔でカイリに応える。


「本当は労いとお祝いを兼ねて食事会を開きたかったんだけど……」


 カイリの視線の先には、べトロワがいた。


「昇格通知と同時に、この依頼書が入っていました」


 べトロワが一枚の紙を掲げる。

 その紙には『トラバル平原を根城にする賊とオークマンの討伐』と書かれていた。

 推奨はEランクギルドとシルバークラス以上のワーカーだが、ランクとクラスが上がったことによって、カイリギルドでもギリギリ条件を満たすことができている。

 そもそも、そうでなければこの依頼書は同封されない。


「ということで、さっそく悪いんだけど、今度はこの六人の合同パーティーで派遣されてほしいんだ。いける?」


 スタンと隣に立っていたジノがお互いを見る。

 そして、ガシッと握手を交わした。


「よろしく!」

「はい! こちらこそ!」


 互いに力を認め合っているワーカー同士なので、異存はないようだった。


「よし。じゃあ出発に向けて必要な道具の申請を始めて。それから武器を新調したいとか修復に出したいとかあったら教えて。予備はいつでも用意してあるから」

「はい!」


 昇格の喜びもつかの間、こうしてワーカーたちは新たな派遣場所に向かうため、真剣な表情で道具選びを開始するのだった。

読んでいただきありがとうございます!

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では、また次回の派遣先で!

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