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依頼16.当ギルドは高い目標と志を支援します!

「これで終わりだ!」


 ジノが渾身の力を込めて鉄槍を突き出した。


「ゴブファッ……!?」


 ゴブリンが心臓を貫かれ、ロクな抵抗もできずに絶命する。

 ジノが槍を引くと、胸に穴を開けたゴブリンがどしゃりと土の上に倒れた。

 草原の周りには他にもたくさんのゴブリンが倒れている。

 ジノ、ゴルド、イング、クラリ、ナルシュカのパーティーが、30匹以上のゴブリンを掃討したのだ。


 以前からは考えられなかった戦果に、五人は顔を見合わせて笑みをこぼす。

 未だにストーンクラスワーカーではあるものの、五人はすでにブロンズクラスの力を身に着けていた。


「回復するね」

「頼む」


 ヒーラーのクラリがメンバー全員を集めて同時回復の『ヒールス』を使う。

 『ヒール』より少しだけ効果が弱いものの、範囲内の全員を回復できるという利点がある。

 とはいえ、数が多くても、ゴブリン程度なら今のジノたちには脅威ではない。

 疲労もケガも少なく、ヒールスでの回復すら過剰に思えてしまうほどだ。


「俺たち、強くなったな」

「ああ」


 ジノの呟きにゴルドが力強く頷く。

 イングもクラリもナルシュカも、力強い目でジノを見た。

 ジノも力強い視線を全員に返す。

 カイリギルドに所属してから三週間。今ではもう、ギルドマスターであるカイリの見守りすらなくなっていた。

 ギルマスから見放されたわけではない信頼。

 それが五人にとって、何よりも嬉しいことだった。


ー・-・-・-・-


「おかえりー!」


 派遣から帰ってきたジノたちが帰ってきた。

 受付にいたカイリは顔を上げ、ジノたちを満面の笑みで出迎える。


「どうだった? 大丈夫だった?」

「俺たちなら楽勝です」


 ジノが言うと、後ろの四人が笑みを見せる。

 彼らだけで派遣に向かわせてから五件目になるが、もうゴブリンやオークの掃討程度ではしくじることはないだろう。


「いいね。討伐の証はべトロワ、よろしく。そんで、ちょっとみんなを見せてね」


 ジノから手渡されたゴブリン三十匹分の片耳が入った袋をべトロワに流し、カイリは五人をジッと見つめる。

 それから紙に黒炭でカリカリと記入していく。


「おめでとう。全員レベル8になってるね。順調順調」

「おぉ……!」


 カイリは全員のステータスを見て、それを紙に書き写していたのだ。

 カイリから手渡された紙を、ジノたちは全員で覗き込む。


『ジノ:ワーカー(クラス:ストーン):ランサー

所属ギルド:カイリ人材派遣ギルド

レベル8(ギルドの恩恵)

体力:20(+50) 力:19(+50) 防御:18(+50) 素早さ:21(+50)

装備:鉄の槍(Rank:E) 軽装鎧』


『ゴルド:ワーカー(クラス:ストーン):シールダー

所属ギルド:カイリ人材派遣ギルド

レベル8(ギルドの恩恵)

体力:20(+50) 力:19(+50) 防御:22(+50) 素早さ:16(+50)

スキル:鉄壁(防御+30)

装備:鉄の棒 タワーシールド 重装鎧』


『イング:ワーカー(クラス:ストーン):スカウト

所属ギルド:カイリ人材派遣ギルド

レベル8(ギルドの恩恵)

体力:18(+50) 力:18(+50) 防御:18(+50) 素早さ:23(+50)

スキル:忍び足、暗視

装備:ナイフ×2(Rank:F)軽装鎧』


『クラリ:ワーカー(クラス:ストーン):ヒーラー

所属ギルド:カイリ人材派遣ギルド

レベル8(ギルドの恩恵)

体力:16(+50) 力:16(+50) 防御:17(+50) 素早さ:19(+50)魔力:25(+50)

スキル:ヒール、ヒールス、デポズ、ファイアボール

装備:樫の杖(Rank:E)ローブ』


『ナルシュカ:ワーカー(クラス:ストーン):アーチャー

所属ギルド:カイリ人材派遣ギルド

レベル8(ギルドの恩恵)

体力:18(+50) 力:18(+50) 防御:17(+50) 素早さ:20(+50)

スキル:鷹の目

装備:ショートボウ ナイフ 軽装鎧』


「……すごい」


 クラリが呟いた。

 他の者も口には出していないが、自分たちのステータスとは信じられないという目で見ている。


「いつ見てもこの、ギルドの恩恵ってやつはすごいですね」


 ゴルドが頭を掻きながら、呆れたような笑みを浮かべる。

 その気持ちはカイリにもわかる。

 この世界の冒険者たちのステータスは、基本は数値的に二桁だと思っていいらしい。

 レベル50を超えたプラチナクラスが大体オール99とのことだ。あとはどれかの数値が100を超える人間が少しだけいて、そのほとんどは引退でもしない限りは最上位のブラックストーンクラスになる。


(これはとんでもないことだよ。本当に)


 ギルドに所属するだけでおおよそシルバー上位からゴールド下位クラスの力を得ることになる。

 チートもいいところだ。

 しかしこういった恩恵はありがたく頂戴しておく。

 カイリが目指そうとしているのはホワイト企業ならぬホワイトギルドだ。

 理想があっても弱い者の声は聞き届けられない。


 そして最も難しいところは、そんなワーカーたちをまとめ、カイリの判断でホワイト──つまりみんなが働きやすくなるギルドに導いていかなくてはいけないということだ。

 かなりの自制心や決断力が問われる。

 上が暴走すれば、当然下もそれに巻き込まれることになるからだ。

 ワンマン社長に振り回されて結局案件がぽしゃった苦い経験は一度や二度ではない。

 気を引き締めなくてはいけない。


(神様……ごめんなさい転移プランと言ってたけど、これ本当に謝ってる? 私に負担大きくない?)


 そんなことを心で言っても神は応えてくれない。

 いくつかの条件が揃ったとき、ステータスの恩恵みたいに大いなる力を発揮するだけだ。

 まあ、やるべきことはわかっているからいいんだけれども。

 などとカイリが考えていると、ジノを残してパーティーは各々の部屋へと向かった。

 ジノだけがその場に立ち、残っている。


「どうしたの?」

「少し話、いいですか?」

「もちろんいいよ。えっと、こっちでどう?」

「はい」


 ジノを伴って、ギルドの受付前スペースにあるテーブルの一つにつく。

 座って正面にしたジノは、三週間前の荒んだ雰囲気が嘘のようだった。

 栄養をちゃんと取り、よく眠り、よく働いた彼は、クラスのことを脇に置けば、もういっぱしの冒険者だ。

 そんなジノが真面目な顔をしている。

 彼にとって重要な話なんだろうなとカイリは理解する。


「……俺たちはこのギルドのおかげで強くなりました」

「正直、相当ね」

「なので、許可がいただけるなら、もう少し強い敵を倒したいと考えています。このギルドの役に立てるように、ポイントが多く入る敵を」


 おお、すべてを諦めて生きるだけの、荒んだ目の青年はもういない。

 ジノは自らの意見を口に出すことができるようになっている。


「それはパーティーみんなの総意?」

「はい。全員で考えて、そうしたいと」

「うん、それならもちろん許可するよ。と、言いたいところだけど……」

「なにか問題が?」


 カイリは顎に手を当てて少し考える。

 問題があるといえばある。


「べトロワ、例の依頼、ジノたちに任せても大丈夫だよね?」


 受付の裏でゴブリン討伐の証を数えていたべトロワが顔を上げる。

 神獣でもある彼女がニッコリ微笑みを浮かべて、指で〇を作った。


「べトロワが大丈夫というなら、大丈夫かな」

「あの、その依頼って……」

「うん。もともとね、ゴブリンとかはうちのギルドでかなりの数討伐したから、今は依頼がないんだ。代わりにはぐれフォレストウルフ討伐の依頼が入ってる」

「フォレストウルフ……!」


 ジノの顔が強張る。

 それもそうだ。フォレストウルフは本来ブロンズ以上推奨のモンスター。

 しかもはぐれともなれば、その強さによってはシルバー以上推奨も有りうる。

 なぜか。

 それはフォレストウルフが本来は群れで行動する魔物だからだ。

 はぐれになったものは群れを追放されたか、自ら出て行ったかで強さも違う。

 仮に弱い個体だとしても、はぐれとなったフォレストウルフには厄介な能力が備わるのだ。


「遠吠えで仲間を呼ぶやつ、ですよね」

「そのとおり。従えられるのは自分より弱いヤツばかりだけどね。どれぐらいの数がいるかわからない。君たちは強くなったけど、油断できる相手じゃないのも確か」


 フォレストウルフは名の通り、森を住処にしている。

 平原のゴブリンたちは掃討したが、森の中にはどれだけの魔物がいるかわからない。

 たとえゴブリンクラスだとしてもその数が百匹を越えると当然危険度は増す。


 と、まあこれだけ考えを巡らせてみたけれど、正直に言ってほとんど心配はしていない。

 だってジノたちは、ステータスだけならすでにゴールドクラスに手が届いてるし。


「逆に言えば、油断しなければ充分に勝てる相手だと思ってる。たとえゴブリンを百匹従えていたとしてもね」

「はい」


 ジノが力強く頷く。

 よし、恐怖もなさそうだ。と、カイリは思う。


「これはもっと上のギルドが受ける案件だったんだけど、べトロワがもぎ取ってきたもの。だから失敗は許されないし、君たちの誰かが死んだり大怪我を負って引退、なんてことになってもいけない。依頼が達成されても意味がないからね。全員が元気に依頼達成して帰ってくること。できる?」

「もちろんです!」

「よし! じゃあ、明日さっそく出発して。必要な道具などは各自今日の内に相談して申請しておくこと。ああ、それから」


 腰を浮かしかけていたカイリは、座り直してジノをジッと見つめる。


「ギルドのFランク昇格の条件は依頼達成ポイント300と30件以上の依頼達成実績。そしてうちのポイントは現在270。さらにさらに、この依頼で得られるポイントは30。うちで受けた依頼としても30件目。ギルドのFランク昇格はこの依頼を成功させるかどうかにかかってる。できるね? ジノ」

「……はい! 必ず成功させます!」


 ジノに気負いではない気合が入る。

 カイリは微笑んだ。彼のようなタイプは頼られていると力を発揮する。

 特に常人ならプレッシャーがかかるような場面でも力に変えることができる。

 それはスタンと同じ資質だった。


ー・-・-・-・-


 五人組が、森の中を歩いていた。

 木々が鬱蒼と生い茂り、複雑な地形なのに、先頭の男はスイスイと歩を進める。

 それから少し開けた場所の前で立ち止まり、周囲を見渡す。


「このあたりか?」

「ああ、べトロワさんが用意してくれた地図通りなら」


 ジノの問いに、地図と周りの地形を照らし合わせつつ周囲を確認していたイングが応えた。

 偵察を務めるイングはこういった作業に長けていて、途中で魔物に出会って消耗しないようにルート選定もしている。


「まあ、あの人が用意してくれたものだから、まず間違いないと思うがな」


 言いつつ、イングは片手を横に広げて全員を静かにさせる。

 同時、パーティー全員が周囲に目を走らせ、魔物の気配を探る。

 昨日、カイリはああ言ったが、ジノたちに油断はない。

 自分たちが単なる運によって生かされ、そして今もまだ綱渡りであることに変わりはないと全員が理解している。


「……来る」


 ジノの言葉に呼応するように、十数メートル離れた場所に灰緑色の体毛に覆われた狼が現れ、遠吠えを上げる。

 途端、どこに隠れていたのか森のあちらこちらからゴブリンやコボルト、オークの群れが現れた。

 フォレストウルフとその配下だ。

 フォレストウルフは一匹。事前情報にあった討伐対象の『はぐれ』で間違いないだろう。


「討伐目標発見。雑魚は俺たちに任せろ。イング、ヤツを頼む」

「……了解だ、リーダー」


 イングが一対のナイフを取り出し、体勢を低くする。

 パーティーの中で一番素早いイングがはぐれを追い、その他はイングの援護。

 森へ来る前に打ち合わせていた通りだ。


「行くぞ!」

「おぉっ!」


 号令とともにイングが飛び出す。

 その後ろからジノたち四人も駆ける。


「ふんっ!」


 ゴルドのタワーシールドによる一撃でゴブリンとコボルトが吹っ飛ぶ。


「はっ!」


 ジノとナルシュカの攻撃でイングに迫っていたオークたちが怯む。


「ファイアボール!」


 はぐれの後ろから飛び出してきた護衛みたいなゴブリンソルジャーは、クラリのファイアボールで吹き飛んだ。

 ファイアボールの余韻を纏うようにして、イングがはぐれに飛び込んでいく。


「ヴォッ……」


 はぐれが駆けだしながら、もう一度遠吠えをかけようとした。

 けれどそれよりも速く、イングのナイフがはぐれの喉を切り裂いていた。

 フォレストウルフの速度すら、今のイングには勝てない。


 あっけないほど簡単に決着がついた。

 イングは己の腕と、握ったナイフを見る。

 これが、強くなるということだった。


「イング! 終わったなら手伝ってくれ!」

「……! 了解!」


 はぐれの死亡を確認したあと、イングは踵を返して残党の掃討へ向かう。

 それから数分。

 かなりの数がいたはずの魔物たちはすべて倒れ、森の中での戦闘はジノたちの完全勝利で終わった。


 五人は顔を見合わせて、誰からともなく突きだした拳をぶつけ合う。

 俺たちは強くなった。そしてこれからも強くなる。

 口に出さずとも、全員がそのことを理解し、思わず笑みがこぼれてしまうのだった。



「これでFランクギルド昇格だな」


 はぐれフォレストウルフの毛皮をはぎ取り、他の魔物討伐の証も回収したあとの帰り道だった。

 ジノの言葉に、ゴルド、イング、クラリ、ナルシュカの四人はそれぞれの表情で嬉しそうに頷く。

 蔑まされるだけだった自分たちが、ゴブリンやオークはもちろん、フォレストウルフまでも討伐した。

 しかも思っていたよりもあっさりと、あっけないほどに。


「これから、もっと強いヤツとも戦える。俺たち五人なら」

「うん、私たち五人なら!」


 ゴルドとクラリが言って、皆が笑みを浮かべた。

 しかし、喜ぶ五人の前に、何者かが立ちふさがる。

 男が三人。

 隠そうともしない剣呑な雰囲気に、ジノたちも怪訝な顔をして立ち止まる。


「よぉ、久しぶりだなぁ。万年ストーンクラスども」


 男たちは、ジノたちのことを知っていた。

 そしてジノたちも。


「あんたたちは……」

読んでいただきありがとうございます!

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では、また次回の派遣先で!

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