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依頼14.呪いの装備? よし、ぶっ壊そう

「呪いの装備……ですか?」


 カイリの言葉に確信が持てなくて、ジノが訊き返す。


「そう。呪いの装備。合ってるよね? べトロワ」

「はい。粗悪なものですが、それだけに下手な取り方をすると副作用が出る厄介なタイプです」

「5人全員がそのタイプ?」

「そうですね。ざっと鑑定をかけた感じだと……」

「え? あ、あの……」


 ジノを始め、パーティー全員が困惑する。

 5人が5人とも呪いを装備を?

 いったい何のことかわからず、ジノたちは己の身体を見る。

 そしてそれぞれがふと、自分の身体に装着された“戦闘以外”の装飾品に気づく。


「もしかして、これのこと……ですか?」


 ジノは己の首に巻かれた黒く薄い首輪を指さす。

 ゴルドは足輪。イングは腕輪。クラリは指輪。ナルシュカは耳飾り。

 それを見て、カイリがこくりと頷いた。


「身に覚えは?」


 ジノは仲間たちの顔を見回したあと、代表して口を開く。


「前のギルドの、ギルドマスターからもらったものです」

「……もらった?」


 カイリの眉がぴくりと動いた。


「はい。前のギルドがまだGランクだった頃に、先輩ワーカーたちがダンジョン攻略して、いくつか獲得したアイテムなんです。強くなれるかもしれない装飾品があると。けど、ダメでした。俺たちの誰も、強くはなれなかった。ステータスに変化がなかったし、それに……」

「自力では外せないと」

「……はい。ただ、それ以外に支障はなくて。当時は、俺たちはギルドマスターに目をかけてもらえたことが嬉しくて……」


 カイリはジッと5人の装飾品を眺めて、それからべトロワと話す。


「実験台?」

「その可能性は高いですね。ダンジョンなどの依頼があった場合、戦利品としてああいったアイテムは持ち帰っていいことになっています。けれど未鑑定品をそのまま使うのは危ないので、ギルドにいるストーンランクワーカーなどで試したりするのが、暗黙の了解というか」

「鑑定料ケチってやることがそれか~」


 カイリの口調は緩い感じだったが、ジノたちはなぜか背筋を走るものを感じてビクッと身体を震わせた。


「あ、あの……」


 と、クラリが口を開く。


「呪いって、これっていったい何なんですか? 私たち、ステータスにはなにもなかったと……」

「それは教会で見てもらったもの、ですよね? 常にステータスを見れる方はいませんね?」


 べトロワが答え、5人の顔を眺める。

 5人は互いの顔を見合わせたあと、静かに頷いた。


「教会で見るステータスは体力を蝕む呪い、毒に似た症状が出た場合のみ発見できるものです。というか正直な話、このギルド以外ではそのアイテムの危険性はほぼ確認できないと思います」


 そもそも、とべトロワは付け加える。


「それが、あなた方が弱いストーンクラスワーカーである理由ですよ」

「……え?」

「成長阻害。その呪いの装備の効果です」

「…………」


 ジノたちは上手く事態が飲み込めず、困惑した表情を見せる。

 聞いたことのない呪いなのだろう。べトロワの説明の仕方から、カイリもそれを悟った。


「この世界にはいるんです。生物の運命を弄んで愉しむ邪神が。彼らの一柱が作ったアイテムでしょうね。その装飾品はあなた方だけが?」

「……は、はい。俺たち、だけです。ちょうど五つ用意されていて」

「やっぱりさ、君たちこのギルドに入ってよ」


 我慢できず、カイリは口を挟んだ。


「さっきの模擬戦だって、いくらスタンが強いと言っても、君たちなら本当はもっとやれるはずなんだよ。パーティーとしての動きは悪くなかったし。でも、そいつがあるせいで君たちは本来の実力どころか成長さえできない。そんなのってさぁ……」


 カイリは前世の光景を思い出していた。

 能力はあったのに、先に入社したというだけの先輩に雑用ばかり押し付けられ、怒鳴られ、萎縮し、使えない扱いされて潰されていった新人たちを。

 あの「呪い」みたいだ。成長する機会を与えられず、烙印だけを押される。

 あのとき、自分が何の助けにもなれなかった後悔を、強く強く思い出していた。


「今はまだGランクギルドだけど、後悔はさせないと誓う。だからみんな、私たちのギルドに入ってください!」


 カイリは頭を下げた。

 彼らをこのまま、世の中に絶望したまま人生を歩かせたくない。

 ある意味これはカイリ個人の勝手な贖罪で、ワガママだ。


「どうして、そこまでしてくれるんですか? 俺たちは、ストーンクラスワーカーで、ギルドの役に立つかもわからないのに」

「ギルドの役に立つとかどうとかは関係ない。君たちを見過ごせない。ただ、それだけだよ」


 ジノたちは再び困惑する。

 これまでの人生で、5人は人からこんな風に接してもらえたことがなかった。

 しかも自分たちより立場が上の人間が頭を下げる光景など、想像したこともなかった。

 何も持たない自分たちには、それが当然だと思っていた。


「ジノくん、私、ここに入りたい」


 クラリが言った。


「行くあてがないっていうこともあるよ。騙されてるかもしれない。けど、今まで誰も見てくれなかった私たちのことを考えてくれたこの人を、信じたい」

「アタシも」


 続けてナルシュカが頷き、ゴルドもそれに続いた。


「ジノ、俺もここに入りたい。俺はこのガタイだ。だけど力も弱くて、ずっとバカにされ続けてきた。けど初めて、お前たち以外に俺を、俺たちをバカにしない人たちがいる。俺は、俺たちがバカにされない、ここで強くなりたい」

「ゴルド……イングも同じ気持ちか?」

「……ああ。俺たちに選択肢はない。けど、たとえ選択肢があっても、ここがいいと思うだろうよ」


 ジノは全員の意見を聞いてから、改めてカイリと向き合う。


「カイリさん……いや、ギルドマスター。俺たちこそ、ここでお世話になりたいです。呪いの装備なんてついてる厄介者だと思います。だけど、どうぞ、よろしくお願いします」


 ジノに続いて全員が頭を下げる。

 その瞬間、ジノたちの身体がほのかに輝いた。


「……え? な、なんだ?」

「あ、大丈夫。それはね、うちのギルドの特典だから」

「……とく、てん?」

「まあまあ。それよりも、入ってくれてありがとう。本当に歓迎するよ。それから、入ってくれたことでようやくできるよ」


 笑顔のカイリがジノの首を掴んだ。


「なっ……」

「静かに」


 驚くジノを黙らせて、カイリは頭に浮かんだ解呪の言葉を口にする。

 すると、手のひらからほのかな光が滲み出て、ジノの呪いの首輪がするりと外れる。

 そのままカイリは手で首輪を握り潰す。

 ぶじゅっ、と黒い煙が噴き出し、風に流されて首輪ごと消えていった。


「よし、成功」

「え? あ? え?」


 困惑するジノが、何年ぶりになるかわからない己の首に手を当てて驚いているのを横目に、カイリはクラリに近づく。

 そしてクラリの指輪、ナルシュカの耳飾り、イングの腕輪、ゴルドの足輪を順々に解呪していく。

 全員が、信じられないものを見る目で、カイリを見ていた。

 教会などで解呪は無理だと言われた品だ。

 金を積めばどこかでやってもらえる可能性はあったが、その金もなかった。

 それがこんなにあっさりと、簡単に解呪された。

 神業としか思えない行為だった。


「ステータスは……うん、ちゃんと恩恵も受けてる。レベルがそのままなのはちょっと残念だけど、君たちはこれから強くなれるよ」


 カイリが満足そうに頷くが、ジノたちはまだ事態についていけていない。


「あ、あの……どうして……いったい、なにが」

「あー……話せば長くなるから短くかいつまんで言うと、私にはとあるスキルがあるの。それはギルドに所属するワーカーの危険や脅威となるものを前にしたとき、信じられない力が発現するってやつ。君たちにとって、呪いはワーカーとして脅威だった。だから私にはそれが排除できたってわけ」


 まあ、とカイリは付け加える。


「それもこれも君たちがギルドに入ってくれたからできたこと。勇気を出して、私たちの手を取ってくれたからできたことだよ」


 それでも信じられないという顔をしながら、ジノたちは互いの顔を見合う。

 ある種、トレードマークのようになっていた装飾品がないのは不思議な感覚だが、それよりも身体が軽い気がした。

 常に付きまとい、もはや日常と化していた気だるさや身体の重さから解放されている。


「さて、諸君。君たちにはこのあと仕事をいくつかこなしてもらうよ。他のワーカーがやりたがらないけど、大事な仕事が待っている」


 カイリは全員の顔を見る。


「カイリギルドでの初仕事、魔物退治だ。派遣されてくれる?」


 ジノが、そしてそのあとに続いて全員が直立する。

 それから、誰からともなく声を揃えて発した。


「はいっ!」

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