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依頼13.ほら、やっぱりそっちが正解だ

「俺たちが苦手って……」

「そのままの意味だよ」


 困惑しっぱなしのジノたちに、カイリが続ける。


「全員、剣が苦手。つまり剣を上手く使いこなすことができないってこと。わかる? 苦手。はっきり言ってしまうとね、例えばあなたたちがどれだけ努力しても、剣の腕は良くて二流。それも二流の下。残念だけどね」

「そんな……というか、ギルドマスターは……鑑定が?」


 カイリはこくりと頷いたあと、改めて5人を見つめる。

 そして、べトロワに指示を出した。


「論より証拠かな。べトロワ、今から言う武器を用意して。模擬戦用のヤツでいい」

「かしこまりました」


 べトロワが素早く奥へ行くと、カイリが向き直る。


「ま、ということでさ、ちょっと付き合ってよ。うちに唯一在籍するワーカーと模擬戦してもらおう」

「えっと……」


「んー、あ、そうだ。お風呂のお礼ってことで。どう?」

「……そういうことなら」


 どんどん進んでいく話に当惑しながらも、ジノたちは案内されるまま、ギルドの裏庭に出た。

 裏庭にはすでにべトロワが待機していて、武器が五組用意されている。


「ジノはこっち、ゴルドはこれ、イングはこっちで、クラリはこれで、ナルシュカはこれ」


 カイリが武器の前を歩き、一つずつ指定していく。


「これが、俺たちの適性武器……なんですか?」

「そうだよ」


 ジノの前には穂先を潰された槍。

 ゴルドの前には樫の棒と大盾。

 イングの前には刃引きされたナイフが二本。

 クラリの前には樫の杖。

 ナルシュカの前には弓と殺傷能力のない矢が十本。


 すべてドワーフ・エルゲンの村で正規品を購入するときに、同時に作ってもらった模擬戦用の武器だった。

 さっそく使い道があって、カイリはこっそりと笑みを浮かべた。


「槍なんて、使わせてもらったことがない」

「大丈夫だよ。すぐに馴染む」


 武器を手にしても当惑した表情でカイリを見つめる5人。

 そのとき、裏庭にもう一人の人物が現れた。


「あのー、ギルマス。呼びましたか?」


 スタンだ。

 金髪、碧眼の好青年。以前のような疲弊した、陰鬱な雰囲気はない。

 Dクラスの鉄剣に丸盾ラウンドシールド、軽装鎧と装備も様になっている。


「うん。スタン、待ってたよ」


 言って、カイリはスタンを手で示す。


「皆さんにはこれから、このスタンと模擬戦をしてもらいます」

「えぇ……?」


 5人が困惑する。

 それもそうだ。見た目だけなら少なくともブロンズ以上、下手したらシルバークラスのワーカー相手に模擬戦など、一方的に打ちのめされる未来しか見えない。


「大丈夫。スタンは君たちと同じストーンランクワーカーだから」

「……は?」


 5人の表情は、続いて驚きに塗り替えられた。

 こんなにも強そうで装備もキッチリ揃えている人が、自分たちと同じランク帯とは、とてもじゃないが信じられなかった。

 そもそも、こんなストーンランクワーカーはこの世界の常識にはいない。


「この人たちが、新しいワーカーさんですか?」

「うん。ということでさ、スタンには事後承諾で悪いんだけど、ちょっと付き合ってもらっていい?」

「もちろん。ギルマスの頼みなら喜んで」


 ニコッと笑みを浮かべるスタン。

 その余裕な態度も、ジノたちが知るストーンランクワーカーのモノではなかった。


「べトロワ、スタンの分の武器は……」


 言いかけて、べトロワがスタンに模擬戦用の木剣を渡しているのを見て言葉を切る。


「あなたが優秀で助かる」

「恐縮です」


 べトロワもニッコリ笑い、スカートの裾を摘まんでおどけて見せる。


「さて、じゃあ始めようか。スタンはストーンランクワーカーだけど、強さ的にはゴブリンオーガだと思ってくれていいよ。だから、遠慮せず全力でね」


 ジノたちが息を飲む。

 ゴブリンオーガは普通、最低でもブロンズランク以上が相手にする魔物だ。

 レベル10相当。

 普通のストーンランクワーカーがソロで相対したら、逃げるしかない相手。


「よろしくお願いします」


 言ったあと、スタンの顔から笑みが消える。

 代わりに気迫のような、圧力がジノたちを襲った。

 スタンが足を一歩踏み出す。

 ジノたちは思わず後ずさりした。


「君たちは、自分を無駄にするの?」

「……ッ」


 カイリの放った言葉に、ジノたちの足が止まる。

 どう足掻いても、どん底。

 逃げる場所は、どこにもなかった。


 オークやゴブリンですらやっとの5人だ。

 しかも初めて扱う武器。

 それでも、ジノは気づく。これが初めて自分たちで選べる戦いだと。


 これまで、選択肢などはなかった。

 言われたことをこなす以外を、許されることなどなかった。

 戦うのか、逃げるのか。

 選択肢を、ジノたちは持っていた。


「ゴルド! 前に!」

「お、おう!」


 ジノの声に、ビクッと反応してゴルドが前進。

 四人を護るため、大盾を構える。


「イング、俺たちで隙を作る。お前はあの人の後ろに回り込め」

「わかった」


 イングがナイフ二本を構えて、ゆっくり円を描くように移動を開始。


「クラリ、ナルシュカ、後方へ。ナルシュカは俺たちの行動の間に矢を打ってくれ。足止めしたい」

「私は、どうすればいい?」


 クラリが聞く。

 しかし、ジノはすぐに答えられなかった。

 樫の杖は一応殴れはするものの、そんなに威力はない。

 どちらかと言えば魔法使いの武器だが、クラリが魔法を使えるなんて、聞いたこともなかった。


「クラリはヒーラーだよ。回復師」

「えっ!?」


 四人に見つめられ、クラリ本人も困惑する。

 自分が魔法使いの一種、ヒーラーだと初めて知ったからだ。

 当然、カイリの言葉を信じるなら、だが。


「なら、怪我をしたヤツを癒してくれ……って、できるのか?」

「……わからない」


 首を横に振るクラリ。


「相談は終わりました?」


 しかし話を続ける余裕はない。

 ゴブリンオーガ相当のワーカー、スタンが一歩一歩、距離を詰めてきた。


「クラリは待機。ゴルドは防御。他はさっきの通りに! 行くぞ!」


 ジノは言って、前に飛び出す。

 剣よりもリーチが長い槍を突き出し、先制攻撃を加える。


 ボッ、と空気を裂いて潰れた穂先がスタンを襲う。


「……え?」


 驚いたのは、突きを繰り出したほうのジノだった。

 攻撃は盾で防がれたものの、その威力は、これまで使用していた剣の比ではなかった。


「あぶない!」


 手に驚くほど馴染み、全身を駆け巡る衝撃に一瞬呆けてしまったジノに、スタンの攻撃が迫っていた。


 その行く手を阻んだのは大盾を構えたゴルドだ。

 ジノの前に出て、スタンの木剣を見事に受け止める。


 追撃が来るかと思ったが、スタンは後ろに飛びのく。

 直後、ナルシュカの放った矢がスタンの居た場所に突き刺さっていた。


「ふっ!」


 飛びのいたスタンが着地と同時、身体を回転させて剣を真後ろに振る。


「ぐっ……!?」


 鈍い音と共に、背後から奇襲をかけたイングの呻きがこぼれた。

 振り下ろされた二本のナイフが剣に受け止められ、逆に押し返される。


 しかし力に抗わず後ろに飛びのいたイングは、すぐに体勢を整えて再び武器を構える。


 スタンの背後にはジノたちがいる。

 このまま行けばどこかでチャンスを作れるはず。


 そう思ったところで、カイリが手のひらをパンッと叩いた。


「はい、そこまで」


 困惑したのはジノたちだけだ。

 スタンはすぐにストーンランクワーカーとは思えないほどの気迫を解く。

 その圧力が消えたことで、ジノたちも緊張が解けた。

 そこでようやく、自分たちの身体に思った以上の力が入っていることに気づかされた。


「わかった? 君たちが、剣苦手だってこと」

「……はい」


 ジノが答えた。

 クラリ以外が、それぞれ自分が握った武器を見つめる。

 ショートソードを握って戦っていたときとは、雲泥の差。

 例えばこの模擬戦用の武器だとしても、剣で戦っていたころより、はるかに楽に敵を倒せるようになるだろう。


 そう確信させるほど、それぞれの手に武器はしっくりと馴染んでいた。


「クラリはあとでべトロワから魔法の使い方を教わってもらうから、そのつもりでね」

「は、はい」

「あー、もちろん。うちのギルドに入るなら、だけど」


 ジノたちはそこでハッとする。

 そういえば、まだこのギルドのワーカーではないのだ。


「それともう一つ、気になることがあるんだけど」


 カイリが人差し指をピッと顔の前で立てる。


「君たちが弱かった原因って武器もそうなんだけど……その、呪いの装飾品のせい、だよね?」

「……え?」


 適性武器に続いて、覚えのない『呪い』という言葉に、五人はまた、困惑しながら顔を見合わせるのだった。

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