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依頼10.スタンというワーカーと特典プラン

 俺はスタン。

 カイリ派遣ギルドの一番最初のワーカーだ。


 俺は、幸運だったと思う。

 このギルドに入ることができなかったら、きっと田舎に帰るか、この街で底辺ワーカーとしてこき使われていたことだろう。


 俺の育った村は貧乏で、出稼ぎのためにこの街に出てきた。


 実入りのいい冒険者ギルドで働くにはワーカーとしての資格が必要だと知っていたから、俺はワーカー養成所へ入った。


 しかしそこはほぼすべてを自前で用意しなくてはならず、入所金だけで一文無しだった俺は詰んだ。


 最初の訓練では一人だけ素手。

 そんな俺にも容赦なく武器相手の訓練は課せられ、ボコボコにされた。


 養成所の人間が働ける飲食店でバイトをしてようやく買えた武器と防具も、驚くほどの粗悪品だった。


 生活費と仕送りを抜けば、それしか買えなかったというのもある。


 それでもやっとこれで普通の訓練ができる。と思っていたが、現実は厳しい。もうすでに実地訓練に入った連中も多く、粗悪品の武具しかない俺では行かせられないと、養成所で基礎訓練ばかりの日々。


 さらには他の連中の武具を磨かされ、報酬としてバイト代の1/10の報酬をもらった。


 屈辱的だった。惨めだった。


 それでもワーカーになればなんとかなる。なんとかする。

 弟や妹、そして父や母を楽にするため、必死に耐えて食らいついた。


 そうして養成所卒業までにした実地訓練は三回だけだった。

 何度連れていってくれと頼んでもダメ。


 仕方なしに荷物持ちとしてなら。

 そういう条件で、俺は三回の実地訓練を行った。


 訓練は、ひどい有様だった。

 俺より良い武器を使っている連中はゴブリン1体に苦戦していた。

 それを5人で取り囲んで袋叩きにする。

 強いモンスターは講師が倒していた。


 俺は一人でゴブリンを1体弱らせた。

 とどめを刺したのは別のヤツだったが、ここまで弱らせたことは評価されると思った。


 けれども評価されることはなく、全部、訓練パーティーの中で一番良い武器を持っていたワーカー志望の手柄になった。


 そんな粗悪品でまともにダメージを与えられるわけがない。


 それがみんなの総意だった。


 腐りたくなんてなかったが、心は何度も折れそうになった。


 武器さえあれば、お金さえあれば。何度そう思ったかわからない。


 けれど結果は覆らなかった。


 成績不良という烙印を押され、お情けでストーンクラスワーカーとして卒業。

 ただ、入所金と諸々の金を搾取されただけだった。


 もちろんこんな俺を雇ってくれるギルドなどなかった。

 田舎に帰ろうか。と思ったが、このまま帰ることはできない。


 そしてギリギリまで粘って、粘って、そうしてすべてを失ったときだ。

 広場で途方に暮れた俺に、ギルドマスターが声をかけてくれた。


 胡散臭かった。

 疑っていた。


 でもすぐに、それが間違いだったと気づいた。

 あのとき、やさぐれてついて行かなかったら、今の俺はいない。


 自分にソルジャー適性があることにも気づかず、自分がこんなにも戦えることを知らずに、田舎で腐っていたことだろう。


「さぁ、来い!」


 ガンッと剣の腹で盾を叩き、ゴブリンたちの注目を集める。

 全部で10体。中には強そうな個体もいる。

 恐ろしい顔つきをしていた。


 けれど怯んでいられない。

 今日からは一人。任せてくれたギルドマスターたちの信頼に応えたい。


「ギャギャギャギャー!」


 突進してくるゴブリンたちにこちらも斬りかかる。


「グギャーッ!」


 1体、2体、3体と順調に斬り伏せる。

 今日も武器の切れ味が良く、ゴブリンの棍棒を防御する盾も割れる不安はない。


 こんな良い武具をストーンクラスの俺に使わせてくれるなんて、本当にギルドマスターはすごい。


 普通は貸し出したりしない。自分がギルドマスターだったら、絶対にしなかっただろう。


 だからこそ、結果で応えたいと思った。

 これを使うに相応しいワーカーになりたいと強く願う。


「ギャギャッ!?」

「ギャーッ!」


 6体、7体のゴブリンは棍棒ごと斬り伏せた。


 改めて思うが、こんな芸当が出来る剣を普通ストーンクラスに渡したりするか?

 今さらながら、正直ちょっとびっくりしている。


「ゴワァッ!!」


 剣の切れ味に驚いていると、残った3体が威嚇してきた。

 初日、ギルドマスターが倒したゴブリンと似ている。

 ゴブリンリーダーと呼ばれる個体だ。


 俺は慎重に剣を構える。

 ギルドマスターによる診断で、俺のレベルは7だということがわかっている。


 油断さえしなければ負けない。

 裏を返せば、気を抜けば危ういということだ。


「来いッ!」

「ゴワァッ!!」


 3体が同時に突進してくる。

 振り上げた棍棒は大きく、振り下ろしは鋭い。


 先ほど相手にしていた奴らのときよりも、大きくバックステップして避ける。


 そしてすぐに突進。

 地面を叩いた棍棒を持ち上げようとしたゴブリンリーダーの腹を蹴る。


「ゴギャッ!?」


 吹っ飛びはしなかったが、後ろに軽くのけ反る。

 良い間合いになった。


「ふんっ!」


 剣を水平に振る。

 ゴブリンの頭と胴体がスパンッと別れた。


 仲間の死に驚くゴブリンリーダーの1体に、死体を蹴りつける。


「ギャギャッ!?」


 そのまま剣を突き出して、死体ごとゴブリンリーダーを突き刺す。


「ゴギャーッ!」


 心臓を貫いた一撃で絶命。

 剣を抜き、最後に残った1体に斬りかかる。


「ゴワッ!!」


 真上からの斬り下ろしに、太い棍棒を横に構えて防御する。

 ズッ──と、剣が棍棒に食い込む。


「はぁあああッ!」

「ゴギャッ、ギャッ……ギャーッ!!」


 俺が力を込めると、棍棒が真っ二つに斬れた。

 そのままの勢いで、ゴブリンも真っ二つに斬り捨てる。


「ギャッ……ゴッ……」


 膝から崩れ落ち、べちゃりと倒れる。


「はぁ……はぁ……」


 俺は荒く呼吸をして、ゴブリンの腰布をはぎ取って剣についた血を拭った。


 やがて足から力が抜け、地面にへたり込む。

 それから空を見上げ、ようやく自分が勝ったんだと実感が湧いてきた。


「……シッ!」


 拳を握り、静かに勝利を喜ぶ。

 一人でもゴブリンの群れを相手にできた。


 それはワーカーにとっては小さな一歩かもしれないが、俺にとっては大きな一歩だった。


 あとはゴブリンたちの討伐の証を取って帰るだけだ。

 俺は支給された水を飲みながら、達成感に小さな息を吐いた。


ーーーー


 その日、スタンはレベル10になった。


 本人は気づいていないが、ゴブリンの群れを倒せるストーンクラスワーカーなどまず存在しない。

 べトロワが言っていることなので、まず間違いない。


 それどころかブロンズクラスでもやっとの戦闘を、彼は危なげなくこなしてしまったのだ。


 それは偉業といってもいい行動だったが、本人とギルドマスターはまったく気づいていなかった。


 王国の依頼あっせん所も、Gランクギルドのストーンクラスワーカーのしたことなど、気には留めない。


 なのでその偉業が世に出るにはもう少しだけ時間がかかることになる。


 そして所属ワーカーのレベルが10になったことで、カイリ派遣ギルドに一つの恩恵がもたらされた。


 マジックアイテム:無限収納ボックスが備え付けられたのだ。

 神による、特定条件を達したときに付与される特典だった。


ーーーー


「お、レベル10の特典が発生したのか。ずいぶんと時間がかかったな。でもまあ、僕の恩恵はそれなりに……って、え? ストーンクラス?」


 忙しそうにしていた神の一柱が、特典付与の合図音で顔を上げたあと、困惑した表情で世界を眺める。


「ストーンクラスってそもそもモンスターと戦うことすら難しいはずなのに? あれ? カイリさんと遭遇するはずだったプラチナクラスがいなくなってる?? なっ!? ハニートラップに引っかかって死んだ?!? ゴールドクラスも違うギルドに……。ひえっ! こっちのプラチナクラスも冒険者引退してる!?」


 想定外のことに、神は頭を抱える。


「人材と財力で一気にAランクギルドになってブラックギルドを一掃してもらおうと思っていたのに、どこで間違ったんだ? んー今からじゃ大規模な介入は無理だしなー」

「神様、サボってないで仕事してください」


 神が唸っていると、秘書らしき女性にどやされる。


「わ、分かってるよ。ちゃんとするから……とりあえず、ギルドに所属したワーカーたちに特典を付与するようにしておこう。これぐらいなら大丈夫だ」


 言って、指をパチンと鳴らす。

 すると、カイリ派遣ギルドが光を帯び、すぐに消えた。


「これで少しでも助けになるといいんだけど……」


 そう言って神は、再び書類仕事に取り掛かるのだった。


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