旭日 夢愛(アサヒ ユウ)
開いてくださりありがとうございます。
読み終わりましたら感想をくださるとモチベになります。
今回は新しい子、夢愛のお話です。
夢愛視点です。
「んでさ、先生がスカートがメイクがってうるさくて!」
「マジだるいよねー。てか2組やばくね?」
「あー、人身事故のやつー?」
「そう! しかも夜天の親友も昨日事故にあったらしいよ!」
「やば! 夢愛のクラス大丈夫なん?」
「夢愛~?」
「……あ、ごめん聞いてなかった!」
「ちょっと大丈夫~? 顔色悪いし今日はもう帰りな!」
「ごめんね!ありがと!」
―――――――――――――――
「なぁ夜天、何で先に死んじまったんだよ」
あたしは石となった夜天を見つめた。
当然返事はない。
「死ぬときは一緒じゃなかったのかよ」
どれだけ待ってみても、やはり返事はなかった。
あたしは立ち上がり花を飾ると、その場を離れた。
「また、来るからな」
振り返りそれだけを告げる。
巫夜天はこの世を去った。
それも事故ではない自殺で。
あいつが辛そうにしてたとこなんて誰も見たことはない。
なのにあいつは自ら命を絶った。
人は誰しも、誰にも言えない秘密を持っている。
私も"持っていた"。
あいつと出会うまでは。
(くっそ、お前はあたしを信用してなかったのかよ……)
道端に落ちていた缶を蹴る。
缶は勢いよく宙へ飛んだと思ったら、そのまま側溝の中に落ちてしまった。
まるであたしのようだ。
1人で舞い上がっていた。勘違いをしたまま。
でも今はどうだろうか。
夜天がいなくなって、また辛い日々に戻る恐怖と何も気付けなかった後悔、頼られていなかったという絶望…最悪だ。
地面が世の中の普通とするなら側溝は言わなくても分かるだろう。
あたしと同じじゃないか。
側溝に落ちた缶を見て、鼻で笑った。
馬鹿馬鹿しい。
缶の動きと自分の気持ちをリンクさせるなんて。
何しているんだと自分を笑った。
家に帰ると誰もいなかった。
今日は親が帰ってくるのが遅い。
リビングのソファーに座りテレビを眺めながら夜天との日々を思い出していた。
夜天との思い出はどれも楽しいものばかりだった。
あたしといるときの夜天はいつも笑っていた。
子供のようにはしゃいで、これは?あれは?と目を輝かせながら聞いてくる。
だからか頼られていると錯覚していた。
でも現実は違った。
肝心なときに助けを求められないのに…とんだ勘違いをしていたようだ。
ずっと救われていたのはあたしだった。
それにさえ気付かないから駄目なのだ。
夜天を追い詰めたのはあたしだったのかもしれない。
(出会ったときからずっとあたしを助けてくれてたんだな……)
今気付いたってもう遅い。
時間が戻ることはないから。
暗い気持ちでいるとメールが届いた。
さっきまでいた友達からだった。
"明日駅前のカルボナーラを食べに行こう"という内容だった。
(カルボナーラか……)
そういえば夜天と出会ったときもカルボナーラを食べた気がする。
―――――――――――――――
あれは去年の6月だった。
天気予報は1日晴れの予報だった。
もちろん傘を学校に持ってきてる人など1人もいない。
が放課後、雷がなるほどの大雨になった。
流石に友達も親に迎えを頼んでいた。
「最悪……」
あたしに迎えなんて来るわけもなく、歩いて駅に向かっていた。
傘をさす意味もないくらいびちょびちょだ。
(やばい、流石にメイクが……)
あたしは毎日メイクをして学校に行っている。
校則違反だが、メイクを落とすわけにはいかないのだ。
一旦雨宿りしようとスーパーに入ったときだ。
「あれ? 夢愛ちゃん?」
後ろからどこかで聞き覚えのある声がした。
振り返るとそこにはクラスメイトがいた。
―――――――――――――――
「ちょっと! 大丈夫だっt……!!」
「駄目!! 風邪引くでしょ!!」
あの後、あたしはこのクラスメイト……夜天とか言うやつの家に連れていかれた。
びちょびちょなあたしを心配してのことだった。
お風呂に入るのを嫌がるあたしを無理矢理入れようとしているところである。
「はぁ……」
結果をいうとお風呂に入ってしまった。
これで足とかのメイクもすべて落ちた。
最悪だ。誰にも見られたくないのに。
髪を乾かし、借りた服を着て洗面所を出ると夜天は駆け寄ってきた。
「おかえりなさ……」
途中まで言いかけて夜天は固まった。
そりゃそうだ。
あたしの身体には痣や傷がたくさんある。
だからメイクで隠していたのに。
「だから嫌って言ったじゃん……」
返事は返ってこない。
沈黙が流れた。
雨の音だけがあたりに響き渡る。
あたしは帰ろうと顔をあげると、そこには目に涙を溜めたクラスメイトがいた。
夜天の涙は今にも溢れだしそうだった。
あたしは戸惑った。
あたしの秘密を知ったら、皆に差別されたりからかわれたりすると思っていた。
でも目の前にいる人は違った。
あたしのこの身体を見て泣きそうになっているのだ。
慌てたあたしはとりあえずハンカチを渡した。
「ごめんね、何も出来なくてごめんね……」
と夜天は何回も言っていた。
落ち着かせようと背中をさすっていると、既に6時になっていた。もう外は暗い。
「辛いのは夢愛ちゃんなのにごめんね……。お詫び、というか、とりあえず今から夕飯をご馳走するよ!!」
あたしの返事も聞かず夜天はキッチンへ向かう。
「あっ……。えっと、親に怒られない……?」
料理を始めてから気付いたのか恐る恐る聞いてくる。
「うん、親はあたしのこと何とも思ってないから帰るのが遅くても大丈夫だよ」
「そっか……」
無理に微笑んでるのがすぐに分かった。
声が学校にいるときほど明るくないからだ。
また沈黙が流れた。
お互い何て声をかければいいか分からないのだろう。
あたしは悩んだ。
家のことを言うべきだろうか?
高校生の女子なんて未熟だ。
何処で情報が漏れるかなんて分からない。
自分のことしか考えてないような奴らしかいない。
あたしが口を開こうとしたときだった。
「お、おまたせ……」
振り向くと気まずそうな笑顔で料理を運んでくる夜天がいた。
だが、さっきまでの気まずさとは何か違った。
その理由は料理がテーブルに置かれた瞬間分かった。
「何これ……?」
目の前の器には白い海に浮かんだ黄色い島があった。
「か、カルボナーラだよ、!!」
声は明るいが笑顔がぎこちない。
あたしも苦笑いをした。
(せ、せっかく作ってくれたんだし1口くらい食べないとよね。見た目が悪いだけかもだし……)
そう自分に言い聞かせパスタを絡ませた。
「ん……?」
目の前の光景を理解するのに時間がかかった。
フォークに島みたいなパスタがすべてくっついてきたのだ。
しばらく目をぱちくりしていると隣から唸り声がした。
「うぅぅ……恥ずかしい……」
どうやら料理が苦手らしい。
まあ苦手でもこうはならないと思うけれど。
苦笑いしながら慰めているとさっきまでの気まずさはなくなっていた。
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(そのあとに家のことを話したんだっけな)
あの時、夜天はあたしの話をひとつひとつ真剣に聞いてくれた。
ときどき涙目になりながらもたくさん褒めてくれた。
嬉しかった。
本当はこうやって誰かに話を聞いて欲しかった。
褒められたかった。愛が欲しかった。
(夜天はもういないのか……)
これでもうあたしの"心"の居場所はない。
友達はいても本当の自分はそこにはいない。
(なあ、夜天あたしも自殺したかった)
夜天が生きていたらとても怒られるだろう。
もしくは夜天が泣き崩れそうだ。
でもここにはいない。
なら会いに行ってもいいのではないだろうか?
今日は親が帰ってくるのが遅い。
それに遅いと言うことはストレスが溜まっているはず。
つまり今日は夜中まで殴られ、酷い言葉の雨を浴びせられるだろう。
あたしは決心した。
今日死ぬしかない。
読んでくださりありがとうございました。
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