フェリーチェ人形
開いてくださりありがとうございます。
読み終わりましたら感想をくださるとモチベになります。
今回は雫視点です。
お話はクライマックスへ。
「あ、れ……、?」
目を覚ますと列車に乗っていた。
(さっきまで何してたんだっけ?)
記憶が曖昧で思い出せない。
ただこの列車は心地よかった。
窓の外には綺麗な緑が広がっていて、眩しいほどの太陽が私の横顔を照らしている。
蝉の音も五月蝿すぎなくて心地よかった。
(ずっとここに居たいな……)
まるで抱きしめられてるかのような温かさと優しさがここにはある気がした。
私は輝く外を眺めていた。
「お嬢さん。向い側に座ってもいいかな?」
囁くような優しい声に振り向くと、そこには整った顔の青年がいた。
雪のように白く綺麗な肌。太陽のように明るい瞳。そしてさらさらの髪。
この世に生きる人間とは思えないほどの美しさに目を疑ってしまった。
「そんなに見つめられてしまうと恥ずかしいな」
「あ、ごめんなさい!! どうぞ!!」
私は慌てて返事をする。
困った顔も優しく美しかった。
動作ひとつひとつが美しくて見入ってしまう。
そのせいで忘れかけていた。
「あっ、そういえば」
「とても美しく寂しいところだよ」
「え?」
私が何を言うのかを知っていたかのように"彼"は言った。
美しく寂しいところとはどんなところなのだろうか?
彼の表情は変わらず優しく美しい。
「君は何しにこの列車に?」
「えっと、実は気付いたら乗っていて……」
「親から逃げてきたのかい?」
「親から……」
そうだ。その一言で思い出した。
買い出しから帰る途中車に……。
私は下を向いた。
「ふふ、大丈夫だよ」
「何がですか?」
「君はいつも頑張っている。だから君は生きなければならない絶対にね」
私が生きなければならない?
この人は何を言っているのだろうか。
家ではどれほど頑張っても愛されることはないし、学校では友達と呼べるほどの子はいない。
唯一の親友である夜天も、もういない。
私は親友を守ることすら出来なかった。
こんな人間が生きてる必要なんてない。
そもそも私は生きるのが辛い。
もうこんな世界で生きたくない!!
私はただ下を見ることしか出来なかった。
相手もきっと気まずくて何も言えないのだろう。
あたりに沈黙が流れた。が、その沈黙はすぐに消え去った。
先程と変わらない優しい声が暗闇を照らしていた。
「きっと君は僕が想像する何倍も辛い経験をしてきたんだと思うよ。僕が何時間考えたって君を理解することは出来ないだろう」
「…………」
「でもね、きっと君を大切にしていた人は君に死んで欲しいと思っていない」
「そんなの!!」
「ああ、分からないよ」
「っ!!」
「でもその人は少なからず君を愛しているさ」
愛している。という言葉が恋愛以外でも使うのならば私だって夜天を愛している。
妹のことだってお父さんだって、本当は愛したい。
けれどもう私には無理なんだよ。
もう生きていても愛されることなんて……。
「大丈夫。僕の言葉を信じて欲しい」
「…………」
「これを君にあげるよ。可愛いお人形だろう?」
顔をあげるとそこには片目だけ包帯を巻いているうさぎのお人形があった。
「これは……!!」
「私とのお揃いだよ」
「え?」
目の前には眩しいくらいに輝く夜天の笑顔があった。
「夜天……!!」
私は瞳から大粒の涙を流しながら"彼女"に抱きつこうとした。
しかし、彼女は手を握りそれを止めた。
「夜天どうして!!」
「あなたはここに居るべき存在ではない」
優しく切ない顔で囁くように言った。
「だからはやく、次の駅で下りて?」
その言葉と同時に列車は止まった。
右側の扉が開く。
「どうして!! 夜天!! やだ……!!」
「ごめんね、雫。愛してるよ……」
そう言った夜天の髪は先程までとは違い短くなっていた。
あれ?青年さん……、?
「もしかして、あなたが夜天なのね!!」
私は手を伸ばした。
が届かず、光の中へ消えていこうとする。
夜天は優しく微笑んで言った。
「違うよ。僕の名はリヒトだ。さよなら愛しの君」
「待って……!!」
そう叫んだが列車の扉は閉じられてしまった。
―――――――――――――――
「ん……、?」
目を開くと白い天井が広がっていた。
「あ、れ……?」
「お姉ちゃん!!」
涙をいっぱいに溜めた妹が私を覗き込む。
「私、は何を……?」
「お姉ちゃん事故にあって、ずっと起きなかったんだよ!?」
「心配かけてごめんなさ……」
「謝らなくていい。謝るのは私たちの方よ」
声のする方を向くと涙目のお義母さんがいた。
「お義母さん……?」
「今までごめんなさい。あなたは何もしていないのに差別をしてしまって、辛かったわよね」
「ううん、大丈夫だよ」
急なお義母さんの言葉を信じることは出来なかった。
ただ相手を責めるのは違うと思った。
「あのね、お姉ちゃん。お姉ちゃんが買い出しに行ったあと私、ママとパパを叱ったの。いい加減にしてって!!」
え……?陽葵は私を心配して……。
陽葵の笑顔は眩しかった。
私は瞳から涙がこぼれ落ちた。
「雫ごめんな……。父さんたち……」
お父さんは悔やんだ顔で言う。
「ううん、いいよ。でも本当、に……?」
私はまだ信じることが出来なかった。
こんな都合の良い話があるだろうか?
もしかしたら夢かもしれない。
もしかしたら天国かもしれない。
私は弱い力で睨み付けた。
「ああ、やっと目が覚めたよ」
「お姉ちゃん、もっと早く助けられなくてごめんね」
そう言い握られた手はとても温かい。
ああ、本当なんだ。
「そういえば、お姉ちゃんが買ってきたものほとんど駄目になっちゃったけれどこれだけ助かったよ」
陽葵から渡されたものは見覚えのあるものだった。
「これは……!!」
それは片目だけ包帯を巻いているうさぎのお人形だった。
(そっか、夜天が助けてくれたんだね……)
私はその人形を胸にあて、ありがとうと呟いた。
(そういえば夜天、この人形に名前付けてたな……)
確か名前は……そう。フェリーチェ。
読んでくださりありがとうございました。
誤字がありましたらご報告宜しくお願い致します。
感想もくださると幸いです。
雫のお話完結です。
次回、新しい子のお話です。




