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08 それぞれの魔力

目に留めて頂き、ありがとうございます!

楽しんで頂けたら、と思っています。


時間軸がまた分かりにくいかもしれません。

ご注意ください。


本日3本目の投稿になります。

1386年 収穫月(10月)


入学式の翌日、通常の授業ではなく、全校生徒対象の魔力測定が行われた。

ルキウス様が休む間もなく、関わっていた件の魔法具だろうか…と当たりをつける。





学園内にある礼拝堂の中で列を作り、祭壇奥の一室へと順に1人ずつ通されていく。

家格が高い家から計測していくみたいだ。


公爵家である、エリーズが前の方に見えた。

シルヴィは伯爵家だが、辺境伯は侯爵家と同等以上である為、ロクサーヌは彼女の後ろに待機していた。




礼拝堂を入って右側通路が祭壇へと向かう列、左側が計測を終え戻っていく通路となっていた。

奥からエリーズが歩いてきた。シルヴィとロクサーヌを確認すると、こちらにやって来た。



「あっという間に終わりましたわ、手を(かざ)すだけですの」



2人が尋ねたかった、簡潔な回答だった。




「お2人が終わったら、属性が何だったか教え合いましょ」


そう言って教室へと戻っていった。




「簡単に終わるのなら良かったわ。大体属性なんて皆分かってるはずなのに、今更…という感じもあるわよね」



シルヴィに概ね同意だとばかりに、ロクサーヌが頷く。




「皆様、学園に上がる前には、家庭教師を付けて魔力操作を身につけられますものね」



シルヴィとロクサーヌだけでなく、近くで待機していた数人が、うんうんと頷いていた。





◇◇◇





「じゃぁ、行ってくるわね」


右手を少し上げてシルヴィが部屋に入って行った。特に物音もせず、静かに時間が過ぎていく。




「次の方どうぞ」


無機質な教員の声で、ロクサーヌは歩を進めた。





扉を抜けると、意匠をこらした木製のテーブルが部屋の真ん中に配置してあり、その上には、2~3歳の子どもの背丈程の、大きなクリスタルが鎮座していた。


上から見ると六角形をしていて、底面の方がやや大きくなっている、六角柱型である。その周りは繊細な黄金が鳥籠のように囲んでいた。


よく見ると、無色透明のクリスタルは籠の中で浮いている様だ。



―――マザークリスタルに似ているわ。



最近、めっきり回数が減ってしまった、マザークリスタルに思いを()せる。




「こちらで、利き手をクリスタルの真上に(かざ)してください」




扉を開けてくれた教員が、抑揚のない声で促す。




「わかりました」


クリスタルを正面に見ながら右手を前に出す。クリアだったクリスタルが変化し、夜空のような濃紺一色になった。



「お噂は聞いておりましたが、こうして見ると…やはり驚きますな…。

ドラクロワ嬢、属性は闇で命…生命になります。六角形隅々まで色が変わっておりますので、魔力量も最高です」


これまで感情を見せなかった教師が、少し怯えたように答える。



「そう、ですか…。ありがとうぞんじます」




こうして測定を終え、自身の教室へと戻った。




◇◇◇




教室では友人2人が待ち構えていた。




「どうでしたの?」「どうだった?」




エリとシルヴィが同時に口を開く。




「お2人もご存じの通りでしたわ。あぁ、魔力量は多いみたいです」




「私も何か他の事が分かるかと思ったけど、"光の土属性、支援系植物魔法です。

魔力は四隅が変色しておりますので並以上です"しか言われなかったわ。知ってるわって感じ」




「私だって"光の火属性、浄化系陽炎(かげろう)魔法です。魔力は5つの隅まで変色したのでかなりです"と。

お父様から言われた事と、何一つ違いませんでしたわ」


この測定の価値が見いだせず、要領を得ないというのが率直な感想だった。

周りの生徒も一様に、知っていた事以上の情報を得た者は居なかったそうで、皆で首を傾げた。




「再確認…といったところでしょうか」


ロクサーヌの無難な回答でその場は締めくくられた。






◇◇◇









―――あ、危なかった…本当に命が縮まる思いだった。



とある男爵令嬢が、校舎の影で佇んでいた。



"闇の土属性、支援系隷属(れいぞく)魔法です。魔力は2隅の変色だから少な目かな。

…私も同じ属性だが、君はどのタイプのゴーレムを使役できるんだい?

私はね……"



測定結果を教えてくれた教員の、少し弾んだ声が再生された。

それと同時に、安心感がジワリと沸き上がった。



「…はは…あははは、はははは……」



人知れず空を見上げ、いつまでも笑っていた。






◇◇◇







魔力測定からひと月、学園での生活に(ようや)く多くの生徒が慣れ始めた、とある休日、ドラクロワ邸の客室では、ささやかな誕生日会が開かれていた。


先月のエリーズの誕生日と同じメンバーである。特に贈り物は用意せずに、手ぶらで来て欲しいとのロクサーヌたっての希望だったが、流石に2人が了承できず、であるならば…と好みの菓子を持ち寄ったお茶会になった。




「私達の婚約者は、一体何をされているのでしょうか…ね」



普段、小さな淑女たるエリーズの、何時になく荒れた語気が全てを物語っている。

婚約者である、うら若き乙女達に対して、あまりにも酷い扱いに呆れを通り越していた。

恒例の会に参加しないにせよ、最低でも先ぶれを出すなり連絡を入れるべきである…と。




「私にはまだ許嫁はいないけど、2人は本当によく我慢していると思うわ」


お茶を(すす)りながら、更にシルヴィが続ける。


「とは言うものの、私も婚約者候補としてお父様から紹介されている人がいるのよ。あなた達もご存じの方たちよ」




「「どなたですの!」」




「お2人いらっしゃるわ。最有力候補はランベール侯爵家のユーゴ様、次点でベルナール家のナタン様。

エリもロキシーも知っての通り、我がデュボア家は特殊だから、嫡子の兄が跡を継ぎながら、私も領地で爵位を賜り守らないと…だから長男以外で優秀な方を探してるってわけ」



なるほど、と2人は頷く。

ユーゴ様は文官気質でありながら、魔術に長け家柄も申し分ない。

ナタン様は1歳年下という点を除けば、剣技に秀でており、幼いながらも王子殿下の特別な近衛騎士でもある。


辺境で国境を守護する、デュボア家の婿として、それぞれ相応しい実力だ。




「でも、最近の殿下方どうかしちゃってるじゃない?ユーゴ様もナタン様も、一緒にいるみたいだし。正直、どちらに決まっても構わないし興味もないわ」




お茶菓子として並んだマドレーヌを齧りながら、シルヴィが嘆く。




「それでも、よりシルヴィと気が合う方と婚約を結べるように祈っているわ」


ロクサーヌが返せば、うんうんとエリーズも同調して頷いている。




「ロキシー、エリ、ありがとう。…ところで2人は学園で広がっている、とある御令嬢の噂はご存じ?」


少し声を潜めてシルヴィが囁いた。




あぁ、…と心の内でロクサーヌが思っていると、ポンと扇子を手の平に当てて、エリーズが返す。




「何人かの御子息とお付き合いなさってるという、男爵家の御令嬢の事かしら?」



「そう、その御令嬢よ。たった1ヵ月足らずで全校生徒に知れ渡った、ピピ・マルタン男爵令嬢、その人よ!」



抑揚のある言い回しと、左手を胸に当て、右手を前方に高く掲げたシルヴィが芝居がかった声を張り上げ更に続けた。




「婚約者がいてもお構いなし、次々と高位貴族の御子息を取り巻きにしているそうよ。

しかもその中で彼女のお気に入りは嫡男(ちゃくなん)ばかり。

…そしてそこに我らが婚約者殿達が漏れなくいらっしゃるの」




「去年の誕生日は皆集まってくれたけれど…あの時もきっと乗り気ではなかったのだわ。

逆に悪い事をしてしまっていたのね」


そこまで気づかなかった自分に、嫌気が差したロクサーヌを、労わるようにエリーズが付け足す。



「そんなことないと思います。昨年の贈り物合戦を思い出して?

ロキシーを特別な存在だと、誇示する様な品々を渡されていましたわ」




「本当にね、あそこまでしてとは思わないけど、あまりにも1年で違い過ぎるわよね。

ロキシーだけじゃないわ、エリの時も私の時もだったじゃない?


贈り物が欲しい訳じゃないわ、お祝いの心があってもいいと思うのよ。

それ程、私達は幼い頃から交友があったんですもの…」



「確かに、一言何か言ってくれても、そう思うのは我儘ではないですわよね…」

「私も先月から、同じことを思っておりましたわ…」



3人とも意気消沈、その場を重苦しい空気支配し、(しば)し会話が途切れる。







「…だからこそなんだけど、エリの誕生日で渡したネックレス、学園にいる時は肌身離さず付けておいて欲しいの。お守りとして」



ロクサーヌのお願いに、2人は首元のネックレスに軽く触れ、そして小さく(うなず)くのだった。

それぞれの石がキラリと揺らめいた。


















ここまでご覧頂き、ありがとうございます!


宜しければ、次回もご覧いただけるととても喜びます。



修正・2021年12月2日

理由:謎の改行を消去。※内容変更はありません。

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