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06 傷心と倖せ

目に留めて頂き、ありがとうございます。


またもや時間があっちゃこっちゃしてます。

冒頭に年代と月を記入しました。(より分かりにくい説まであるかも)

ご注意下さい。


楽しんで頂けたら、幸いです。

1377年 満開月(5月)


――― 一目惚れだった。






ガブリエルは、その日を心待ちにしていた。


王宮内で定期的に訪れる、異様ともいえる時間。その際、ある周辺は人払いがされる。

侍従や侍女は勿論、護衛までもがいなくなる。

王宮の奥深くに位置する場所である為、警備面で問題はないが。



幼い頃のガブリエルも、それに漏れず自室で待機させられていた。






4歳になる年のある日、父ロベール国王から呼び出された。



「第1継承権のあるそなたに、わが国の最重要事項に参加を命じる。心して参るように」




「わかりました」




そうして国王陛下に宰相、宮廷魔導師団長、王国騎士団長といった錚々(そうそう)たる顔ぶれを引き連れてやってきたのはロベール王宮でも最奥の部屋だった。

質素な見た目にも関わらず、威圧さえ感じる扉の中へ入った。




その中は、ドーム型の高い天井の部屋があり、真下付近に虹色に発光する巨大なクリスタルが鳥籠のような繊細な格子の中で浮いて横に回転していた。

最上部の小さな窓からクリスタルだけを1本の光が射貫くように差し込んでいる。




―――美しい…。




それ以外の感情が浮かばなかった。次にこれは何なのか僅かに思索したが、まるで見当もつかないので早々に諦め今後の動向に意識を集中させた。

会話はなく、薄暗い部屋は静寂に包まれた。




「「おまたせしました」」




扉の方から響く、2つの重なる声と共にようやく皆の呼吸が漏れた。




「では早速始めてくれ、【極光夜(きょっこうや)の儀】を」




陛下の命と共に後から来た2人が、部屋の中心部へと歩を進めた。




ガブリエルは2人を知っていた。1人は同い年の少年、そこにいる宮廷魔導師団長の息子ルキウスで直接紹介もされている。

先日、5歳にして宮廷魔導師団に最年少入団したと聞いている。真っ白な髪色からも、その実力が垣間見れる。王子に仕える側近からも恐れの対象だ

と聞き及んでいたが、ガブリエルはそう思わなかった。そんな事より、ルキウスの方が自分よりも背が高い方が少し気に障った。


もう1人は、一方的に知っているだけの令嬢だ。定期的に人払いされた時、押し込まれた自室の窓から見知った。

夜空の様な深い紺色の髪、時折水色にも見える濃色の碧眼(へきがん)に薄紅色の頬と唇、白く透き通る肌の夜神のような少女。



はっと、息が止まる。

宝石のように発光する、瞳に吸い込まれた。





―――それは、一目惚れだと知った。






あの時、胸に宿る想いが恋だと知らなかった。ルキウスにエスコートされた彼女を目の当たりにした今、湧き上がる苛立ちと共に気づいてしまった。


2人が許嫁であるのも認識している、承知はしていないが。先程、執り行われた極光夜(きょっこうや)の儀を見せつけられて、僅かに残された可能性までもが見事に打ち砕かれた。





◇◇◇





マザークリスタルの前に2人が進み出た。



たったそれだけで、淡い輝きがその周囲に沸き立つ。よく見ると光は、その中心にいる2人の瞳の色と同じだと気付いた。萎れた草葉(そうよう)に水を注ぐように、クリスタルが光を取り込んでいく。

派手さはないが神々しい情景に、思考が止まったようだった。




―――あぁ、願わくば君の横にいるのが自分であったのなら。




ガブリエルは第1王子として歩んできた人生で、初めての挫折をこの時味わった。

光を帯びる風魔法を得意とする彼は、攻撃も治癒も出来る稀少な存在である。

幼いながらもどちらの魔法も使いこなすガブリエルは、将来を期待される魔導師としても、もてはやされた。王族としての教育や剣術、どれを取ってもそつなくこなす所謂(いわゆる)天才肌。


…今までは自分も、そう思っていたのに。




よりによって、初恋を自覚したその日に失恋するとは。

なんだ、あの圧倒的な絆は。立ち入る隙もあったものではない。

2人の婚約を引き裂く事は不可能だと、一国の王子として理解している自分もいる。



けれど、せめて…せめて彼女の為人を知ってからが良かった、な…。



しかも…、前日に国王勅命としてガブリエルの婚約者も決定していた。

王家と公爵家との繋がりを強固にするだけでなく、世の理に作用を及ぼす極光(きょっこう)の持ち主との縁を結べるという、申し分ない人選だった。

お相手はルキウスの2歳差の妹、エリーズ嬢である。輝く銀髪が物語る通り魔力も高く、透き通るような白い肌、輝く赤い瞳を持った美しい少女である。

ガブリエルとてまんざらでもないのだが、後少し出会いが早ければ…と思わない訳にはいかなかった。

…ただ考え方によっては、ロクサーヌとも親族になるわけである。


あぁ、その脆い縁を受け入れてやるさ。

何がなんでもしがみ付いてやろう。


やや歪んだ感情がゾワリと湧き上がっていたのに、気づかないふりをした。




人を好きになる事もままならない…、王子なんて因果な立場だなと苦笑するしかなかった。





◇◇◇





「改めまして、ドラクロワ侯爵家が娘、ロクサーヌにございます。はじめまして」




儀式の後、謁見の間にてガブリエルとロクサーヌの顔合わせが行われた。

貴族の令嬢として習いたてのカーテシーが微笑ましい。

ニコニコとした年相応の笑顔から、濃い碧眼(へきがん)が眩しく輝く。


こんな可憐な夜神のような少女に、恐怖を抱く輩もいると従者から報告が上がっている。

馬鹿馬鹿しい、王国に住まう全ての民が、どれだけこの夜神(やがみ)の恩恵を受けていることか。

声を大にして知らしめたい気分に駆られる。




「ロベール王国第1王子、ガブリエル・ド・ロベールだ。あまり固くならずに、その…友人として接してくれると嬉しい」



「光栄です、殿下」



「……名前…」



「?ロクサーヌです」

声が小さかったかな、と言わんばかりに頬に手を当てて、不思議そうに首を傾げて答える。

その姿がなんとも可愛らしい。思わず笑いが零れてしまう。



「ぷっ。……いや、私の事を名前で呼んでくれないか。友人として。

友達がいない私を助けると思って」




一瞬で失恋したのだ、これくらいの我儘は許されるに違いない。いや、許せ。

ルキウスの視線が刺すように感じるが、気にするものか。

この位、慎ましい嫌がらせだ。




「よろしいのでしょうか?…それでは、ガブリエル殿下、よろしくお願いいたします」



「あぁ、うん。まぁ、それでもいいか。よろしく、ロクサーヌ嬢」





「…その…ガブリエル殿下?無理されていませんか?

殿下の魔力が、少し悲しそうに見えるのです。よろしければお話し聞きますので」




疑う事を知らない、純粋な善意が真っすぐにガブリエルに向けられる。

喜びと後ろめたさがせめぎ合う。

この少女に隠し事は出来ないと見える。今の自分には際どい質問に、ひゅっと息を飲む。

表情を変えずに済んだのは、日頃の王族としての教育の賜物だ。感謝しなければ。





「それではロキシーと呼んでも?私の事もガブと…」



「殿下!お戯れを」



私を窘めるルキウスの冷ややかな声だけが、室内に静かに響いた。

流石にこれは欲張りすぎたようだ。首を竦めてお道化てみせる。





こうして失恋をかき消すかのように、ガブリエルはささやかな悦びを手に入れた。








ここまでご覧頂き、本当にありがとうございました


もし宜しければ、次の回も覗いて頂けたら嬉しいです!

なるべく、1日2回投稿を心掛けております。



修正・2021年12月2日

理由:謎の改行を消去。※内容変更はありません。

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