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05 忍び寄る不協和音

時間が前後します。分かりにくいかもしれません。

冒頭に年代を入れてありますので、参考にしてください。


目に留めて頂き、ありがとうございます。

楽しんで頂けたら幸いです。

1386年 紅葉月(9月)


―――1年にも満たない、人生の中では僅かとも取れる、たったそれだけの期間であれほど色々な事が変わってしまうなんて…。





王子殿下が行った、悲劇の断罪から、(およ)そ10ヵ月前に話は移る。



紅葉月(9月)の初め、トーマ王立学園には、今年新たに入学する御子息・御令嬢が多く集っていた。

その中の1人として、ロクサーヌは講堂へと向かっていた。学園で最初に行われる照葉(てりは)の会、所謂(いわゆる)入学式の会場へと向かう所である。


本来ならば、婚約者がエスコートすべきであるが、ロクサーヌは父であるドラクロワ侯爵に手を引かれている。侯爵家の子はロクサーヌ1人なので、最も近い肉親の男性といえば父君に…という流れである。



ある事情があり、ロクサーヌは生来の婚約者、ルキウスと毎週1回は顔合わせをしていた。

それは義務であったが、彼女は待ちわびていた…といってもいい。


ところが、ロクサーヌが学園への入学を控えた半年前辺りから、その頻度が徐々に減っていった。

今では月に1~2回、最低限にまで減少してしまっている。

なんでも、王国直々に依頼をされた魔道具の開発を任されたと聞いていた。

今期から学園での始動を目指しており、期限はロクサーヌが入学をする新学期に定められた。

結果、作業が大詰めで王宮に(こも)っているとか。


数少なくなったルキウスとの会合で、それとなく様子を(うかが)ってみるも、すげない言葉が返ってきただけだった。

あまり根詰めて、体調を崩してしまっては…との心配も込めていたが、より不愛想になった事から、何か忌諱(きい)に触れてしまったのだろう…。




―――今思えば、この頃から不和が始まっていたのかもしれない。




照葉(てりは)の会が始まると、学園長と在校生代表からの祝辞があった。学園長は髭を蓄えた壮年の男性で、長きに渡り文官として王宮に務めていたと聞く。

安定感のある美しい低音の声が、入学生の未来を称えている。


学園長が壇上を後にし、入れ替わる様に登壇したのは、この国の第1王子であるガブリエル殿下であった。

ルキウスとの会合で共に顔を合わせており、(おそ)れ多くも仲の良い友人と言っていい関係だった。この時は、そう思っていた。


しかし彼もまた、婚約者殿と同じく最近ではお目にかかる事がなくなっていた。




「ロベール王国第1王子、ガブリエル・ド・ロベールである。新入生諸君、入学お祝い申し上げる。今日から、この学園で新たな生活が始まる訳だが、貴族として王国を支える者として目的を持ち邁進(まいしん)して欲しい。功績によっては、私の側近への取り立ても考えている。皆の活躍に期待している」


見目麗しい自国の王子が、このように演説すれば、否が応でも衆人は沸き立つ。

子息連中は側近へ意欲を燃やし、令嬢達は婚約者候補に入り込めたらと、目を輝かせていた。

民を掴む術を、既に心得ている。



カリスマのある王子を中心に皆が(まと)まっていく中、ロクサーヌは一人傍観していた。




◇◇◇




毎年、エリーズの誕生日を祝う為に、気の合う仲間がアラリー公爵家へ集い、庭園にある東屋にて茶会が行われていた。

学園に入学した今年もまた、お祝いの為に公爵家へと訪れた。


侍従に案内されて、庭園を進む。

目的地に近づくにつれ、いつもとは違う様子に気付いた。



「少し早くに着いてしまったかしら。皆さまは、まだいらしてないの?」


 


ロクサーヌの問いに、同じく来客であるシルヴィが答える。




「今日は私達3人だけだそうよ。あれだけ頼み込まれたから、仲間に入れて差し上げたのに。

私はこの方が楽しめるから歓迎だけど」




「ランベール侯爵家のお二人はともかく、殿下やルキウス様もいらっしゃらないのですか…」




ロクサーヌは半ば呆れたように呟く。この場は人払いをしているので、3人以外はおらず不敬にはならないだろう。



「殿下もお兄様も、それにサイモン様やユーゴ様も、みーんな例の魔道具に付きっきりなのです。…だから3人で思い切り楽しめます!」



普段お淑やかなエリーズが、珍しく高揚してシルヴィとロクサーヌを交互に見回す。

その様子に、誰ともなく吹き出した。



「「「ふふ、うふふ…あははは」」」





久しぶりに思い切り笑った後、シルヴィが切り出した。



「お誕生日おめでとう!これは2人からよ。ロキシーと、これにしようって決めたのよ。

3人でお揃い!さあ、開けてみて」




「シルヴィも私も1目見て惹かれたの。気に入るといいのだけど」



金色のリボンが形よく結ばれている、小さな細長い紺色の箱をエリーズに手渡す。



勧められるまま、リボンを解き箱を開ける。



「わぁ、素敵…ね」




「よかった、実はもう着けてきたのよ。皆、髪色に合わせて私は緑柱石(りょくちゅうせき)




「私は青玉(せいぎょく)を、エリは金剛石(こんごうせき)ね。これ、皆のお守りになるわ」



秋に実る木の実を模した、黄金の細い鎖が付いたネックレスだった。木の実の部分がそれぞれ宝石になっている。2人の胸元にキラリと輝く。



「私も着けていいかしら?」




「「もちろんよ」」




ロクサーヌが後ろからエリーズにネックレスを着ける。




「やっぱり似合うわね、このデザインにして正解」




「流石シルヴィのお見立てね」




「ロキシーのおまじないがあってこそよ」




褒め合う2人にエリーズが口を開く。




「ありがとう、お2人のお陰で一番素敵な誕生日になったわ」





誰にも邪魔される事無く、晴れ渡った秋空の下、仲良し3人のお茶会が続いた。


それぞれの心にあった、僅かな(もや)が晴れていった。






◇◇◇






ロクサーヌは、ほんの少しだけ昔を思い出す。

初めて殿下に御目通りした時の事だ。王族らしく、常に微笑みを(たた)えながらも、貴族(しかり)とした嫌味な様子は無く、好感が持てた。

時折見せる、悪戯っ子のような突飛な部分も、人の心を惹き付けた。



そして、婚約者であるエリーズを見る時に浮かぶ、心根の優しい笑顔。




(あの時の殿下は、もういないのかもしれないわ…)


つきんと心が痛むのに気づかない振りをした。













ここまでご覧頂き、ありがとうございます。

もし宜しければ、次の回も覗いて頂けると


とても嬉しいのです!



修正・2021年12月2日

理由:謎の改行を消去。※内容変更はありません。

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