03 温かな陽だまりでの集い
目に留めて頂き、ありがとうございます!
楽しんで頂けたら幸いです。
1376年 花芽月(4月)
エリーズには2歳差の兄がいる。
純白に近い銀髪、白磁のようなきめ細かい肌、グラデーションのある紫色をした眼差しの彫刻のような美しい人、ルキウスである。
父によく似て無駄な事はあまり話さない、それでもエリーズを優しく見守ってくれる、そんな自慢の兄だ。
エリーズにはもう1つ、大切な存在がある。夜空の様な深い紺色の髪、濃色の碧眼に
薔薇色の頬と唇、白く透き通る肌を持つ、まるで夜の女神のような少女。
ロクサーヌは、兄の許嫁でもある。
出会いが何時だったか、記憶は定かではない。恐らくかなり幼い時だとは思う。
気づいた時には定期的に我が公爵家へやって来て、お茶をして、兄と2人で出掛けていく。
当初は自分も一緒に付いて行きたいと思ってお願いをしてみたのだが、父である公爵から静かに窘められた。
厳格な父が否と言ったら不可能なので、今はもう諦めた。
それでもお茶会では、この世のものとは思えない美しい光景が見られる。
しかも特等席で。
何度見ても心が震えるほど、幻想的で夢物語のよう。見飽きることは決してない。
そしてこれは、3人だけの大切な秘密でもあった。
◇◇◇
「ドラクロワ侯爵家が娘、ロクサーヌにございます。今日はありがとうございます」
フワリとした笑顔を湛えながら、可愛らしいカーテシーを披露する。
「アラリー公爵が娘、エリーズでございます。こんにちは」
同じく挨拶を返す。その後すぐに目を逸らしたのは、この頃にはエリーズ本人も自分が他者に怖がられ避けられるのが普通だと気付いていたから。
そんなエリーズに近づき、両手を握りまっすぐ水色がかった深い碧眼が向けられる。
「まるで月夜の光みたい、素敵な髪色ですね。ルビーの様な瞳もとてもきれい。わたしと是非、お友達になってください!」
家族以外で初めてだった、自分の見た目を怖がらず、あまつさえ賛辞を送ってくれたのは。
初めて会った少女は、光が輝くようにニコニコと笑いながらエリーズの返事を待っている。
これまで出会った人々は、外観だけで中身を見ようともしない人ばかり。
家格が高い為、表立って邪険にはされないが、陰である事ない事を噂された。
幼いエリーズの心が閉ざされるのに、そう時間は掛からなかった。
公爵家内では穏やかに過ごせるが、一度外に出るとエリーズは、見えない牢獄に囚われている気分になった。
そこに優しい光が差して、柔らかな風が通り抜けた気がした。
自分を認めてくれる存在が1つでもあるという事は、こんなにも心強く大切で
かけがえのないものだったのか…と。
そして彼女はルキウス兄さまの婚約者と聞いていた。エリーズにとって大事な人同士が家族になるという。
なんという素敵な事だろう!
人知れず心に誓う。どんな事をしても2人の幸せを願おう。
そうなるようにエリーズも努力しよう…と。
「こんなわたしで良かったら、よろこんで!」
「ありがとうございます!
…エリーズ様。わたしね、人から怖がられてるみたいなの。いやになっちゃう」
薄紅色の頬をぷくりと膨らませながらも、にこにこと微笑む。
「…まあ、ロクサーヌ様もですか?わたしもみたい」
同じように頬を膨らませる。お互いの視線が交差する。そこに怒りの感情は微塵もなく、柔らかな空気が流れていた。
「「……ぷっ、ふふふ。あはは」」
2人で小さく吹き出して、徐々に笑い声が零れた。心に偽りなく、こんなに笑ったのは何時ぶりだろうか。
エリーズの見えない牢屋も心を凍り付かせた塊も、いつの間にか跡形もなく消え去っていた。
遅れてやってきたルキウスは、驚きと共に眩しいものを目撃した。
儚げで守るべきと思い込んでいた妹と唯一無二の婚約者が、年相応に笑い合う姿。
天使と妖精の陽だまりでの集いを、この愛しい時間を取り零すまいと瞳に焼き付けた。
ここまでご覧頂き、ありがとうございます。
宜しければ、次の回も覗いて頂けたら喜びます!私が!
修正・2021年12月2日
理由:謎の改行を消去。※内容変更はありません。




