10 双子の悪戯
数ある作品の中から、目に留めて頂きありがとうございます!
時間が色々前後しています。
冒頭に年代と月が記入してあります。目安にして下さい。
(この2人が一番好きかもしれないという、どうでもいい情報。)
1378年 満開月(5月)
シルヴィの婚約者候補の1人であるユーゴは、侯爵家の御子息である。
彼は双子の兄、サイモンがいる。
ユーゴとサイモンは非常に仲が良く、特に会話はしなくともサイが何を考えているか
理解できたし、その逆もまた然。
2人とも深い海の様な青い瞳で、水系属性の攻撃魔法を得意としていた。
一卵性双生児であったため、よく似た顔をしていたが、ユーゴは光属性で銀髪、サイモンは闇属性で黒髪と、2人の違いを表していた。
ランベール家の子息として、ユーゴとサイモンは産声を上げた。
ロベール王国の宰相である父の大きな背中を、常に見てきた2人。
【文を与る者であっても、剣技魔導に明るくあれ】というランベール伯爵の人生訓は、双子の教育にも反映された。
貴族社会における通常の勉学だけでなく、剣術や魔力操作についても専属の家庭教師を付け、研鑽を積んできた。
兄弟は、最も親しい友人であり、良きライバル、協力者としてお互いに高め合い成長していた。
ユーゴは幼い頃から心に決めていたことがある。
父の宰相を継ぐ者は、兄であるサイモンしかいないと。
国を守る中心に必要なのは、自分よりも頭が良く魔力も高い兄であるべき、と確信していた。そして自分は陰ながら支えようと。
その為にはどんな努力もしていく…。
◇◇◇
―――敵わない。
同じ水属性だというのに、光と闇でこんなに違うのか。魔法修行で、打ち合いをした際の事。
ユーゴの水流による攻撃は、轟音渦巻く激流である。それなのにサイモンの前では、彼の身に辿り着く事無く、氷柱にされて止められ、シャランと音を立てて砕け散る。
煌きながら舞い散る粒の幕を切り裂き、鋭い氷の剣がユーゴの寸前で止まる。
「…23勝、もらったよ!」
「くっ…。また遅かったか」
口惜しさが滲み出る。ユーゴは、これまで全敗記録が続いている。
「相性の問題だよ。ユーが弱い訳じゃないさ」
膝を突いたユーゴに、手を差し出しながらサイモンは更に続ける。
「僕らが手を組んだら、もっとすごい事になると思わない?」
「?サイ?それは…どういう…?」
「そのうち分かるよ。ユー」
くつくつと笑いながら悪戯を企んでいる、そんな顔をこちらに向けた。
◇◇◇
双子の魔力操作指導は宮廷魔導師団の副団長が直々に、伯爵家にて行っている。
流石、宰相の権力はすごいものだ。職権乱用ではない事を信じたい。
実践経験を積むべく、対人戦が定期的に実施させる。ユーゴ対サイモンが常であったが、その時は副団長に2人で臨む初めての機会だった。
領地内の開けた草原で、2人は副団長を見やっている。
春の風は心地よく、草花を揺らしている。
「準備が整い次第、いつでもかかって来ていいですよ」
魔導師団・精鋭の余裕だろう、脇に生える木の下で座って本を読んでいる。
彼は闇属性で土から支援を受ける魔力を持つ。大地からゴーレムを作り出し、隷属が可能となる。
一度ゴーレムを生み出してしまえば、術者を守護し続ける。
副団長のゴーレムは泥団子を人の形に積み重ねたような形をしていた。
以前に見た、彼の本気のゴーレムとは似ても似つかない稚拙な姿だ。
幼い双子相手なら、この程度の土くれで十分。向こうからは攻撃する意思もないようだ。
片手間でも、どうとでもなるという事か。
…おもしろくないな。
「ねぇ、ユー。ちょっとやってみたいことがあるんだけど。このままじゃ悔しいじゃない?」
サイモンも同じように気を悪くしていたようだ。
だからだろう、いつかの悪戯っ子のような眼差しを向けてきた。
「本当にね。サイ、どうすればいいの?」
「ユーは何時もの通り、全力でゴーレムに水流をぶつけて。
それに合わせるからさ」
片目をつぶって笑いかけた。
「何時でもいいからね」
サイモンは、そう言って身構えた。
ユーゴは返事をすることなく魔力を込めた。
それまでで最高の魔力が構築できた…とあの時を振り返って思う。
ごうごうと音を立てた激流が渦を巻き、ユーゴの頭上に現れた。
そんな状況でも副団長殿は、こちらに目もくれず本を読み進めている。
水塊は更に大きく膨れ上がっていく。
渦潮のような螺旋状の水流が、対戦者めがけて空を切り裂く。
よく見ると流れる水中に、鋭く細い氷が無数に生成されていた。ユーゴの魔法にサイモンの魔力が合わさり、威力が増大しているようだ。
これがサイモンが前に言っていた、すごい事ってやつか、まぁ確かにそうかもしれない…。
揺らめく水のベールの中を、精霊が氷の剣を携え乱舞しているようで美しかった。
脳内にユーゴとサイモンの声が同時に響く。
(今だ!!!)
術者の盾となるように、仁王立ちしているゴーレムがその全てを受け止め……。
―――ドコンという爆発音とともに、土で出来た身体が膨張して砕け散った。
欠片は粉々になり、ゴーレムは文字通り土に還った。
「おや……」
と副団長が視線を僅かにこちらに向けて、そっと本を閉じて立ち上がった。
「お2人とも見事です。その齢にして、連携しながら魔力を操れるとは。
流石は宰相殿のご子息、優秀でいらっしゃる。
これからの更なる成長に期待が高まります。
ランベール閣下も、このご報告に喜ばれるでしょう。本日はこれまでとします」
そう言い残し、屋敷へと戻っていった。
ユーゴには分からない事があった。先程の攻撃では、氷の剣が突き刺さり水流で横に転倒…で決着がつくと思っていた。
だが結果は文字通り、ゴーレムの粉砕。
…どういう事なのだろうと、思考を巡らせていた。
「全部凍らせた…んだ」
ぼつりとサイモンが言った。
「水分が土くれに染み渡ったと同時に、全部凍らせて砕いた」
くすりと爽やかに笑いかける。
「最初から氷しか出せない、僕だけじゃ無理な戦術なんだよね。
水があればできるんだ。後は完璧なタイミング。僕らなら余裕じゃない?」
なるほど、とユーゴは全てを理解した。
「あぁ、これからもっとすごい事になると思わない?サイ」
「同じこと思ってたよ、ユー」
悪戯を企んでいる笑いが2つに増えた。
―――やっぱり、敵わない。改めてユーゴは思った。
ここまでご覧頂き、本当にありがとうございます!
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修正・2021年12月2日
理由:謎の改行を消去。※内容変更はありません。




