表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/33

10 双子の悪戯

数ある作品の中から、目に留めて頂きありがとうございます!


時間が色々前後しています。

冒頭に年代と月が記入してあります。目安にして下さい。



(この2人が一番好きかもしれないという、どうでもいい情報。)


1378年 満開月(5月)


シルヴィの婚約者候補の1人であるユーゴは、侯爵家の御子息である。

彼は双子の兄、サイモンがいる。




ユーゴとサイモンは非常に仲が良く、特に会話はしなくともサイが何を考えているか

理解できたし、その逆もまた(しかり)

2人とも深い海の様な青い瞳で、水系属性の攻撃魔法を得意としていた。

一卵性双生児であったため、よく似た顔をしていたが、ユーゴは光属性で銀髪、サイモンは闇属性で黒髪と、2人の違いを表していた。



ランベール家の子息として、ユーゴとサイモンは産声を上げた。

ロベール王国の宰相である父の大きな背中を、常に見てきた2人。

【文を(あずか)る者であっても、剣技魔導(けんぎまどう)に明るくあれ】というランベール伯爵の人生訓は、双子の教育にも反映された。

貴族社会における通常の勉学だけでなく、剣術や魔力操作についても専属の家庭教師を付け、研鑽(けんさん)を積んできた。

兄弟は、最も親しい友人であり、良きライバル、協力者としてお互いに高め合い成長していた。



ユーゴは幼い頃から心に決めていたことがある。

父の宰相を継ぐ者は、兄であるサイモンしかいないと。

国を守る中心に必要なのは、自分よりも頭が良く魔力も高い兄であるべき、と確信していた。そして自分は陰ながら支えようと。



その為にはどんな努力もしていく…。





◇◇◇





―――敵わない。



同じ水属性だというのに、光と闇でこんなに違うのか。魔法修行で、打ち合いをした際の事。

ユーゴの水流による攻撃は、轟音(ごうおん)渦巻く激流である。それなのにサイモンの前では、彼の身に辿り着く事無く、氷柱(ひょうちゅう)にされて止められ、シャランと音を立てて砕け散る。

(きらめ)きながら舞い散る粒の幕を切り裂き、鋭い氷の剣がユーゴの寸前で止まる。



「…23勝、もらったよ!」



「くっ…。また遅かったか」

口惜しさが滲み出る。ユーゴは、これまで全敗記録が続いている。



「相性の問題だよ。ユーが弱い訳じゃないさ」



膝を突いたユーゴに、手を差し出しながらサイモンは更に続ける。



「僕らが手を組んだら、もっとすごい事になると思わない?」



「?サイ?それは…どういう…?」



「そのうち分かるよ。ユー」



くつくつと笑いながら悪戯を企んでいる、そんな顔をこちらに向けた。





◇◇◇





双子の魔力操作指導は宮廷魔導師団の副団長が直々に、伯爵家にて行っている。

流石、宰相の権力はすごいものだ。職権乱用ではない事を信じたい。


実践経験を積むべく、対人戦が定期的に実施させる。ユーゴ対サイモンが常であったが、その時は副団長に2人で臨む初めての機会だった。




領地内の開けた草原で、2人は副団長を見やっている。

春の風は心地よく、草花を揺らしている。




「準備が整い次第、いつでもかかって来ていいですよ」


魔導師団・精鋭の余裕だろう、脇に生える木の下で座って本を読んでいる。

彼は闇属性で土から支援を受ける魔力を持つ。大地からゴーレムを作り出し、隷属(れいぞく)が可能となる。

一度ゴーレムを生み出してしまえば、術者を守護し続ける。


副団長のゴーレムは泥団子を人の形に積み重ねたような形をしていた。

以前に見た、彼の本気のゴーレムとは似ても似つかない稚拙(ちせつ)な姿だ。


幼い双子相手なら、この程度の土くれで十分。向こうからは攻撃する意思もないようだ。

片手間でも、どうとでもなるという事か。

…おもしろくないな。



「ねぇ、ユー。ちょっとやってみたいことがあるんだけど。このままじゃ悔しいじゃない?」



サイモンも同じように気を悪くしていたようだ。

だからだろう、いつかの悪戯っ子のような眼差しを向けてきた。



「本当にね。サイ、どうすればいいの?」




「ユーは何時もの通り、全力でゴーレムに水流をぶつけて。

それに合わせるからさ」



片目をつぶって笑いかけた。



「何時でもいいからね」



サイモンは、そう言って身構えた。

ユーゴは返事をすることなく魔力を込めた。


それまでで最高の魔力が構築できた…とあの時を振り返って思う。


ごうごうと音を立てた激流が渦を巻き、ユーゴの頭上に現れた。

そんな状況でも副団長殿は、こちらに目もくれず本を読み進めている。


水塊は更に大きく膨れ上がっていく。



渦潮(うずしお)のような螺旋(らせん)状の水流が、対戦者めがけて空を切り裂く。

よく見ると流れる水中に、鋭く細い氷が無数に生成されていた。ユーゴの魔法にサイモンの魔力が合わさり、威力が増大しているようだ。


これがサイモンが前に言っていた、すごい事ってやつか、まぁ確かにそうかもしれない…。



揺らめく水のベールの中を、精霊が氷の剣を携え乱舞しているようで美しかった。

脳内にユーゴとサイモンの声が同時に響く。

(今だ!!!)




術者の盾となるように、仁王立ちしているゴーレムがその全てを受け止め……。



―――ドコンという爆発音とともに、土で出来た身体が膨張して砕け散った。

欠片は粉々になり、ゴーレムは文字通り土に還った。




「おや……」


と副団長が視線を僅かにこちらに向けて、そっと本を閉じて立ち上がった。



「お2人とも見事です。その齢にして、連携しながら魔力を操れるとは。

流石は宰相殿のご子息、優秀でいらっしゃる。

これからの更なる成長に期待が高まります。


ランベール閣下も、このご報告に喜ばれるでしょう。本日はこれまでとします」



そう言い残し、屋敷へと戻っていった。




ユーゴには分からない事があった。先程の攻撃では、氷の剣が突き刺さり水流で横に転倒…で決着がつくと思っていた。


だが結果は文字通り、ゴーレムの粉砕。

…どういう事なのだろうと、思考を巡らせていた。




「全部凍らせた…んだ」


ぼつりとサイモンが言った。




「水分が土くれに染み渡ったと同時に、全部凍らせて砕いた」



くすりと爽やかに笑いかける。




「最初から氷しか出せない、僕だけじゃ無理な戦術なんだよね。

水があればできるんだ。後は完璧なタイミング。僕らなら余裕じゃない?」



なるほど、とユーゴは全てを理解した。



「あぁ、これからもっとすごい事になると思わない?サイ」



「同じこと思ってたよ、ユー」




悪戯を企んでいる笑いが2つに増えた。








―――やっぱり、敵わない。改めてユーゴは思った。











ここまでご覧頂き、本当にありがとうございます!


もし宜しければ、次の回も覗いて見て下さい。

ブックマークして頂けたら、それはもう喜びます。



修正・2021年12月2日

理由:謎の改行を消去。※内容変更はありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ