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青が読めなくなっても  作者: 綾沢 深乃
「第5章 話すべきか話さないべきか」

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43/59

「第5章 話すべきか話さないべきか」(5-1)

(5-1)


 最終的に二時間が経過した。午後三時、ランチに食べたパストラミビーフのサンドイッチはとっくに消化されている。


美結が来た時に減ってたら悪いと思っていたアイスカフェ・ラテは、もう殆ど残っていない。グラスの底で溶けた氷が微かな水溜りを作って、僅かにあったコーヒーの成分が溶けていた。


 こちらから連絡するのはどうかと思ったが、我慢出来ず、三十分を過ぎたあたりで、美結に一度、LINEで連絡を入れたが、返事は返ってこない。


既読すら付かなかった。


「ふぅ」


 流石にこれ以上は、グリーンドアに悪い。


 直哉はそう判断して帰る事にした。一度そう決めると、待機していた緊張とか心持ちとかが、極限まで小さくなったのを感じる。手早く帰り支度を済ませて伝票を持ち、レジへと向かう。


 レジに向かうと、香夏子が気まずそうな顔をしていた。彼女に先に言われる前に直哉から声を出す。


「すいません。長居しちゃって」


 直哉が謝ると香夏子は、静かに首を振る。


「ウチは全然大丈夫。それよりも美結ちゃん、来れなくなっちゃった……?」


「そうみたいです。残念ですけど」


 詳しくは説明しなかった。香夏子にはカウンターから見えていたはずだ。直哉がそう言っただけで、彼女は「そう」と全てを察するように言葉を漏らす。そしてすぐにいつもの調子で「また、いつでも来てね」と笑顔になった。


「はい、ありがとうございます。また来ます」


 申し訳ない気持ちを持ちながら、直哉は香夏子にそう返した。


 グリーンドアを出ると、セミの鳴き声と太陽の光が容赦なく、直哉に降り注ぐ。それを背中で受けて、直哉は体を駅へと向ける。


 土曜日の街は大勢の人々で溢れていた。普段ならサラリーマンしかいないオフィス街のエリアにも影響が出ており、少し歩いて交差点に差し掛かると、すぐに人に飲まれてしまう。


 交差点で赤信号に捕まった直哉はポケットから、iPhoneを取り出して、LINEを送る。相手は今日まで手伝ってくれたあの三人だ。三人共、今日に自分が美結と会う事を知っている。


 淡々とした文章で結果を送ったので、心情を読み取られたのか全員、返信がすぐに届いた。書かれている内容は三者三様だったが、心配されている事実は共通していた。一人で抱え込まなくていい、皆がいる。本当に事前に相談して良かった。一人でここまでやっていたら、とっくに心が折れていた。


 仲間がいる事に感謝した直哉は、三人にお礼と大丈夫と返事を送る。そしてそのままiPhoneを操作して電話を掛ける。数コールして電話が繋がった。


『はい』


『いきなり電話してすいません。今、大丈夫でしたか?』


『ええ大丈夫。電話してくれてありがとう』


 電話の向こうにいる司の声は、声のトーンが少し高くて機嫌が良さそうだった。それが逆に直哉を冷静にさせる。


『良かったら、この後会えませんか? 話がしたいです』


『分かった。もうちょっとで仕事が終わるから。佐伯くんは今、どこ?』


『森宮です。駅前に向かってます』


 数分で到着する駅名を司に告げる。そのタイミングで信号が青になったので、直哉は足を動かした。


『四十分あれば、駅に着くと思う。待っててくれる?』


『はい。分かりました』


 直哉は司にそう返して、電話を切った。これからあと四十分、時間を潰さないといけない。駅前ならいくつか店はある。適当に歩いていれば潰れるか。こんな事になるなら、グリーンドアから電話すれば良かった。自重気味にそう笑って、彼は駅前に到着した。


 駅前で適当に時間を潰していると、司から【あと十分で着きます】とLINEが届いた。約束していた待ち合わせ時間より四分早かった。直哉はそれに【分かりました】と返事して、店を出る。


 ロータリーに降りて適当な日陰に入る。タクシーやバスを始めとした様々な車が走っている中、見慣れた銀のセダンがロータリーに入ってきた。車がロータリーの内側に停車するのを確認すると、直哉は駆け寄る。助手席側のスモークガラスをコンコンっとノックすると、パワーウインドがゆっくりと下がった。


「お待たせ。ゴメンなさいね、暑い中待たせちゃって」


「いえ、急なお願いしたのは僕の方なので」

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