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青が読めなくなっても  作者: 綾沢 深乃
「第5章 話すべきか話さないべきか」

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42/59

「第5章 話すべきか話さないべきか」(4)

――土曜日。


 直哉は、午前中にはグリーンドアに着いていた。待ち合わせ時間は、昨日決めた通り、十三時だったが十一時には着いていた。理由は単純でいつものソファ席を確保したかったからだ。やはり、美結との話はあの席がいい。


 一人で店に入る時は、勇気が必要になるかと思ったが、今日はそこまで必要としなかった。あの緑色のドアが重たくなかった。


 カランコロン。


 ドアの上部に取り付けられたカウベルが鳴ると、カウンターにいた香夏子が顔を上げる。


「あら、直哉くん。いらっしゃい、今日は早いのね」


「ええ。決戦の日なんです」


 決戦の日と答える直哉に香夏子は「おっ」と驚く。


「いいねぇ。美結ちゃんは来るの?」


「はい。来ますよ。午後からですけどね」


「なるほど」


 短いやり取りで事情を察したのか香夏子は頷いて、そう返した。いつものソファ席は空いていて、彼は慣れた足取りで足を進ませる。


 ソファ席に腰を下ろして、トートバッグを横に置く。そこにお冷を持って来た香夏子が現れた。


「はい、お冷。前に話してたかき氷、この間から始まったけど頼んでみる?」


 香夏子がそう言って、テーブル横に掛けられたメニューを指さす。いつものメニューとは別に一枚のメニューがあり、かき氷専門のメニュー表だった。定番の味から抹茶宇治金時などの豪華な本格的な名前も見かける。


 一瞬、頼もうかと考えたが、今後の事を考えて首を横に振った。


「ゴメンなさい。かき氷はまた今度にします」


「そう?」


 直哉がそう言うと、香夏子は眉尻を下げた。


「次に来た時に注文しますよ。今日は決戦なので気を引き締めたいんです」


「なるほど」


 食べられない理由を説明すると香夏子納得してくれた。納得してくれた香夏子に苦笑しながら、直哉は「はい。なのでアイスカフェ・ラテをお願いします」と注文した。


「かしこまりました」


 直哉の注文を聞いて、香夏子はカウンター奥へと行った。直哉は文庫本とiPhoneを机に置く。ノートパソコンを最初は持ってくるつもりだった。


 でもそれだと、緊張が薄れてしまうと出発ギリギリになって止めた。


 少しして、香夏子が注文したアイスカフェ・ラテを持って来た。


「ありがとうございます」


「うん。ごゆっくり。決戦、頑張ってね」


 香夏子が離れてから、直哉はアイスカフェ・ラテに口を付けて、iPhoneを触ったり、本を読んだりと時間を過ごした。土曜日の午前中、まさに快適な時間だった。お昼になると、香夏子が「何か食べる?」聞いてきてくれたので、せっかくだからとパストラミビーフのサンドイッチを注文した。


 注文してから数分して、カリカリに焼き上がった食パンに乗せられたパストラミビーフのサンドイッチを香夏子が運んで来た。グリーンドアで食事をしたのは久しぶりで、出されたサンドイッチもコンビニで売っているような物とはボリュームから何もかもが違っていた。


 立ち上がるベーコンとマスタードの香りに胃を刺激される。


 溢れないようにそっと掴んで口に含む。ジャクっと焼けた食パンの味を確かめた後、パストラミビーフとレタスの味が口いっぱいに広がった。美味しくて夢中で食べ切った。


 お皿を下げに来た香夏子に「とっても美味しかったです」と感想を伝えると、彼女は「ありがとう、そう言ってくれると嬉しい。他にも美味しいのがいっぱいあるから、また今度注文して」と笑顔で礼を言った。


 昼食を食べ終えると、美結との約束の時間まで残り一時間を切った。直哉はおかわりしたアイスカフェ・ラテをテーブルに置いて、再び本を読む。朝はまだ小さかった緊張が次第に膨らんできた。


 あと、一時間後には美結がここにやって来る。大丈夫、シュミレーションは頭の中で何度もやった。間違いはない。自分自身を励ます。本を読んだりiPhoneを触っている間もカウベルが鳴ると、反射的に顔を向けてしまう。


 来客が美結じゃない事が分かると、どこかホッと安堵してしまった。


 そうして約束の時間が到達。


 十分が経過して、二十分が経過した。


 美結はまだ来ない。


 一時間が経過、それでも美結は来ない。

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