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青が読めなくなっても  作者: 綾沢 深乃
「第5章 話すべきか話さないべきか」

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「第5章 話すべきか話さないべきか」(3-1)

(3-1) 


金曜日に話すと直哉から宣言したので、それを破るような真似はしてはいけない。それを嫌という程、理解している直哉だったが、その弊害からどうしても金曜日までの一日の時間がとても長いものに感じてしまう。


 火曜日・水曜日と、どれだけ睨んでも早くならない教室の時計を疎ましく思いながら、直哉は一日を消化していく。


一方で図書委員の仕事は、とても順調に進んでいた。美結との仲も完全に元に戻ったと言える。


 図書当番の帰り道、学校のくだらない話やテストの話、本の話など、以前と同じような会話で弾んでいた。ただ、美結が書いているであろう小説の進捗は聞けなかった。聞いてしまうと、途端にこの空気が壊れてしまう。


 楽しくも心のどこかに針が刺さったような日々を過ごして、ようやく金曜日を迎えた。


――金曜日。


美結に願い事を話すと決めた大事な日。その日は、朝からあいにくの雨模様だった。夏の時期に降る雨は、アスファルトに当たって、独特の嫌な匂いを放つ。朝の通学路から、それを感じていた直哉は、まるで自分が嫌な夢の中にいる気分だった。


午前中の授業を終えて、真島と昼食を取っている際、それまでの話の流れから自然になるように「ところでさ、」と話題を変えた。


「なに?」


「今日、新藤さんに全部話す予定」


 それまでの話から急に話題を変えたので、真島の動きが一瞬だけ止まった。だがすぐに、動き始めて「そうか。成功すると良いな。凛にもLINEしておくよ」と応援してくれた。


「ありがとう。やれるだけやってみるつもり」


「おう。頑張れ」


 真島からの応援を受け取り、直哉は放課後に備えた。


 午後の授業は、昨日までとは打って変わって時間が早くなったように感じた。誰かが急に早送りのスイッチを入れたのではないかと勘違いしてしまう程だった。それでも何とか直哉は心の準備を終える事が出来た。


放課後になり、いつものように直哉は美結と図書室へ向かう。図書室に入ると、今週一番生徒の数は多かった。それは、今日が金曜日であるという事以外にも定期テストが近いからだ。そのせいでいつものシンとした雰囲気の図書室が少し、違っていた。


利用する生徒が増えても殆どが勉強目的の利用である。よって、カウンターの二人の仕事は、何も変わらなかった。いっそ忙しければ、それに任せて忘れられたのに。と二十時が近付くにつれて、直哉は心の中でそうボヤいていた。


とうとう二十時がやって来た。いつものように閉室作業を終えると、司書室から井原先生がやって来た。


「二人とも一週間、図書当番お疲れ様でした。期末テストが近いから少しは勉強が捗ったかな?」


「はい、とても捗りました」


「私も。良い感じに集中出来ました」


「それは良かった。別に図書当番としてではなく、いつでも勉強をしに来てくれて構わないからね」


 そう言って、井原先生は司書室へ戻って行った。彼女がいなくなると、美結はその場で両手を上げて背伸びをした。


「ん〜、終わったぁ」


「お疲れ様」


 直哉は美結の声を聞いて、抱えていた緊張が少し薄くなった。


「終わってみると、一週間ってあっという間だったね」


「確かに。もう一週間ぐらいは出来るかも」


 二人は通学カバンを持ち、図書室から出た。クーラーが効いていてシンとした図書室から、ムワッとした廊下に出る時の独特な感覚も来週からは体感する事はない。隣で立っていた美結が口を開いた。


「帰ろっか」


「そうだね」


 二人は図書室から下駄箱へと足を向かわせた。今日は一日中、雨だったので運動部が外で練習する事はなかった。残っている文化部も段々と帰り、いつもの学校になる。


「ねぇ」


 階段を降りていると、ふいに美結から声を掛けられた。


「なに?」


「佐伯くんがボーッとした顔で歩いてるなって思って、大丈夫? 疲れた?」


 こちらを心配する美結に直哉は首を振った。


「いや、今日ってずっと雨だったから、運動部の練習ってないんだなって」


「ああ。雨の日は空き教室で筋トレしたりするみたい。空き教室に限りがあるから、そのまま休みになる部活もあるけど」


「へぇ」


 直哉が知り得ない情報を美結が話す。彼女の交友関係の広さは別に“心読み”の一件に関わらず、元々あるような気がする。


二人は下駄箱に到着した。同時に薄れていた緊張が蘇ってくる。


 誰もいない下駄箱で美結が足を止めて、直哉をじっと見つめた。もう、何度も真っ直ぐに見られている彼女の瞳にこれから何を言われるのか彼はすぐに分かってしまう。


「佐伯くん、約束だよ」


「分かってる」


 この時の為に、この一週間を生きたと言っても過言ではない。

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