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青が読めなくなっても  作者: 綾沢 深乃
「第3章 二人の家族の対応の差」

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「第3章 二人の家族の対応の差」(4-1)

(4)


 火曜日から、これまでしていた“心読み”の朝の確認作業が行われない日々を過ごしていた。元の日常に戻ったと解釈すべきだが、直哉はそう思えない。


 毎朝、二本早く電車に乗ってしまうのもその表れだった。地下鉄のホームに降りて、自動販売機を横目で見てから人の流れに身を任せて、地下鉄の到着を待つ。


学校に着くのが早くなった事が明確な変化だった。


 直哉が教室に入ってから、十分もしない内に美結達が教室に入る。朝の“心読み”の確認作業をしていない朝で彼女は大丈夫だろうか。


心配していたが、直哉の予想とは裏腹に本人は平気そうな顔をしていた。


「もはや、隠す気がないな」


「え? なにが?」


 真島に指摘されて、直哉はそう聞き返す。


「新藤さんを盗み見る事。先週の方がもっと上手くやれてたぞ」


「ああ。まあ、先週とはちょっと状況が変わったんで」


 ぼんやりとした背景を真島に伝える。直哉の言い方が引っ掛かったのか、彼が「ん?」と言って目を細める。


「変わった?」


「変わった」


 嘘ではないので正直に返す。具体的にどう変わったのかは、説明はしない。


「変わったか。なぁ直哉、前にも言ったけど――」


 真島がそう言いかけたところで、直哉は「分かってる」と声を被せて止めた。彼が止めると、真島は、「分かってるならいい」と頷いた。


 放課後まで美結との関わりがないと、一日が少しだけ早く進む錯覚を得た。それだけ直哉の中で彼女の事を考える割合が多かったのだ。


 あっという間の放課後。


 直哉は、図書室前の階段にある踊り場に待機していた。朝はなくなったけど、放課後は継続して行われる。彼が待っていると、階段を景気良く駆け上がる足音と共に美結が現れた。


「佐伯くん、ゴメン。遅くなった?」


「いや、いつもどーり」


「良かった」


 安心して美結は右手を伸ばす。直哉も伸ばして互いに握手をした。数秒経って、「……よしっ」と言ってから彼女が手を離す。


「あのさ、今日一日は大丈夫だった?」


「何とかね、朝に確認しなかったのは、どうしても不安だったけど、今は落ち着いてる」


「しばらく、この体制でやっていけそう? 昨日話したみたいに場所を駅から学校にして、確認作業は続ける?」


 駅のホームから学校に変わっても確認作業は続けられる。また場所を変えればいい。確認作業はホーム限定でもはない。どこでも出来る、握手をするだけだ。


 直哉の提案に美結は、首を左右に振って「平気」と答えた。


「佐伯くんの気持ちは嬉しいけど、大丈夫。あんまり頼ってばかりだと悪いし。それに放課後があるってだけで、今日一日頑張れたから。日数が経過していけば、スッとホームに戻れると思う」


「そう? ならいいけど。どうにもならない時はまた言って?」


「ありがとう。それじゃ、私行くね。また明日」


「うん。また明日」


 美結はそう言ってまた階段を駆け降りていく。この時間、彼女は慌ただしい。それは友達二人を待たせているからである。僅かな時間の隙を用意して確認作業をしているのだ。


 美結の足音が放課後の喧騒に紛れた後、直哉も階段を降りていった。




――こうして直哉の体感で一週間は過ぎていき、約束した土曜日になった。


 前日にLINEで美結の最寄り駅は聞いたので、乗換駅まで定期で行きそこからは、ICカードで行った。残高が交通費で引かれた新鮮さと知らない場所に行くという感覚が、直哉の緊張を加速させていく。


 待ち合わせ時間、午後一時の十分前に最寄り駅に到着する。


 改札を抜けると、駅前から広がるロータリーには幾つかのお店が見えた。パン屋やスーパー、書店などだ。そこまで直哉の地元と違いはなかった。


 お店と一緒に美結の姿も確認出来た。彼女は直哉と目が合うと「あっ、」と小さな声を上げる。今日の彼女の服装は私服。土曜日なので当たり前なのだが、直哉にはそれも緊張の要因の一つとなる。


「こんにちは、佐伯くん。今日は来てくれてありがとう」


「こんにちは新藤さん。こっちこそ、迎えに来てくれてありがとう」


 マンション名を教えてくれたら、自分で勝手に行くとLINEしたが美結曰く、【わざわざ来てもらうんだから。ちゃんと駅まで迎えに行くのは当然】との事でマンション名は教えてくれなかった。


 二人して駅のロータリーをグルっと回って駅前の一本道を歩く。


「新藤さんのマンションって駅から遠いの?」


「ううん。この先の横断歩道を渡って、ちょっと歩けばすぐ」


「そうなんだ」


 最寄り駅から少し歩けば、住宅街が広がる。綺麗に整えられたレンガ道とイチョウ並木によって構成されている並木道は、高校までの通学路に似ていた。


そして美結の言った通り、横断歩道を渡ると住宅街の一角に低層のマンションが現れた。


「あそこが家」


「なるほど」


 マンションを美結が指差す。彼女の指の先に映ったマンションに向かって、二人は歩いた。エントランスに入り、美結がポケットから鍵を取り出して、ドアを開ける。直哉の家は一軒家なので、こういった入り方はしない。


 エレベーターに乗って、美結が四階を押す。二人を乗せたエレベーターは静かに上昇していき、チンっと音を立てて到着した。絨毯が轢かれてドアが並んでいる廊下を歩く。スタスタと歩き、一つのドア前で彼女が止まる。


「ここが我が家です」


 美結が鍵を取り出して鍵穴へ。ガチャリと音を立てて開錠すると、ドアが開いた。ノブを回して、ドアを開く。先に美結が入り直哉もそれに続いた。

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