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青が読めなくなっても  作者: 綾沢 深乃
「第3章 二人の家族の対応の差」

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14/59

「第3章 二人の家族の対応の差」(1-1)

(1-1)


 ――火曜日。


 直哉は地下鉄のホームに向かっていた。何線も電車が交差するこの駅の朝は、まさに戦争と言える忙しさで、大勢の人が忙しなく動いている。彼らは学校とか会社とかそれぞれの目的地へ行く為に足を進ませている。果たして本当に行きたいのか、それとも嫌嫌行っているのか。心の中身は持ち主しか分からない。


 その彼らと共に直哉は改札を出てホームに降りると、ホームに設置された自動販売機へと向かった。自動販売機の横は、人の流れからは外れている。以前もここで美結と話したから、間違いない。


 iPhoneを取り出して、美結にLINEを送る。


【おはよう。先に到着したから待ってる】


 メッセージを送信すると、すぐに既読になり美結から返事が返ってきた。


【おはよう佐伯くん。今、私の乗ってる電車も次の駅で着くから】


【分かった】


 そうやり取りをして、美結の到着を待つ事にした。


 昨夜、家に帰ってからLINEで美結とやり取りをして、毎日確かめるのは朝と放課後に行う事に決まった。直哉は、いつもより二本早い電車に乗ればいいので、それ程苦痛ではなかった。


 朝から十分単位で次の電車が来る地下鉄のホームは、油断すると何かに呑み込まれそうになる。ホーム全体が巨大な生き物のような気さえしてくるのだ。


 やがて長いエスカレーターからの大勢の乗客と共に彼女が降りて来た。


 美結はホームに降りて直哉と目が合うと、笑顔で駆け寄ってくる。


「おはよ〜、佐伯くん。ゴメン、待たせちゃったね」


「おはよう新藤さん。俺も一本前の電車で来たからそんなに待ってない」


 二本と言うと、気を遣わせてしまうかと思い、小規模な嘘をついた。


「そう? それなら良かった。では、早速」


 美結が右手を前に出す。それに直哉も自身の右手を前に出した。お互いに握手をする。柔らかくて温かい彼女の手。そう考えた彼はすぐにその事を後悔した。


だが、その後悔はもう遅い。


「え? 私の手ってそんなに柔らかい?」


「いや……。ゴメン、気持ち悪かった。忘れて」


 手を繋いでいる間は、直哉の考えている事は美結に読まれてしまう。確認作業の時は、頭の中で考える事を朝食の事だけにすると事前に決めていた。(それが一番、無害だから)それなのに直哉は守れなかった。


決めた事なのに守れず、気持ち悪い考えを読ませてしまった事を申し訳なく思っていると、美結側がいたたまれないといった顔になる。


「えっと、こちらこそ……」


「ゴメン。朝食だよね。すぐに考えるから」


 頭を切り替えて、今朝の朝食に頭を切り替える。チーズトースト。コーヒー、サラダ。一時間前に食べた物を脳内に思い浮かべる。すると、美結が「うん」と頷いた。


「うん。ちゃんと読める。チーズトースト。美味しそう」


「映像とかも浮かぶの?」


「ううん。文字だけ。私は今朝もシリアルだったから、つい」


 文字だけで美味しそうと言った美結。そのの理由を聞いて、納得した。


「新藤さんのところはお母さんも共働き?」


「そんなとこ」


 少し力の薄い肯定をされたが、その言い方からはこれ以上話したくないと顔に書いていたので、これ以上は追及しなかった。


「じゃあ、俺の“心読み”は引き続き機能しているって事で」


「はい。ご協力感謝します」


 美結は直哉から手を離した。繋いでいた手の感触が微かに残っているが、時間と共に段々薄くなっていくのだろう。


「この後は、友達と待ち合わせでしょ? 俺は先に行くよ」


「ありがとう。この後、学校で。放課後もよろしくね」


「うん。また明日」


 直哉はそう言って、美結と別れて外れた人の波にもう一度戻った。彼女は、友達と学校に行っている為、一緒に行く事はない。


いつもと違う事をしてしまった結果、“心読み”に影響が出るのを避ける意味もある。維持出来るところは、そのままにしておくのが好ましい。


 時間はまだ、そんなに過ぎていない。直哉は目の前の適当な列に並んだ。



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