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青が読めなくなっても  作者: 綾沢 深乃
「第2章 初めて覗かせる彼女の素の表情」

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13/59

「第2章 初めて覗かせる彼女の素の表情」(4)

(4)


毎日、直哉に対して“心読み”が機能しているかを確かめる。それと並行して消えてしまった原因を探っていく。


基本方針が定まったところで、今日は解散となった。


帰り際、美結が直哉の分のコーヒー代も出すと言ってきたが、「そんな事はいいよ」と彼の方から断った。香夏子にまた来ますと言って、二人は店を出た。


 店の外はすっかり暗くなっている。来る時は夕方が始まっていたぐらいだったのに知らない内に夜へと変わっていた。


「遅くなったね。佐伯くんは、おうち大丈夫?」


「ウチは全然大丈夫。新藤さんの方こそ平気?」


「うん。この時間ならまだ。今日はありがとうね。色々と、本当に申し訳――」


 ないと言い掛けて美結は口を閉じる。そんな様子が可愛らしくもあり、真面目にも見える。


「そんないきなりキツくしなくても良いんじゃない? さっきも言ったけど、出来る範囲でやれば良いって」


「ううん。無茶を頼んでるのは、私なんだから。これぐらい出来なきゃダメ」


 直哉の言葉に首を左右に振って、明確に否定の意思を見せる美結。真面目とか可愛らしいとか、そう言った感情しか持てなかった彼と比べて、彼女はもっと責任を感じて動いていた。意思力の違いを見せつけられる。


 そう考えていると、思い出したように美結が「あっ」と声を上げた。


「願い事の件だけど、決まったらいつでも言ってね。待ってるから」


「ああ。思い付いたら頼むよ」


 出来る事は何でもすると言われても、いきなりは浮かばない。それに、まだ問題を解決していないのに、報酬から先に言うのは抵抗がある。


 夜のオフィス街を歩くのは、基本的にスーツを着ているサラリーマンだけだ。直哉達、学生の姿は駅前まで歩く必要がある。二人は、乗換駅までの道のりを歩く。来た時と同様に広場の中を横断した。


 駅に近付いていくと、少しずつサラリーマンの群体に学生や私服姿の人達も混じって、そこでようやく二人の姿が異質ではなくなった。まだ月曜日だというのに、繁華街の方は大勢の人で賑わっていて、横目で見えた居酒屋に楽しんで入る人達の姿が見えた。交差点のある長い信号で止まっていると、不意に美結が口を開く。


「ゴメンね、佐伯くん。月曜日なのに遅くなっちゃって。あの時、耐えられるかも知れないって一瞬、頑張ったんだけど、やっぱり出来なかった」


「いいよ。むしろ早目に相談してもらった方が動きやすい」


 仮に今日、美結が耐え切れたとする。そしたら、どうなっただろうか。翌日、火曜日にそれまでと何も変わらない雰囲気を纏って、クラス内に溶け込めるだろうか。彼女が目と耳が失われたのと同じだと説明する“心読み”。


 直哉はそう考えてすぐに否定する。そんな事出来る訳がない。彼が考えている事が彼女にも伝わってしまったようで、微笑んだ。


「優しいんだね、佐伯くんは。相談出来る相手が佐伯くんで本当に良かった」


「新藤さんの信頼を裏切らないように頑張るよ」


 直哉は正面から優しいと言われて、その照れから逃げるように早口で返す。その言葉を聞いた美結は、驚いた顔を見せてから再び笑った。


「もう、充分過ぎるくらい信頼してる」


 美結がそう言って、信号が丁度青になった。止まっていた大勢の人に混ざって二人の足も動き始める。


 こうして、美結の“心読み”の回復に協力する日々が始まった。

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