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青が読めなくなっても  作者: 綾沢 深乃
「第1章 図書委員での出会い」
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「第1章 図書委員での出会い」(1-1)

(1-1)


 入学初日。最寄り駅から高校に向かう際、一人で満開の桜並木道を歩いた。


受験の時はまだ二月で吹き荒れる寒風からマフラーに顔を埋めて、ひたすら下を向いていたし、合格発表はインターネット媒体の発表で、入学資料を受け取りに行く時もまだ冬が残っていた。


 だから入学する時になって初めて気付く。ああ、自分は四月になる度にこの桜の下を歩くのだと。


 入学式が終わると、途端に役目を終えた桜が散って、葉桜の出番が来た四月の三週目。新一年生の佐伯直哉が、クラスメイトの新藤美結と初めて会話したのは、最初の図書委員会の日だった。


 男女必ず一人ずつ所属するという規定に則り、直哉と美結が図書委員になった。自ら挙手して立候補したので、誰にも相談していない。選んだ理由も簡単で、中学の頃から図書委員会を務めていたから。オリエンテーションで案内された図書室は中学と違って、カーペットで土足禁止だったのもお気に入りポイントだった。


 担任の古元先生のホームルームが終わってから、放課後へ突入する。それまでの忙しかった学校生活が放課後へと色を変える。


 直哉は中学からの友人の真島に今日は、委員会があるから、一緒には帰れない旨を伝えた。彼の話に了解してくれた真島は一人でとっとと、教室から出て行った。


 現在、直哉の視線の先には、美結がいる。正確には彼女を含めた三人の女子がトライアングルの様な三角形になって、楽しそうに話をしている状態である。彼女と話している二人、森谷と梅沢。名前は知っているが、話した事はない。


 先に一人で図書室に行ってもいいのだが、初回なので出来るなら声は掛けておきたい。


 せめて話し掛けるまでは、真島にいて貰えれば良かった。そうしたら、どうにかなったのに。


 直哉がそう後悔しつつも、教科書を入れた通学カバンを机に置いていると、不意に美結と目が合った。少し茶色がかった透き通った二つの瞳。


直哉と目が合った美結は、「あ」の形に小さく口を開ける。


「ゴメン。そうだ、私今日委員会だ」


 それまでの話を遮って美結が二人にそう言うと、梅沢が教室の壁掛け時計を見ながら答える。


「委員会って、そろそろじゃない?」


「うん。さっちゃん、私行ってくる」


 森谷が少し興味なさそうに美結に尋ねる。


「美結って何の委員会?」


「図書委員」


「って事は、場所は図書室だ。早く行っておいで」


「ありがとう。まきちゃん。行ってきます」


 二人に敬礼をした美結は、机に掛けていた通学カバンを手に持つと、そのまま直哉の所までやって来た。


「佐伯くん。図書室まで一緒に行こ?」


「ああ、うん」


 今日まで一回も話した事がない直哉を美結はちゃんと認識していた。


 直哉は美結に押される形で教室から出る。


 教室を出ると、放課後の音があちこちから聞こえてくる。校庭からは運動部の掛け声が、空き教室からは吹奏楽部の練習音が、廊下からは生徒達の話し声が。そんな彼らの間を二人で歩く。図書委員会の場所は当然、図書室なので迷う事はない。


「ゴメンね。待たせちゃって」


 自分達の教室の範囲から完全に抜けた時、美結がそう言った。


「いや、別に大丈夫」


「私も忘れちゃってたからなぁ。時間になったら声掛けてくれて良かったのに」


「なんか盛り上がってたから。話し掛けるの悪いかなって」


「そう? 気配り上手なんだね。佐伯くんは」


 隣を歩く美結は、気楽そうに笑う。彼女程のコミュニケーション能力があれば、話しかけれたかも知れない。まだ入学してから二週間で男女問わずクラスメイトとよく話している印象がある。


 対して直哉は、真島を中心に男女別の体育で数人の男子と話す程度。中学の頃もそうだったが、彼は入学していきなりで輪を広げるタイプではないのだ。


 だからこそ、直也にとっては美結が図書委員に立候補したのが、あまり理解出来ない。委員会は強制参加ではない。


部活やその他の理由をつけて面倒がって入らない生徒の方が多数派だ。友達付き合いを大事にしてそうな美結は、入らないと思っていた。


 二人は、そのまま階段を上がり、移動教室が並ぶ階層へ到着する。


 移動教室が中心のこの階層は、空いている教室も鍵がかかっているので、吹奏楽部も練習に来ない。その為、シンとしていた。その廊下の一番奥にある図書室。


 図書室の少し重めのドアを引くと、そこには既に長テーブルが四角に囲われていた。直哉達と同じ図書委員が何人か、席に座っている。


 ドア横のカウンターには、司書教諭の井原先生がいた。女性で眼鏡を掛けた割と若い先生だ。オリエンテーションで紹介されて、明るく図書室を紹介されたのを覚えている。


「二人は図書委員? 何年何組かな?」


「はい、一年二組の新藤と佐伯です」


 直哉に代わって、美結が一歩前に出て所属を名乗る。彼女に名前を言われた伊原先生は、カウンターに置かれた名簿を見て確認する。

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